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M-029 森の南端を目指して

 


 宿に帰ってローストをおばあさんに渡すとその数に吃驚していた。

 「こんなに獲ってきたのかい。近所にも配らないといけないね。」


 そんなおばあさんの顔はニコニコしている。

 それ程美味しいのだろうか?…ちょっと疑問だな。

 ローストを鍋に入れて家を出て行ったが、しばらくして戻ってくると俺達に聞いてきた。


 「だいぶ派手に通りで喧嘩をしたのはあんた達かい?」

 「あぁ、報酬を寄越せとか、宿に来いとか言われたからね。

 それ位なら聞き流せばいいけど、肩を掴まれたり長剣で凄まれたり、挙句は魔法を撃たれたら俺だって黙って見過ごす事は出来ないぞ。」


 おばあさんは、そんな俺達の前にお茶のカップを置いた。

 「相手は貴族様だが、大丈夫かね?」

 「問題は無いと思う。俺達は黒3つだが、実力はそれ以上だと思っている。幾ら狩りをしてもレベルが上がらないんだ。このレベルはエントラムズのトラ顔の将軍に貰ったようなものだ。」


 それを聞いておばあさんは少し安心したみたいだ。

 「でも、気をつけた方が良いよ。貴族様はしつこいからね。」


 俺が頷くのを見ると、ニコリと笑って料理を始める。

 やがて、俺達の前に出て来たのは魚介類のスープだったが、その出汁が絶品だった。思わず、おばあさんの顔を見る。


 「美味いだろう。それがローストの出汁さ。身は食べる者等いないが、その出汁だけはローストにかなうものはないさね。」

 そう言って俺達の顔を見ながら笑っている。

 ビオレちゃんもおばあさんの傍で美味しそうにスープを飲んでいるぞ。


 しかし、ローストがドロンゴ川にいる以上、他のハンターには少し荷が重そうだな。また、依頼があったら俺達で行く事にしよう。そうすれば、このスープがもう一度味わえる訳だ。


 次の朝。少し早めにギルドに出掛けた。

 流石、町のギルドだけあって10人近いハンターがホールにいる。テーブルに腰を下ろしているのは、チームの誰かが適当な依頼書を探すのを待っているのだろう。

 

 流石に、他のハンターを押しのけて依頼書を探すのも考えものだと思い、空いてるテーブルの席に座って掲示板が空くのを待つ事にした。

 のんびりとパイプを楽しんでいると、2人組みのハンターが俺達のテーブルにやって来た。

 

 「悪いが、合い席をさせてもらうよ。今、連れが掲示板にいるからな。」

 「良いですよ。俺達も、掲示板が空くのを待ってるんです。」

 

