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M-028 漁師町に戻ってみると



 「この投槍を投げて狩る。ダメなら、ベレッタで攻撃だ。」

 俺の指示にフラウが頷いた。

 ゆっくりと投槍を構える。グラムンとの距離は50mも無い。


 俺が力一杯投擲すると、奴の足に突き刺さる。フラウが投げた槍は背中に刺さった。

 だが、グラムンは体を震わせると槍を振り解いた。


 ベレッタを低のレンジで発射する。狙いは奴の額だ。

 2発の銃撃を受けると流石のグラムンでも頭骸骨が砕けたようだ。その場に崩れるように倒れた。

 

 近寄って転がっていた槍でグラムンの横腹を突き刺す…。ピクリとも動かない。

 「フラウ。近くに穴を掘ってくれないか。臓物と血抜きを行なう。俺は三脚になる木を切ってくる。」


 川辺に三脚を立てグラムンを吊るしておく。

 こうすれば明日には血抜きが終るだろう。


 川の流れにある大岩を飛び越えながら焚火に戻ると、4人が心配そうに武器を抱えていた。

 「終ったのか?」

 俺達の顔を見ると心配そうに聞いてきた。

 「あぁ、確かグラムンとか言う奴だ。血抜きを川の向こう側でやってる。トリムの依頼のレグフォスはどうやらグラムンの獲物らしい。ゲルマックも危険だがグラムンはもっと危険だ。」


 「だから、報酬が良かったんだな。…所で、その槍は変わってるな?」

 「長剣の身を棒に着けたんだ。新しく長剣を作ったから前の長剣は使わないけど持っていたんだ。使うか?」


 「良いのか?…確か銀貨5枚だったよな。」

 「あぁ、構わない。マイクも使うか?…フラウの剣がある。」

 「有り難く頂くよ。」

 「だが、柄をばらしたから元に戻すのは自分でやるか、頼むかしろよ。」

 そう言って、急場凌ぎの投槍を2人に手渡す。

 

 そんな話をしてる俺達にマリーネがお茶を入れてくれた。

 パイプをふかしながらお茶を飲むのも何となく気分が落着く。


 「ユングの新しい長剣を見せてくれないか?…あつらえたんだろ。」

 マイクの依頼に俺は背中の長剣を抜いて手渡した。その重さに危うく落としそうになって慌てて両手で持ち直している。

 

 「何だ、この重さは?…それに、この長剣の刃は片方にしか無いぞ?」

 「さっき渡した長剣の2倍の重さがある。片刃だけど、俺達には丁度良い。」

 

 「何か長剣と言うより、鉈のような感じだな。」

 「その通り。…俺達が長剣を背負ってるのは見せ掛けだ。何となくハンターに見えるだろ。俺達は薪を取るのに多く使うからそんな形にしたんだ。でも、先端付近はフラウが良く研いでくれるから振り下ろせば重さで敵に深い傷を作れるぞ。」

 

 マイクが立ち上がると剣を両手で構える。

 「ダメだ。この剣は重過ぎる。」

 俺の傍にやってくると俺に返してくれた。

 俺は立ち上がると、片手で剣を構え、クルリと手首で廻してみる。そして背中の鞘にカチャリと収めた。


 「片手であの重さを扱うのか…。凄い力だな。」

 吃驚したようにマイクが言った。

 「まぁ…な、昔から力はあったんだ。」


 「マスター。グラムンの換金部位は毛皮だけです。あのまま運ぶのも面倒ですから、毛皮を剥いできます。」

 フラウがカップを置くと向こう岸まで瀬に飛び出した石を伝って行った。


 「1人で大丈夫なの?」

 ジャネットは向こう岸の暗がりを見ている。

 「あぁ、大丈夫だ。フラウもそれなりの実力を持ってるし、この周囲3M(450m)にいるのはレグフォスだけだ。明日には結構罠に掛かってるんじゃないかな。」


 「そんな事まで分るのか?」

 マイクがパイプを吸いながら俺に聞いてきた。

 「結構分るんだ。気配と奴等が立てる微かな音、それに風が運んでくる匂いなんかでな。そんなのを纏めて勘で済ませるみたいだけどね。」


 「気配だけじゃな。俺も2m位に接近されれば気配が何となく分るけど、3Mの範囲を探るとなれば、5感を全て動員しなくちゃならない訳か…。」

 適当に言い訳した心算だが、マイクはどうやら納得してくれた。

 意外とネコ族の人達の勘の良さは、そんなものなのかも知れない。となれば、まだ見た事は無いが犬族も同じように勘が鋭い事になる。


 そんな事を考えながらパイプにタバコを詰めて、焚火の薪で火を点けた。

 まだ夜明けには早い。マリーネ達は横になり、トリムとマイクと俺の3人で焚火を囲む。

 

