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M-017 ガトルの襲撃

 ヘッドディスプレイを生体探知機能に視界をサーモモードに変更した。

 周囲が暗く表示されるが、近づいてくるガトルの体表温度と口が赤く表示される。


 「距離120。まだ近づいてきます。」

 「距離100で発砲!」

 「了解しました。」


 「なんだ、なんだ!」

 俺とフラウの尋常でない動きに、カリムさんが驚いて声を上げる。


 「ユング達の勘が当ったようだ。来るぞ、数が多そうだ覚悟しておけ。」

 レビオムさんが腰に着けた2本の片手剣を左右の手で抜き放つ。

 「マジかよ…。セリナ、ニーナを頼むぞ。」

 カリムさんが右手で腰の片手剣を抜いた。

 セリナさんは魔道師の杖を構える。ニーナさんは短弓に矢をつがえている。


 「【シャイン!】」

 声高くセリナさんが叫ぶ。何かの魔法を使ったようだが、変化は無い。何かの補助魔法なのかも知れない。

 

 ガトルが100mを切って近づいた時、俺はトリガーを引いた。ビュン!っという甲高い音と共にスライドが前後する。

 そして次のターゲットにすばやく銃を動かしてトリガーを引いた。

 次々とガトルを倒しても群れの接近は止まらない。そして1匹が俺の脇をすり抜けて後にいる者達に襲い掛かる。

 

 「えい!」と言う気合が篭った声に続いてギャン!っという悲鳴が聞えた。どうやら倒せたようだ。

 俺をすり抜けたもう1匹が倒されたところで、周辺の生体反応が無くなった。


 ベレッタのハンマーを戻してセーフティをロック、そしてレッグホルスターに収めると杖を持って森に入った。

 杖で藪を掻き分けガトルの屍骸を集めて焚火の所に持って行く。フラウと一緒に集めた屍骸の合計は23匹。カリムさん達が2匹やっつけたみたいだから、どうやら全滅したみたいだな。 

 早速、長剣で右の牙を叩き折る。屍骸を捨てようとしたら、カリムさんから声を掛けられた。

 

 「待て。屍骸を捨てるのか?」

 「はい。ガトルの討伐証は右の牙。残りは捨てます。」

 「なら、俺達に貰えないか?…ガトルの毛皮を剥ぐのは面倒だが、1枚5Lで雑貨屋が買取る。そこにあるだけで100L以上になる。」

 

 なるほど、使えるところは使うと言う訳だな。

 「どうぞ使ってください。俺達は皮を剥ぐ事は出来ませんから。」

 

 カリムさんは俺達に礼を言うとレビオムさんと焚火の外れに穴を掘り始めた。皮を剥いだガトルを投げ込むのだろう。

 大きな穴を掘り終えると、焚火に戻ってきてパイプに火を点ける。


 「しかし、驚いたな。レビオムより早くガトルに気付くとは…。」

 「あれだけ早く気付けば、対処も容易だろう。それは魔道具だな。始めて見る代物だが結構な威力だ。ガトルの体が槍で突いたように穴が空いている。」


 「勘の良さと魔道具で何とかハンターをしています。…それより、あれは何ですか?」

 俺は頭上に浮ぶ光の玉を指差した。


 「【シャイン】の魔法で出した光球よ。周囲を明るく照らしだすの。…でも、貴方達には必要ないみたいね。森の奥をまるで見えるかのように攻撃してたもの。」

 セリナさんが俺の疑問に答えてくれた。そして俺達の攻撃方法に対する疑問を口にした。


 「俺達は暗闇が見えるんです。ネコ族の人達みたいにね。」

 「いや、違う。確かに俺は暗闇でも2M(300m)先が見通せる。だがお前達は藪に隠れているガトルでさえも攻撃した。あれは確かに変だ。」


 レビオムさんは俺達の攻撃を見ていたみたいだな。ここは正直に話しておいた方がよさそうだ。


 「トラ族の人に嘘は見抜かれますね。俺達は暗闇が見えると言いましたが、厳密には少し違った景色を見ているんです。何が見えているかと言うと、温度が見えるんです。」

 「温度だと?」


 「そうです。温度の高いものほど赤くそして白く見えます。反対に低いものは青から黒に見えます。ガトルの場合は腹と口が赤く、全体が黄色に見えますね。藪に入っても見ることは可能ですが木の裏だと分りません。」