 俺の言葉に、話しかけてきた20代後半の男は一緒にいる女性を見る。

 「薬草採取は直ぐに無くなるわ。それを選ばないという事は黒レベルってこと?」

 「はい。一応黒3つになります。」


 女性が俺達に話しかける。23、4って所だな。そして、耳が少し尖っているぞ。という事は…エルフって事だな。


 「レイス。良いのがあったぞ。」

 そう言って、ネコ族の男がやって来た。隣から椅子を持ってきて俺達の前にドカって座る。

 「どんな依頼だ?」

 「あぁ…。カルキュル狩りだ。クルキュルは少し俺達の手に余るが、カルキュルなら何とかなりそうだ。」

 そう言って依頼書を2人に見せる。


 「それと、面白い話を聞いたぞ。昨日の夕方、通りで大喧嘩があったらしい。サンドックの息子が大怪我を負って王都に帰ったそうだ。これで少し町が静かになるな。」

 「あの青二才がやられたのか。それは町の連中が喜ぶだろう。…で、誰がやったんだ?」


 ネコ族の30代の男が指先を俺達に向ける。

 「2人組みの女性だそうだ。数発の火炎弾を浴びて火傷1つ出来なかったと見ていた男が言っていた。

 更に、青二才の取り巻きの腹を全て掻き切ったらしい。【サフロナ】使いもこれには参ったようだ。今朝までに6人が死んだと聞いたぞ。」


 腸がはみ出すように斬ったのだが、それ程の重傷を治す魔法もあるようだ。だが、多用は出来ないみたいだな。半数はやはり死んだようだ。


 「確かに、それは俺達の仕業です。俺達は売られた喧嘩なら値引きせずに買いますよ。」

 俺がそう言うと3人が笑い出した。


 「まぁ、そう熱くなるな。俺達は非難してる訳ではない。ハンターに喧嘩を売るような奴なら国も相手にはしないだろう。ただ、厄介なのは私兵だな。その内来るだろうが、向かってくるなら全滅させても問題ない。」

 

 「貴方達は、黒でしょう。そんなハンターを私闘で倒そうとすれば国は黙って無いわ。真実審判で、たとえ貴族が勝ったとしてもその原因が追究され、非があれば貴族資格を抹消されるわ。今の国王の代になってどの国も貴族を厳しく取り締まってるのよ。」


 それなら問題ないか。真実審判って、あの時の神官かな。どんな方法かは判らないけど、一瞬で判定を下したぞ。

 

 「ところで、貴方達はまだ依頼を受けてないわね。このカルキュル狩りを一緒にしない?…私達でも何とかなりそうだけど、20匹は少し多すぎるわ。」

 「クルキュルはエントラムズで狩った事があります。カルキュルもカナトールの村で狩りましたから足手纏いにはならないと思いますよ。」

 

 「経験があるなら助かるわ。長くて4日程になると思うから、宿に連絡して戻ってきなさい。それと、報酬は食費を引いて均等割りで良いかしら?」

 「それで、かまいません。フラウ。宿のおばあさんに伝えてくれ。」


 フラウは俺に頷くとギルドを出て行った。

 直ぐそこだから、あまり時間は掛からないだろう。パイプにタバコを詰めると、暖炉に歩いて燃えさしで火を点ける。


 「しかし、革鎧を切り裂くとは中々の腕だな。その長剣を見せて貰っても良いかな?」

 俺は背中の長剣を抜くと彼に差し出した。

 レイスさんがそれを受取ったとたん顔を顰める。

 

 「どうした?」

 「俺の長剣の2倍はある。これは長剣じゃなくて長い鉈だな。」

 「貸してみろ。」

 そう言ってネコ族の男が俺の長剣を持って立ち上がる。

 構えてみるが切っ先が細かくブレている。

 構えを解くと、俺に返してくれた。直ぐに片手で背中の鞘に収める。


 「あれを振れるのか…。恐れ入った。俺はレイス。こっちの男はバリアス。そして魔道師のメリアンヌだ。」

 「メリーで良いわ。貴方達の名は?」


 「俺がユングで出て行ったのがフラウだ。俺達は長剣は初心者だ。俺達の武器は後で分ると思う。そして、俺達に魔法は利かない。怪我は自分達で何とかするから大丈夫だ。」

 「補助魔法も使えないの?良くクルキュルが倒せたわね。」

 「あれ位の動きなら問題ない。俺達の方が速いからね。」


 ギルドの扉が開き、フラウが帰ってきた。

 「マスター。戻りました。おばあさんから、気を付けるようにと言伝を預かりました。」

 良いおばあさんだな。

 フラウに有難うと答えて、メリーさんに向き直る。


 「準備は出来た。何時でも出かけられるぞ。」

 「では、行きましょう。東の森をずっと南に下った場所に小さな山があるの。カルキュルはそこに群れているわ。」


 俺達5人はテーブルを離れてギルドを出ると通りを東に歩いて行く。

 門番さんに挨拶をしながら森へ続く道を急いだ。


 森の手前で一休み。

 小さな焚火を囲んでお茶を飲む。

 「これから南に向かうわ。森の中から不意に獣が出てくるかも知れないけど、バリアスの勘に頼れば大丈夫よ。」


 こんな所でも、ネコ族の勘と言う奴が出てくるんだな。

 ハンターのチームには1人は欲しいという事なんだろうか?

