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M-027 懐かしい人達



 2人で食べるよりも、大勢で食べた方が美味しいのは何時も感じる事だ。

 俺達は小食だけど、食べる事は出来る。食べ物の微量な金属元素を取り入れ後は、動力炉でプラズマ化して排出する。呼気と一緒に出るらしいのだが、触媒による化学合成で芳香類の分子に変換しているとフラウが話してくれた事がある。

 誰だって、廃棄物処理場の臭い匂いの隣で食事はしたく無いだろうから、こんな自動処理があることは俺には嬉しかった。


 「ところで、トリム達は何を狩るんだ?」

 「レグフォスと言う獣だ。罠を使うんだが、狩る前に餌を獲らなくちゃならないのさ。」

 俺の質問に、そう言って答えてくれた。

 急いで記憶槽の補足版でレグフォスと言う獣を調べる。


 レグフォス…どう見ても狐だな。大きさは中型犬よりも少し小柄のようだ。

 ピンと張った耳は大きく、ウサギと間違えそうだぞ。

 でも、尖がった鼻先と太い尻尾は、狐に瓜二つに見える。


 「この先のドロンゴ川でよく見かけるらしい。奴等はローストやリメルーという魚を良く食べるんだ。

 俺達はローストを餌に罠を仕掛けて6匹獲れば依頼終了さ。それで180Lになる。余分に取れれば1匹25Lで買取る。って事だから俺達みたいな赤の5つ程度には丁度いいのさ。」


 「俺達は、その餌になるロースト50匹の狩りだ。出来ればもう少し獲って欲しいと宿のおばあさんに頼まれてる。」

 「何れにせよ、ドロンゴ川に行く事になるのか。…なら、野宿は一緒にしようぜ。

 この辺りには変った奴がいるから注意するよう他のハンターにも注意された。ユングと一緒なら俺達は心強い。」


 「俺達も同じ思いだ。そっちの依頼が終るまでは一緒にいて欲しい。」

 マイクと名乗った少年が言った。俺と同じぐらいの年代だ。やはり心細かったのかな。

 「あぁ、良いぞ。こっちもありがたい。…それじゃぁ、早速ドロンゴ川に行ってみようか。」


 1時間も歩くとドロンゴ川の川原に出る事が出来た。

 ドロンゴ川は大きな瀬になっている。水量はそれなりに豊富なのだが岩盤を流れている為に深さが無いのだ。30cm程の深さでしかない。しかし横幅はある。100m近くありそうだ。川原を含めると300m程の大きさになる。対岸は同じように荒地が続いている。そして所々に潅木の茂みが見える。


 フラウが岸近くの石をどけると、その下にジッと蹲るローストがいた。早速、1匹を手に入れた。こんなんで良いのかと思うほど楽な狩だぞ。


 「簡単そうだな。俺達も始めるぞ。」

 フラウを見ていたトリムとマイクが早速ローストを獲り始める。マリーネ達は岸辺で罠を取出し始めた。


 ローストを獲っていると、石を退かした時に素早く動く影を見つけた。どうやら魚のようだ。

 腕に着けた革ケースから鉄針を取り出す。手裏剣代わりに使おうとクナイと一緒に作ってもらった奴だ。

 丁度お箸程の鉄針をケースから抜くと、足で石を蹴飛ばすと同時に黒い影に鉄針を投付ける。

 バシャバシャと水面を魚が叩いたが直ぐに大人しくなった。鉄針はしっかりと魚の背に刺さっている。

 夕食に使えそうな魚を10匹程獲ると、またローストを探して川原を上下する。


 日が落ちそうなのを見て慌てて川原に戻って焚火に火を点ける。

 皆が集まって来たところで、俺の獲った魚を見せる。


 「これは、リメルーじゃないか。良く獲れたな。…何匹獲れたんだ?」

 「10匹程獲ってみた。皆で食えるかなと思って獲ってきたんだ。」

 「あぁ、食えるぞ。ところで、残ったリメルーを俺達にくれないか。ローストとリメルーではリメルーの方が格段に獲物が取れると門番のおじさんも言っていた。試してみたい。」

 

 「あぁ、良いとも。その代わり、俺達の分まで焼いてくれよ。」

 俺はそう言ってトリムに魚を渡した。


 早速、トリムが川原に行って魚を捌いて串に刺している。どうやら夕食の料理が1品増えるみたいだな。

 焚火に座ると、マリーネ達が鍋に適当な具材を入れてスープを作っていた。硬い黒パンは焼いてスープに入れて食べるのがハンターの流儀のようだ。

 太い木で三脚を作り、そこに鍋を掛ける。火の傍にポットを置けば、夕食が済む頃にはお茶が飲める。

 そこに、トリムが戻ってきて、串の周りに魚の串を刺した。


 「夕食前に一仕事だ。向こう岸に罠を仕掛けて来るよ。」

 そう言って、マイクと2人で川を渡っていく。


 「フラウ。近くに生体反応はあるのか?」

 「夕方から川辺に近づいてきてます。ラッピナより大型ですがガトル程はありません。私達の近くには寄って来ませんが、半径1km以内に数十匹は動いています。」


 たぶん、それがトリム達の獲物なんだろうな。

 用心深い奴らしい。川向うに罠を仕掛けるのは正解のようだ。


 のんびりとパイプを楽しんでいると、彼等が戻って来た。

 「ユングさんはパイプをやるんですか?」

 俺の姿を見たマイクが驚いたように聞いてきた。


 「あぁ、意外と暇潰しが出来る。でも、勧めないよ。これは体に毒なんだ。…それと、俺達は歳が同じ位だろ。ユングとフラウで良いよ。敬称は無しだ。」

 「じゃぁ、俺達の事も、マイクとジャネットで…。でも、もう遅いね。俺もこれは持っている。」

 そう言って、マイクは腰からパイプを取り出した。

 