 

 「とんでもない能力だな。それなら夜に狩りが出来るじゃないか?」

 「前の村では夜の狩りを主にしていました。」


 「魔法ではないのね?」

 「俺達は魔法が使えません。身軽で力持ち、そして変わった能力のお蔭で魔法が使えないのかも知れませんが…。」


 「良いような、悪いような話だな。俺だって魔法は専門じゃ無いが簡単な奴なら使えるんだが…。そうか、魔法が使えないのか。」

 「でも、魔道師を仲間にともいかないようね。夜の闇を見通せて、身軽に動ける魔道師なんて聞いた事も無いわ。」


 カリムさんとセリナさんは同情してくれてるようだ。

 まぁ、魔道師を必要とは考えていない。

 「なるべく能力は隠しておけ。そして、適当に狩りをしていれば目立つ事も無い。ここは王都が近いせいか、貴族のお坊ちゃんがハンター顔して来る事もある。適当にあしらっていれば問題は無いが目を付けられると面倒だ。」


 忠告はありがたく頂いておく。得に俺達を気遣ってくれる事には尚更だ。

 そして、俺達は焚き火の傍で交替で横になった。と言っても起きてはいるんだけどね。


 明朝、お茶をご馳走になった後で、カリムさん達に別れを告げて村に帰ることにした。

 とぼとぼと森から村への小道を歩くと、何人かのハンターとすれ違う。

 互いに挨拶を掛け合うも、俺達の引き摺っている木にクルキュルが縛り付けられているのを見て驚いている。

 村の門の所で木からクルキュルを下ろして俺が担ぎあげた。前の肉体では到底持ち上げられそうも無いが、今の体では何の問題も無い。

 軽々と担いでギルドの扉を開く。

 カウンターのお姉さんが驚いているけど、一応依頼だからきちんと完了を知らせないとなるまい。


 「依頼を終えて戻ったが、どこにおけばいいだ?」

 「ちょっと待って、外れのカウンターまで来て頂戴。」

 

 そう言って右端のカウンターに走って行った。そのカウンターは扉になっているようで。カウンターを開いて俺達を中に入れてくれた。

 「ここで良いわ。」

 床の端を指差したので、そこにドンっとクルキュルを下ろした。そしてフラウが魔法の袋から更に2匹のクルキュルを取り出す。

 その光景を呆気にとられてお姉さんが見ていたが、やがて俺達を前のカウンターに行くように促がした。


 「驚いた…3匹も狩ったのね。」

 「いや。狩ったのは4匹だ。昨夜1匹は森で食べた。…その匂いを嗅ぎつけたガトルも狩っておいた。」

 そう言うとフラウが小さな袋から牙をカウンターの上に山済みにする。

 「…全部で23個。確かに赤5つの実力じゃないわね。え~と、報酬は羽はギルドで買取るわ。少しやすくなるけどね。そういう事で1匹130L。3匹だから390L。それにガトルの牙が1個20Lだから、460L。合計、860Lになります。」

 

 俺達はカウンターに並べられた報酬を袋に詰めると、直ぐに次の依頼を探す為に依頼掲示板の依頼書を物色し始めた。

               ・

               ◇

               ・


 そんな狩りをしばらく続けて魔法の袋の大型、小型それぞれ5倍収納を手に入れた。

 ついでに、ベルトに取付ける小さなポーチを購入し、これに小型の3倍収納を入れている。直ぐに使うものは纏めて入れておけるから結構便利だぞ。

 次の目標は長剣だな。今の剣はやはり数打ちの感が抜けきれない。

 自分に合った剣を作るというのはハンターのステータスのような所があるようだ。勿論俺達の持つナイフ以上に鍛えられた剣は見たことも無いが、これはバッグの後に隠しているから、誰も気が付かないようだ。