 「マスター。終了しました。」

 そう言って、フラウが大きな毛皮を丸めて持ってきた。

 血抜きが終っているところで剥いだから、毛皮に血は付いていないようだ。

 「とりあえず、袋に入れておけば良いだろう。ちょっとした余禄だったな。」

 「ちょっとどころじゃないぞ。あれだけで銀貨2枚にはなるはずだ。」

 そんな事をマイクは教えてくれた。


 「後は頼めるか?」

 「あぁ、ゆっくり休んでくれ。」

 トリムの言葉に俺達は横になる。

 そして、ゆっくりとゲームを楽しみ始めた。

               ・

               ◇

               ・


 ゆさゆさと体を揺り動かされて、ゲーム世界から現実世界に意識を移行させる。

 ゆっくりと目を開けると、フラウが俺を揺すっていたようだ。

 「お早う。」

 そう言って、川原に行き流れで顔を洗う。

 必要ないのかも知れないが、こんな行動を取るのも擬態をしている以上必要な事だと思う。


 「朝食は出来てるぞ。」

 そう言って俺の取り出した椀にスープを入れてくれた。フラウも同じようにスープを貰うと黒パンを焼いて半分を俺にくれた。


 「そんなんで、持つんだから確かに小食なんだな。」

 そんな事を言いながらマイクが2杯目のスープを掻き込んでいる。


 今日は残りのローストを狩らねばならない。午前中に済ませれば夕暮れには町に戻れるだろう。

 「どれ、俺達はロースト狩りだ。トリム達は罠の確認だな。」

 「あぁ、取れてれば良いんだけどな。」

 「大丈夫だ。結構昨夜は獣が川向こうでうろついてたからな。」

 

 俺達は早速にフラウと2人でローストを探す。

 俺が川岸の石を退かすと、すかさず逃げようとするローストをフラウが鷲掴みにして捕まえる。

 そんな事を繰り返すと、川向こうから籠を担いだ2人が帰ってくるのが見える。


 「フラウ。結局どれ位捕まえたんだ?」

 「現在。73匹です。50匹を遥かに上回っています。」


 どうやら取りすぎたらしい。

 生態系を乱さないためにも出来るだけ獲物は少ない方が良いんだが、折角捕まえたものだ。今回はこの数を持ち帰ろう。


 焚火に戻ると、トリム達が残念そうな顔をしている。

 「どうしたんだ?」

 「どうやらグラムンに数匹やられたみたいだ。罠に掛かったレグフォスが食い千切られていた。そんな事で獲物は8匹さ。」


 一晩で依頼を完了させる事が出来なかったようだ。

 「昨夜、俺達が仕留めたレグフォスを持っていけ。そうすれば依頼の数は間に合うはずだ。」

 フラウに顔を向けて軽く頷いてレグフォスを渡すように告げると、

 岩場の影から3匹のレグフォスを持って来た。


 「それで、足りるだろう。」

 「昨夜って、これを焚火の晩をしながら狩ったのか?」

 

 「あぁ、フラウが杖を投げて仕留めた。ラッピナと同じだな。」

 「貰って良いのか?」

 「良いとも。川岸でうろつく獣が何か気になって仕留めたものだ。元々トリム達にやろうと思っていたものだから、気にするな。」


 トリム達の依頼と俺達の依頼の狩りが終わった事で、早速荷物を纏めて町に帰ることにした。

 この森は、トリム達には危険すぎる。どう考えても深入りする場所じゃないと俺は思う。

 

 「だが、ユング達がいてくれて助かったよ。俺とマイクではグラムンは少し荷が重過ぎる。」

 「この森は厄介だぞ。俺も千年樹では肝を冷やした。1つ岩までに狩りの場所を決めた方がトリム達には良いと思う。」


 「確かにあの岩までならそれ程危険な獣の話は聞いた事が無いな。…俺達も次はそこまでにするよ。グラムンが動き回るような場所で野宿は危険過ぎる。」

 マイクもかなり危険な状況だった事を理解したようだ。


 俺達は1つ岩の所で遅い昼食を取ると、町まで歩みを速めた。

 それでも、町の入口に来る事には日が暮れかかっていた。

 早速、ギルドに出かけて依頼の品を引き渡す。


 「これはグラムンですよね。どこで狩りました?」

 「ドロンゴ川の向こう岸だ。1匹だけだったな。」

 「しばらくドロンゴ川には出なかったんですが…。これは注意する必要がありますね。」

 そんな事を言いながらも、俺達に報酬を渡してくれた。

 ローストが依頼を超えた分も買取ってくれて230Lになったし、グラムンの毛皮はそれだけで240Lで引き取ってもらえた。合計470L。銀貨5枚に近い報酬だ。


 報酬を受取ってギルドを出たところで後ろから声を掛けられた。

 「たんまり稼いだようだな。こっちに少し融通してくれるとありがていんだが…。」


 どうやら、町のゴロツキのようだな。

 気にせずに歩き出すと、再び声を掛けてきた。

 「待てよ…。そう先を急ぐ事もあるまい。」

 そう言いながら下品な笑いを俺達のしてくる。


 「俺達の仲間が酒場にいるんだ。出すものを出して、ちょっと来てくれねえかな。」

 意外としつこい奴だな。

 そう思って振り返ると、数人の男達が俺達を取り囲もうとしていた。


 「それだけのガタイなら自分で稼げば良いだろうに…。」

 「生憎と、働くのは好きになれないんでね。あまり駄々を捏ねるとこっちにも我慢ってものがあるんだがなぁ…。」 

 脇の男に顔を向けると、男がするすると俺達に寄ってきていきなり肩を掴んだ。


 「なるほど、我慢ね。だが、その言葉は俺達にもあるような気がするぞ。」

 肩を掴んだ手を逆に掴むと、力を込める。

 男の顔が驚愕に目を見張るが、かまわずに力を更に入れるとグチャと言う音がする。手を離すと、男が地面に倒れ口から泡を吹いている。片手の骨を殆ど砕いたんだから相当痛いんだろうな。

