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M-025 森の奥に潜むもの 1st

 宿に泊まった次の日、朝早くトントンと扉を叩く音がする。

 扉を開けると「お早うございます!」って元気にビオレちゃんが挨拶してくれた。


 「お早う。…早いね。この町は皆、朝が早いの?」

 「はい。漁師のおじさん達は夜明けと同時に船を出しますから、皆早起きですよ。」

 

 そう言って、俺達を井戸に案内してくれた。

 外にある雨どいのような水路から水が流れている。水道みたいで面白いな。

 顔を洗ってリビングに入ると朝食が出来ていた。

 薄く焼いたパンに魚のスープ。野菜はたぶん自家製かもしれない。

 俺達が余り食べないのを気にしているようだが、俺達は小食なんですと言って誤魔化した。

 そして、早速出ようとしたら、おばあさんに呼び止められた。


 「もし、日暮前に帰れないような依頼や、野宿をするような依頼を受けた時は、面倒でも知らせてくれ。鍵を掛けずに待っているからね。」

 そう言って送り出してくれた。


 「分りました。行ってきます。」

 そう言って宿を出てギルドに向う。ビオレちゃんが戸口で手を振って見送ってくれた。

 だけど、ギルドは直ぐ近くなんだよな。

 大通りに出て左がギルドだ。5分も歩かないような気がするぞ。


 「お早うございます!」と言いながらギルドの扉を開く。

 朝が早いから、数人のハンターがテーブルにいる。一斉に俺達を見ているが気にしない。

 依頼掲示板に歩いて行くと、依頼書を眺める。意外にこれが面白い。まともな依頼もあれば、エントラムズのギルドには恋人募集の依頼書もあったぞ。それにチェスの対戦相手ってのもあったけど、この世界にもチェスはあるんだな。と感心した記憶が読みがえってきた。

 大雑把に依頼書を眺めて直ぐに俺は理解した。フラウと顔を合わせて首を振る。

 そして、カウンターのエリーさんの所に行った。


 「お早うございます。お蔭で良い宿で過ごせそうです。…ところで、この辺の図鑑はありますか?王都で手に入れた図鑑には無い狩りの獲物が依頼書に書かれているんですけど。」


 エリーさんは、ジッと聞いていたが、ポンと手を打って納得している。

 「貴方達は、この村は初めてよね。確かにちょっと変った生物が多いのよ。図鑑の補足版があるけど、…買いますか?」


 補足版は20枚程度のパンフレットのような代物だ。これで50Lは高いんだろうな。何て考えながらも、テーブルで読み始める。

 先ずは、フラウがぱっぱと頁を捲って俺に渡す。俺も同じようにまるでスキャナーのように各ページを電脳の記憶槽に取り込んだ。そして、補足版を大事にバッグに仕舞い込む。

 値段が高いだけあって、巻末の地図は図鑑より詳しい。最もこの周辺地帯限定だが、ある程度方向が判るようになっており主要な目印には相互の方向が記載されていた。

 磁石を持っていれば結構役に立つだろう。

 

 そして、テーブルから掲示板へと移動する。

 依頼書は左下が赤1つを対象にしており、最上クラスを対象にしたものは右上になる。真中右側が狙い目だな。


 「これはどうでしょうか?」

 フラウが指差した依頼書は、…トリフェムの実5個200L。6個目からは1個30Lで購入可。納品はギルド。期間は依頼受領より3日以内。


 早速、ヘッドディスプレイにトリフェムの頁を開く。

 切り株に3本の腕をつけて、根っ子4本で歩く奴がトリフェムらしい。

 森の奥に住み、切り株の天辺にある口で食べる物は、小型の獣だ。…食肉植物だな。

 切り株の周りに数個の実を一年中着けていると書かれている。2匹は倒さなければならないようだ。大きさが人間のシルエットと比較出来る。直径1mで高さが1.5m位の生物だ。

