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M-030 巨大蟷螂

 


 ザザー…と言う波音を聞きながら焚火をフラウと囲んでいる。

 パチパチと爆ぜる薪の音も風情がある…。何て言うのは少し年寄りじみてるかな。


 「マスター!」

 「あぁ、俺も気が付いてる。だが、敵対反応が現れない。」

 生体探知機能は仮想ヘッドディスプレイに半径1kmの生物情報を俺に教えてくれる。敵対する獣なら赤で、敵対せずに俺達を覗う草食獣等は黄色で、そして1度会った人間等は緑で表示される。

 フラウが俺に告げたのは、そんな黄色の反応が近づいて来ているからだ。 

 しかも、近づいている方向は海なのだ。

 

 大型ではある。反応の大きさからゾウ位の大きさがあってもおかしくない。

 レイスさん達3人はぐっすりと寝ているようだ。

 害の無い獣で起こすのも気の毒だ。

 だが、後50m程で波飛沫を上げる磯に到達する。そして、俺達は磯から100m程の所で焚火をしているのだ。

 奴の姿を見てからでも遅くは無いだろう。海獣だとは思うが、陸に上がれないオルカのような海獣もいるのだ。

 

 「フラウ。50mまではこのままだ。敵対行動を取ったなら即座に殲滅。ベレッタをミディアム出力で放つ。」

 「了解しました。現在の距離120mです。」

 フラウはそう言ってホルスターのロックを解除する。


 そして、海獣が磯場まで30m程に達した時、小さな黄色の光点が数個ヘッドディスプレイに現れる。海獣の周囲を目まぐるしく動き回ると段々と海獣の生体反応が低下していく。


 「どうやら海の中にもハンターがいるようだな。」

 「はい。あの速度で海中を動ける生物はどんな形状なのでしょうか。ライブラリーにもそのような情報はありませんでした。」


 完全に海獣の生体反応は消滅している。海のハンターも遠くの海に帰っていくようだ。いったい何を狩ったのか、狩ったのはどんなハンターか知りたくはあるが、確かめようもない。


 時計表示が早朝の2時を示した所で、焚火の番を交替して貰う。このまま朝を迎えても良いが、グラハムさんは焚火の番は交替が原則と教えてくれた。

 小さな毛布に2人で包まって朝を待つ。


 周囲が明るくなり、焚火で朝食のスープを煮込む匂いがする。

 そろそろ起き出しても良い時刻だろう。

 伸びをしながら毛布を出ると、磯場に行って海水で顔を洗う。

 まだ冷たい海水だ。人間ならこれで1発で目が覚めそうだ。


 「お早う。」

 「おぉ、朝が早いな。良く眠れたか?」

 「まぁまぁですね。…ところで昨晩、かなり大型やつが海の中で何かの餌食になってたようです。だいぶ海が騒いでました。」

 

 俺の話を聞いて皆の顔が綻ぶ。

 「それは、たぶんウミウシを狩るカラメル達だ。ウミウシの大きさは時に巨大になる。普通でも民家よりは大きいぞ。そして、カラメル族は人の姿をしているが水中で生活する。海のハンターだな。」


 カッパか半漁人みたいな奴なのか?

 そう思ったが、その内見る事もあるだろうと、とりあえずスルーしておく。


 朝食のスープと焼き直した黒パンを食べながら、今日の行動計画をメリーさんが説明してくれた。

 「今日は午前中歩いて、昼食を早めに取って森に入るわ。それ程森を歩かずに山裾に出られる筈。…そこで狩りを始めるんだけど、上手く狩れなければ明日も狩りをする事になるわ。

 森は、それ程深くないはずよ。それでも十分注意してね。カルキュルを狙うグラムンの生息領域だから。」


 「了解した。グラムンはこの前倒してる。出現したら任せてくれ。」

 「倒しただと!…グラムンは【サフロ】体質。傷を着けても見る間に閉じていくと聞いている。どうやって倒した?」


 バリアスさんの口調は俺に掴みかかるような感じだ。

 「この魔道具で頭を破壊した。…長剣で作った槍は体を振るって抜け落としたから、倒すのは頭を破壊するしか手が無かった。」


 「凄い威力ね。【メルト】位の威力があるのかしら?」

 「【メルト】がどれ程の魔法か判りませんが、そうですね。この魔道具が撃ち出すのは小指の先程の銅球です。ただ、その撃ち出す速度が途轍もなく速いんです。」

 

