M-035 ビオレちゃんと一緒 2nd
町の西に広がる畑はそれ程大きくは無い。
西に向かう道を30分も歩いた所で北に向かう農道がある。荷車1台がやっと通れる農道を緩やかな斜面に沿って上って行くと直ぐに森が見えてきた。
「あれがそうですね…。」
フラウが指差す畑の一角を見ると数匹のカルネルが踊るように野菜を食い漁っている。野菜のモンスターが野菜を食う…前にも見たけど、シュールな光景だよな。
とは言え、カルネラさえいなければ、カルネルは低レベルのハンターにとって良い狩りの相手になる。
手のような触手に絡み取られて、ガブって齧られなければね。
そんなのんびりしたハンターなら、将来性は無いから早めに止めた方が良いという1つの目安にもなっている。
俺達はゆっくりとカルネルに近づいていく。
残り200m程になった時、俺達は一旦立止まって様子を見る。
まだ、数匹のカルネルは踊るように野菜を引き抜き、それを口に入れてもしゃもしゃとやってるぞ。
「いいかい。俺達が痛めつけたカルネルをその長剣で、エイ!って斬り付けるんだ。」
俺の言葉にうんうんと、ビオレちゃんは頷ずきながら背中の長剣を抜いた。
フラウが俺を見て頷いた。
「行くぞ!」
そう一声叫ぶと、杖を振り上げてカルネルに襲い掛かる。
ボク!っと鈍い音を立ててカルネルの胴体が大きく抉られる。とたんに動きが鈍くなる…。そこへ、エイ!って声を上げたビオレちゃんが斜めに長剣を振ると、カルネルの胴体は上下に分かれて動かなくなった。
「良いぞ!次だ!!」
ビオレちゃんに声を掛けると、ニコリと微笑んだ。
タタター…とビオレちゃんが走ってフラウが一撃を入れたカルネルをすれ違いざまに両断している。
カルネル相手とは言え、結構な切れ味だな。初心者には少し勿体無いようにも思えてきた。
ビオレちゃんの様子を少し離れて動きを見る。まだまだぎごちない動きだけど長剣の扱いには慣れているようだ。
そんなビオレちゃんを後ろから襲おうとしていたカルネルに杖を投付ける。
ボク!っと音がしてカルネルを杖が貫通した。
「後ろも気を配らないとダメだぞ!」
俺の声に振り向いたビオレちゃんは直ぐに胴体を貫かれたカルネルの体を両断してしまった。
一段落が付くと、フラウがスコップナイフでカルネルの尻尾?見たいなダイコンの先端部分をちょん切っていく。
「6匹ですね。1匹6Lと言う報酬でしたから、36Lになります。」
そう言いながら、戦果をバッグの袋に詰め込んだ。
カルネルはそのまま置いといて、畑の端で小さな焚火を作ってお茶を沸かし始めた。
お茶が沸いたら、ポットを持って森の木陰に避難する。
結構日差しが強い。そんなところで昼食を取るよりも、木陰で涼しい風に吹かれながらの方が美味しいに決まっている。
おばあさんの作ってくれたお弁当を広げて、お茶を飲みながらの休憩だ。
「この森も獣が多いです。小型の草食獣と思われますが、ラッピナではありません。」
フラウの言葉にヘッドディスプレイを見ると、確かに森の方に多数の反応が見られる。俺達に敵対していないから黄色の表示だけど…、何だろう?」
「この森はね。レイムが沢山住んでるの。畑を荒らさない限り狩りの依頼は無いんだけど…結構素早いって友達が行ってた。」
「どうやって狩るんだろうね?」
「罠を使うって聞いたよ。」
なら、ラッピナと一緒だな。たぶん夜に活動する獣なんだろう。沢山潜んでいる割には動きが殆ど無いからね。
その内、夜の狩りが楽しめそうだ。
昼食が終って、もう一杯のお茶を、パイプを楽しみながら飲んでいると、ビオレちゃんが畑の一角を指差した。
そこにいたのは、ヒョイって感じで地面から顔を出した数匹のカルネルだった。
これだけいると、カルネラがいる事も考えられるな。
そう考える間も無く、ヅヅーっと畑の地面を持ち上げるようにしてカルネラが姿を現わした。
「これは、ビオレちゃんの手に余るな…。ビオレちゃんカルネルを頼めるか?俺達はカルネラを狩る。」
ビオレちゃんは急いでカップのお茶を投げ捨てるとカップをバッグに仕舞いこむ。そして再び長剣を握って俺に小さく頷いた。
「フラウ。左右から攻撃する。可能であればカルネルに一撃を浴びせろ。」
「了解です。」
フラウは短く答えると直ぐに右に走って行く。途中でカルネルに一撃を与えているのは、ビオレちゃんの狩りを容易にする為だな。
俺も、フラウの反対側に周りこみながら適当にカルネルに杖を叩き込んでおく。
そして、カルネラの触手を杖で叩き折りながら本体に近づいていく。
突然、カルネラの胴体から杖が飛び出してくる。
フラウが杖を投げたみたいだ。大きいから杖で本体を削るよりも長剣で切り刻む心算だな。
俺も、杖をカルネラお胴体に突き刺すと素早く後ろに下がり、バッグから素早く長剣を抜取る。
再度カルネラの触手を切り取りながら胴体に近づき胴体を切りつけるが、ドラム缶並みの太さの胴体はそれ程痛手を受けたようにも見えない。
そして、今度は斜めに切り込む。
すると、ボロリ…と言う感じでダイコンの一部が切り取られた。
やはり削っていくしか無さそうだ。
