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M-013 カナトールからの脱出

 


 岸壁から、そう遠くない林の中で俺達はキャンプを続けている。

 今日で6日目だから少し飽きてきたのも事実だ。携帯食料は全て食べてしまって、今夜の夕食はグラハムさんの腕次第というかなりアバウトな状態である。

 まぁ、何も獲れない時は俺とフラウで夜の狩りを楽しもうと思ってる。


 盛大に焚火をしてると、グラハムさんがエクサスさんと帰ってきた。持ち帰ったものは…、リスティンに似た小型の草食獣だ。


 「流石ですね。ヨーリルを見るのは、ハンターになってから2回目ですよ。」

 トリムが2人を賞賛する。

 「まぁ、あまり見かけないのは確かだな。こいつはダリル山脈の方にはいるんだがな。多分餌を探して群れから離れたんだろう。」

 そんな事を言いながら解体を始めた。解体できた肉片は早速焚火で作られた熾き火の上で炙られ始める。

 半分程は塩を振り掛けながら遠火で炙る。ある程度肉の脂を抜いた後で薄切りにして天日干しにすると干し肉になるらしい。

 「雑貨屋で買うばかりが能じゃない。時間があれば自分で作るのも良いもんだ。」

 そう言って手馴れた手付きでグラハムさん達は解体を続けていく。


 出来た焼肉を皆で齧る。塩加減が絶妙なのは味付けをエクサスさんがしたからだな。グラハムさんだと少しショッパイし、トリムだと焼きすぎる。

 脂ぎった口をお茶で洗い流すように飲んでいると、グラハムさんが冬はどうするのだ?と聞いてきた。


 「冬は何かあるんですか?…俺としては装備をもう少しここで整えたいと思っているのですが。」

 「冬は何かあるのではなく、何も無いんだ。この村は山村だ。そして結構な雪が降る。この辺りも3D以上の積雪になるぞ。そんな中では狩りも出来ん。だから、その前に俺達は南の町や村に出かけて行くのさ。そして、雪が融ければまたこの村に戻ってくる。」

 グラハムさんは美味そうにパイプを咥えながら俺に言った。


 「去年はカイアルまで出かけたんだ。でも、山村から降りてきたハンターが多かったな。お蔭でギルドの依頼書は奪い合いだった。」

 トリムが懐かしそうに呟いた。

 「今年は、カイアルは嫌よ。あの町はハンターが多すぎるわ。」

 マリーネが今年もカイアルに行きたそうなトリムに釘を刺している。


 「まぁ、確かにあそこは周辺の山村からハンターが集まる。黒であればそれなりに落着いて仕事が出来るんだが…。」

 「それなら、もう少し足を伸ばしてムスタ村に行きなさい。その先で国境を越えてアトレイムに行くのも面白そうだわ。」

 

 この村は確かサレスト村だったな。ここから南に向かってカイアル町、ムスタ村があり、その先は国境になるわけだ。ここはカナトール王国で南に隣接した国がアトレイムなんだな。多分そちらも王国だろう。


 「今は秋ですよね。村で刈り取りをした麦を運んでいましたから、それで後どれ位でこの村に雪が降るんですか?」

 「今は9月の終わりだ。後2ヶ月でここは雪に閉ざされる。冬越しの為に薬草採取が多くなる。それが村を離れる時期と考えれば良い。」


 それ程先の話ではない。こんな山村にまで徴募官を派遣する王国だ。単に南に下るよりは思い切ってアトレイムに行ってみるのも良いかも知れない。

 

 「そうですね。広い世界を見たいと思いますからアトレイムに出かけてみようと思います。」

 「賢明な判断だな。トリム達はどうするんだ?」

 グラハムさんはそう言ってトリム達に話を振った。


 「…そうだな。確かに、余り良い感じがしないことは確かだ。俺達はエントラムズにでも行ってみるよ。あそこは南に山脈があるから冬でもそれなりに狩りが出来るだろう。」

               ・

               ◇

               ・


 次の日、朝から焼肉と言うこの世界に来る前には考えられないような食事を終えると、俺達はキャンプを畳んで村への帰路についた。

 ここから歩けば、湖の岸辺で1泊して丁度8日目に村へ着く事になる。

 トリム達も俺が手伝う事も無くラッピナを12匹も狩っているから3つのチーム共依頼は完了している。

 万が一、村に徴募官が残っていたら…。


 「いいか。絶対に了承しないことだ。どんな事を言っても俺達に手出しは出来ないのがギルドと国の関係だ。これが破られたら、その国からギルドが撤退する。それは王族としても見過ごす事が出来ない事だ。」


 そんな知恵を俺達に授けてくれた。中には家族を人質に取ってサインをさせる事もあるらしいが、どんな手段でも了承したとギルドが認めた場合はハンターにこれを拒否できない所が契約という事らしい。

 変な契約社会だけど、これも時代の表と裏なんだろうな。ちょっとハンターという職業が大変に思えてきたぞ。


 8日目の朝に少しずつ時間をずらして村に入っていく。

 俺達は最後だったが、何時ものように北門の門番さんに挨拶しながら手土産のラッピナを渡す。


 「すまんな。丁度2日前に徴募官が帰ったぞ。良い所に帰ってきたな。」

 門番さんの話だと、うだつの上がらないハンターが数人徴募官と一緒に村を去ったという事だ。

 「まぁ、あいつ等ならこの村にいる必要のない奴等だ。中にはいなくなって良かったと思う者もいると思うぜ。」


 札付きか…。何処にでもいるもんだな。

 そんな事を考えながらギルドの扉を開けると早速、エルミアさんのところに行って依頼の完了を告げて、フェイス草の球根を取り出す。

 

