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M-023 トラ顔の将軍

 


 夜の街道をひたすら西に走る。遠くにエントラムズの王都が見えてはいるんだが、人通りがあるたびに速度を落とすから、思ったように進めないのが残念だ。

 それでも、小走りに進むと王都の東の楼門に着く事が出来た。

 

 楼門をそのまま通ろうとすると番兵に呼び止められた。

 「止まれ。娘2人とは怪しい奴だな…。」

 2人の番兵が俺達の前に槍を交差させる。


 「ハンターを止めるのがこの国の流儀ですか?」 

 そう言って俺達は胸元からギルドカードを取り出す。

 「黒3つとは恐れ入った。…こんな時節だ。不審者は入れるでないと仰せつかっている。悪いな、行っていいぞ。」

 

 番兵はそう言うと俺達の前から槍を退かした。

 「悪いと思っておられるなら、カネル家の場所を教えて貰えませんか。依頼を届けるまでが仕事なので…。」


 「このまま真直ぐ行くと大きな十字路がある。そこから北が貴族街だ。そこを北に行き、最初のわき道を右に入る。そこも大きな通りだが、その通りを北に向かって2件目の大きな屋敷だ。門に丸の中に三角の紋章が刻んである。…早く行った方がいいぞ、貴族様は遅れるのが嫌いだからな。」


 俺達は、有難うと頭を下げて通りを西に進んだ。


 「この十字路が先程門番の言っていた十字路だと思います。」

 なるほどと感心したが、この十字路には見覚えがある。そこにはこの間俺達が天井を破壊したギルドがあった。

 通りを北に進むと左に曲がるわき道がある。

 大通りには上級貴族が住み、その後には中流貴族、そしてその裏には、と続くんだろうな。

 そんな事をわき道を進みながら考えた。

 突き当りを今度は北に進むと目的の門が見えてきた。確かに門には丸の中に三角を刻んであるな。

 門を開けようとしたら、しっかり戸締りがしてあった。周囲に誰もいないことを確認すると、フワリと門を乗り越える。

 玄関に進むと、大きな扉をドンドンと叩いた。


 しばらく叩き続けると、扉に近づく生体の反応を確認した。

 更に扉を叩く。


 「こんな夜分に何用だ。門は戸締りをしている。どうやって入ったかは知らぬが早々に立ち去れ。」

 「国王より緊急に伝えるべき事があります。至急お取次ぎを…。」


 国王と言う言葉に、扉が開かれた。

 そこにいたのは1人の長身の老人だった。俺達2人を訝しげに見下ろしている。

 だが、執事には見えない。

 「何用だ…いや、国王の命であったな。中で聞こう。」

 そう言って俺達の先に立って屋敷の中に入っていく。小さな光球が老人の上に着いて行くので老人の周りは明るく照らされている。


 「ここで聞こう。」

 そう言って扉を開ける。そこは小さな客間のような場所だ。

 火の無い暖炉に小さな机そして机の周りにある4つの椅子。


 「掛けなさい。話はそれからだ。」

 俺達が掛けると、暖炉に火を点ける。直ぐに暖かくはならないだろうが、心遣いと言う奴だな。

 棚から金属製の酒器を持ち出すと、俺達の前に並べて酒を注ぐ、自分のカップにも酒を満たすと改めて俺達を見た。


 「夜分の王の命となればそれなりの覚悟が必要だ。先ずは飲みなさい。ワシは何処にも逃げんよ。一杯の酒を飲む時間はあるだろう。」


 俺とフラウは顔を見合わせる。

 「何か勘違いをしていませんか?…私達は国王の依頼でここに来ましたが、別に命を頂くものではありません。そして、その話をする前に…、貴方はカネル家のゴルディア様で間違いありませんね?」