 この実をどうするかは書かれていないが、大方薬草として使うのだろう。


 「良いんじゃないかな。黒5つだから俺達に丁度良い。」

 カウンターのエリーさんの所に依頼書を持っていくとドン!と大きな確認印を押して貰えた。

 「良かった。その依頼を受けるハンターがずっといなかったの。後2日で王都送りになる所だったわ。結構森の深い所にいると聞いているわ。頑張ってね。」


 貴重な情報を貰って、ギルドを出ようとした所で俺達に声を掛ける者がいた。

 「ちょっと良いか。その依頼は確かに金になる。だが、魔道師2人では無理だと思うが…。何なら俺達が付き合っても良いぞ。」


 下心が丸見えな誘いだな。

 俺達が若い娘2人に見えたのだろう。


 「大丈夫だ。こう見えても俺達は魔道師ではない。イネガルでさえ、これで倒してる。」

 そう言って、少し太目の杖を見せる。

 「あぁ、そうだろうよ。良いからこっちに来な!」

 そう言っていきなり俺の手を掴んだ。

 なるほど、手加減は無用だな。

 俺は掴まれた手を握り返した。俺の身体能力は通常で2倍。瞬間的に3倍にして強く握り返す。…グチャっとちょっとした手応えが伝わる。

 

 「イテテ!!」

 俺が手を離すと男はホールの床を転げ回る。

 バタンと椅子を倒して男の仲間が俺達に詰め寄ってきた。

 

 「何をした!」

 「俺達に手を出した。それが報いと知れ!」

 そう言ってギルドを出ようとすると、1人が俺の前に立ち塞がった。

 「それはこっちの言葉だ。」

 そう言うといきなり長剣を抜いて俺に切りかかる。スイっと足捌きでかわすと杖で腕を打った。バキっと良い音がする。

 床を転げまわる男がもう1人増えたようだ。


 「まて、俺達を誰だか判っているのか?…アトレイムのサンドク家の者だぞ。」

 「知るか。襲った相手が悪かったな。…どうする。やるのか?」


 俺の言葉に残った若い男が首を振った。

 そしてギルドの扉を開こうとした時。


 「死ね!」

 いきなり俺の後から短刀で俺を突き刺した。

 鈍い振動で刺された事が分ったけど、痛みは無い。振り向きながら手刀でナイフを持つ手を。ボトリと短刀を握った腕が床に落ちた。

 今度は床に血潮を撒きながら転げまわっている。


 カウンターで成り行きを見ていたエリーさんの所に歩いて行く。

 「手を出したのは向こうだけど、この場合どういう裁きになるんだ?」

 「ハンター同士の争いは国は関与しません。そして、ギルド内で刃物を抜くと言うのはかなり問題です。あの2人に情状酌量の余地はありませんからハンター資格は取り消しになります。」

 「俺に咎めは?」

 「ありません。ただ…貴族がバックだと仕返しがありそうです。」

 

 俺は、心配そうに俺を見ているエリーさんに微笑んだ。

 「大丈夫ですよ。でも、貴族に手を出した場合はどうなるんですか?」

 「その場合も、お咎め無しよ。ハンターに非があれば真実審判で国王の前で申し開きをしなければハンター討伐をする事は出来ないの。

 ハンターとはそれだけの身分があるの。万が一、ハンターに非があったとしても、そのハンターが銀レベルなら、国王は貴族を切り捨てるわ。」

 

 良い事を聞いたな。俺の方から喧嘩を売る事はしないが、売られた喧嘩なら値引き無しで俺は買うぞ。

 

 「仕返しは気をつけましょう。では明日、戻ってきます。」

 そう言って今度こそ、ギルドを出た。

 

 早速、宿に帰って今夜は帰れないとおばあさんに伝える。

 そして、大通りに戻って、森のある東へと歩いて行った。

 町の東の出口を守る門番さんに挨拶すると、気を付けて行けよ。と応えてくれた。


 遠くに森が見える。どうやら更に奥に見える山並みの裾野に広がる森のようだ。

 確かに深そうな森だな。


 少し早歩きで森を目指す。生体探知機能に早速反応が現れる。

 「色んなのがいるみたいだな。」

 「ラッピナクラスは除去した方が良いですよ。危険な獣が分からなくなります。」

 早速、俺は生体探知機能にフィルターを掛けた。


 町から森へは小さな道が続いている。それは森の中にも続いていた。

 森を生活の糧にする者はハンターだけに限らない。薪や木材も切り出しているようだ。

 そんな者達が通るから森にこんな小道が出来るんだと思う。

 道なんて、市役所と土建屋さんが作るものだと思っていたけど、人間の生活で出来る道に何となく俺は感動を覚えた。昼頃まで、ひたすら歩くと大きな岩が見えてきた。


 「これが1つ岩と言う物でしょう。…ここから東が大型の獣が現れる区域のようです。」

 確かに補足書の巻末の地図にはそのような記載がある。

 

