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M-002 新米ハンター

 次にギルドに向かうことにした。

 ギルドとハンターの関係が俺の知っているRPGと同じであれば、俺達はギルドでハンターになることが出来る。

 肉屋の2軒程先にある大きなログハウスがギルドのようだ。扉の上に剣が交差した看板が出ている。


 「こんにちは」


 そう言いながら扉を開けると、なるほどギルドだ。扉を開けると大きなホール、その向かい側にはカウンター、扉の左手には黒板のような大きな掲示板があって、ノートくらいの大きさの紙が沢山張り出されている。そして、右手には3個のテーブルがあった。

 きょろきょろと俺がホールを見ているのを不思議そうにカウンターお姉さんが見ている。


 「どうしました?」

 お姉さんの声に意を決して、カウンターに近づいた。


 「実は、俺達ハンターになりたいんですけど……」

 「新規のハンター登録ね。ここで大丈夫です。後のお嬢さんも一緒ですか?」


 フラウが頷くと、お姉さんはカウンターの下から筆記用具と用紙を取り出した。


 「この用紙の項目に沿って書いてくれれば良いわ。」

 「実は俺達、字は少しは読めるんですが書くのがちょっと……」

 俺は途方に暮れた顔付でお姉さんに話しかける。


 「大丈夫。私が代筆するわ。先ずは名前ね……」

 そんな感じでお姉さんの質問に答える形で用紙にサラサラとお姉さんが必要な事項を書いていく。


 「それで、出身地は?」

 ちょっと困った。

 「実は、気がついたら岩山の麓に2人で倒れていたんです。その前の記憶もかなり曖昧で……」

 「転送呪文を使える人がまだいたのね。多分転送で混乱してるはずだから無理に思い出す必要は無いわ。あの山はダリルだから、ダリルで良いわね」


 「2人はパーティという事で良いのかな? ……そうするとパーティ名称がいるわね」

 「マキナにしてください」


 どうやら必要事項の記入は終ったみたいだ。


 「最後にこれを両手で持ってみて」


 先ずは俺が持つ。水晶球だよな。何が解るんだろう。

 そんな事を考えていると白い光が中心部に輝きだした。


 「はい、良いわよ。次はお嬢さんの番」


 水晶球をフラウに渡す。

 神妙な顔付で水晶球を持っていたが、俺と同じように中心部に白い光が輝くのを見てほっとしているようだ。

 

 お姉さんがカウンターの向こうで、なにやら機械を操作している。やがてチン!っとレジスターのような音がすると、2枚のカードを俺達に渡してくれた。

 丁寧にも革紐が付いている。首から下げておけば失くさないだろう。


 「これがギルドカード。,銅、鉄、銀、金と上がっていくわ。カードは10段階に区分けされているわ。ほら、カードの下に小さな丸い穴が空いてるでしょ。これがカードのレベルになるの。

 貴方達は残念だけど、魔法を使う事が出来ないみたい。属性も初めて見るものだけど、それに見合う魔法が無いのよ。…残念ね。でも、魔法の使えるメンバーをパーティに入れれば問題は無い筈よ。

 貴方達はレベル1だから銅版、通称アカと呼ばれるレベルなんだけど、…確か読む事は出来ると言っていたわね。これがギルドのパンフレットよ。良く読んどいてね。」

 そう言って、カウンターの下から薄い冊子を渡してくれた。


 「すいません。もう1つお願いがあるんですけど……。依頼の物や獣等を解説した図鑑みたいな物はありませんか?」

 「これで、良いかな。この王国内の依頼となりうる物を纏めたものなんだけど……」


 取り出したのは文庫本サイズの着色された絵がついた図鑑だった。


 「お値段はどの位なんでしょう?」

 「200Lなんだけど、これは売れ残りなの。最新版が出たみたいだから、もう誰もこれを買う人はいないわ。特別に50Lでどうかしら」


 俺は即金で購入した。幾ら売れ残りでも、俺達には十分だ。


 「明日から始めようと思うんですが、アカ1つはどの辺りですかね」

 「一目で判るように依頼書の番号の隣にカードの色とレベルを丸で示しているわ。依頼は2つ上までのレベルが受けられるわ。それと、もし獣を仕留めたなら、討伐部位を持って来れば報奨金と経験値の加算があるわよ。そして、個人ではなくパーティで依頼をこなすなら、1度に2件の依頼を受ける事が出来るわ」