 

 「てめえ、何をした?」 

 「俺に触れた手を解いただけだが?赤子のように軟い奴だったな。」

 

 俺の言葉を聞いて激高したようだ顔を赤くして、やっちまえ!という同じみの言葉を言う。

 「フラウ。杖だけで対処しろよ。殺さなければいい。」

 

 長剣を抜いて襲ってきた奴は両手を砕いてついでに片足を砕く。

 短剣で2人同時の奴には片手と両足を砕く。

 そして、最後に残った男は酒場に向かって駆け出した。


 酒場に逃げ込んだと思ったら、ぞろぞろと酒場から男達が出てくる。

 そんな男達の中に1人だけ場違いな程に着飾った男がいる。


 「あいつです。サンドックの名を出しましたが、まるでこっちの言う事を聞きません。」

 なるほど。悪の元締めらしいな。


 「僕はアトレイムのサンドック伯爵の息子だ。見れば、町には珍しい程の美形ではないか。我が家に来れば何不自由なく暮らせるぞ。」

 「今現在に不自由は無い。ではまたな。」

 そう言って立ち去ろうとすると、男達が俺達を取り囲む。


 「それなりのハンターらしいが、この男達全員を倒すのは無理というものだ。大人しく宿に来るが良い。」

 「実力で来ますか…。なら、こちらも貴様等を狩る事にします。」


 俺の言葉が終らぬ内に、数個の火炎弾が俺たち目掛けて飛んできた。

 杖で火炎弾を防ぐと、杖で爆裂して砕け散る。お蔭で杖が焦げてしまった。結構気に入っていたんだけどな。

 どうやら、貴族の後ろに隠れた魔道師がいるらしい。


 「何を笑っているのだ?もうお前達には逃げ道は無いのだぞ。」

 「この喧嘩。値引き無しで買えるんで嬉しいんですよ。魔法で攻撃した以上、覚悟はしてください。全員殺しますから…。」

 

 そう言って背中の長剣を引抜いた。

 「誰からですか?…それとも一度に来ますか?」

 

 俺は魔道師に向かって歩き出す。

 どうやら魔道師は4人のようだ。急いで詠唱をすると俺に向かって火炎弾を放った。

 切り払いもせずにそのまま受けたから革の服が焦げてしまったぞ。


 更に近づくと逃げ出そうとした。

 その時、魔道師の体が上下に破裂するように分かれた。次々と魔道師が2分割される。臓物が飛び散り辺りは凄惨だな…。


 「さて、魔道師はいなくなりましたよ。次は誰ですか?」

 「俺だ!」

 そう言って長剣を大上段に振りかざして男が迫ってくる。

 一気に走りこみ長剣で腹を薙いだ。

 流石、フラウが毎日砥いでくれているだけの事はある。豆腐を斬るように男の腹を半分ほど斬り込んだ。フラフラとした足取りで俺の傍を過ぎ去るとバタリと倒れ込む。これからじっくりと死に行く恐怖を味わう事になるだろう。

 

 流石に怖気付いたようで手出しをして来ない。

 これまでか…。と思いながらフラウのところに歩いて行くと、殺れ!という甲高い声が聞えて来た。

 振り向くと一斉に長剣を抜いて押し寄せてくる。

 確かに、相手が強ければこの方が良い。数人は倒されようがその隙に相手を斬る事も出来るだろう。

 だが、それは人を相手にした場合だ。

 俺達は動きを10倍に上昇させる事が出来る。

 男達の長剣の囲みを剣を弾き飛ばしながら1人ずつ確実に仕留めていく。そして弾き飛ばした長剣は後ろで見ている貴族に襲い掛かった。

 

 腕に2本、片足に3本の長剣が深く突き刺さる。

 更に、顔や体すれすれに何本かの長剣が飛んで行った。


 綺麗な服を血で汚しながら、凄い目で俺を睨んでいるけど気にしない。そして俺達を襲った男達は全て通りに蹲っている。


 「覚えてろよ。ここはアトレイム。そして俺はアトレイム貴族の息子だぞ。」

 「覚える必要も無いですね。」

 

 そう言って俺はその場を後にした。

 最初は、ゴロツキ。次は貴族の息子か…さて、今度は、親と私設軍隊か、それともアトレイム正規軍か…。こちらに非が無い以上、恐れる事は無い。トラ顔の将軍なら面白いんだが、彼はエントラムズだったな。

 

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