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M-043 タヌキと大ムカデ

 


 10日程、薬草採取の依頼をこなしていると、この大森林地帯の様子もし少しは理解出来てきた。

 森に入ればヤバイのは初日で理解したつもりだが、それ程危険の度合いは少ないらしい。黒3つ程度あれば容易に大森林地帯に流れる川を見る事が出来るらしい。

 という事は、最低限黒3つの実力が無ければ、そこに辿り着くまでの生物に対処出来ないという事になる。

 そして、黒5つが2人いれば、赤のレベルを伴っても大丈夫だという事だ。ハンターの中堅クラスなら、この大森林地帯を自由に行き来出来るのだろう。

 行って見たい気もするが、生憎と【カチート】が出来ないのでは、夜にヒルの群れが押し寄せてくる事を考えると俺にはちょっと無理だな。

 別に俺達の旅は物見遊山でもあるのだから、無理をして頑張る必要は無い訳だしね。


 そして、今日は森に入る事に決めた。

 狙いは、イルートと呼ばれる、小型の獣だ。見た目はどう見ても瀬戸物の狸だな。

 徳利を下げて笠を被せると酒場の前に立たせたくなるような奴だ。


 肉も毛皮も役に立たないらしいが、1つだけ優れた点がある。イルートの尻尾は虫除けになるとの事だ。

 大森林の奥地に入るハンター必携の品らしいが、俺達には必要性があるとは思えない。それでも、1尾で200Lと言うのは美味しい依頼だ。

 しかも期限が無い。南の森を歩けば直ぐに見つかると言うのだが、中々狩るのが難しいそうだ。決して凶暴でもすばしこくも無いのだが、カウンターの元娘さんは、化けるのよ。と言って俺達を驚かせた。


 「化けるって、魔物なんでしょうか?」

 「いや、図鑑には獣だと書いてある。…なるほど、擬態と体色が変わるんだ。」

 それなら化けると言われても仕方が無いだろう。

 だが、俺とフラウには無駄な事だ。

 体色を変えても姿を少し変えても獣では体温まで変える事は出来ない。

 意外と簡単な狩りかも知れないな。


 森の手前で足を止める。

 一旦、森に入ったら休息等出来そうもないから、ここでお茶を飲んで休憩だ。まだ9時にもなって無いんだけどね。

 お茶を飲みながら作戦を考える。フラウが先頭で俺が殿だ。

 森にはヤマヒルがいるらしいから、ヤマヒルが入り込まないようにブーツと革のパンツの間を特性の布のスパッツを被せておく。そして、頭からポンチョを被れば出来上がりだ。

 ポンチョに張り付いたヤマヒルはナイフで刺して捨てれば良いだろう。全員小さなナイフは持っているようだ。


 焚火を消して、ポンチョを被る。ポンチョは明るい緑だった。目立つ事この上無いが、皆これを着て大森林を行き来している。

 

 投槍を持つと、皆の後を付いていく。そして、薄暗い森の中に入って行った。

 ヘッドディスプレイに動体探知と生体探知を組み合わせて表示する。

 結構、色々いるようだ。

 