 「はい。数は依頼の通りね。これが報酬の120Lよ。」

 意外と安い依頼だが、この種の薬草採取は結構値段が変動するらしい。今回は余り稼ぎにはならなかったが、目的が目的だからね。


 フラウが報酬を受取ると、バッグからラッピナを1匹カウンター越しにエルミアさんに渡した。

 「今回のお礼です。」

 吃驚している彼女にそう言って、俺達は次の依頼を掲示板で探し始めた。

 いつもなら掲示板にびっしりと貼り付けられている依頼書の数が不自然に少ない。

 あるのはリスティンやイネガル等の大型の獣とやたらに多いサフロン草だ。


 どうしたものかと考え込んでいるとグラハムさん達がギルドに入ってきた。俺達を見咎めると、ホールのテーブルに来るように告げる。


 なんだろう?と首を捻りながらグラハムさん達の対面に座る。

 メルディナさんが人数分のお茶を運んできた。


 「どうやらきな臭さと言うレベルでは無くなったようだぞ。」

 そう切りだしたグラハムさんはメルディナさんの差し出したカップを受取りお茶を口に含んだ。


 「モスレム王国と小競り合いをしたらしい。結果は敗北…という事はだ。次は総力戦になる。おかげでどの村も重税が課せられたようだ。」

 俺は、パイプにタバコを詰める。


 「ギルドの依頼も怪我の治療と兵隊用の食料確保の依頼ばかりだ。この季節に特有な農作物の実りを食べに来る獣を狩る依頼が1つも無い。」

 「短期的には有効だろう。だが、実りが期待できない場合に農民が取るべき道は限られている。」

 グラハムさんの言葉にエクサスさんが続けた。


 「私達は早めに国を出るわ。まだ領民が耐えている内にね。」

 ん…。何を恐れているんだ?

 「いいか。村人に聞いた所では今年の年貢は昨年の2倍という事だ。収穫の8割を差し出せと国王が要求しているらしい。」

 

 ちょっと待て。それは取りすぎだぞ。半分でも多すぎるだろうに、それを8割持って行ったら農民は冬を越せないだろうに…。

 「暴動が起きる。という事ですか?」

 俺の小さな呟きにグラハムさんは頷いた。


 「悪いのは国だ。無理な戦争を計画している国にある。だが暴動が一旦起きたら収束させることが難しい。暴動に加わった者達は自分達以外を否定する。俺達も農民にとっては敵になるんだ。…だがな、農民に向ける剣は俺は持っていない。だから、早目にこの国を去る。」

 「貴方達も早めに決断した方が良いわ。トリム達は早速村を出て行ったわよ。やはりエントラムズに向ったようだけど…。」

 グラハムさんは俺達を逃がしたがっているな。それにメルディナさんも…。


 「そうですね。俺達も少し準備を早めましょう。しかし、このギルドはどうなるんでしょう?」

 「数日の内に、職員は脱出する。その警護を俺達は受けた。」

 という事は、エルミアさん達は何とか脱出出来るんだな。後は、村人で農家以外の人達が心配だな。

 

 「他の村人は心配しないで。彼等は農家と一心同体。襲われる事は無いわ。ともに重税の犠牲者だもの。」

 まだ装備が整わないが、機を逃すと取り返しが付かない可能性もある。食料は幸いにもグラハムさんお手製の干し肉がある。

 「では、俺達も出かけることにします。」

 「あぁ、元気でな。それと国境を警備の連中にはギルドカードを見せれば通してくれるはずだ。国境で揉めないようにしろよ。」


 俺達はグラハムさんに別れを告げると、片手を上げてエルミアに挨拶する。

 そして、ギルドを出るとそのまま北門に向かう。

 門番さんに軽く挨拶して北へ続く道を急ぐ。誰が見ても、次の依頼をこなしに行くハンターに見えることだろう。

 村を出るなら、南の小道を下って下の町に行き、そこから次の村や町に向かう筈だ。

 トリム達はたぶんそんな形で他の国に向うのだろう。だが、俺達は人間ではない。休む事無く行動できるし、夜間も昼間と同じように周囲を視認出来る。


 小道が森に入り、村が見えなくなったところで小さな焚火を作る。フラウとここでお茶を飲みながら夜を待つつもりだ。


 パイプにタバコを詰めて焚火の薪で火を点ける。フラウは長剣をゆっくりと研いでいる。先程、自分の長剣を研ぎ終えたようで、今は俺の長剣を研いでいるんだけど、楽しいのかな。のんびりと刃先を確認しながら、シャー…っと音を立てて研いでいる。


 長剣は研ぎあがったが背中に背負わずに袋の中に仕舞いこむ。手ごろな太さの枝を切り取って杖を作り、薄手のマントを羽織る。

 こうすれば、レッグホルスターのベレッタは目立たないし、腰につけたナイフも目立たない。少し離れた場所からでは俺達をハンターと思う奴はいないだろう。 

 精々村を逃げ出した姉妹ってとこだろうと思う。


 そして、日が暮れて漆黒の闇に三日月が1つ上ってきた。

 俺達の暗視モードは星明りでも周囲を見通せるが、それでも月明かりはありがたい。


 「行くぞ。一気に南を目指す。」

 そう言うと、俺は立ち上がって焚火に土を被せる。

 そして、そのまま東に森を駆ける。フラウが直ぐ後を付いてくるのがヘッドディスプレイで確認できる。ディスプレイを生体監視機能にチェンジするとガトル以上の生体反応に警報機能をセットしておく。

 森林を駆ける俺達の速度は時速20km程だ。湖の岸辺に出て、見通しが良くなると更に速度を上げて駆ける。

 

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