 「エリーさんの話では森の深い場所と言っていましたから、この辺りまで行く必要がありそうです。」

 俺がヘッドディスプレイで見ていた地図にフラウが介入して場所を点滅させた。

 

 「フラウ、ちょっと確認したいんだが、…俺とフラウは遠隔で互いの意思が通じあえるのか?」

 「ギガヘルツ帯の通信回線を使って相互交信が可能です。開放空間でおよそ数十km。閉鎖空間では100mが限度です。」

 

 携帯みたいだな。要するにアンテナが立つかどうかと言う訳だ。

 「会話を使わずに通信機能で交信しますか?」

 「いや、このままで良い。状況に応じて使おう。」

 

 フラウが指差した場所には千年樹と記載がある。大木って事かな?

 そして、そこへの方位は東南東だな。

 

 今日は出来るだけ森を進み、あわよくばトリフェムを見つけるところまでやるつもりだ。

 東北東をヘッドディスプレイで確認すると、森の中を歩き始めた。

 

 1つ岩までは小道があったが、そこから先は道が無い。下草を刈る者もいないから見通しが悪い。

 フラウに生体探知を任せておれはヘッドディスプレイをサーマルモードに切り替える。生体の放つ熱がカラーで表示されるから、俺にはこの方が判り易い。

 

 真直ぐに森を進むことも出来ない。大木が至る所で俺達の前に立ち塞がる。

 これが千年樹じゃないのかと思うような大木も幾つか見つけたが、何となくその名前からもっと立派な物じゃないかと俺は期待している。


 「あれではないでしょうか?」

 フラウが森の遥か先を指差した。

 そこは、周囲に立木が無く、小さな公園のように下草が生えている。そして、中心にあるのは太さ5mは越えているんじゃないかと思うほどの巨大な樹だ。

 確かに、周囲の立木が幼く見えるぞ。


 「そうだな。だとすれば、この辺りに生息するという事だけど…。」

 「2手に分かれて探しましょう。1時間後にこの木の下で。」

 

 俺達は左右に分かれてトリフェムを探す。植物だからサーマルモードを生体モードに変更する。だが、植物は生体ではあるが反応が小さいからな。

 そんな事を考えながら森を進んでいく。


 中々見つからないものだ。

 そんな時、フラウから連絡が入った。


 (…見つけました。直ぐ来てください。)

 頭の中に明瞭にフラウの声が聞える。

 生体探知のスクリーンにフラウのいる方向と距離が表示される。

 その方向に向かって早速俺は駆け出した。


 フラウの傍に立つと、フラウが手を伸ばして俺にトリフェムの方向を教えてくれた。

 なるほど、切り株オバケだな。

 切り株の上の方に小さな赤い実が付いているのが俺達の獲物だな。

 

 「どうしますか?…かなり動きが鈍そうです。あれなら私達の動きに追従できるとは思えません。」

 確かにのそりのそりと4本足で動く速度は亀並みだ。

 

 早速、手順を確かめ合う。

 フラウがトリフェムから実を採取する。5倍モードで一気に採取すると言っていた。

 その間、俺は周囲の偵察だ。そして、フラウの援護する事になる。


 そんな簡単な作戦を立てて、ミッションスタート…。

 あっという間にコンプリートなった。


 こんな、簡単な依頼で良いのかと思ってしまう。

 そんな事を考えながら千年樹に向かって歩いていた時だ。…ゾクリと体に悪寒が走る。

 フラウが、突然立止まった俺を怪訝そうに見ている。


 「マスター。どうしました?」

 「何か変だ。…フラウは何か感じないか?」


 「赤外、可視、サーマル、生体センサに異常はありません。」

 「動体探知可能か?」

  

 「可能ですが、探知範囲は200m程になります。」

 フラウがモニタを切り替えながら、俺の求めに応じてセンサを切り替えた。

 とたん俺を見る。と同時に俺の体が宙に浮いた。たちまち数百m程上空に俺とフラウの体が浮かび上がった。

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