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M-033 海サソリ

 


 2つ目の月が東の低い山並みから姿を現すと、辺りが更に明るくなる。

 未だに海サソリが現れない所をみると、潮時も関係しているのだろうか。そんな事を考えながらのんびりとパイプを煙らせる。

 フラウは長剣を研ぐのに専念しているようだ。自分の剣は終って、今は俺の長剣を研いでいる。

 今夜はベレッタを使う事になるから、長剣は最後の毒袋の回収に使うだけなんだけど、フラウなりの暇の潰し方なんだろうな。


 そのフラウがスイっと俺に長剣を返してくれた。直ぐに背中に背負う。

 「来たのか?」


 そう言ってパイプを腰に差しながら、ヘッドディスプレイの表示を確認する。

 小さな反応が900m程沖合いから浜に向かってくる。

 反応は複数だが、意外と小さいぞ。…ラッピナよりも小さな反応だ。


 ベレッタを取り出してヘッドディスプレイで発射速度をミディアムに切り替える。ハイなら確か、20mmの装甲版を撃ち抜けると言っていたから、中でも数ミリの装甲版は撃ちぬける筈だ、それなら1発で頭部を破壊できるだろう。

 ベレッタのセーフティを解除して、上部をスライドさせて銅球をセットする。後はトリガーを引くだけだ。


 海面を分けるように波が立って海サソリが近づいてきた。

 そして、波打ち際に最初の海サソリが姿を現した。

 確かに大きい。大きなワニのようにも見える。

 ゆっくりと1対のハサミを振り上げて、4対の足で俺の方に近づいてくる。

 俺から、20m程に近づくと一気に俺に向かって走ってきた。


 速い…俺に向かってハサミが振り下ろされる。咄嗟に横に飛ぶように避けると、ビイィーンという甲高い音と共に光条が海サソリの頭部を横から貫くと、東部が弾けとんだ。

 ドサリと動体が砂浜に落ちる。尻尾を振りたてていたが、その尻尾も力を失って丸太のように砂に倒れこむ。


 フラウに片手を上げて感謝を告げる。

 そして、海を見ると次の海サソリが渚から上がって来ていた。

 こいつ等の動きが意外に素早い事が分ったので、渚を出て体が完全に砂浜に上がった時点でベレッタで頭部を破壊する。

 頭部と言っても胴体にめり込んだような球体部分だ。

 昆虫のような顎と4つの複眼を持っているからたぶんそこが頭部だと思う。

 ベレッタから射出される高速弾は、衝撃波で5cm程の開口部を頭部に作って腹に達している。腹も打ち抜いたんじゃないかな。横腹から体液が蛇口を捻ったように流れている。


 時間にして約1時間…。もう、海から上がってくる海サソリは生体探知機能でも確認できない。今夜は、ここまでかな?


 「フラウ!…急いで尾の先にある毒袋を回収するんだ。」

 俺とフラウは12匹の海サソリの尾を切り取って毒袋を回収した。物騒な針は袋に収める時に切取った。


 砂浜に横たわる海サソリを見て、本当にこれを漁師達が始末してくれるのだろうかと心配になってきた。

 でも、エリーさんは海サソリ1体の始末に銀貨1枚が支払われるって言ってたからな。意外と、漁師の良いアルバイトになるんだろうな。


 まだ朝にはだいぶ間がある。

 流木で焚火を作って、フラウが沸かしてくれたお茶を飲みながらのんびりとパイプを楽しむ事にした。

               ・

               ◇

               ・


 「これは、オメエ達がやったのか?」

 数人の漁師が現れると俺達の焚火の所に集まって聞いて来た。

 「あぁ、昨夜の狩りの結果だ。12匹いるはずだ。…ところで、ギルドに聞いたら後始末は漁師の人がしてくれると言ってたけど、どうするんだ?」


 「な~に、沖に捨ててくるだけさ。船に縄で縛り付けて沖に2M(300m)位行った所で縄を切るのさ。こいつはゆっくり沈んでいく。後は水底の掃除屋の仕事になる。」

 要するに、肉食の何かが底にいるという事だな。意外と物騒な海なのかもしれない。


 すっかり日が上って漁師達がそろそろギルドに出かけろと言い始めた。

 俺の依頼の完了が彼等への新たな依頼となる訳だから彼等も一生懸命な訳だ。

 では、ギルドに報告してきます。と漁師達に言うと、2人の漁師が俺達に付いて来た。

 

