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M-032 投げ釣り?

 


 次の日は、朝からのんびりとリビングでお茶を飲んでいた。

 「今日はギルドに行かないのかい?」

 「えぇ、今日は狩りはお休みです。毎日だときついですからね。」


 「それが、分れば十分だよ。体を休めるのもハンターの仕事さね。」

 おばあさんはそういいながらのんびりと編み物をしている。

 

 「ところで、この辺の海で釣りは出来ますか?」

 「色んな魚が釣れるよ。だけど、漁師は釣るより銛で突く方が多いね。網や仕掛けで取る事もありようだけど…やはり銛で突く者が圧倒的だよ。私の連れ合いもそうだったが、この季節から海に入るから長生きは出来ないようだね。」

 

 そう言ったおばあさんは少し懐かしむように窓の外の海を見ていた。

 若い時も編み物をしながら、旦那の帰りを待って海を見てたんだろうな。


 「フラウ。釣り糸を作れるか?」

 「合成繊維でなら何とか作れます。釣針はこれ位の大きさなら直ぐに出来ますよ。」

 

 フラウに糸と針を任せて、俺は釣竿を探しに外に出た。

 日本なら竹が直ぐに見つかるのだが、この地方には竹が無いようだ。

 となれば、浜辺で錘をクルクルと振り回して遠投するしか方法は無さそうだ。

 藪から長さ2m程の雑木を切り出して宿に帰る事にした。

 途中の木工所で釣り糸を巻く仕掛けを作ってもらう。

 円錐を途中で切ったような形の依頼に職人は訝しそうに俺を見たが、気前良く代金を払うと、持ち手まで作ってくれた。

 

 そんな道具を手に入れて宿に戻ると、早速フラウが俺に手を差し出した。

 「これが糸、そして針です。」

 「少し太い糸を作れないか。30m程欲しいんだが。後は錘だな。」

 「了解しました。錘は銅で良いですね。それと錘は穴を開けますか?」

 

 そんな知識もあるようだ。早速、竿とリールを使わない投げ釣りの方法をフラウに話して、不足分を補って貰う。

 「しかし、糸は合成とはいえ良く出来たな。」

 「マスターにも作れますよ。でも、今は私が作ります。」

 そう言って、部屋に戻っていく。


 「どうにか出来そうかい。まだ湾に入っているかどうか分らないけど、この位の魚が獲れるんだよ。でも、釣るには針が太すぎて、網で獲るんだが大きな網が作れないから、沢山は獲れないのさ。」

 ちょっとおばあさんは疑っているような口調で話してくれた。

 だが、いるんだったら釣れるだろう。そんな気持ちでフラウを待つ事にする。


 部屋の扉が開き、フラウが出て来た。

 「これで、どうでしょうか?…糸は50m巻いてあります。」

 そう言って糸巻きを出してくれた。

 十分だと思う。とりあえず釣ってみれば分る事だ。


 「おばあさん。ハムがあったら少し分けてくれませんか?」

 「餌かい。それなら少しで良いね。」

 そう言って台所に行くと、ハムを1枚薄く切ってくれた。


 早速、浜に出かける事にする。

 ビオレちゃんを誘うと嬉しそうにおばあさんの顔を見る。

 「行っておいで。折角だから浜で貝を採って来ておくれ。」


 そんな訳で、俺達はビオレちゃんを先頭に浜に出掛けて行った。

 この浜は20m程で急に深くなるらしい。

 ビオレちゃんの潮干狩りの邪魔にならないように少し離れた所で早速釣針に餌を付けて振り回して投げる。

 投げると同時に糸巻きを前方に出すとスルスルと糸が繰り出されていく。

 ポチャンと落ちたところで糸フケを取り、糸を竿の先に挟んで砂浜に突き刺す。

 これで、魚が掛かれば竿が揺れるから分るはずだ。


 スコップナイフを使ってビオレちゃんの手伝いをしていると、突然竿先が揺れだした。

 竿を引き抜き、大合わせをすると糸を手繰り寄せる。

 グイグイと言う魚の引きを味わいながら魚を浜辺に引き上げた。


 ビオレちゃんが驚いて魚を見ている。

 「ピンナーだよ。家ではまだ1回しか食べた事が無いの!」

 「じゃぁ、これはビオレちゃんの分だね。」


 そう言って、また仕掛けを投げる。

 すると、また当たりがあった。同じようにして魚を浜に引き上げた。30cm位で、銀色の鱗が特徴的な魚がピンナーらしい。

 1時間程で数匹を釣り上げた所で、ヘッドディスプレイの時刻表示は1時を過ぎている。そろそろ宿に戻った方が良さそうだな。

 ビオレちゃんが持ってきた木製の桶に魚を入れてフラウが運んでる。貝を採る道具の鉄の櫛が付いた熊手はビオレちゃんが片手に持って、フラウと手を繋いでいる。

 フラウもちょっと嬉しそうに見えるな。


 「「ただいま!」」

 元気に扉を開けておばあさんに挨拶だ。フラウが桶の魚を見せると、おばあさんは驚いていた。

 「これはピンナーじゃないか。よくもこんなに釣れたね。これなら漁師になっても食べていけるよ。」

 「俺達は楽しめれば十分です。それは滅多に食べられないような事をビオレちゃんが言ってました。今夜の料理は期待してますよ。」

 

