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M-022 国王の依頼

 


 王宮前広場を守備する最後の警備兵が民衆の中に飲み込まれた。

 そして暴徒化した民衆が低い王宮の鉄柵を次々と乗り越え、門の鉄の扉を引き倒す。

 玄関前に並んだ警備兵が2列になると前列の兵が何かを取り出した。

 

 あれは?

 「手榴弾ですね。」

 フラウが呟く。

 警備兵は紐を片手で引き抜くと民衆に向けてそれを投げた。

 ドォン!ドォン!っと連続した炸裂音が辺りに響く。

 炸裂した周囲の暴徒が倒れて呻いているが後から来る暴徒の波に飲まれた。

 警備兵の前列が再び手榴弾を投げて長剣を構えた。そして後列の兵が手榴弾を投げ始める。


 玄関の大扉に暴徒が続々と集まってくる。

 あれでは時間の問題だな。そしてあの夢中で投げ続けている手榴弾の爆発は、俺達の潜入に丁度いい。


 反重力制御を作動させて重力傾斜を王宮の3階のテラスに向ける。俺の体が浮かび上がり一気にテラスに飛んでいく。

 たぶん俺を見た人はそう思うんだろうけど、俺には落ちている感じなんだよな。

 俺達がテラスに着いても誰も気付かない。

 

 急いで周辺の探索を行なう。そして、う~むと唸ってしまった。

 俺の探索範囲には大勢の生体反応が映し出される。だが、ここは3階だ。建物の各階に警備兵が配置されているんだろうが、それが平面で一様に示されてるからゴチャゴチャだ。

 「生体探知のディスプレイを3Dに切り替えると分り易くなりますよ。」

 教えて貰って直ぐに出来るほど俺は起用じゃない。


 「ここはフラウに教えて貰う。建物内の大まかな警備兵達の配置はどうなっている?」

 「1階の大広間に100。2つの階段に30ずつ。2階には100人がおります。たぶん謁見の間だと思いますが2階の奥に更に50。3階には小部屋に3人。4階には誰もおりません。」


 3階に3人と言うのが引っ掛かるな。王族なのだろうが、この騒ぎの元凶が何か教えて貰う事が出来ないかな。


 「その3人のいる場所は分かるか?」

 俺の問にフラウが頷いた。

 「こちらです。」

 そう言うと、テラスの扉を足で蹴破った。


 誰もいない通路を2人で歩く。床には絨毯が敷かれている。3階以上派、王族のプライベートな区域なのだろうか。

 通路の途中に1階からの吹き抜けがあった。下から大声が聞えてくる。どうやら玄関の扉は破られたようだ。


 絨毯で足音が吸収されるから俺達は小走りに進む。

 そして、他の扉となんら変化のない扉を前にフラウが立止まった。

 「ここです。」

 俺はフラウに頷くと、扉をノックする。


 「誰じゃ。…いや、もはや誰でも良い。鍵は掛かっておらぬ。入るが良い。」

 フラウを見て軽き頷く。そして、扉の取っ手を掴むと内側に開いた。


 部屋の中は小さなテーブルと椅子がおいてあるだけだ。窓際に長椅子が置いてある。

 テーブルには4人椅子に座っているが、2人はテーブルに突っ伏していた。テーブルの上には酒器が置いてある。毒をあおったというのか…。


 「カナトール最後の日に見知らぬ客人が来るとは、最後まで分らぬものよ。」

 そう言って俺の顔を中年の男が見る。その隣には蒼白な顔をした婦人が座っていた。

 

 「エントラムズのギルドでトラ顔の将軍と呼ばれる人物に頼まれました。カナトールの様子を見てきて欲しいと…。」

 「それは、ケイモスじゃな。さぞかし気をもんでいるはずじゃ。」

 俺の言葉にその男はそう答えた。


 「見たままを報告するがいい。そして、カナトール王国は滅んだと…。国王のワシがいうのじゃ。間違いない。

 ノーランドを信用したのが間違いであった。その轍を踏まぬようにケイモスに伝えるがいい。」

 そう俺に言った国王の顔は俺を面白そうに見ている。

 