 「お早うございます。」

 扉を開けるとまずは挨拶だ。そして、カウンターのエリーさんのところに行くと、バッグから袋を取り出して、カウンターに海サソリの毒袋を並べ始めた。


 「ちょっと!…いったい何匹狩って来たの?」

 「12匹だ。」

 

 はぁ…とエリーさんが溜息をついた。

 「普通のハンターなら一晩で2匹がやっとよ。どんな方法で狩ったのか知らないけど、この町の新たな記録になるわ。でも、これだけあると王都にも送る事が出来るわ。」

 そう言って、数を確かめると、俺達の前に24枚の銀貨を並べた。

 俺達がそれを受取ると、直ぐに漁師がエリーさんに詰め寄る。

 浜の掃除の交渉だな。銀貨12枚だから漁師達には貴重な現金収入になるのだろう。


 ギルドを出て、雑貨屋に寄りタバコの葉を一袋手に入れた。ついでに駄菓子を買い込む。

 その足で、宿に戻って扉を叩く。


 「どなたですか?」

 扉を少し開けてビオレちゃんが俺達を覗き込む。

 直ぐに扉を開くとお早うございますと元気に挨拶してくれる。

 俺とフラウもビオレちゃんに挨拶しながらリビングに入っていった。


 「お早う。元気なようじゃな。だいぶ浜が賑わっているのはアンタ達の獲物のせいと言う訳かい?。」

 「漁師達が朝早くから駆けつけてきました。俺の依頼完了の報告が終ると同時に俺達に付いて来た漁師が仕事を請け負ったみたいです。」

 俺はテーブルに着くと向かいで編み物をしていたおばあさんに、そう答えた。

 ビオレちゃんがお茶を入れてくれると、おばあさんの隣に座って俺達の顔を見る。


 「どんな風に狩りをしたの?」

 フーフーとお茶を冷ましながら、ビオラちゃんが俺達に聞いて来た。


 「深夜に沖の方から波を作って海サソリがやって来た。それこそ、沢山の海サソリだ。

 俺達は、奴等が浜に完全に上がったところで、小さな頭を魔道具で潰した。

 奴が倒れて浜に長く尻尾を伸ばしたところを長剣で尾の先端部の膨らみを切り取ったという訳さ。」


 俺が魔道具と言ったところでおばあさんはピクリと眉を動かした。

 「若い娘2人がハンターで黒レベルと言うのは魔道具のおかげと言う訳だね。…それで、あの賑わいの訳が分ったよ。2、3匹と言う数じゃないね。」

 「はい。12匹を狩りました。王都に別けることが出来るとエリーさんがよろこんでました。」


 「確かに、海サソリはワシ等老人には無くてはならない…。けど、動きが素早いと息子が言っていたよ。毎年数匹をハンターが仕留めるんだが、殆どがこの町で消費されてしまう。確かに、エリーは喜ぶだろうね。」

 おばあさんはそう言うと、俺達のカップにお茶を継ぎ足してくれた。


 「そうだ!…差し出がましいですけど、皆で頂きましょう。」

 バッグから、駄菓子の袋を取り出す。

 おばあさんが棚から浅い木製の皿を取り出すと、袋の駄菓子をそれに盛る。

 ビオレちゃんの目が輝いてるぞ。早速手を伸ばして頂き始めた。


 フラウがビオレちゃんを見てニコリと笑う。そんなフラウにビオレちゃんは微笑み返した。何か、仲の良い姉妹に見えるな。

 

 「ところで、昨夜は寝ていないんじゃないのかい。…風呂を沸かしておくから、体を洗ってゆっくりお休み。…一眠りしたら、町を歩くといい。何もない町じゃが、漁師町だから、他の町とは少しは違っていると思うよ。」