 しかし、このナイフも少し長すぎる。出来ればクナイのような多目的に使えるのが欲しいと思う。


 まぁ、そんな事を考えながら、依頼をこなすのも面白い。

 そして、この村に来てから2ヶ月も過ぎた頃。俺達は遂に念願の自分に合った長剣を作ってもらうことが出来た。1本銀貨15枚。確かに高い買い物だが、長剣の肉厚が通常の2倍はあるから、まぁ、仕方ないのかも知れない。それに20cm程のクナイモドキも作ってもらった。

 料理にも使えるが、最大の魅力は手裏剣としても使用できる。3本を収納できる革のケースに入れて右腕に止めている。

          

 そんなある日、何時ものようにギルドの掲示板で依頼書を物色していると、後から肩を叩かれた。

 「しばらくだな。」

 その声は…と後を振り返ると、ニコリと微笑むヤケットさんがいた。

 「こちらこそ、あの時はお世話になりました。とりあえず元気にしてます。」

 

 そう答えると、「ちょっと話がある。」と言いながらテーブルを指差した。

 何だろうと、フラウと首をかしげながらテーブルの空いた席に着いた。先に座っていたのは、確かエディだったな。確かもう1人いたよな。何て考えていると、お茶をいれた木製のカップを持ってノエルがやって来た。


 皆にお茶が行き渡ると早速ヤケットさんが話し出した。

 「実は面白い依頼を受けたんだが、手伝って貰えると助かる。」

 「この村を案内してくれた恩義は忘れていませんが、裏の依頼は手伝えませんよ。」


 ハハハ…といきなりヤケットさんが笑い出した。

 「それは俺だって願い下げだ。違う違う、まぁ話を聞け。」


 そう言って説明してくれたのは、モグラ狩りだ。マゲリタというらしいが大きさは何と小さなネコ位あるとの事だ。

 だけどモグラって地下にいるはずだがどうやって獲るんだ?


 「普通は罠を仕掛けるんだが、モスレムの方で面白いやり方を考えた奴がいる。餌で誘き出して、奴等の上に【シャイン】を放つ。すると奴等は目が眩んで動けなくなるらしい。そこを一網打尽にする。」


 ヤケットさんは自信を持って話してるけど、何か怪しく聞えるぞ。そんなに上手く運べば苦労はしないと思うけどね。


 「だが、その話を聞いて同じようにやってみた奴はいるんだが、皆失敗したようだ。」

 そうだと思う。単なる噂話だと俺だって思うぞ。

 「そこで、俺は考えた。…餌で誘きだすのは悪くない考えだとな。ノエルは【アクセル】が使える。やつらと同じ位の速さで動ければ、餌に釣られて地上に出たマゲリタを狩れるんじゃないかとな。それに、ノエルは【シャイン】も使える。話半分に聞いても奴等の動きが鈍くなればメッケもんだ。」


 成る程、噂は信用してないが、その中には真実が少しはあると考えているようだ。

 モスレムでどんな方法を使ったかは定かで無いが餌と【シャイン】だけではないと考えたようだな。それを知って、自分なりの工夫をした訳だが…。


 「質問が1つ。【アクセル】って何ですか?」

 「この村で一番の稼ぎ頭が知らないとはな…。魔法だ。俺達の身体機能を半日程、2割高めるんだ。」

 今頃何を…と言うような顔でヤケットさんが説明してくれた。


 「多分、俺達には効かないと思います。でもそれなりに身体機能は自分で高められますから何とかなるでしょう。」

 通常でも人の2倍程身体機能が高めですとは言えないものな。


 「じゃぁ、日暮に南の門で会おう。」

 という事で俺達はギルドを出ると時間潰しを探し始めた。


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