 俺達は森から数十m程の所を南に歩いて行く。膝位までの草が茂る荒地なんだけど、疎らに雑木も生えている。将来はこの辺まで森が大きくなりそうな気がするな。


 そして俺達の前に海が広がった。

 森は半島のように突き出した先にに延びておりその先端付近に小さな山が見える。

 「あれが、目的地の山よ。海辺沿いに歩くけど、あまり岩場には近寄らない方が良いわ。海獣は陸の獣より厄介だから。」


 それでも、バリアスさんがいるから少しは楽という事だ。

 俺達の生体探知の範囲は半径1km。結構な獣がいることが判っている。200m接近で警報設定しているから、ここまで歩くまでに何度か頭の中で警報が鳴っていた。警報が鳴っても、俺達に更に近づかない限りは、獣達の通常行動という事であえて事を構える必要も無い。

 

 海に向かって荒地を下りる。

 そして渚を半島の方に歩いて行った。

 半島の海際は大きな岩場に鳴っているから、歩き辛い事この上ない。

 それでも、森に近づくと地面から飛び出している岩がそれ程無いので、何時しか森の際を俺達は歩くようになった。


 半島の三分の一程度まで歩いた所で、昼食を取る。時間は12時をとっくに過ぎて1時を回っている。

 焚火を作ってポットを乗せる。昼はお茶と携帯食料で済ませるようだ。

 硬く焼しめたパンを貰ってフラウと2人で分ける。


 「そんなんで持つのか?この先は結構きついぞ。」

 「俺達は小食なんです。これで十分ですよ。」

 レイスさんにそう言ってお茶を飲みながら携帯食料をポリポリと齧る。


 「さっきから気になってたんだけど…。貴方達の腿に付けた飾りは何なの?」

 どうやら俺達のベレッタを気にしていたようだ。

 「これですか?…魔道具の一種だろうとトラ顔の将軍が言ってました。俺達が剣も未熟で魔法も使えないのに、クルキュルを倒せたのはこいつのおかげです。」


 「魔道具は今では魔法の袋位しか出回っていないんだけど、良く手に入れられたわね。」

 「それについては良く分からないんです。気が付いたらダリル山脈の山の中。その前の状況はまるで思い出せません。」


 「それって、転移魔法じゃないのか?…どんな敵とやりあったか分らんが、折角助かった命だ。大事にすることだ。」

 レイスさんの言葉にバリアスさんも頷いている。

 

 昼食後も同じように半島の先端部にある小さな山を目指して歩いて行く。ここまで来ると。その山に木が疎らに生えているだけなのが分ってきた。

 そして、夕方近くになってようやく山の近くに辿りついた。


 岩が露出していない平らな場所を探して、野宿の準備をする。

 俺とフラウで小石を退ける作業を始めると、レイスさんとバリアスさんが森に入っていった。間も無く大量の薪を持って現れると、もう一度森に入っていく。


 「薪は幾らあっても良いのよ。色々と利用価値があるから。」

 メリーさんが俺達にそう言って説明してくれた。

 焚火を作ると、薪の中から太い枝を選んで簡単な三脚を作る。それに鍋を吊るすと水と乾燥野菜に干し肉を刻んで煮込む。

 適当に塩で味付けすれば、スープの出来上がりだ。


 星空の下で焚火を囲みながらスープに浸した硬いパンを齧る。パンを千切ってスープの底に沈めておけば柔らかくなると、レイスさんが教えてくれた。

 食後の後片付けを済ませると、最初の焚火の番を仰せつかった。


 フラウと2人で焚火に向かうとパイプを取り出す。

 俺達を遠巻きにして様子を覗っている獣を、フラウは観察しているようだった。


 

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