 おばあさんの勧めに従い、俺達は風呂に入る。

 さっさと体を洗うとベッドに横になる。

 俺達は睡眠が必要ないけど、ぐっすりと寝た振りをしなければならないようだ。

               ・

               ◇

               ・


 4時間ほどベッドでRPGを楽しみ、体を起こす。

 季節は夏には程遠い。ハンター達の多くが革の上下を着込んでいる。もっともその下は、下着にシャツ1枚なんだろうけどね。

 

 素早くシャツを羽織って、腕にクナイのホルダーを着ける。

 そして、装備ベルトを腰に着けると、レッグホルスターのベルトを動かないように腿に巻きつける。

 何となく、帽子が欲しくなった。

 この格好だし…テンガロンハットみたいな感じが良いかもしれない。


 「フラウ…帽子を作るぞ。」

 「帽子なら、まだ新品同様ですが?」

 「あぁ、あれは取って置いて、この服装に合った帽子を作ろう。」


 準備が整うと、部屋の扉を開ける。

 「おや?…起きたのかい。」

 「えぇ、あまり寝ると夜眠れなくなります。…ところで、帽子を買いたいんですが、お店を教えてくれませんか?」


 俺の質問にしばらくおばあさんは考えていたが…。やおらポンっと手を叩くと話を始めた。

 「ギルドの通りに出て、東に歩くとハサミの看板があるよ。そこは衣類を扱っているけど、帽子も売っている筈。器用な店主だから注文も聞いてくれる筈さ。」


 俺達はおばあさんに礼を言って早速外に出た。

 町を東西に貫く通りは確かにこの町の大通りだ。気が付かなかったけど看板も特徴的だな。ベッド、カップ、トンカチ、ハサミ…ここだな。


 「今日は…。」

 挨拶しながら店に入ると、カウンターに先客がいた。

 若い娘さんがカウンターの中と外で話をしている。

 「あら、お客様だわ。…ちょっと待っててね。」

 そう言ってカウンターに近づいた俺達に顔を向ける。

 「今日は。今日はどんな御用でしょうか?」


 「ここで帽子が作れるんじゃないかと聞いて来た。俺達2人の帽子を作って欲しいんだが…。」

 「お客様はハンター…ですよね。ここは、普段の帽子なら作れますが、あまり変った帽子は作れませんよ。」

 「変ってるかどうかは分らないけど…何か書くものはある?」

 俺の注文に、メモ紙と太い鉛筆のような物をカウンターの下から取り出した。


 早速、テンガロンハットの概略図を描く。

 「こんな感じの帽子なんだけど…出来るかな?」

 「材質は…革ですよね。ふーん…。何とかなります。外側は形を整えるのと防水を兼ねてウミウシの体液で補強しますけど…。」

 「なら前から見た時、こんな感じで両側を反らしてくれないかな。帽子の紐は組紐でお願いしたい。紐の調節は革の帯をこのようにして間に組紐を入れて閉じればいい。」


 「なるほど…。それなら、紐を調節出来ますね。ところで、この帽子はどこの国で流行しているんですか?」

 「緑の少ない土地では男達が皆被っていたよ。流行かどうかは分らないけど…。」

 「作るのに2日は掛かります。材料費と工賃で1個150Lになりますが…。」


 「俺と、フラウの2人分だ。前金で払う。」

 俺の言葉を聞いて、フラウがバッグからサイフ代わりの革の袋を取り出す。そして銀貨を3枚カウンターに並べた。


 「へえ~。ハンターってお金持ちなんだ。」

 先客の若い娘がカウンターの銀貨を見て言った。

 「昨夜の狩りが上手く行ったからね。何時もそうとは限らない。運、不運が付きまとう商売なんだ。」


 「1人ずつ頭の大きさを測りますね。」

 そう言って店員はメジャーのような物で、俺とフラウの頭をぐるりと廻して大きさをメモしている。

 「では、3日後に取りに来てください。出来上がりの具合で少しは修正が出来ると思います。」

 

 よろしく、と挨拶して俺達は店を出る。

 どんな形に仕上がるかはお楽しみだ。格好が悪くとも、雨の日には役立つだろう。そして格好が良ければこれからの季節には丁度いい。何時でも被っていられる。

 そんな事を考えながら、宿に帰って行った。

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