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M-019 ギルドでのトラブル

 


 次の朝。街道に人通りが無くなった所で俺とフラウは藪から街道に出て行った。

 長剣は大型の袋に入れてあるから、革の上下に薄いマントを羽織って杖を持つ姿をハンターと思わない人もいるだろうが、王都で長剣を背負うのも何となく気が引ける。

 

 王都まで数kmはあるから昼まえには余裕で着く筈だ。

 のんびりとトコトコと街道を歩いて行くと、王都の城壁がよく見えるようになってきた。西の面だけで1kmはあるように思える。高さは、門の番兵の身長の2倍以上あるみたいだ。

 

 大きな西の楼門に着くと思わず見上げてしまう。

 番兵に「今日は!」と声を掛けて入る。特に何の誰何も無いから、昨夜の急いでいた人達は何だったんだろうと考えてしまう。


 人の良さそうなおばさんにギルドの場所を尋ねるとこのまま行けば分ると教えてくれた。

 あっちこっちと物珍しさにキョロキョロしながら歩く姿は完全なお上りさんそのものだ。そんな俺達の姿をにこにこしながらお爺ちゃん、お婆ちゃんが見ているのが気にはなる。

 

 そんな通りをしばらく進むと見覚えのある看板がある。盾中に剣が納まっている看板だ。村のギルドと違い、石作りの2階建てだ。

 そんなギルドをしばらく眺めた後で、俺達はギルドの扉を開いた。


 「今日は!」と言いながら素早く周囲を観察する。

昼近いせいか、ギルドの中にはハンターは誰もいない。左手に依頼掲示板そして右手に10個程のテーブルが並んでいる。このホールだけで学園の体育館程の面積がありそうだ。

 正面のカウンターも横一列に並んでお姉さんが数人こちらを見ている。

 俺とフラウは扉から真直ぐのカウンターのお姉さんの所に歩いて行った。


 「あら、女の子2人組のハンターは珍しいわね。…用件は何?」

 「先ずは到着報告と、俺達のレベルを確認して下さい。」


 カウンターのお姉さんの求めに、俺達のギルドカードを渡す。

 「このカードは何処のギルドで発行したの?」

 「カナトールのサレスト村ですが…。」


 「暫定というギルドの措置があるという事を知っているギルド長がどれだけいるのかしら?でもこれは正規に発行されているから問題はないわ。」

 そう言いながら俺達の前に村のギルドにあった水晶球よりも大きな球体を取り出した。


 「これを落とさないように両手で持ってみて。」

 前と同じようにおれが両手で持つ。直ぐに中心部に明るい発光体が現れた。

 次にフラウも同じ事をしてみる。やはり俺と同じで中心部が白く輝いた。


 そして、お姉さんが小さな箱から俺達のギルドカードを取り出す。

 「変ね。あれだけの反応があるのに赤1つって…。」

 「正直な話、このカードでは碌な狩りが出来ません。最低でも黒5つは欲しいところです。これが、前の村で狩った獲物のリストです。」


 そう言ってレイデン村のギルドのお姉さんに作ってもらったリストを渡す。

 「…ホントにこれを狩ったの?」

 「はい。」

 確認するように俺に言うとカウンターの席を立ち上がった。


 「ギルド長に相談するわ。ここでまって頂戴。」

 そう言って後ろの扉を開いて事務室に入って行った。

 俺達は王都の依頼書に興味があったので掲示板に行って依頼書を眺める。


 「余り代わり映えしないな。」

 「そうでもありません。この赤の下レベルには、場所取りや、荷物運びが沢山ありますよ。」

 確かに、近くで薬草は取れないか、こんな依頼が赤3つ位までの仕事になるんだろうな。俺達は村で良かったと思うぞ。

 そんな思いで依頼書を見ていると、ユングさ~ん!とお姉さんが俺達を呼んでいる。


 「このリストだけど改ざんをギルド長は疑っているの。だから、レベルは上げられないわ。」

 「成る程…。俺達の技量を疑ったという事だな。要するに村のギルドのリストは認めないと言った訳だ。そのリストを返してもらいたい。」

 「返す事は出来ないわ。あれは当ギルドで偽証の証として保管するそうよ。」

 