 「だが所詮豆粒程の銅球だ。それ程の威力を持つのは信じじられんぞ。」

 レイスさんも信じられない様子だな。

 

 「その時が来れば判ります。俺としてもあまり頼らないようにしてますから…。」

 「確かに魔道具はむやみに使う物ではないわ。でも、そんな威力なら確かにグラムンを倒せるわね。」


 そう言って、メリーさんは焚火の傍から立ち上がった。

 俺達も杖を持って立ち上がる。

 「先頭はバリアスだ。…最後尾はユング達。後ろも気を付けろよ。」

 レイスさんの指示で俺達は彼等を先行させる。


 森に入ると、なるほど獣たちで一杯だ。俺達に気付いて逃げ出す奴が殆どだが、逃げない奴が1匹いるようだ。

 この反応はグラムンではないな。ガトルとも違う…。

 距離は約300m。まだ俺達を襲うとは断定出来ないが注意は必要だ。


 森に入って1時間。まだ森は続きそうだ。そして、1匹の獣が少しずつ俺達に近づいている。距離は200mを切っている。どうやら俺達を狩りの獲物と決めたようだな。


 「レイスさん。まだ1M(150m)以上離れていますが、1匹獣が近づいています。グラムンともガトルとも気配が違うんですが…。」

 「俺には感じられないが、あまりよい心地で無い事は確かだ。」

 バリアスさんが背中を突付いたレイスさんに言った。


 「グラムンとは違うのね?」

 「はい。グラムンの気配は覚えましたから…。」

 メリーさんは少し考えてたが、先頭を歩くバリアスさんに広い場所を探すように指示した。


 「もし、貴方の言う事に間違いが無ければ、それはソーハンという事になるわ。」

 「何だと!…あの双剣使いを相手にしなければならないのか?」


 メリーさんの言葉にバリアスさんが大声を出して振り向いた。

 「なんだ?…双剣使いってのは。」


 バリアスさんはレイスさんに振り向いた。

 「獣ではない。虫だ。…だが大きさが半端ではない。牛程の大きさの巨大な昆虫がソーハンだ。」


 ファンタジーな世界だとフラウと顔を見合わせる。

 だが、そう言われて見ると確かに生体反応が動物とは異なる。やはり、昆虫なのだろうか?


 「ここなら、大丈夫だろう。ソーハンなら木にも登れるし、狩りの動きはとんでもなく速い。辺りの立木が少しは役に立つだろう。」

 バリアスさんが俺達に説明を始めた。

 奴との距離は150m程だ。

 

 「メリー。今の内に全員に【アクセル】だ。奴の動きは速いぞ。」

 「俺達は魔法は利かない。」

 そう言って俺とフラウへの身体機能上昇の魔法を辞退する。通常でも素早く動けるし、イザとなれば10倍に高められる。


 「マスター。どうやら、戦闘は避けられません。」

 ヘッドディスプレイの光点は黄色から赤になっていた。


 「来ますよ。方向はあっちからです。そして、周辺に他の獣はいないようです。」

 「確かに…。」

 俺の言葉にバリアスさんが答えて、片手剣を抜いて身構えた。


 「おいおい、本当かよ。」

 そう言いながらもレイスさんは長剣を抜いてバリアスさんと少し距離を取る。


 「貴方達はそれで行くの?」

 「あぁ、とりあえず投げればそれだけの効果はあるはずだ。ダメなら別の手を使う。」

 手元に小さな宝石のような球を着けた短い棒を持ったメリーさんが俺達に言った。

  

 「でも、黒3つなんでしょ。頼りにしてるわ。」

 俺達にそう言ってメリーさんは後ろに下がる。

 