 先頭を歩くフラウが腰からナイフを抜いた。どうするのか見ていると、頭上から蔦が下がってきた。

 素早くナイフで切り取っている。巻きついて養分を取るのかな。それとも木の上の方に口があったりして…。考えただけでも恐ろしくなってきた。


 「キャルルさん、止まって!」

 ビクリとしながら止まった彼女の肩に付いているヤマヒルをクナイで刺すと遠くに投げる。

 「有難う。」と礼を言う彼女の前で、俺がクルリと回ると、「大丈夫。付いて無いよ。」と教えてくれた。


 どうやら、体温を感じ取って落ちてくるらしい。レミネアさんとキャルルには結構降ってくるのだが、俺とフラウに落ちてきたのは2度程だ。

 そして、フラウが立止まる。


 「あれじゃないですか?」

 そう言って槍先で示した方向を見ると、信楽焼きのタヌキがいた。

 そのまんまのポーズでこっちを見ている。


 「先ずは私が…。」 

 そう言ってキャルルさんが弓を構えるとパシ!っと矢を放つ。

 確かに当たったけど、矢をお腹に受けたままタヌキは走り去った。

 素早く、ヘッドディスプレイで行方を追う。


 タヌキは20m程離れるとそこで停止した。

 ゆっくりと俺達はフラウを先頭にタヌキに近付いていく。


 「あそこにいます。確かに化けてます。」

 木の幹に体を伸ばしているようだ。通常視野では少し歪な木の幹に見える。

 しかし、サーマルモードでは体温があるから直ぐにばれるし、キャルルさんの矢が刺さったままだぞ。

 

 「今度は私が…。」

 そう言ってレミネアさんが前に出ると、タヌキに向かって【メル】を放つ。

 小さな炎球が幹に当たると、ギャ!って叫び声が上がって、幹が揺れるとタヌキが現れた。そして藪の中に消えて行ったが、やはり20m程先でタヌキは立止まった。

 次は何に化けるのかな?…意外と楽しい狩りになりそうだ。


 そっとタヌキに近付いて行くと、違和感あり捲りの岩がある。これは直ぐにばれるな。矢が刺さっているし、一部が焦げている。

 今度はフラウが名乗りを上げて、岩に投槍を投擲した。

 ブルブルと岩が震えてタヌキが現れる。今度は逃げない所を見ると絶命したようだ。

 素早く、キャルルさんがタヌキに近付き尻尾を切り取って、槍を引き抜いてフラウに返している。


 「先ずは1匹ですね。」

 にこにこ笑いながらレミネアさんが俺に言った。

 「あぁ、でも意外と憎めない獣だな。あまり狩らずに3匹程度で終わりにしよう。」

 

 尾に虫除けの効能が無ければ、大森林地帯のアイドル的な存在になりそうな奴だ。

 襲って来る訳でも無いし、無害な獣だよな。

 そんな事を考えながら昼を少し過ぎた時間までに、更に2匹を仕留める事が出来た。


 さて、帰ろうか…、と周囲を見渡す。

 結構、森の中深く歩いてきたようだ。薄暗い森の中はどこを見ても同じように見える。

 

 「こっちにゃ!」

 キャルルさんが磁石をぶら下げて北の方向を指差した。

 単純な磁石だが、方位を知る唯一の方法だから、この森を訪れるハンター必携の道具になる筈だ。

 俺達は、しっかりと加速度計と連動したナビシステムを持っているから、数mの精度で元に戻る事が出来る。

 まぁ、ここはキャルルさんの道具を使って戻っても大丈夫だろう。森を出てから村への方向を教えても良いしね。


 たまに降ってくるヤマヒルに悩まされながら、キャルルさんを先頭に歩いていると、道に迷い易いもう1つの罠が現れた。

 幹と幹の間に張られた巨大な蜘蛛の巣だ。野球のバックネット位の大きさがあるぞ。それが、幾重にも張られていると大きく迂回しなければならない。

 そんな迂回を行なう度に、キャルルさんは磁石を取り出して確認している。


 「南より大型の生物が近付いています。獣ではありません。生体反応から推定すると、虫の一種です。」

 俺達は一斉に南を向く。

 ヘッドディスプレイで確認すると…、距離は200m程離れてるな。それでもこちらに向かって真直ぐだ。

 フラウと俺がレミネアさんたちの前に出る。

 俺は投槍を近くの幹に突き刺すと、ゆっくりとベレッタを引抜く。

 フラウも俺に倣って、ベレッタを構える。


 「ミドルで良いだろう。100mを切っても、こちらに向かって来たら攻撃だ!」

 「了解です。」

 「何をするの?…武器はそんなんで良いの?」


 レミネアさんが心配そうに聞いて来た。

 「大丈夫。俺達が魔法も使え無いのに、黒3つ以上と言われた理由がこれだ!」


 ビュン!っという甲高い音が数回辺りに木霊する。

 「敵対生物の両断に成功しました。頭部がこちらに近付きます。」

 

