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M-021 王都騒乱

 2階の階段の踊り場に、横倒しにした机の隙間からホールを2人で見つめていると、数人の男と20匹程のガトルが入ってきた。

 辺りをしきりに眺めている。1人が階段を上ろうとしたが2階にガラクタが積まれているのに気付いて引き返して行く。

 みすぼらしいハンターのような出で立ちだ。だが少しおかしな所がある。

 何がおかしいのか最初は気付かなかったが、直ぐに分かった。腕の数が多いのだ。何と4本の腕を彼等は持っている!

 

 ちょっとした驚きだったが俺の体が反応したようだ。腕がちょっと動いただけだったが、それが机に当たってしまった。

 カタ!っという僅かな音に、ホールの人間と獣が俺達の潜んでいる机を一斉に睨み付けた。


 男が1人、何かを持って階段の途中まで上がると、紐を引いてボールのような物を投げ付けてきた。

 急いで後に下がるとドォン!っと何かが炸裂して俺達に机の破片が飛んでくる。

 少し革の上下は破れたが体に傷なんか付かない。流石はメタルボディと言うところだな。

 ガタガタと音を立てて階段をガトルが駆け上がってくる。

通路の端まで移動すると、ベレッタで狙い撃った。

 キャン!キャン!と体をレールガンに裂かれてガトルたちが叫ぶ。

 数体ずつ階段を上がってきたが、やがて十体程が纏めて俺達に襲ってくる。フラウがレールガンの弾速を大にして一気にガトルを葬り去る。

 音速を越えた弾丸が炸裂音を上げて通路を破壊する。パルス状の音で三半規管がやられたらしく、俺達がホールを見ると男達が倒れている。


 フラウがひらりとホールに飛び下りて杖で男達の頚椎を破壊している。

 俺は周囲を素早く探る。やはり…、20近い個体がギルドに向かってきている。あと十数秒でホールに入ってくるはずだ。

 フラウは男の持っていたバッグを持つと2階の破壊された通路まで飛び上がってきた。


 「何を見つけたんだ?」

 「これです。」

 そう言ってテニスボール位の黒い球体をバッグから取り出した。

 「簡単な爆破装置のようです。後で詳しく分析してみます。」

 自分のバッグに球体を入れると、奪ってきたバッグを通路に放り投げた。


 「余り時間が無い。屋根から逃げるぞ!」

 フラウにそう言うと一番奥の部屋に入る。そしてベッドで扉を塞ぐ。

 天井に向かってベレッタを撃つと、ガシャンっという音と共に1m位の穴が空いた。


 ドタドタ…と階段を駆け上がる音がして、バタン!っと部屋の扉を足で蹴破る音も聞えてきた。

 「行くぞ!」

 反重力制御により重力傾斜を頭上に向けると周辺の埃を集めながら俺の体が天井から屋根に持ち上がる。素早く屋根に伏せると、フラウの体を引張るようにして俺の隣に下ろす。


 「これからどうします?」

 「変な奴等が多い。ここは王都に向おう。」

 屋根から周囲を探る。どうやら俺達を捕らえる為にギルドに集まっているな。

 人数としては20人はいないようだが、獣の数が多い。操っているのか、男達を襲う様子も無い。

 しかし、4本腕か…。やはり異世界なんだな。


 「一気に塀の外に出るぞ。あの林まで駆けて後はのんびり王都に行こう。」

 そう言って、1km程東にある小さな林を指差した。

 フラウが頷いた事を確認して、屋根から重力傾斜を利用して大きく飛んだ。そして塀の外に静かに下りる。

 フワリと隣にフラウが下り立つ。そして、一直線に林に駆けて行く。

 ヘッドディスプレイには一箇所に敵兵が集まっているのが分る。多分俺達をとらえようとしてギルドの周囲を固めているに違いない。

 今の内にと、俺は駆ける速度を速めた。


 林に着くとちょっと一休みだ。疲れは無いが、状況の整理は必要だ。

 「俺達が見ていたときにギルドに入ってきた奴には4本の腕があった。あの男達について判ることは無いか?」


 「人が腕を4本持つのはありえないことです。指の数が1本多いとか少ない事は、胚の形成過程で発生する事があると、ライブラリーにはあります。

 ですが、彼等の腕は奇形ではありません。あのように生まれついたものと思われます。 

 そして1人ではなく4人ともとなれば、あの形態の人種が存在する事になります。」

 