 「いかにも、カネル家当主のゴルディアは私だ。」

 その言葉を聞くと、腰のバッグから手紙を取り出した。


 「国王から、貴方への依頼書です。書いたのは后ですが…。」

 老人は、その手紙が止めてある指輪を訝しげに見ていたが、やがてハッと気が付くと手紙を指輪から外して読み始めた。


 「まさか…、いや、この指輪には見覚えがある。それでは…、カナトール王家は滅びたのじゃな。」

 「最後までお読み下さい。」

 俺の言葉に手紙を読み始める。そして…。


 「王女はいずこに?」

 その言葉に俺は背負っていた荷物を下ろした。カーテンで包まれた少女が静かに眠っている。

 「カナトール王の長女は幼くして亡くなったと聞く。末の娘ではあるが国王の1人娘。そして、我が教え子のシルビア后の娘か…。」

 女の子を奥の長椅子に寝かしつけると、その娘が抱いている片手剣に気が付いたようだ。

 「この剣は代々国王が佩いていた名剣と聞く。…そうであったか。よくぞ、ワレを頼ってくれた。これからは1人の娘として育てようぞ。」

 

 そして、俺達の方に来る。

 「しばし、待っておれ。」

 そう言って、部屋を出て行く。

 待たされるのか、と思って暖炉の傍に腰を下ろしてのんびりとパイプを楽しみ始めた。

 一服が終ろうとする頃、部屋の扉が開いた。


 「パイプを嗜むか…。若い娘では止めるべきとは思うがの。」

 俺は再び元の椅子に座った。

 「礼をせねばなるまい。生憎と、銀貨銅貨を合わせて1,000Lにも満たない。これを収めて欲しい。」

 

 そう言って革袋を俺達の前に押し出す。

 たぶん屋敷中の有金を集めてきたのだろう。


 「ありがたく頂きます。」

 そう言って、フラウに革袋を渡す。俺は腰のバッグから国王に貰った革袋を取り出した。

 「これは、国王より報酬として頂いた物。しかし、これほどの金額は我等が持てば不審に思われます。2人で5枚ずつ頂きます。後は娘さんの持参金という事で…。」

 俺は素早く金貨を10枚袋から取り出すとフラウに預ける。

 残りのずっしりとした革袋を老人の前に押し出した。


 「これは、お前達の報酬ではないのか?」

 「娘1人の護衛料としては、金貨10枚でも破格でしょう。それでは失礼致します。」

 そう言って部屋を出る。

 もう1つの依頼もあるのだ。早いとこそっちも済ませよう。

 「せめて、名を告げてから出るが礼儀であろう。」

 後からの老人の声に、ユングとフラウと答えて俺達はカネル家を後にした。


 次はトラ顔の老人だったよな。

 かなり地位が高そうな気がするけど、大丈夫だろうか?

 2人でトコトコと通りを歩いて行くと、大きな宮殿がある。


 鉄柵が廻らされており、門も当然閉じている。深夜だもんな。

 門の所でずっと立っている俺達に気が付いた衛兵が早速俺達の所に駆けつけた。


 「こんな夜更けに何用だ。門は朝まで開かぬ。明日また来るが良い。」

 そんな事を俺達に言った衛兵に指輪を見せる。


 「この持ち主の依頼を終えて報告に伺ったのですが、明日ですか…また来ます。」

 「まて!…その指輪はケイモス将軍の指輪に違いない。今開けるからそこにいるのだぞ!」

 衛兵はそう言うとどこかに走って行った。

 直ぐに数人の男達がやって来る。

 「ケイモス将軍の指輪を所持していると聞いたが見せて貰えぬか?」

 少し話の分りそうな男がやって来た。

 早速指輪を渡す。

 男は手にとってしばらく転がしていたが、やがて頷くと俺達を見た。


 「間違いなく将軍の指輪だ。…門を開け。そして将軍に先触れを!」

 1人が王宮の中に駆けて行く。

 ガラガラ…と門が開き俺達は王宮の中庭に入ることが出来た。


 「ご案内いたします。付いて来てください。」

 俺達は指輪を受取った男に付いて王宮に入っていった。

 玄関を抜けると広い吹き抜けだ。その奥に通路が続いている。長い通路を歩いて行くと、1つの扉の前で男が止まった。


 トントンと扉を叩くと中から、入れ!と声が聞える。男が入るなり頭を下げると俺達を中に誘った。

 