数回切り刻むと触手を切り取りながら後ろに下がる。俺とフラウはその繰り返しをしていると、いきなり俺の前にビオレちゃんが走りこんできた。触手は粗方切り取っているから播き疲れることは無いと思うけど、少し無謀だぞ。
注意しようとした時だ。
「離れて!」
ビオレちゃんの大声で叫ぶ。俺とフラウも慌てて後ろに下がった時。ドォン!っと炸裂音が響いた。
カルネラの胴体に大きな傷が出来ている。ダイコンを半分齧ったような姿に成ったのが何とも可笑しい。
俺達3人の次の一撃で、齧り残された部分が分断されてカルネラはその体を横たえた。
すかさず、フラウが短剣でカルネラの頭を突き刺していく。
そして、カチリと音がした場所を短剣で穿って魔石を取り出した。赤黒い濁った魔石だがこれも換金できる。
その間、ビオレちゃんは倒したカルネルの尻尾を長剣で切り取っていた。
はい!って差し出されたカルネルの尻尾をフラウが大事そうにバッグに入れる。
とんだ狩りになったが、狩は成功だ。
俺達は意気揚々と町の門を通ってギルドに急いだ。
・
◇
・
フラウがエリーさんに、依頼書とカルネルの尻尾をバッグから取り出して渡した。
「これもです。」
そう言うと魔石をカウンターに置いた。
「やはりいたのね…。」
そう言いながら、俺達の前に銀貨と銅貨の山を積み上げた。
早速、その報酬を受取るとテーブルに向かおうとした俺達をエリーさんが引き止めた。
「ちょっと待ちなさい。ビオレ…これを持ってごらん。」
そう言ってビオレちゃんに水晶球を渡す。しばらく持っていたが、エリーさんはニコリと微笑むと、ビオレちゃんのギルドカードを要求した。
「レベルが上がったわよ。」
そう言って近くの小箱にカードを入れて何やら操作を始めた。そして箱からカードを取り出すと、ビオレちゃんに渡す。
「これで、薬草採取ばかりでなく、小型の獣を狩る依頼が出来るわね。」
俺達は頑張ってね!って片手を振るエリーさんを後に、テーブルに向かった。
「3人で狩りをしたんだから、3等分で良いな。」
俺の言葉にビオレちゃんが頷くと、160Lを3等分する。1人53Lになるな。
1L残ってしまった…。
「ところで、あの爆発はどうやって起こしたんだ?」
「あれは、爆裂球です。あまりお金が無かったから小さいのしか買えなかったけど…これで大きいのが買えます。」
爆裂球か…。そこで、ビオレちゃんに爆裂球の事を聞いてみた。
「紐を引いてしばらくするとドカン!って炸裂します。大と小があって、何時も1個は持ってなさい。ってお婆ちゃんが言ってました。」
「何処で売ってるんだい。」
「雑貨屋で売ってます。小さいのが5Lで大きいのが10Lです。」
薬草採取では確かにそれ程稼げないな。そしてビオラちゃんのハンター収入があの家の貴重な財源にもなってるんだろう。
「あれで、だいぶ助かった。だからこれはそのお礼。」
そう言ってビオラちゃんの報酬の山に1L銅貨を乗せる。
そして、バッグから前に貰ってそのまま使わないでいた爆裂球を1個その銅貨の横に置いた。
「これって、大型爆裂球ですよ。1個10Lもするんですよ。」
「これは貰い物なんだ。そして、貰ってから4ヶ月以上経つけど今まで使わなかった。後3個俺達は持ってるけど、やはりこれからもあまり使わないと思う。だから、ビオレちゃんに1個あげるよ。」
貰い物だから惜しくはない。それに何処で売っているのかが判ればそれで良い。
しかし、うまく使えば魔法を使えない俺達には役に立つかも知れないな。
そんな事を考えながら俺達は宿に戻る事にした。
「ただいま!」
元気な声を上げて、俺達はリビングに入った。
早速帽子を後ろに跳ね除けて、椅子に座り込む。
「お帰り。」
そう言いながら、おばあさんが台所から顔を出す。そして、俺達に冷たいお茶を出してくれた。
「で、どうだったね。カルネル狩りは…。」
「カルネルを10匹倒しました。…そしてカルネラが1匹です。」
「…やはりね。カルネルが多ければカルネラを疑えとは良く言われたものさ。やはり切り刻んだのかい?」
「杖で挑んだのですが、杖では削りにくいので長剣に変えました。途中でビオレちゃんが爆裂球を投げて弱った所を一気に刈り取りました。」
「ビオレが持っていたのは小型の奴だ。それで上手くいったのは削った隙間にでも爆裂球が挟まったんだろうね…。」
「それで、大きいのを貰ったの。」
「それはありがたい事だけど…、どうして最初にその爆裂球を使わなかったんだね?」
「貰い物で、しかも使い方が良く判らなかったんです。今までも使った事はありません。」
俺の言葉を聞いておばあさんは驚いた。
「魔法も使えず、爆裂球の使い方も判らずに黒3つまでに上がったのかい!…そういえばグラムンも狩ったとエリーが言っていた。確かに腕は並みのハンターの遥か上を行くようだが、所詮腕頼み…。魔法が使えないものは爆裂球を多用するものさ。その方が狩りに幅が出来る。積極的に使えとは言わないけれど、使わなければタダのゴミだよ。」
確かに耳痛い話だ。
爆裂球…こんなものは銃より危険だと教育されているから、その影響がもろに出ているな。
かといって直ぐに使えと言われても困る気がする。
少し、ビオレちゃんと付き合って彼女の使い方を学ぶとするか。