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M-114 ラミィ


 ホークからラミィを担いで逃げ出して、早4日が過ぎている。

 カプセルを見詰め続けるフラウの表情に変化は無いが、お茶も飲まずにジッと見続けているのは、やはりしんぱいなんだろうな。


 ハーピィの群れは何回か接近してきたが深い針葉樹の林だ。雪の上にシートを広げてカモフラージュした俺達を見つけることは出来なかったようだ。

 そして、雪原に近いことから大型の獣さえ周辺にはいない。

 雪レイムの親戚みたいな奴がたまに俺達の前に姿を表すが、まぁ、コイツは敵にもならないからな。


 雪を退けて小さな焚火にポットを乗せてノンビリとラミィの変態を待っているのだが、もう少し掛かりそうだな。

 そんな事を考えながら、やりかけのゲームを起動する。

 もう少しで、このゲームも終りそうだが、その前にラミィは目を覚ますかな?


 「マスター、カプセルが内部から動き出しました!」


 フラウの声に、シートの下に走って、フラウの見詰める先を俺も見る。

 しばらくすると、ブルっとカプセルが動いた。

 まるで羽化だな。自分でカプセルを作ったらしいから、ある意味羽化と変らないけど…。

 しばらく見ているとまた少しカプセルが動く。

 

 「もう少しだな。どんな形態になってもそれがラミィであることに変りは無い。生まれ変わったことを俺達も祝福してやろう」

 

 俺の声に小さくフラウが頷く。やはり、変態途中で担いで移動したことが影響を持っているか判断できないようだ。フラウにしては目面しいことだから本人も戸惑っているように思える。

 

 そしてカプセルがこれまでになく大きく動いた時、フラウが手を出しかけたのを俺がそっとその手を押さえて止める。

 

 「もうすぐ、新しいラミィが生まれる。生まれ出る者を手伝うことは止めておくんだ。最初の試練であり、そしてその試練を乗り越えて世界を改めて見るのは、誕生する者の権利であり義務だ。そこに俺達が介在するのは僭越というものだと思うぞ。」

 「分りました。ここで見守り続けます。」


 そんなフラウの肩を叩いて俺は外に出る。

 俺達に生まれた時の記憶はない。だけど、生まれでるものは殆どがその個人の力で生まれる事は知っているつもりだ。

 生まれた後は両親の愛情で育てられるんだろう。それは獣も人間も変わりがない。

 たぶんフラウにしてみれば、見守ることしか出来ない自分に戸惑っているんだろうな。


 そんな事を考えながら、ポットからカップにお茶を注いでのんびりと雪原を眺める。

 たぶん、明日には新しいラミィに会うことが出来るだろう。

 フラウの良い妹分になるんだろうな。

 これからの長い年月、一緒に暮らすんだから喧嘩をする時だってあるかもしれない。

 もっとも、それは互いの自我が固定されて意見の食い違いが生じた時だ。

 俺達の電脳のプログラムは自ら作っていくような形態らしい。そこに個性が生まれる可能性がある。

 個性が無いのはただのロボットだ。俺達はそれを凌駕する存在なのだから、その違いを俺に示して欲しいものだな。


 深夜、針葉樹から覗く空は満天の星空だ。

 俺の知る星座が無いのも不思議な気がする。旧人類滅亡の時から精々2、3千年の筈だから星座が極端に変る訳は無いのだが、ひょっとして歪の影響で銀河系を移動してしまったのだろうか?

 2つのコロニーの電脳もそういうことに感心がなさそうだからな。

 歪の影響はもっと大きかったのかも知れないな。


 俺の隣にフラウが腰を下ろす。

 何も言わずに、フラウのカップを渡すと、美味しそうに一口付けた。


 「カプセルに縦方向の亀裂が生じました。中でもがいている様にも見えます。傍にいると手助けしたい衝動にかられますので、傍を離れることにしました。」

 「今夜には生まれるんだな。ここで、待つか?」


 俺の言葉に、フラウは小さく頷いた。

 かわす言葉も無く、静かに時が過ぎていく。

 北の空が赤いのはオーロラが見えているのだろう。


 ガタリっとシートの中から音が聞こえた。

 思わず腰を上げたが、やがてゆっくりと腰を下ろした。

 そして、更にガタゴト音がしたかと思うと、シートの中から1人の娘が這い出してきた。

 

