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M-018 王都へ

 


 フラウと一緒に南の門の外でのんびりと日向ぼっこをしていると、籠を担いだヤケットさん達がやってきた。

 「暇なら手伝ってくれ。」の一言で、俺達も3人の後を着いていく。

 1時間程歩くと、大きな池があった。直径が100m程の丸い池だ。北の端から川になって流れていく所を見ると池の底には湧き水があるんだろうな。


 ピクニックかな?と思ってヤケットさんを見ると、何やら籠の中から取り出した。

 糸巻きに太い釣針。この針だとマグロでも釣れそうな5寸釘を曲げて作ったようなやつだ。その釣針にハムを薄く切って糸で巻きつける。

 糸を20m位出して、グルグルと頭の上で振り回してポンと投げる。そして2m位の棒を立てて糸を2,3回巻き付けた。

 そんな仕掛けを3つばかり池に投げ込むと、池の近くに焚火を作って後はお茶を飲みながら待つだけのようだ。


 これって、釣りなのかな?…かなりアバウトな釣りだと思うぞ。

 それでも、これが当たり前なのだろうか。3人は当たり前のような顔をしてお茶を飲んでいるけどね。

 俺達も焚火の傍でお茶をご馳走になる。そして、俺とヤケットさんはパイプだ。やはりのんびりした時間を過ごすにはこれが一番だ思う。


 「来たぞ。大物だ!!」

 ヤケットさんとエディが仕掛けの1つに走っていく。

 俺とフラウも様子を見に行ってみる。

 

 バシャバシャと盛んに暴れているが、何せあの釣針だ外れる事は無いだろう。そして組紐みたいな釣り糸も丈夫だから、後は疲れさせて引き上げるのを待つだけだな。


 しばらくしてヤケットさんが引き上げたものは大きなナマズだった。

 直ぐにエディが長剣を抜いてナマズのヒゲを叩き斬る。


 「こいつのヒゲには毒針があるんだ。埋めてしまえば毒は消えるんだがそれでも2日は消えないと聞いた事がある。」

 物騒なナマズだな。もっともカサゴなんかは鰭の先に毒針を持つってきいたことがあるからヒゲの先にあってもおかしくは無いけど、こんなのが沢山いたら川は渡れないな。


 俺達がナマズを見ていると、ヤケットさんが別の仕掛けに飛んでいった。また掛かったらしい。

 

 そんな事で、夕方までに3匹を釣り上げた。1匹をノエルが捌いて串に刺して焚火で焼き始める。

 「こいつは物騒な奴だが、食べると結構美味いんだ。普通はスープにするんだが、焼いてもまずまずだ。」

 そう言って俺達に焼けた串を1本ずつ渡してくれた。

 

 食事が済むと夕暮れの道を畑に歩いて行く。畑の中の途中にはちょっとした広場がある。畑仕事で疲れた体を休めるようにしているのかもしれない。周囲に立木もあるから夏場には良い木陰になるはずだ。


 「ここで待つ事にする。俺達は周囲に餌を撒いてくるから、焚火を作ってお茶を沸かしといてくれ。」

 そう言うと3人は暗がりに消えていったがしっかりと位置は特定できる。この広場の周囲200m位にナマズの切り身を撒いているようだ。

 

 立木の枯れ枝を2本落として、焚火を作るとポットを掛けておく。

 戻って来た3人はノエルの【クリーネ】で手や体に付いた生臭さを落としているようだ。

 そして、お茶を飲みながら暗闇に耳を傾ける。


 俺がパイプに2度目のタバコを詰め込もうとした時、フラウが俺を見て小さく頷く。

 ヘッドディスプレイの生体反応がガトルクラスになっていたためどうやら見落としていたらしい。

 直ぐに生体反応を小型種まで検知出来るように修正すると、小さな赤い点がこちらに向かってくるのが分る。まだ300m程先だ。


 「どうやら、集まってきましたよ。」

 「まだ、物音1つしないが…。」

 「俺達は人より勘が優れています。ネコ族の人が驚いていましたよ。まだ少し先ですが、どれ位近づいたら行動しますか?」


 ちょっと信じられないような顔をしたヤケットさんが俺を見た。

 「そうだな。奴等が餌を食いだしたらで良いだろう。…良いか。お前達も耳を澄ませて置けよ。それとノエルは何時でも【シャイン】を使えるようにしておけ。」


 俺とフラウは手元に杖を引きつけた。

 ノエルが小さく【アクセル】をヤケットさんとエディに掛ける。俺に向かって掛けようとしたノエルに手を振って要らない事を伝えた。

 

 そして、遠くで何かカタっと音がした。すかさずヤケットさんとエディが飛び出す。ノエルが【シャイン】と叫び頭上に光球を出現させる。更にもう1個光球を出現させると周囲の畑が明るく照らし出される。