 それを聞いておばあさんは更に驚いたようだ。

 「これを貰えるのかい。これだけで20L以上で売れるはずだよ。それに滅多にこの魚は網に掛からないんだ。ありがたく頂いて食べさせて貰うよ。」

 桶を持って台所に持っていくと、俺達には海草のスープと黒パンが配られた。


 「昼食はこんなだけど、夕食は期待して良いからね。」

 そう言っておばあさんが笑った。その言葉を聞いて俺達3人が顔をあわせて微笑む。

 他人が見たら、姉妹に見られそうだけど…、しばらくは厄介になってるからそんな関係も良いかもしれない。


 昼食後は、ギルドに出かけて依頼書を見る事にする。面白そうな依頼があれば良いんだけどな。


 ギルドの扉を開いて、カウンターのお姉さんに片手を上げる。

 そのまま、掲示板に歩いて貼ってある依頼書を眺めはじめた。

 

 「マスター。この依頼は変ってますよ。」

 フラウの傍に行ってその依頼書を眺めると…。


 海サソリの毒袋。銀貨2枚。…何とそれだけが書かれている。

 依頼の期限や注意事項がまるで無い。

 これでも、依頼なのだろうか?…最低限の情報は5W1Hできちんと書いて欲しいと俺は思うぞ。


 急いで、記憶槽のライブラリーを調べ始めた。図鑑には無い。補足版も調べてみる…。やはり無いぞ!

 とりあえず聞いて見るか。

 そう思って、カウンターのエリーさんの所に急いだ。


 「エリーさん。海サソリの依頼がありますけど…。どんな怪物ですか?」

 「あぁ、あの依頼ね。海サソリはこんな姿よ。」


 カウンターの下の方から革の装丁のある立派な図鑑をカウンターに取り出して頁を捲る。

 ぱらぱらと捲ると、目的の頁に大きく海サソリの姿が描いてあった。色が着いてるけど、毒々しく赤の地に緑の水玉模様だ。

 確かにサソリだな。大きくなければ…。その横にシルエットで人間との大きさ比較が描かれてるけど、胴体だけで人間サイズだ。尻尾とハサミを入れると6mはありそうだ。

 

 「この尻尾の先に毒針があるの。刺されるとその場で亡くなる位に強力よ。この毒をカイラム草の球根で中和すると、神経痛の特効薬になるの。この町は漁師町でしょ。海がまだ冷たい内から素もぐり漁をするから老人達の多くが神経痛を患ってるのよ。」


 それならこんな依頼がある理由も判る。

 「ところで、この海サソリって何処にいるんですか?」

 「この時期の満月の夜に浜辺に上がってくるの。と言っても、波打ち際からそれ程離れないから町中は安全よ。」


 「では、あの依頼を受けても、月が出ている時期に海サソリが岸に上がってこないという事は無いんですね。」

 「それは、保証するわ。そして、上がってくる海サソリは複数よ。毒袋はこの位置にあるから、この辺で尻尾を千切って持って来ても大丈夫よ。そして、銀貨2枚は毒袋1個の値段だから、複数倒せばその分報酬は増える事になるわ。それと、海サソリは狩りの値段が安いのは、後始末の料金が差し引かれてるの。後始末は漁師達が行なうわ。其の料金が1匹当たり銀貨1枚なのよ。」

 

 これは少し面白そうだ。海サソリの毒が幾ら強くても俺達は生体ではない。安心して戦えるぞ。

 それに後始末をしなくて良いのもありがたい。穴を掘って埋めるにしてもあの大きさだと大変な作業になる。

 早速、依頼書を引き剥がしてエリーさんに確認印を押して貰う。


 のんびりと宿に戻ると、パイプを楽しみながら海を見る。

 幾らサソリの外骨格が硬いといってもレールガンを弾くのは考えにくい。レールガンで倒した後で尻尾の毒袋を回収という事で良いと思う。

 他のハンターだと手こずりそうだが、俺達には楽な依頼だ。


 夕食のテーブルには貝のスープに焼いたピンナーが入っていた。

 ナイフとフォークでピンナーの肉を解しながらスープと一緒にスプーンで食べるらしい。

 ビオラちゃんの真似をしながら一口食べてみると…。なるほど、と納得出来る味だった。前にナマズを食べたけど、比べ物にならない。

 やはり、魚は海魚だよな。

 

 「今夜は浜で海サソリを狩ります。明日の朝には戻りますから…。」

 「海サソリの殻は固いと聞いたよ。どうやるかは知らないが、相手を1匹と思っちゃいけないと、息子が言ってたよ。特に夜は暗いんだ。月明かりがあるといっても油断は禁物。もっとも、黒3つのあんた達はこれ位は判っていると思うけどね。」


 そう言って、食後のお茶は苦い位のお茶を出してくれた。コーヒーでもこんなに苦くないぞ。

 確かに、これ位苦いのを飲んでいれば一晩中起きていられるだろう。

 

 おばあさんに、昼間のピンナー釣りの話をしながら月が出るのを待つ。

 ヘッドディスプレイの時計が9時を回る頃、満月を過ぎた月が顔を出した。もう1つの月は後1時間程後に上ってくるはずだ。


 「では、そろそろ出かけてきます。」

 「あぁ、行っといで。…相手は複数だ。それだけは忘れちゃダメだよ。」

 再度忠告してくれるおばあさんに頭を下げると、借りた籠を玄関の外でヒョイと肩に背負ってフラウと浜辺に歩いて行った。

 

 浜辺は月明かりに照らされて結構明るい。もう1つの月が出ればもっと明るくなる筈だ。

 これだけ明るければ、暗視モードで狩りをする必要も無い。通常の視野の明度を上げれば済む。

 籠を下ろして、パイプを取り出す。

 まだ、ヘッドディスプレイには生体反応が現れない。動体反応のほうが確実なんだが水中ではどうも役に立たないみたいだ。

 渚から、20m程離れたところに横たわっていた流木に2人で腰を下ろしてひたすら海サソリの接近を待つ事にした。

 

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