 「マスター。フラウ姉様…、お待たせして申し訳ございません。」

 「あぁ、構わないさ。急ぐ旅ではないからな。」


 フラウはそんなラミィを抱きしめてるけど、俺としては早く服を着させてやって欲しいな。目のやり場に困るぞ。

 俺達の前に現れた娘は、一言で言えば生きてる人形に見えなくも無い。昔近所の女の子が持っていたあの人形に良く似てる。スタイルといい、顔つきといいそっくりだな。

 だが、明人達の住む王国ならばそれ程違和感はない筈だ。あの国の人々の風貌がアーリア系の顔立ちだから、その中にラミィが混じっても問題は無いだろう。

 スタイルが良く、顔立ちの綺麗なお嬢さんって感じになると思う。


 フラウが俺の担いできた袋に頭を半分ほど突っ込んで、何やら家捜しを始めた。

 取り出したのは、俺達と同じコンバットスーツにブーツ、装備ベルトにMP-3と弾薬ポーチだぞ。手榴弾まで取り出してる。

 素早くラミィに着せてやると、背中に長剣を斜めに背負わせてる。

 見てると過保護のお母さんみたいだな。


 弾薬用のポーチにマガジンを3個入れて最後に頭にキャップを乗せると、俺達の新しい仲間が誕生した。


 「ラミィ。気分はどうだ?」

 「問題ありません。直ぐに出発できます。」


 「出かける前にフラウから点検を受けるんだ。フラウ俺達との相違について重点的に調査だ。」

 「了解です。」


 フラウとラミィが焚火の傍に腰を下ろすと互いの瞳を覗き込む。

 目と目で語り合うってこんな状態なんだ。俺はちょっと感心して、離れた場所でタバコを楽しむことにした。


 タバコを焚火に投げ捨てた所で、フラウの報告が始まる。


 「基本仕様を確認しました。最大の相違は動力源です。私達のような水素核融合では無く、燃料電池を使用します。水素の取出し方法は私達と同じですが簡略化されています。補助の積層バッテリーを使って2時間程体力を2倍にたかめることが可能です。

 基本機能は黒の高位者程度になるでしょう。

 反重力制御も可能です。背中にイオンクラフトの羽を展開することにより飛行距離は私達を凌駕します。

 動体探知、生体探知は出来ませんが、サーマルモードは使用できます。

 推論機能は私達と同程度に高まっています食事も水素を得る選択肢の一つとして取る事が可能です。小型の触媒装置2機に格納可能な水素はおよそ200時間。単純な水素取得は水を飲むことで可能です。」


 俺達と同じと言うわけではないんだな。

 稼働時間も200時間は俺達の2割程度だが、ハンターとして暮らすにはまるで問題はない。

 特殊な武装も無いようだから、長剣とMP-3は丁度良いだろう。


 「それで、現在の水素充填量は?」

 「20時間程度です。お茶で私達と同じように摂取出来ますから、数杯飲ませてから出発したいと思います。」


 「そうだな。幸いにもお茶はたっぷりある。たぶん味覚も持っているんだろう。ゆっくり飲んでから出掛けよう。」


 フラウがバッグの袋からシェラカップをもう1個取り出した。

 それにお茶を注いで、ラミィに渡す。


 ラミィは受取ったカップを見詰めていたが、やがて意を決したかのように一口飲んで驚いている。


 「これが味と言うものですか…。初めての感覚です!」

 「旅の途中だからたいしたものは食べさせて上げられないけど、村に戻れば色んな食べ物がある。楽しみに待ってることだ。」


 ラミィが数杯のお茶を飲む間にフラウはシートのカプセルを確認しているようだ。

 ナノマシンの回収を行なっているのだろう。あれだって俺達には貴重な資源だからな。

 やがて小さなボトルに回収したナノマシンを持ってフラウが現れた。


 「量的な変化はありません。やはりナノマシンの作成にこれが使われたようです。カプセルに爆裂球をセットしました。簡単な自動発火装置を作りましたから、後20分程でカプセルは四散します。」

 「と言うことは、俺達も出発だな。荷物は俺が持とう。先導とラミィの手助けをしてやってくれ。」


 俺の言葉に頷くとラミィに手を伸ばす。ラミィもその手を握り返すと、手に持ったカップをフラウに預けた。

 俺はズタ袋にポットを入れて背中に担ぐ。そういえばナップザックがあったような気がするな。今度休んだ時に荷物を入れ替えて置こう。


 南西方向に向かって俺達が歩き始めると後ろで大きな音がした。

 カプセルはこれで四散した。重力制御を行ないながら歩く俺達は殆ど足跡が残らない。

               ・

               ◇

               ・


 5日程歩いた所で、針葉樹の森の中に小さな焚火を作ると皆でお茶を飲んだ。

 俺達には十分な活動時間残量があるが、ラミィの場合は少ないからな。半分になった時点で補給するのが一番だ。

 

 ところで、此処はどの辺りなんだろうか?


 「不時着地点から西南西に500km程のところです。この山脈の南にコンロンがある筈です。」

 「となると、今度はヒマラヤ越えだな。どうするんだ?」


 「ラミィも自分の体に慣れてきたようですし、このまま西に向かおうと思います。南斜面はキメラの巣ですから。」

 「分った。高原地帯を歩くんだな。結構深い谷があるから気を付けろよ。それと周囲の警戒は頼むぞ。」

 「大丈夫です。何かあれば遠回りに進みます。」


 あと5千kmはあるな。真直ぐに進んでいる訳ではないから、あまり距離を稼いでいないようだ。

 それでも、ヒマラヤを抜ければその後に西に続く山脈はアクトラス山脈なんだよな。

 それに高度が高くなればハーピィの群れは襲ってこない。

 低温と酸素濃度が低い性なのだろう。ハーピィの元の姿はどんな生物だったんだろう。温帯の低地で暮らしてた類人猿辺りがくせものだな。


 「さて、出掛けるか。次ぎはヒマラヤを近くで望めそうだ。」


 俺の言葉にフラウが食器を片付ける。

 バッグの袋で見付けたナップザックとフラウと俺の持つ魔法の袋に、ズタ袋の中身は移し変えたから今度は両手が使えるな。

 袋から取り出した杖を手に、俺達は西へと足を運ぶ。

 

 後ろから見ていても、ラミィの足つきは当初よりかなりまともになってきたな。

 足の長さが俺達よりも長いから最初は苦労していたが、今では昔からその姿でいるように自然な足運びだ。

 休憩時にMP-3と長剣の使い方をフラウが教えていたようだが、できれば使う機会が無い方がいいな。




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