 「お前達か…。大分速いが調査はしたのか?」

 俺が頷くのを見て表情が険しくなる。

 「何処に行き、何を見たかを話して貰おう。…茶を持て、喉が渇く話かもしれん。」

 そう言うと、机から身を起こして大きなテーブルに俺達を誘った。


 「先ず座るが良い。俺も座る。もう少しで茶も来るだろう。それを飲みながら話して貰おう。」

 そう言うと、俺達の前に座った。中々の武人のようだ。身のこなしに隙が無い。

 「失礼します。」

 そう言って先程の男が3人分のカップを持ってくる。

 そして、部屋の端に残ろうとした男に、去るように言い付ける。


 「さて、飲みながらで良い。ゆっくりと話を聞かせてくれ。」

 トラ顔の将軍の言葉に、俺は先ずお茶を飲んだ。


 「将軍でしたか…。それでは、カナトールで見たことをお話します。」

 

 俺は、村と町それに王都の状況を説明した。

 誰もいない村。獣を従えた4本腕の者達。そして王宮に押し寄せる暴徒の群れ。

 

 「1つお尋ねしたい。将軍は麻薬をご存知ですか?」

 「知っておる。この王国では禁制だぞ。持っておるだけで牢屋入りだ。」

 

 「王都の暴徒の群れですが、麻薬の匂いがはっきりと確認できました。」

 「今の話は、誰にも言うておらぬな?」

 「将軍が初めてです。」

 「なら良い。麻薬の一種に人の意識を操れる物があると聞いた事がある。となれば、カナトールの革命は誰ぞの計略とも考えられる。そして4本腕か…。それは獣使いと見て良かろう。

 しかし、その両者が結びつかぬ。麻薬は北、そして4本腕は南だ。

 だが、早急に何とかせねばならぬのは、国境におる難民だな。着の身着のままに抜け出しておるなら早々に保護せねばなるまい。

 ご苦労だった。十分な情報である。」


 トラ顔の将軍は机に近づくと、引き出しを開けて銀貨を一掴みすると、俺に両手を出せと言った。

 両手を広げるとそこに片手で掴んだ銀貨を乗せる。

 「情報は速いほど有用だ。10日程掛かると思っておったが、その分を上乗せしよう。」

 全部で20枚以上あるぞ。

 俺達は丁寧に礼を言うと、王宮を後にした。


 深夜の大通りを歩くのも物騒なので、ピョンっと建物の屋根に飛び上がると、屋根から屋根に飛び移って移動する。

 「マスター。次は何処に行きましょう?」

 「そうだな。ギルドカードも黒3つを貰ってるから、のんびりと村の暮らしをしてみるか。アトレイムに行けば、サレスト村の連中に会えるかも知れない。アトレイムに行ってみよう。」


 俺達は南に向かって屋根を飛んでいたが今度は西に向かって飛んで行く。

 最後に大きく跳んで王都の城壁を飛び越え、今度は街道をトコトコと歩き始めた。

 時間はあるし、懐も暖かい。のんびりと過ごす場所を探してみよう。

 

 

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― 新着の感想 ―
[気になる点] エントラムズ王国で国王の命で来たのだがって話ですが! カナトール王国の国王の命を他国に頼るのって 国王は国王でも違う言い方じゃないかな? 門で、カナトール国王の命って言わないと…
[気になる点]  「1つお尋ねしたい。将軍は麻薬をご存知ですか?」  「知っておる。この王国では禁制だぞ。持っておるだけで牢屋入りだ。」  「王都の暴徒の群れですが、麻薬の匂いがはっきりと確認できまし…
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