 成る程、自分の目でしか物事を判断できないタイプの人間という事だな。

 「ここで、パイプを吸い終わるまで待つ。…その間にリストを俺に戻すか。又は黒のカードを発行するかしろ。それが出来ない場合はこのギルドを破壊してリストを手に入れる。」


 そう言ってのんびりとパイプを楽しみ始める。


 「あなた、何言ってるか分ってるの?ギルドへの脅迫よ!」

 「その前に俺を偽証と言い切った。これは契約で仕事をするハンターへの最大の侮辱だ。俺は脅迫はしていない。俺の物を返して欲しいと言っているだけだ。そしてそれが出来なければ自力で取り返すのがスジじゃないのか?」


 「それは、そうだけど…。」

 そして、俺のパイプはどうやら終ったらしい。ゆっくりとパイプを腰に差すと、ベレッタを取り出した。

 レベルを最大にすると天井に向ける。

 「この建屋は2階建てだったが、2階に人はいるのか?」

 

 お姉さんが俺の厳しい顔に震えながら首を振る。

 セーフティを解除して、スライドを引くと天井に向けて発射する。

 ガン!っと音がして天井に直径1m程の穴が空く。続けて数発発射するとホールの天井が崩れ落ちた。

 

 バタン!っと音がして事務所の扉が開き太った男が飛び出してくる。

 「お前は何をしたか分っているのか?」

 「分っている。俺を偽証呼ばわりした男が俺の持ってきた狩りのリストを盗んだ。おれはその男からそのリスト取り返そうとしているだけだ。」


 そう言って更に1発を天井に発射する。ガラガラと何かが降って来たが気にしない。

 「直ぐに近衛兵が来るぞ。そうなればお前等は…。」

 

 その声と共にバラバラとギルドの扉の方から兵隊が駆け込んで来た。

 「どうしたのだ。ギルドの屋根が落ちているぞ!」

 「その娘です。私を脅迫しているのです。」


 隊長と思しき兵隊がギルド長と話したかと思うと長剣を抜いて俺に迫ってきた。

 「これだけの事をしたんだ。女といえど容赦は出来ぬ。大人しく武器を収めて牢に入れ。!」


 「フム。この国は悪党に味方するのか?…そうなんだな?」

 「何を言う。お前がこの破壊をしたのは間違いなかろう。それで十分だ!」

 

 「フラウ。殺さなければ良い。…物事を捌く順序を教えてやる必要がありそうだな。」

 俺の言葉に逆上した兵隊が長剣を俺に振り下ろしたが、…遅い、遅すぎる。

 簡単に交わして踏み込んだ足を思い切り蹴り飛ばす。兵隊はドンと壁に激突して止まった。足が変な方向に曲っているから折れたかも知れないな。


 更に天井にレールガンを発射する。ガラガラと天井からガラクタが降ってきた。 

 「まだやるのか。良いか。一度に掛かるんだ!」

 俺は素早くベレッタをレッグホルスターに戻すと杖を取る。

 

 「「「ヤー!!」」」っと一斉に俺に切りかかるが、身体機能を3倍程にあげているから動体視力でそれを見切り、体裁きで対処する事が十分可能だ。傍で見ていると俺の体がぶれたように見えるだけだろう。