 たしか、エクサスさんはネコ族と言っていたな。でも、足と腕は俺達と同じだった。

 ふつうなら、犬や猫でも四肢だ。手足が6本なら昆虫だぞ。


 「この物体ですが…、簡単に言えば手榴弾です。ただ、技術が問題です。

 使っている爆薬は窒素化合物であるのは分りますが私の分析装置ではこの分子構成を解析出来ません。非常に安定な炸薬と起爆薬であることは分子配列で分るのですが…。」

 「発火薬はこの紐を引く事で起爆薬中心部のカプセルを破壊するようです。カプセル内の液体も知られていない物です。そして重合反応が急速に始まり爆発して周囲の炸薬と連動するシステムです。薬品を納めたカプセルはどう見てもプラスチック…。ハッキリ言って、江戸時代にミサイルがあるようなものです。」


 時代が合わないと言っているようだ。しかし、そんな物を何故奴等が持っているのだろう。入手経路に何かあるのかもしれない。

 「色々あるようだが、その内分るだろう。それより今後の進路だ。」

 「たぶん王都は東にあると思います。エントラムズの王都もここから南東です。」


 という事は、町から東に伸びる街道を辿れば良いはずだな。

 周囲の生体反応を調べてみる。村がかろうじて探査範囲に入るようで、生体反応のある個体が動いている。

 まだ昼前だが、旅人を装って街道を行くか。フラウに距離を伸ばした探査を街道の範囲に行なって貰い、俺が周囲の探査を行なえば何とかなる。誰かが来たら急いで畑の藪に隠れれば無駄な戦いをせずに済む。


 そんな役割分担を決めて王都への街道を歩き始めた。

 石畳の横幅のある道はずっと東に続いている。冬の街道は、動乱が無くても通る者は殆どいない。

 そして周囲は何処までも道の左右が畑だ。緩やかな丘陵の畑は段々畑のように作られていた。遠くに聳えるダリル山脈は、何時しか別の山並みに替わっている。あの山脈の間を北に進めば、また別な王国があるのだろうか。


 

 数時間歩いたが誰とも会うことは無かった。

 夕暮れに街道にある休息所で焚火を作りお茶を沸かす。

 のんびりとパイプを楽しみながら飲むお茶は格別だ。フラウがゆっくりと味わうような仕草で飲んでいるのを見るとオートマタである事を忘れそうだ。

 という事は、俺もそんな目で周りから見られているのだろうか。ちょっと風変わりな娘2人組のハンターってとこかな。


 暗くなった所で先を急ぐ事にした。

 時速30km程で走ると、先方から馬車が走ってくる。急いで街道から離れて藪に潜んだ。

 燃え上がる馬車を狂ったように馬が曳いて走って行った。

 

 「火矢を撃たれたようです。中に生体反応はありませんでした。」

 「あぁ…。たぶん途中で転げ落ちたんだろう。」

 そうは言ったが俺は見た。馬車の中で崩れる人影を…。


 後続が来ない事を確認して、また俺達は駆けていく。

 少し行くと東の空が赤く色着いている。まだ、夜明けには遠いのだが…。


 「あれは火災です。王都が燃えています。」

 フラウから聞くまでもない。数km先に見えてきた広大な都市が炎上しているのだ。

 ようやく覚えた探知範囲を広げる方法で街道の先を確認すると、大勢の民衆がこちらに逃げ出してくるのが分る。


 あの人込みに紛れて王都に接近できそうだ。少なくとも王宮の様子を見てこないとこの依頼を達成したとは言えないだろう。


 「王都から脱出してくる人の流れを逆に辿れば、怪しまれないだろう。大事な忘れ物をしたと言う名目も立つ。」

 俺達は逃げる民衆が近づくまでに装備をもう一度点検する。

 町で使った弾丸をベレッタのマガジンに補給するとバッグを腰にしっかりと取り付けて薄いマントを被る。薄くとも革製だから火の粉位は防げるはずだ。革製の帽子も落ちないように顎紐をしっかりと結んだ。

