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M-004 ベレッタの威力

 

 

 焚火を見ながらフラウはゆっくりとお茶を味わっている。

 その向かい側で、今日購入したパイプにタバコを詰めて、焚火で火を点ける。

 ゆっくり吸い込んで煙を吐き出す……。

 俺にも、肺に似た器官があるのだろうか?そして、前の世界でダチと吸ったタバコの味を思い出した。

 この煙の味も判るのか。そして匂いも……

 機械の体ではあるが、人並みの感覚器官を持っているのは有り難い。


 俺の動作をじっとフラウが見ている。

 「使ってみるか?」

 俺の差し出したパイプを手にとってしばらく考えていたが、やおら口に咥えて吸ってみたようだ。

 「気体分子に有害な物質が検出されました。一部の原子イオンは回収して転用可能です。有害物質はナノマシンで除去可能です。」

 そう言いながら俺にパイプを返してくれた。

 多分ニコチンが有害なんだろうな。タールもか。それでもナノマシンで除去できるなら問題ない。俺の精神安定に極めて有効に作用する。


 そんな事で時間を潰しても夜は長い。

 今度はスープでも作ってみようかと考えていると、ヘッドディスプレイに警戒信号が点滅する。

 距離は約100m。方向は森の中だな。


 「こちらを覗っています。初めての相手ですね」

 「獣か?」

 「不明です。明確なのは人ではなく、私達を覗っている事です。」


 じっと待たれるのは趣味じゃない。相手は、巧妙に隠れているようだ。暗視モードでは確認する事が出来ないが、サーマルモードで確認すれば直ぐにばれる。

 

 「この銃は使えるのか?」

 「マスターの世界にある兵器に似せてありますが、全く別物です。小型のレールガンと言って良いでしょう。9mmの銅球を最大秒速3kmで打ち出します。約300mで威力は殆ど無くなりますから、有効射程は200mと覚えて置いてください」

 

 取り出した銃をジっと見る。どう見ても俺にはベレッタとしか見えないんだが…。


 「射撃はどうするんだ?」

 「先ずセーフティを下げてください。次に、スライドを後に引いてハンマーを起こしてください。そしてヘッドディスプレイのターゲットスコープの横にあるレベルを調節します。低(L)、中(M)、高(H)の何れかが出ているはずです。後は狙いを付けてトリガーを引くだけです


 言われる通りに銃を操作すると、ハンマーが起きると同時に俺のディスプレイに赤く十字ターゲットが現れる。……なるほど、横にレベル表示が出ている。思考で出力を調整するようだ。取り合えず低(L)で発射して、1発で倒せない場合は連射する事にする。


 サーマルモードに視野を切替えて、ターゲットに赤く熱を発散している物体に狙いを付けると、静かにトリガーを引いた。


 ピュン! という甲高い音がして銃のスライドが移動してハンマーを起こす。

 2発目を発射しようとターゲットを合わせる内に相手の温度が低下していくのが分かる。中心部の温度はそれ程下がらないが末端部分は青に変わっている。

 

 「命中したようです。その銃の性能ですが、(H)では20mmの鉄板を貫通します」


 確か高速弾はそんな感じだと聞いた事がある。弾丸の全運動エナジーが集中するのだ。秒速3kmの拳銃弾等殆ど化け物だ。今回は(L)だから秒速1kmは越えていないだろう。それでもライフル以上の性能だ。


 「明日、調べてみよう。結構大きいような気がするぞ」


夜が明けるまで、焚火を見つめながらフラウの入れてくれたお茶を飲む。そしてのんびりと俺達の行く末を考える。

 あの男は、この世界で2人で仲良く暮らせ……。とだけ俺達に言った。そして、俺とフラウの体はナノマシンの集合体で出来た機械の体だ。有機体と異なり疲労を感じる事も無く、眠る必要も無い。…果たして、そんな体で幸せを掴む事等出来るのだろうか?


 それでも、明けない夜は無い。

 ギョエーと鳴く変な鳥の声と共に辺りが明るくなってきた。

 2人で昨夜仕留めた獣を見に森に入ると、野牛のような体形に短い角を生やした獣が倒れていた。


 「リスティンと呼ばれる獣だと思われます。草食性で食用になります」


 フラウが読み上げるように獣を特定してくれた。

 草食獣なら、俺達を襲うというより俺達を恐れて隠れていたのだろう。だが、こうして倒してしまった以上、無駄には出来ない。


 「どの位の重さなんだろうね」

 「推定でも200kgは超えそうです」

 

 さて、どうやって運ぶかだ。イネガルと同じように枝をソリにして運ぶしかないかな?

 適当な木を切ると、幹に絡まるツタを外して木にリスティンを縛りつけると、2人で畑の畦道を曳いて行く事にした。

               ・

               ◇

               ・


 ギルドのお姉さんが驚かないように、少し時間を調整して昼頃に村の北門に到着する。

 顔見知りの門番さんに軽く挨拶して通ると、俺達が引き摺ってきたリスティンに驚いているようだ。

 早速肉屋に行くと、カウンターのオヤジさんを呼んで、リスティンを売り払う。

 

 「そうだな。相場は300なんだが、横腹に大きな穴が開いてるな。槍ならこんな傷にならないんだが……、肉は新鮮そうだ。毛皮が安くなるから、250Lでどうだ?」

 「良いですよ。その値段でお譲りします」


 リスティンには討伐証は無いらしい。その肉を売れば結構な値段になるし、人を襲うことも滅多に無いとの事だ。

 オヤジさんから硬貨を受取ると、ギルドに向って歩き出した。


 「今日は。」と挨拶しながらギルドの扉を開けると、何時ものお姉さんが俺達に気がついたようだ。

 早速カウンターに行って、ショルダーバッグの袋からカルネルの討伐証を取り出す。


 「確かに、カルネル5匹だね。…まさかとは思うけど、その外に何を狩ってきたの?」


 フラウが魔石を取り出してカウンターに置いた。

 「驚いたわね。カルネラまで倒していたなんて。後は?」

 

 このお姉さん、俺達の心が読めるのだろうか?