 そして、次々と杖で足の膝を破壊して行く。

 殺しはしないが、無実の俺を斬ろうとした罪は償って貰う。


 「何だ、この騒ぎは!」

 今度はトラ顔の男が入ってきた。確かにネコ族がいる位だからトラ族もいるんだろうな。

 「お前か。これをやったのは?」

 「そうだ。いきなり斬り掛かってきたら、こうするしかあるまい。」


 トラは近くに転がっていた男の襟を持って引き上げる。

 「何故斬りかかった。こやつ、ワシより技量が上だ。それに斬りかかるなぞ、相手の技量も分からぬのか!」

 「ギルドの天井を壊してます。そのような人物をみすみす帰す訳に行きません。」


 フン!っといいながら襟を放すと、ドサリとさっきの隊長が床に転がる。

 「確かに空が見えておる。…それなりの理由があろう。一応、聞かせてくれぬか。ワシはこの国の近衛兵を預かる身だ。この兵達の手前やはり真相は知りたいでな。」


 ようやく少し話が分る人物が出て来たようだ。

 俺は経緯を簡単に説明した。


 「成る程。ギルドの球体でレベルの分らぬ者がたまにいることは聞いた事がある。そして、王都のギルドではそれが分かるというのも頷ける。実際そのような者もワシの部下にいるからな。だが、それでも分らぬのか…。その為に持ってきた村の発行した狩りのリストをギルド長が隠蔽したのだな。それを返して欲しくてこれをしたのなら、何ら問題は無い。」

 俺にそう言うと直ぐに部下を呼び何事かを伝える。

 

 「少し待て。王宮の真実審判員がやって来る。直ぐに結果が出るだろう。だが、お主達に非があるならどうする?」

 「真実が捻じ曲がるような王国にいる必要はありません。直ぐに他国に出て行きますよ。」

 

 「逃げられるか?」

 「十分に…。」

 多分ね。…身体機能を最大まで上げて、重力傾斜を天井方向にすれば、どんな囲みでも脱出出来そうだ。


 そんな話をしていると外が騒がしくなってきた。

 「退け、退け。負傷者を一箇所に集めるんだ。もう直ぐ【サフロナ】の使い手が来る。」

 そして、2人のローブを着た男が入って来た。


 1人は集められた兵隊の治療を始めたようだ。【サフロナ】は【サフロ】の上級魔法らしい。俺は確かに膝を破壊した筈だが、その魔法により立ち上がって歩き始めた。


 「確認したいのは何方ですかな?」

 もう1人の男がトラ男に聞いた。

 「この娘とギルド長だ。互いに主張しており、その主張は全く逆だ。どちらが正しいかを判断して貰いたい。」


 「ちょっと待って下さい。将軍は私とこの娘のどちらを信用するのですか?…私を真実審判に掛けるなぞ、サムエル様が黙っておりませんぞ。」

 「成る程、今の言葉しっかりと王に報告しておく。始めろ!」

 

 その言葉にローブを着た男はトラ顔を振り返った。

 「もう、終了しています。エネミー。この2人に黒3つのカードを発行しなさい。」

 直ぐにお姉さんが手作業でカードを作ってくれた。

 

 「本来はこの2人にこのカードが贈られるはずでした。ギルド長はそのリストを使って別の者にカードを発行したかったようですね。」

 「という事は、この始末はギルド長が付けねばなるまいな。…ご苦労だった。」

 「いえ、これも領民のためですから。我等神官、常に王族と領民の為にあります。」

 

 そう言うと、治療をしていたもう1人の男と共にギルドの外に出て行った。

 「さて、領民に剣を向けた近衛兵の措置は分っておろうな。そして、ギルド長を連れて行け。」

 近衛兵はギルド長をロープで縛り上げると、ガックリと肩を落とした仲間の近衛兵と共にギルドを出て行った。


 「これで、終了だ。…まだ若い女性と思っての間違いであって欲しいが、相手のレベルを軽く見すぎたようだな。ところで、ここで暮らすのか?」

 俺は首を振った。

 

 「なら、俺からの依頼を頼みたいのだが…。」

 そう言ってトラ顔を俺の耳元に寄せてごにょごにょと小さな声で依頼を話した。

 ヒゲが耳に当たってこそばゆくてしょうがなかったが、その依頼は少し面白そうに思える。

 「良いでしょう。報酬は…。」

 「報告してくれた時に払おう。銀貨10枚でどうだ?」

 

 俺はトラ顔に頷くと、男は1つの指輪を俺に渡した。

 「王宮の門番にこれを見せれば俺の所に案内してくれるはずだ。」


 俺はもう1度トラ顔の男に頷くとギルドの外にでる。そして急いで王都を離れた。


 

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