 フラウはマリーネ達と御菓子を摘んでいる。これから夕食なんだけど、女の子達にはお菓子は別腹ってのは、この世界にもあるようだ。俺には理解できないけど、何時かそんな風になってしまうんだろうか。

 そんな事を考えてたら背筋が寒くなってきたぞ。

 

 「ユングはネコ族より勘が働くんだ。俺達は随分それで助かったよ。」

 「エントラムズに続くあの山並みとこの森の奥は結構、獣が多いんだ。」

 逸れは助かるとトリムにマイクが頷いている。

 

 「川原で注意するのはゲルマックと言う獣だ。水中で暮らす獣なんだがその牙はガトル並みだし、爪には毒がある。1、2匹ならこれで十分だが、数匹になるとジャネットの魔法が頼りだな。」

 

 そう言って背中の長剣を見せる。

 「2人だとちょっと心細いという事で俺達が同行したのさ。武器も似てるしな。」

 トリムがそう補足してくれた。

 ガトル並みに厄介な奴なのかもしれない。


 そんな話をしていると、どうやらスープが出来たらしい。俺達も木製の椀を取り出してスープをマリーネに入れてもらう。

 それに、1人1本のリメルーという焼き魚が付く。俺はフラウと黒パンを半分にしてスープに浸して食べ始めた。


 「小食だな。まだまだスープは沢山あるぞ。」

 俺とフラウが早々と食事を終えてお茶を飲みだすと、マイクが俺達に言った。

 「こんなものさ。これでもトリム達に出会ってから沢山食べるようになったんだぞ。」

 「前は、このリメルーを2人で1本も食べなかったからな。」

 そう言ってトリムが笑った。

 味はそれ程でも無いが久しぶりの焼き魚だ。それなりに味わったぞ。

 

 「話は変るが、ユング達の武器はその短剣じゃないよな?」

 全員が食事を終え、まったりとお茶を飲んで過ごしている時に、マイクが俺に話しかけてきた。

 「これか?…これはただのナイフだよ。長剣は袋にしまってある。滅多に使わないからね。普段はこれだ。」

 そう言って太い杖を指差した。

 「そんなんで、ハンターが出来るのか?」

 「俺には、剣より使いやすい。イネガルやガトル位ならこれで十分だ。」


 「サレスト村では評判だったんだぞ。毛皮に傷が無いってな。」

 「確かに撲殺なら傷は無いだろうが、そんな杖で殴っただけでイネガルを倒せるのか?」

 「たぶん、マイクでは無理だろう。俺達の馬鹿力があっての事だと思う。」

 そう言って誤魔化す事にする。

 ベレッタの事は話さない心算だ。トリムもそれを知ってか話題にもしない。


 「さて、俺達が最初の焚火の番をする。あの星が真上に来たらトリム達を起こすから交替だ。」

 「星は動くのか?」

 「あぁ、あの東の明るい星は明け方には西になるはずだ。夜の時間の経過はそうやって知るんだ。」

 

 俺の言葉にトリムは驚いているようだが、この世界にはそんな科学的な知識は無いのだろうか。

 それでも、半信半疑でトリム達は焚火の傍で横になった。

 

 俺とフラウはのんびりと焚火の番をする。

 俺がパイプを取り出すとフラウはポットから自分のシェラカップにお茶を入れて香りを楽しんでいるようだ。

 

 そんな時が2時間も続くとフラウが突然立ち上がった。

 杖を持って暗闇に姿を消す。

 俺はヘッドディスプレイでフラウの行動を追ってみる。

 

 やってるやってる…フラウはレグフォスを狩っているようだ。

 程なく戻ったフラウの手には3匹の狐がぶら下がってた。


 「ラッピナと同じように狩る事が出来ますね。動きはラッピナの方が素早い位です。」

 「俺達は必要ないから、明日トリム達に渡そう。でも、こんなにこいつ等がいるという事はこいつ等を狩る獣もいるという事だよな。」


 そう言って生体探知の画面を確認すると…いた。

 この反応だと結構な大きさだな。俺にも僅か光点の輝度の違いが判るようになってきたぞ。

 「何でしょうか?かなりの大型ですよ。少なくともイネガルより大型です。」

 フラウはベレッタを引き抜いている。


 そいつはゆっくりと俺達に近づいてきた。距離は約800m程。川の向こう側だ。

 「急いで2本この杖と同じ位の棒を切って来てくれ。」

 フラウにそう頼むと、俺は最初に購入した長剣を取り出して柄を取外した。


 やがて戻って来たフラウの持ってきた棒の先を割るとそこに長剣の身を挟み込み革紐でしっかりと結ぶ。

 これで、即席の槍の出来上がりだ。

 少し重いが、俺達なら十分に投槍として使うことが出来る。

 最後にレイデン村で購入した長剣を背負うと、俺達の戦闘準備が完了する。

 そして、獲物は俺達から200m程に近づいている。


 視野を暗視モードに変更する。

 生体反応の強い反応に目をやると、そこにいたのは熊のような姿をした獣だった。


 「熊か?」

 「いえ、グラムンと言う獣です。熊に似ていますけど…。」

 補足書にあるグラムンは確かに熊に似ている。大きさは約2mと俺達より少し大きい。そして体重は300kgを越えているように思える。

 熊だとしたらヒグマだな。グリズリーと一緒で強暴だと聞いた事がある。


 「殺るか?」

 俺の言葉にフラウが頷いた。

 俺は急いでトリムを起こす。

 もう、出番か…何て寝ぼけてるトリムに素早く状況を伝える。

 直ぐに真顔になり慌てて3人を起こし始めたのを見て、俺達は川を跳ぶように渡った。

  

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