 再度、ベレッタを2発撃った。

 ヘッドディスプレイに現れたターゲットスコープを下草が動く先端に併せて更に1発追加する。

 

 「頭部の移動停止しました。射殺したと判断します。」

 フラウがそう言いながらベレッタをホルスターに戻して投槍を手にする。

 そして、停止した頭部の方に歩いて行く。

 

 そんなフラウの行動を見ていると、遠くの方の木立の上から蔦がするすると下りてきて何かを抱え込んだ。

 そして、持ち上げたものは電信柱程の太さを持つムカデだった。

 黒と赤の模様が入り混じった見るからに毒々しいムカデだ。


 そんな光景を気にも留めずにフラウがナイフを取り出して草むらに屈みこむ。

 しばらくして戻って来たフラウが持っていたものは、大きなムカデの牙だった。


 「大森林地帯の記念にどうぞ。」

 そう言って、レミネアさんとキャルルさんに牙を1本ずつ手渡した。

 

 「これって、ネイブルの牙ですよね。銀貨10枚は下りませんよ。」

 「まぁ、良いんじゃないか。酒場で剣の柄にしているハンターがいたぞ。」


 「確かに、サーミストの工房はこの種の加工は優れていますが…。」

 「なら、問題ない。フラウも言ってるんだ。貰っときなよ。」

 そう言って、再び歩き出す。

 俺達が持っていても仕方ないし、懐だって暖かい。彼女達が再び、ここを訪れるかは判らないけど、今回訪れた記念品位あっても良いだろう。

 

 直ぐに、俺達の前にキャルルさんが立って歩き始めたので、俺は殿に下がった。

 やはり、森は危ない奴が多すぎる。森を出るまでは安心出来ないな。


 「やっと出られたにゃ!」

 キャルルさんがそう言って指差した先には、茶色の荒地が広がっていた。

 1人ずつ皆の前でクルリと回って、ヤマヒルが取り付いていない事を確認する。


 ポンチョを畳んでバッグの上に付けると、スパッツを取外す。

 そして慎重に藪を突付きながら薪を集めると焚火の火を点けた。

 ポットを乗せてお茶の準備だ。

 

 バッグからパンを取り出すとお茶を飲みながら食べ始める。

 昼食には少し遅い時間だが、依頼は完了しているから後は帰るだけだ。


 食事を終えて、再度お茶を飲む。俺はのんびりとパイプを楽しむ…。

 「さっき、変った武器を使ってましたね。初めて見ましたが、魔道具ですか?」

 「これか?」

 レミネアさんにベレッタを取り出して見せると、彼女が頷いた。


 「俺達が覚えているのはダリル山脈で気が付いてからだ。その前の記憶が無い。そして、その時持っていたのがこれだが、不思議と使い方は覚えていた。」

 「やはり、転移してきたようですね。不思議な武器もそれなら判ります。無理に思い出さずとも、時が経てば思い出す事もある筈です。無理に思い出そうとはしない方が良いですよ。」


 転移してくる人間はたまにいるのだろうか。それとも昔話として広がっているのだろうか…。

 少し気になる事ではある。


 「ところで村はどっちかにゃ?」

 キャルルさんが首をかしげながら周囲を見渡した。

 その言葉を聞いてレミネアさんが呆然とした表情で立ち上がる。


 「こちらの方向です。夕方までには帰れますよ。」

 途方に暮れる2人に、フラウが村の方向を指差して教えているが、その方向にはずっと先のほうに丘が見えるだけだ。

 

 半信半疑の2人を連れて、俺達は村へ向かって歩き出した。

 俺のヘッドディスプレイには、村を出てからの移動方向、距離が正確に記録されてマッピングされている。このまま進めば、確かに日の暮れる前には村へと着きそうだな。

 

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