 「討伐部位ってこれですか?」


 俺は肉屋のおじさんが鉈みたいな包丁で叩き折ってくれたイネガルの額の角を差し出した。


 「仕留めたの? ……これはオマケしてハンター登録後という事にしてあげるわ。薬草採取は1件で経験値は1つだけど、イネガルなら1頭で5になるわ。それと、報奨金が入るの。50Lだけどね」


 そう言って、大きなノートになにやら書きこんでいる。そして、俺達に銅貨を5枚渡してくれた。


 「イネガルは、黒でも難しいのよ。あまり無理はしないでね!」

 俺達はお姉さんにお礼を言って、早速に依頼掲示板を見に行った。


 依頼掲示板の左端最下部辺りが俺達のレベルのようだ。

 選んだ依頼は、デルトン草の球根20個とサフロン草の球根20個だ。2つとも依頼達成で40Lずつ手に入る。期限は5日間だ。

 依頼書をお姉さんの所に持っていくと、依頼確認の印鑑をドン!っと押してくれた。

 依頼書の番号と対応者を大きなノートに書きこんでいる。

 依頼書を腰のバッグに入れると、今度は雑貨屋に向う。通りを歩いていた村人に聞いたら、ギルドの真前だった。

 

 雑貨屋で購入したのは粗い布で作ったショルダーバッグと革袋が3個、それに薬草採取に使うスコップのようなナイフだ。結構値段が高く80Lにもなってしまった。


 そして俺達は、村を出て薬草採取を始めることにした。

 村の北にある俺達が入ってきた門を目指して歩き始めた。

 

 「出かけてきます」

 そう門番さんに声をかける。こういう挨拶は重要なんだ。


 「もう、出かけるのか? ……野宿をするなら、森は避けた方がいいぞ。今日も1人、ガトルに襲われている」

 

 ほらね、挨拶1つでこんな重要な情報を教えて貰えるんだ。

 俺達は門番さんに礼を言って、湖の岸辺を目指して歩いて行った。


 村を出て北に1時間程、3kmも歩かない内に湖の岸辺に立った。

 この湖の岸辺に沿った斜面が薬草の宝庫だとギルドのお姉さんが内緒で教えて貰ってる。

 早速2人で探し始める。

 サフロン草はヨモギのようで、デルトン草はタンポポのような葉が目印になる。

 最初の1個を見つければ、後は簡単に見つかる。

 球根を傷つけないように慎重にスコップナイフで薬草を取って、球根を切断する。茎はそのまま地面に刺しておけば来年には球根が出来ると図鑑に書いてあった。

 暗くなっても、俺達は暗視モードに視野を切り替えれば昼間と同じように行動する事が可能だ。もっとも、モノトーンの世界になってしまうけどね。

 

 サフロン草とデルトン草の球根を50個ずつ手に入れた所で終了する。

 俺達は眠りを必要としないが、人間はそうはいかない。ディスプレイの時計は夜中の1時だ。

 薪を拾って、湖の岸辺で焚火を囲んで朝を待つ事にした。


 森を避けて周りが見通せる草原が広がる場所で焚火をしているんだが、結構な数の動物が辺りをうろついているのがディスプレイで知る事が出来る。

 何がいるんだろう?とフラウに疑問を投げかけると、「調査してきます」と闇の中に消えて行った。


 ヘッドディスプレイでフラウと動物の接触の様子が伺える。

 フラウは近くまで行ってしばらく動かない。……そして急に獣に接触する。そんな事を何度か繰り返して俺の所に帰ってきた。


 「ただいま戻りました。周辺にいた獣はこの生物です」


 フラウが左手に掴んでいた物を俺に見せる。

 それは、兎のような生物だ。だが、決定的に違いがある。兎の耳に当る部分が硬質な角のような物体で出来ているのだ。薄く広がった所を見ると兎の耳と同じ働きをするかもしれない。

 早速図鑑で調べてみる。

 ぺらぺらと図鑑を捲ってみると、見つけた! これはラッピナという獣らしい。

 『草食で、肉は食用、毛皮も利用価値有り。素早く人の気配を感じて直ぐに逃げる。通常価格10L』とあった。

 改めてフラウの下げているラッピナを見ると3匹いる。これはちょっとした儲けものだ。

 

 「ところで、どうやって捕まえたの?」

 「近くまで行って、この杖を投げ付けました」


 近くで一旦止まった訳が理解できた。でも、1匹10Lならラッピナを狩った方が良くはないか?