 「後はリスティンですね。ギルドに来る前に肉屋で売り払いました」


 俺がそう言うと、お姉さんは黙ってカウンターの下から水晶球を取り出した。

 「ギルドカードを出して、この球体をまた両手で持って頂戴」


 言われた通りに首に下げていたカードをお姉さんに渡して、両手で水晶球を持つ。前回と同じように水晶球の中心に白い光が輝いて見える。

 俺の持つ水晶球を見ながら、カタカタと手元の機械を操作していたが、やがてチーンという音がしたところで俺からフラウに水晶球を手渡した。


 「ふ~ん……。変化無しな訳だ。ここで待ってなさい。ちょっとギルド長と相談してくるから」


 そう言うと、お姉さんはカウンターから離れ、奥に有る事務所みたいな場所に入っていった。

 時間つぶしに掲示板まで行って、次の依頼書を探し始めた。

 余り面白そうな依頼は無いな。俺達のレベルでは薬草採取が良い所だから、面白みに欠けるのが問題だ。ハンターって言ったら、剣とか槍を持って大きな獣に挑むのがどうも俺の固定観念にあるらしい。

 

 「マスター呼んでいます!」

 フラウが俺に言った。後ろを振り返ると、カウンターのお姉さんが手招きしている。

 急いでカウンターに行くと、俺達のカードを先ず返してくれた。


 「たまに、球体で反応しない人達がいるそうよ。幾ら狩りの腕を上げてもこの機械では反応しないみたいなの。王都のギルドに行けば、別な機械で分かるかもしれないとギルド長は言っていたわ。

 ガトル、イネガル、カルネラ、そしてリスティンを倒せるならば、この村にいる限り赤5つ相当で狩りをしても良い。……ともね。

 暫定措置だから、穴は2つ。ただし、2つ目の穴は5つ目の位置にしておきます。これで、赤7つまでの依頼を受ける事が出来ます。このレベルだとガトル狩りやリスティンを2匹程度の狩りまですることが出来るようになるから、十分注意して依頼書を選んでね」



 カードを良く見ると、穴の2つが大分離れている。この間に本来ならば3つの穴が開く訳だな。

 立ち去ろうとする俺達を慌てて呼び止め、依頼報酬と魔石の買取価格合わせて150Lを渡してくれた。お姉さんに礼を言いながら、ついでに宿屋を紹介してもらう。雑貨屋の隣のベッドの看板を教えて貰ってギルドを出る事にした。


 通りに出て雑貨屋の隣を見ると左側にベッドの形に切り抜いた板の看板がある。早速、フラウと共に宿屋に入る事にした。

 宿の扉を開けると、1階は食堂兼酒場だ。扉の左側に階段とカウンターがあり、恰幅のいいおばさんが店番をしていた。


 「2人ですが、宿はあいていますか?」

 「あぁ、2人部屋が空いてるよ。1晩1人、25Lだ。朝飯は付くが、夕飯は別料金で7Lになるよ」


 フラウが小さな革の袋から64Lを取り出しておばさんに払った。


 「ルミネ!……ルミネ。この嬢ちゃん達を2階の2人部屋に連れてっとくれ」


 おばさんの後に空いていた扉の奥に誰かを呼ぶと、小さな女の子が現れた。10歳位だな。

 「こちらになります」そう言って俺達の先になって部屋に案内してくれた。

 「この部屋です」両側に5部屋ずつあるみたいだ。その端にある部屋の扉を開けると俺達を中に入れる。


 「夕食には呼びに来ます。そのカーテンの奥にお風呂があります。トイレは共同で突き当たりの扉を開けて外に行けば直ぐに分かります。……その外に何か分からない事がありますか?」

 「服を売っている場所が知りたいんだけど……」


 「それなら、宿を出て右に3軒目で購入出来ます。看板にハサミが出てますから直ぐに分かりますよ」

 「ありがとう!」俺が礼を言うと「どう致しまして!」って言いながら扉を閉めて出て行った。


 「まだ、この服は痛んでおりません。見かけは、マスターの記憶の中の綿織物に似ていますが、極めて細く強靭なケブラー繊維で作られています。このまま数年は着る事が出来ますよ」

 「そうは言ってもね。……毎日同じ服は拙いんじゃないかと思うんだ。ただ、服の相場が分からないから、もう少し稼いでから買いに行こう。それと、……俺達風呂にはいれるのか?」


 風呂と聞いて嬉しくなったんだが、俺の体が浸水注意だったら、2度と風呂に入れない。ここは早い段階で確認しておく方が良さそうだ。


 「機能上問題ありません。それに人間と一緒に入らない限り、私達がオートマタであることは分からないでしょう」

 フラウの答えが嬉しかった。これで久しぶりに入浴できる。

 

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