 「距離80です。もう直ぐ体を見る事が出来ます!」

 俺の声に皆の視線が森の一角に向けられた。


 「蟷螂!」

 俺は小さく呟いた。確かに2つの剣だな。俺の長剣より長そうな剣だぞ。


 「来たぞ。中ぐらいの奴だ。奴の動きは速い。立木を上手く使って攻撃を避けるんだ!」

 バリアスさんが俺達に告げるがその眼は蟷螂を見たまま、全く動かない。


 「フラウ。杖を全力で投擲するぞ、距離30mで投擲だ。」

 俺の指示に小さくフラウが頷いた。一瞬だけ10倍に身体能力を高める。それによって投げられた杖は槍のように奴の体を貫くだろう。


 ガサガサと茂みや下草をなぎ倒して蟷螂が近づいてきた。

 まだ、奴の動きはゆっくりとしたものだ。俺達を襲う瞬間にその動きを上げるのだろう。

 俺から50m程の所で、小さな頭から両側に突き出した複眼で俺を見ているようだ。そして、体を左右に揺らしながら少しずつ近づいてくる。


 杖を持ちながらホルスターのロックを外す。

 「今だ!」

 2つの杖が同時に音を立てて蟷螂に突き刺さる。

 それでも、奴の動きは変化がない。胴だけで子牛程の大きさだ。針が刺さった位にしか感じないのだろうか。

 ヘッドディスプレイのレールガンの強度をミディアムに変更しながらすこしずつ後ろに周りこむように移動する。


 その時、突然蟷螂はその鎌を振り上げて俺に向かってきた。

 直ぐに身体機能を3倍に高める。

 蟷螂の動きがそれ程速く感じなくなった所で、ベレッタを構えその左の鎌を根元から撃ち砕いた。


 もう片方の鎌はフラウが撃ち抜いたようだ。

 「ウオォー!」

 低い声を上げてバリウスさんが蟷螂に迫ると、その胴体に一撃を与えて直ぐに退く。

 続いてレイスさんが長剣で挑むが残りの足で攻撃を阻まれたようだ。


 ベレッタをホルスターに戻してロックすると背中の長剣を引抜いた。

 そして、フラウと一緒に波状攻撃を掛ける。


 メリーさんの放った何回目かの火炎弾が奴の頭に命中した隙を突いて一気に奴に迫って首に一撃を与えると首がゴロリと落ちる。

 それでも胴体と残りの足は動きを止めない。


 「そこまでだ!…虫は直ぐには動きを止めない。だが頭の無いソーハンならもう心配は無用だ。」

 生憎とソーハンには役立つ部位は無いそうだ。折角狩ったんだけどちょっと残念な気がするな。


 「先を急ぐわよ。」

 メリーさんの言葉で、俺達は再び岬の先端の方に向かって歩き出した。


 1時間程歩くと先方が明るくなってきた。そして立木が少しずつ疎らになると目の前に小高い丘のような山が現れた。

 立木が極端に少ない。地面はごつごとした岩と砂で覆われている。

 それでも一箇所だけ緑の場所がある。


 バリウスさんが先行してその場所に向かうと、辺りを確認して俺達を手招きした。

 「この辺りで唯一の泉があるの。貴重な水場だから獣達も利用するのよ。」

 メリーさんが俺達に振り返って説明してくれた。


 「この先に水場は無いわ。水筒の水を飲んで、ここの水を汲んでおきなさい。」

 言われた通りに水筒の水を飲んで新たに水を補給する。俺達の持っている水筒は大型の真鍮製だ。1つで2ℓは入る。それを2個持っているからここで満タンにしておけば10日以上は持つ筈だ。

 俺達が水を補給している時でも獣達が遠巻きで俺達を観察している様子がヘッドディスプレイに映っている。

 彼等も水が必要なのだ。そして、その順番を待っているのだろう。

 最後にレイスさんがポットに水を満たした所で、俺達は水場を離れて山を登り始めた。


 30分程の所で休憩となる。ちょっとした茂みがあり周囲に数本の立木がある。

 早速、薪を集めて焚火を作り、昼食の準備を始めた。


 

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