 「フラウ、もう2匹程捕まえてくれないか?」

 ちょっと欲を出してフラウにお願いする。早速「了解しました」と俺に告げて暗闇の中に消えて行った。


 10分程して、2匹のラッピナを下げてフラウが焚火の傍に帰ってきた。

 一晩で130L……。この商売は儲かるんじゃないか?元々俺達は食事をあまり必要としない。武器だってその辺の木を切って作った杖で十分だ。宿に泊まる必要さえない。

 そんな事をニコニコしながら考えてたから、さぞかしフラウは俺を不気味に思っていたに違いない。……それとも、かわいそうな人だと思ってたかも。


 「マスター、先程とは異なる反応です」


 俺も気が付いていた。俺の仮想ディスプレイに焚火にジリジリと近づく3つの赤い点が表示されていたからだ。

 俺達がいるのは湖の岸辺だから、3方向から近づいてくるこの獣は俺達の逃げ道を完全に塞いでいる。


 「俺が左でフラウは右だ。真中の奴は、逃げればそれで良いが、もし襲ってくるようなら、早く始末を付けた方がやる事で良いな」


 フラウが頷いた事を確認して、俺達は左右に散っていく。

 視覚をサーマルモードに変更する。

 すると俺の視野は一瞬にカラーに変わるが、視野に移る温度分布を20℃から40℃の範囲でカラー化したものだ。20℃より温度が低ければ黒だし、40℃より温度が高ければ白色になる。

 そして、赤い塊が俺の方に近づくと、一気に速度を上げて飛びかかってきた。

 ガウ!と叫びを上げる物体とその物体に向かって振り下ろされる杖がぶつかる音が重なる。

 ドンっと草むらに倒れた物体は温度が急速に変化する。どうやら心停止をしたようだ。

 

 視覚モードを暗視に切り替えると、その姿が分かった。

 大型犬のような姿をしており、その口からは伸びた2つの牙がある。長さは5cm以上ありそうだ。


 そういえばもう1匹いたな。

 俺がもう一匹を探そうと振り返ったときに、そいつはいきなり藪から飛びかかってきた。

 咄嗟に右手を奴の口に差し込む。ばたばたともがいているが、俺の拳を噛んだ口を離そうとはしない。

 噛まれているが痛みは無い。ゆっくりと左手で短刀を引き抜くと、大型犬の姿をしたそれの横腹に短刀を突き刺して横に切り裂く。

 グア……と言う声を上げて口が緩み、その場に崩れ落ちた。

 右手を見てみると、噛まれた場所が少しへこんでいるけど傷は全く無い。そのへこみも時間とともに元に戻っていく。


 「マスター、右の牙を回収してください」

 遠くからフラウの声が聞える。


 どれってそいつの口を開けると、確かに右の牙が左より長い。牙を掴んで手前に引くと簡単に外れた。

 俺って、こんなに力があったのかな。なんて考えながらもう1頭からも牙をもぎり取る。

 獣の毛皮で短刀の血糊を拭き取って鞘に収めると焚火に戻った。

 焚火にはフラウが既に戻っていた。

 

 「図鑑で調べてください。私の判断ではこれはガトルです」

 フラウの言葉に早速図鑑を開く。


 確かにガトルだ。大型犬並みの体形といい、その最大の特徴は左右で長さの異なる牙だ。そして図鑑には、報奨金の対象とありその報奨金は右の牙と引き換える事が書いてあった。通常の褒賞は牙1本が15L。……これは儲けたぞ。


 「ガトルに拳を噛まれたが傷すらない……」

 「マスターの体はナノマシンの集合体です。状況に応じて変化しますし、柔らかくも硬くも、温かくも冷たくもなります」 


 「フラウはどうなんだ?」

 「私も結果的には同じです。全てナノマシンのみで構成されており、マスターのようなピコマシンは持ちません。でも、第3者から見れば私達を金属体だと思うものはいない筈です」

 

 2人しか、こんな体を持ってるものはいないのに、互いに微妙な違いがあるようだ。

 「まぁ、この世界の人間とは違ってる事に変わりはないか」

 俺の言葉にフラウは黙って頷いた。

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相棒が居て幸せですね。
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