 俺とフラウは杖を掴み畑に駆け出した。そこには小さな獣が脅えるように空を見ている。

 素早くその走り寄るとゴルフスイングをするように杖を頭に叩き込む。ゴリっとした手応えを手に感じるが、気にせずに次の獲物に杖を叩き込む。

 数秒後に奴等がバラバラに逃げ出し始めた。追いかけながら奴らに杖を叩き込み、遠くの奴には腕に着けたクナイを投げて刺し殺す。

 10秒にも満たない後には奴等のの姿は地上から去っていた。


 ふっと息を吐く。疲れることの無い体だが、まだこんな人間くさいところが残っているみたいだ。

 苦笑いをしている俺に、ヤケットさんが手を振る。


 「マゲリタを集めてくれ!」

 ヤケットさんの号令で、俺達は畑のあちこちに散らばっているマゲリタを集めだす。

 焚火近くに集めると、俺はクナイを回収した。

 ヤケットさんがマゲリタの尻尾を長剣でチョンチョンと切取っていく。

 「マゲリタの討伐はこの尻尾が確認証になるんだ。畑の隅に穴を掘ってくれないか。」


 尻尾切りはヤケットさんに任せて、俺達4人はスコップナイフで穴を掘り始めた。

 大きな穴を掘った所で、マゲリタを投げ込んでいく。そして穴を埋めれば今夜の狩りは終了だ。


 焚火に戻って、ポットからお茶を各自のカップにフラウが入れていく。

 終った。という達成感でがお茶を美味しくする。

 そしてヤケットさん、俺にエディがパイプを取り出してタバコを詰める。

 仕事の後の一服も楽しいものだ。


 「しかし、【アクセル】を掛けた俺達より素早いのか。大した者だな。」

 「でも、俺達には魔法が使えませんし、魔法の効果も望めません。良し悪しですよ。」

 

 そうだな。ってヤケットさんが考え込んでいる。多分治療魔法も聞かないのは気の毒だ位の事を考えてるんだろうな。

 「取れたマゲリタだが18匹だ。その内9匹が頭を潰されている。更に3匹にナイフの後があった。ということで分け前は2対1で良いな。」

 「いえ、5人でやったのですから均等割りでいいです。餌を釣ったのはヤケットさん達ですし、畑の周囲を明るく照らし出したのは、ノエルです。」


 「それは、そうだが…良いのか?」

 「それで良いです。」

 そんな事で、次の日のギルドでの分配は、1人54Lになった。

               ・

               ◇

               ・


 村の周辺で簡単な依頼をこなしていたある日の事、カウンターのお姉さんに俺達が今までに狩った獣のリストを作ってもらえるかを聞いてみた。


 「20Lで作る事は出来ますが、それをどうするのですか?」

 「前に王都のギルドでは俺達のレベルが分かるかも知れないと聞いた。赤の暫定5つでは大型獣は対象外だ。やはり1度は行っておこうと思うんだが、俺達の技量を信じない場合にここでの成果が使えるんじゃないかと思ってね。」

 

 「あぁ、成る程。それなら無償で作ります。ギルド側の問題でもありますから。明日の朝までには出来ると思いますから明日の昼頃取りに来て下さい。」

 納得顔でお姉さんが言った。ちょっと得した気分だな。


 次の朝、ギルドのお姉さんの所に行くと、数枚の紙が用意されていた。紙には番号と偽造防止用の印がいたるところに押されている。


 「はい。これが証明書になります。王都のギルドのカウンターに提示してくれれば相手が理解してくれます。…所で直ぐに出かけますか?」

 「その心算だが?」

 「ハンターが場所を換える時は近くのギルドに出頭して報告してください。出る時も同様です。これは、管轄するエリアにどれだけハンターがいるのかを確認する為とハンターの死亡を確認する為です。」

 

 なるほどね。依頼途中で命を落とすハンターもいるだろう。少なくともハンターになれば何処で命を失ったか分る訳だ。

 

 「了解した。では王都のギルドに出向いた時は俺達のレベルの確認と到着報告をすれば良いんだな。」

 カウンターのお姉さんが頷いた所で、改めて俺達はお姉さんに頭を下げるとギルドを後にした。


 確かエントラムズの王都はこの村の東と言っていた。

 初めて向う通りを歩き東門の門番さんに「お世話になりました。」と挨拶して出て行く。

 そんな俺達に門番さんが手を振って見送ってくれるのも何となく嬉しくなる。

 のんびり歩いて1日と言う道程は、夕刻に東に見えてきた大きな城壁でも分る。夜分に王都に入るのも何となく気が引ける。

 街道をちょっと外れた茂みの傍に小さな焚火を作って夜を明かす事にした。

 

 フラウの入れてくれたお茶を飲みながら、パイプを楽しむ。

 「王都にはしばらく滞在するのですか?」

 「いや、この世界に来てからの事を考えてみると、前の世界の中世に相当する。それも初期だな。幾つかの村や町を束ねて1つの王国が出来ているんだ。ある意味群雄割拠の世界に直ぐに転がりそうだ。俺達はなるべくそんな事に関わるべきじゃない。

 幸い、ギルドのハンターレベルがある程度共通的に使えるのであれば、少し辺鄙な村で慎ましく暮らそうと思うんだ。」


 「私は何処へでも付いて行きます。」

 そう言うと俺の隣で長剣を研ぎだした。シャーっと言う砥石の滑る音がゆっくりと繰り返される。

 ヘッドディスプレイの生体探知機能は街道をたまに足早に進む人達がいることを表示しているのだが、王都で何か騒動でもあったのだろうか。

 

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