 「貴方達はその目的で、エントラムズよりこの王宮まで来たのですか?」

 王妃さまなんだろう。すがるような目で俺達を見た。

 「あぁ、エントラムズの王都から確かにここに来た。どうやって来たかは教えられない。そして、俺達なら何とか王都から脱出は出来ると考えている。」

 俺の答えに光明を見出したような顔をしたかと思うと、国王に顔を向けた。


 「貴方…。」

 「うむ。ワシも今それを考えていた。」

 国王は后を向いて頷くとそう言った。


 国王は、部屋の一角を占める大きな本棚に行くと小さな小箱を取り出した。その中から革の袋を取り出すと俺の前に置いた。


 「金貨で50枚ある。これでワシの依頼を1つお願いしたい。…后の隣にいるのはワシの長男と次男だ。先程毒杯をあおった。

 男子たるもの、国と運命を共にするのは本望だろう。しかし、末の娘はまだ11歳だ。王宮より離れる事無くワシらと共にいた。

 何とか助けたいが、この暴徒に取り囲まれた王宮から出ることは叶わん。最後は后が共に毒杯をあおると言っておったが、まだワシが許可を出しておらん。

 娘を連れて王都から脱出してくれ。

 娘には何もしてやらなんだが、せめて娘の将来だけは残してやりたいのじゃ。」


 俺はフラウの顔を見る。

 本当は涙を流すシーンなんだけど、やはりな…。

 経験を積まねばならないのかな。それとも感情が無いのかな…。

 しかし、俺だってオートマタだ。そして俺には感情がある。ならばフラウにだって感情が育つに違いない。時間が必要なんだろうな…。


 「依頼を受けましょう。」

 「そうか…有難う。シルビア、急いで身支度をしてあげなさい。そして、カーテンで包んであげなさい。これはワシからの送り物じゃ。」

 シルビアと呼ばれた后は国王に頷くと、国王が佩いていた片手剣を受取り窓際の長椅子に向った。

 なるほど、小さな女の子が長椅子に寝ている。

 后は身につけていた装身具を外すとハンカチに包み、女の子のポケットにそっと押込む。

 そして后が俺達に近づいてきた。

 「エントラムズの貴族。カネル家の当主ゴルディア様に娘を預けてください。今文を書きます。」

 そう言うと、部屋の角にある小さな机で手紙をしたため始めた。

 

 「大分賑やかになってきおった。…これも持っていくが良い。何かの役に立つじゃろう。」

 そう言って手榴弾を2個ずつ俺達に渡した。

 王がテーブルの下から出したんだが、沢山持ってるみたいだ。


 「これを娘と共にゴルディア様にお渡し下さい。」

 そう言って、手紙を丸めて自分の指輪を外すと、指輪を使って手紙を止める。

 俺は手紙をバッグに押込んだ。


 「カネル家のゴルディアだな。確かに受取った。…ところで娘さんが目を覚ます事は無いか?」

 「娘は兄達が毒杯をあおる前に睡眠薬入りのジュースを飲んでおる。1日は起きる事はないじゃろう。」

 

 大分下の階が騒がしくなってきた。

 「3階への階段は全て障害物で通れなくしておる。後しばらくは持つじゃろうが時間の問題でもある。行くがいい。娘を頼むぞ。」


 カーテン生地で娘を包むと俺の背に括り着ける。

 起きてはいないから余分な力が入らないので運ぶには楽そうだ。


 「確かにお預かりします。」

 そう言って別れを告げると、国王は片手を上げて、后は頭を下げて俺達に挨拶してくれた。

 通路に出ると、カチリと錠が下ろされる。

 ここにもう、用はない。

 直ぐにテラスに向かって走り出す。

 途中にある吹き抜けを覗くと暴徒の1人と目が合った。

 「上にもいるぞ!」

 そんな声が聞えてくる。

 「どうやら、1階の警備兵は制圧されたようです。階段で現在戦闘が継続中です。」

 フラウの声を聞きながら、通路を走り抜けると、テラスに出た。


 ちょっと下を覗くと広場は暴徒に埋め尽くされている。

 「先程よりアルカロイド反応が強くなっています。速めに立ち去らないと…。」

 そういいながらテラスの彫像の腕をもぎ取ると両手で潰し始めた。

 

 「この彫像はハリボテですね。完成品の前に納められた石膏細工のようです。」

 そう言いながら、革袋に石膏の粉を入れている。手榴弾を袋に詰めて更に石膏の粉を入れる。そんな袋を2個作った所で、俺に1個差し出した。


 「紐を引いて下の群集に投げてください即席の煙幕になります。それで私達がテラスを脱出するのを目撃されずに済むでしょう。」

 

 俺とフラウは1,2と声を出して3で紐を引いて袋を広場に放り投げた。

 ドォン!っと言う音と共に真っ白な粉が辺りに舞い上がる。


 「今です!」

 俺はフラウと共に反重力制御で重力傾斜を作り出し、広場の先にある建物に向かって飛んで行った。

 ドオォォン!

 テラスの向かい側の屋根に辿り着いたとたんに背後から炸裂音が轟いてきた。振り返ってみるとテラスの通路から黒煙が吹き出ている。

 国王の最後と見るべきだな。

 重税を課したのが誰かは分らないけど、頂点にいるのは国王だやはり責任を取るべきだろう。

 暴徒の流れを見ながら次々と屋根を飛び移って行く。一部の暴徒は貴族達の屋敷にも侵入しているようで破壊の音が聞えるし、そうでない屋敷は炎に包まれている。


 飛び移って行く建物が、段々と低くなってくると暴徒の姿が疎らになる。

 「更にアルカロイド反応が増加してます。我々に害は無くとも、預かった娘に害があるかもしれません。ここから塀の外に出ることをお勧めします。」

 

 頃合かもしれない。そう思ってフラウに頷く。

 塀の外には誰もいない。俺達は大きくジャンプすると300m程水平に移動して、塀の外に出た。

 直ぐに周囲を探るが、誰もいないようだ。真直ぐに南に向かって俺達は走り始めた。


 幸いにも辺りが暗くなる。暗視モードで前方を見ながら俺達は駆ける。周囲の探査は生体反応で可能だが、俺達の周囲1kmにガトル以上の反応を示すものはいない。


 背中の娘に振動を与えないように走るからあまり速度が出ないのだが、それでも数時間も走ると川に出る。やはり川沿いに連なる林には大勢の避難民が溢れている。

 林の切れ目を探そうと下流に向かって進む。

 林に潜む人の増減はあるが、下流に行くほどその人数は少なくなっていく。

 そして遂に林の切れ目を見つけた。林の切れている長さは500m程ある。左右の林に潜む人影も数人ずつのようだ。


 俺達は林の切れ目の中程で対岸に飛び移った。

 深夜の事だ、誰にも見られなかっただろう。見たとしても自分の目を疑うだろうな。

 林の生体反応い変化がないから、俺達を見たものはいなかったようだ。


 フラウにエントラムズの王都の方向を確認して貰い、おれたちは南西方向に走り出した。

 

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