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M-012 3チームの狩り模様

 


 次の日に、俺達7人はトリムの言うところの北の岸壁を目指して歩いて行く。

 俺達の目的はフェイズ草の球根だし、トリム達はラッピナだ。そしてグラハムさんの狩りはカルキュルという事だ。


 「フェイズ草の茎を千切ると、その匂いに釣られてやってくるんだ。ユング達がフェイズ草を取ってくれるなら俺達の狩りは楽なものだ。」

 そんな事をエクサスさんが話してくれた。相手の習性を利用して狩るんだな。参考になるぞ。


 北の岸壁に着いたのはその日の夕方。獲物は無いから、各パーティ毎に携帯食料で夕食を作る。俺達は1人分を2人で分ければ十分だ。

 俺達の小食は皆見慣れているから不思議そうな顔もしなくなったな。


 年代は違うけど、なんだかキャンプをしているみたいで結構楽しいと俺は思う。

 夜中に起こしてくれと、言いながらグラハムさん達が先に休む。俺達が焚火の番をしている内にトリム達は罠を仕掛けに出かけた。

 沢山獲れれば良いんだけどね。ダメだったら少し手伝ってあげよう。

 

 次の日の朝。

 「何で起こしてくれなかった?」

 「俺達は睡眠時間をあまり必要としないんですよ。周囲の気配は読めますし、夜もネコ並みに視界を確保出来ます。俺達がいる時はのんびり寝ててください。勿論、ヤバイと思えば直ぐに叩き起こしますけど…。」

 

 「それでも、夜の見張りは交替が原則だ。眠れなくても横になれ。良いな。」

 そう言って俺達に注意してくれた。

 確かに、ハンター同士は平等が原則らしい。たとえ眠れなくても横になれば良いのか。…覚えておこう。


 昼食後に岸壁を上ってフェイズ草の球根を集める。目標は10個だったが、少し余分に取ってくれないかとグラハムさんから頼まれた。

 何でもフェイズ草の球根は解熱作用は強力で、冬を前にしたハンターは必ず1個は持つべきだ。と話してくれた。


 「俺達の分は今年の冬に、メルディナに使ってしまったからな。雑貨屋にも、おいていない時の方が多い。ちょっと心細かったんだ。」

 そう俺に打ち明けた、グラハムさんだった。顔は厳つい所もあるけど、結構優しいところもあるようだ。


 腰のバッグから粗い布で出来たショルダーバッグを首を通して掛ける。これなら落ちる事も無く両手を使う事が出来る。スコップナイフも鞘ごと前のベルトに差して置く。

 フラウも俺を見習って装備を整えた。そして2人で岸壁を下から見上げる。


 「どうするんだ?フェイズ草は結構岸壁の上にあるらしいぜ。」

 俺達が呆然として見上げていると思っていたのだろう。そんな言葉をトリムが言ってきた。その後でにやにやと笑みを浮かべたグラハムさん達の姿も何となく想像できるぞ。


 「あぁ、そうみたいだな。…フラウ。行くぞ!」

 そう言って、俺はその場から垂直飛びで3m程上の岩場に飛び乗った。

 着地の勢いを利用して数m上の岩場に飛ぶ。更に次の岩場に飛び移る。


 俺達のナノマシンはその配列を変更する事により半重力場を生み出す。もっとも制御特性があまり良くないので長時間使用することは困難だが、このように身軽になって忍者のように崖を上る位は簡単だ。トリム達がいなければ歩いて上る事だって出来るぞ。

 だが、観客が多いので身軽な連中とだけ認識させれば良いだろう。


 直ぐに岸壁を半分位上ったようだ。岩棚に取り付き周囲を見ると、なるほどネギが生えている。

 岩棚の足場は50cm位あるから、体勢を崩さなければ落ちる事は無いだろう。

 屈み込んでフェイズ草の球根を慎重にスコップナイフで掘り取る。後は球根の無い茎を差しておけば来年も取れると図鑑に書いてあったので、その通りにしておく。


 横の岩棚を見るとフラウも同じように球根を取っている。

 3個程確保して、次の岩棚に飛移った。

               ・

               ◇

               ・


 トンとトリム達の待っている岸壁の下に飛び下りた。少し遅れてフラウもトンっと着地する。


 「吃驚したぜ。…あれ程身軽だったとはな。」

 そう言って、俺の肩をポンと叩いたグラハムさんに数本のフェイズ草の茎を渡す。

 

 「足りますか?」

 「あぁ、十分だ。…今度は俺の方の狩りだが、その前に腹ごしらえだ。」

 

 昼食と言っても今朝の残りのスープに硬いビスケットのような黒パンだ。

 俺は昨夜の鶏肉をナイフでバラシてスープの具に加えた。


 「しかし、夜目が利いて、身軽で力持ちか…。若いがエクサス以上にネコ族のような振る舞いだな。」

 「確かに…。しかしネコ族と言えども、先程のように岩棚を飛び移るような事はしない。たまにネコ族に人間の容姿をして俺達を越える身体能力を持つ者が生まれると聞いた事がある。記憶が無いと聞いたが、俺もネコ族の一員として見ているのだ。」


 「でも無理に思い出しちゃダメよ。転移魔法は禁忌の技。誰が貴方達に使ったか分らないけど、思い出そうとしてもいけないわ。出ないと発狂するかもしれないからね。」

 メルディナさんが、俺達にお茶を入れてくれながらそう言った。


 転移魔法なのかどうかは疑わしい技でこの地に送られた事は確かなんだけどね。

 「そうだ。これを渡しておきます。依頼数より多く取ってしまいましたので。」

 そう言って、グラハムさんに3個、トリムに2個のフェイズ草の球根を渡した。

 