 後は杖だが、まさか武器とは思わないだろう。


 そして、王都から逃げてきた人の群れが俺達の休んでいる林を通り始めた。

 「行くぞ。」

 フラウにそう言うと俺は街道伝いに逃げる人達を逆走して王都に走る。

 街道の道が良いせいか、街道を伝って逃げる人の数は多い。ぶつからないように左右に避けながら走ると、王都の大きな門についた。

 王都の中は悲鳴をあげながら逃げ惑う人達で溢れている。

 火災は数箇所で上がっているが皆大きな建物だ。そして、その中から略奪品を抱えた人達も通りに飛び出してくる。

 そんな略奪を取り締まる警備兵と略奪者との戦いがあちこちで行なわれているが、どうやら略奪者の方が優勢らしい。

 

 王都の通りを歩いていても誰にも咎められることはない。皆自分の事で精一杯のようだ。

 「マスター、略奪者の目を見ましたか?」

 フラウの声に俺は改めて近くで鎌を持って兵隊に向かっている男の目を見た。

 それは血走った狂人の目だ。


 「何か分かったのか?」

 「アルカロイド系の薬剤が散布されたようです。一帯の空気中にその成分が漂っています。」

 アルカロイドって確か麻薬の種類じゃなかったか…。この騒ぎは仕組まれたものだという事か。

 更に通りを進むと大きな十字路に出た。遠くに門が見える。という事はここが王都の中心だな。左を見ると一団と大きな建物が見える。そこに大勢の狂った民衆が押し寄せているようだ。

 俺達もその後を追う。民衆に紛れて王宮に近づく為だ。


 「空気中のアルカロイド濃度急速に低下しています。」

 民衆蜂起を装っている訳だな。流石に王宮まではアルカロイドの散布が出来なかったようだ。

 

 王宮広場前では壮絶な乱戦になっているようだ。だが守備兵には限りがあるが民衆は次々と押し寄せてくる。あの広場明け渡すのは時間の問題だな。


 俺はフラウの手を握ると近くの大きな建物に駆け込んだ。

 「この建物の屋根から王宮に忍び込む。」

 俺を見るフラウにそう告げると、建物の階段を駆け上る。

 「建物に生体反応はありません。無人です。」

 

 たぶん早々に逃げ出したんだろう。まだ略奪の波は押し寄せてこないが、あちこちの丁度品が開かれ中を色々部屋に引き出している。

 そして、最上階に出た。

 天井に向けてベレッタを放つ。出来た大穴から屋根に上った。


 そこから眺める王宮前の広場は、ちょっと刺激が強かった。

 数百人の民衆が広場に倒れている。たぶん石畳なのだろうが真っ赤な池のように血が流れていた。

 残された警備兵は数十人だが、かなり疲れているようだ。

 1人、また1人と群集に倒されて行く。倒された警備兵は棍棒や斧で打ちのめされている。そして、倒されまいと血塗られた長剣を残りの警備兵が闇雲に振り回し続けていた。

 奥にはジッと、王宮の玄関を守る20人程の警備兵がそれを見ている。後ろの扉を守る為にどれだけの時間を稼げるのだろうか。

 

 王宮は4階建てだ。3階に大きなテラスが広場に向かって突き出ている。

 距離的には200m程だから何とか飛べるだろう。

 2人で、広場の騒乱を見ながらそのチャンスを待った。

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