 「良いのか?…1個5Lはするんだぞ。」

 「あぁ、良いよ。俺達の分も確保したからね。使う事が無いようにはしたいけど、持っていれば安心だからね。」

 「助かる。値段はどうにかなるが、これが必要な時節には取るのが困難なんだ。」

 そう言うとバッグの中に大切に仕舞い込んでいた。


 お茶が終わり、俺達はパイプを楽しみ、マリーネ達はおしゃべりを楽しんでいる。フラウも混じっている所がなんとも人間らしくなってきたので嬉しくなる。


 「今度は俺達だが、今夜の晩飯にも関係するから、お前達も手伝ってくれ。」

 グラハムさんの話に俺とトリムは頷いた。

 「私達は水と薪を準備するからね。」

 メルディナさんの声に「頼む!」と、グラハムさんが返事を返す。


 「狙いはカルキュルだ。奴の羽根は打撃を吸収する。杖は止めといた方が良いだろう。ユングは長剣が使えるのか?」

 「これを使ったのは、倒したスラバを輪切りにした時だけです。…そうですね、折角手に入れたものですから今回使って見ます。ダメなら、これを使います。」


 そう言ってレッグホルスターのベレッタをポンポンと叩く。

 「それは…魔道具だな。確かにあまり使わないほうが良いだろう。となれば長剣が3つに片手剣が1つか…。」

 

 グラハムさんが、焚火の燃えさしを使って地面に配置を描いていく。

 「先ずはフェイズ草をばら撒く。俺が先頭だ。俺の後をトリム左をユング、そして右がエクサスで良いだろう。」

 「ユングは女ですよ。」

 トリムがグラハムさんに反論する。

 「ユングは暫定赤の5つ。お前はまだ4つだったな。そして俺は黒1つだ。この場合狩りの指図は俺が取る。」

 

 そして、グラハムさんが立ち上がると、俺達も焚火の傍を立ち上がりグラハムさんの後を付いて行った。

 「この辺りか…。」


 グラハムさんがそう呟くと、フェイズ草の茎をエクサスさんと一緒にナイフで切り刻んで荒地に撒き始める。

 

 「離れて隠れるんだ。良いか。カルキュルの蹴爪は鋭い。飛び上がって後蹴りを仕掛けてくる。ナイフ並みの切れ味だ。油断するなよ。」

 そして、お前はそこだ。と教えられた場所で身を低くしてカルキュルの来訪を待つことにした。


 余り草は生い茂っていないが皆巧妙に隠れている。

 そして、俺の生体探知機能に10匹近い何かが近づいてくる反応が示される。

 ヘッドディスプレイではまだ300m程の距離がある。

 50mになってもまだ動かない。

 そして、30mを切った時にグラハムさんが立ち上がるとカルキュルに突入していく。

 それを合図に俺達は立ち上がって、カルキュルに向かって駆け出した。


 カルキュルはダチョウより少し小柄な鶏だ。確かに鶏は普通サイズでも怖い所がある。小学生の頃は学校で飼っていた鶏でさえも近寄れ無かったからな。

 左に大きく迂回すると長剣を抜き放ち左手で持つ。一気にカルキュルに走り寄ってバドミントンのラケットでシャトルコックを打つようにカルキュルの首を狙って振り切った。

 軽い手応えと共に首が吹き飛ぶ。その勢いで次のカルキュルをバッグハンドで狙い、同じように首を飛ばす。

 逃げ出すカルキュルを追い掛けて、追い抜きざまにフォアハンドで首を飛ばした。

 

 少しは逃げられたが、それでも4匹倒したぞ。

 大分離れた所で倒した4匹目の足を掴んでみなの所に引き摺って行く。


 グラハムさんの所に持っていくと、カルキュルが山になって積まれている。

 グラハムさんとエクサスさんが3匹ずつ、俺が4匹そしてトリムが1匹だった。都合11匹だ。グラハムさんが請け負った狩りの数は6匹だと言っていたから、5匹程多い。

 

 「2匹も焼けば今夜は皆で食べられる。準備は俺達がするから、トリムは罠を仕掛けて来い。」

 大分日も落ちて来ている。トリムとマリーネは罠を持って荒地に出かけた。

 大型獣の気配は無いから、大丈夫だろう。


 「倒し方で剣の腕が分るな。グラハム、少し練習した方が良いぞ。」

 そんな事をカルキュルの羽根をむしっていたエクサスさんが呟いた。

 「何だと。俺は全て頭を飛ばしたぞ。」

 グラハムさんが憤慨している。まぁ、分らんでもない。腕が落ちたと暗に言われたようなものだ。


 エクサスさんのところに行って獲物の傷を調べていたグラハムさんが、急に大人しくなった。納得したという事かな。後5日も一緒にいるんだから、喧嘩は良くないと思うぞ。


 焚火に串に刺したカルキュルを横にして炙る。何となくワイルドな雰囲気だな。

 グラハムさんがくれた蜂蜜酒を水で割って飲んでいるけど、この酒も味が良い。今度買っておこうと心に刻み込んだ。

 そして、焼きあがった肉を皆で食べる。この肉は、昨日エクサスさんが担いできた獲物と同じだな。

 試しに軽く狩りをしてみたのだろうか?

 

 「ユング。お前の剣を見せてくれないか。」

 グラハムさんの求めに背中の剣を渡す。その剣をしげしげと見ていたが、「有難う。」と言って直ぐに返してくれた。

 「やはり剣速か…。」

 何て呟いているけど、何かあったのかな?


 

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