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M-112 不時着


 ホークは順調に飛行している。

 木箱に座って地上を眺める感じでは、時速300kmも出していないんじゃないかな?

 巡航速度よりは遅すぎるような気がするが、地上を眺めるのは都合が良い。

 一角獣が群れをなして荒地を駆けていく姿を見た時は、足しかに此処が魔法の国であると実感できたぞ。


 それに、後を大きく開いているからタバコも楽しめる。

 ラミィが入れてくれた残り少ないコーヒーを飲んで、双眼鏡でこれは? と思う獣を見るのは、ちょっとしたネイチャー・トラベルだよな。

 バックからスピーカーで解説が流れたら正にそのものズバリ何だけどね。


 北上するにしたがって南北に連なる山脈の峰々が急峻になり、太平洋に迫っている。

 高度500m付近を飛んでる俺達は、山脈の麓を大きく迂回するようにことが頻発しはじめた。


 「マスター。高度を300上昇します!」

 「了解だ」


 一々聞くまでもないと思うのだが、フラウは律儀だからな。

 直ぐに高度が上がり、少し遠くまで眺めることができるぞ。


 ふと、奇妙なことに気が付いた。

 北米大陸の海岸には、海獣が多かった筈だ。

 沖に時折現れる巨大な海獣に目を奪われていたが、よく考えれば沿岸地帯にはアザラシ何かが多く生息していた筈だよな。

 双眼鏡で海岸線をつぶさに観察したがやはりそんな姿は見えない。

 10分近く眺めても、姿が無いということは全滅したのだろうか? それとも沖合いにたまに浮かんでくる巨大な姿が彼等の末裔になるのか…。


 高い峰が雪の覆われている。

 そういえば11月だからな。アラスカはもう真冬になってるんじゃないのか?


 核爆発から1日半で俺達は、アラスカの東岸にホークを着陸させた。

 ホークの性能なら半日も掛からないんだろうが、何も急ぐことは無い。のんびり風景を眺めながら帰るのも良いと思うぞ。


 見晴らしの良い荒地で雑木を集めて焚火を作る。

 フラウ達がホークの点検をしている中、俺はのんびりと焚火の番だ。

 MP-3や5はタロスやラミア達の自衛用に置いてきたが、ベレッタと長剣があれば俺たちならグライザムとだって渡り合える。

 

 焚火にポットを乗せて、お茶を沸かしながら核爆弾の爆裂跡をヘッドディスプレイで確認する。

 

 かなり大きなクレーターがあるかと思ったが、約3kmの範囲で新たに生じた円形の荒地が爆裂の跡らしい。

 巨大なピラミッドや石作りの建物は一部の形が残っている。

 だが、その石の表面は高熱でガラスのように融けたいた。


 映像を拡大して南に移動していくと、主力戦車が点々と荒地や森の中に確認できる。

 燃料切れと同時に、内部をVXガスで満たしているから、不用意に近づく者には害があるだろうな。

 更に南の海岸地帯には、拠点に近いところで砂浜に乗り上げた船が見えた。

 一応鉄材だし、部材の転用が出来るから、タロス達の修理用の部品として使えるんじゃないかな。

 

 「マスター、点検作業を終了しました。」


 そう言って焚火の反対側にラミィと一緒に座る。


 「ありがとう。ところで、歪の除去は完了したのかな?」

 「バビロンとユグドラシルの電脳が解析中です。概略計算では一応成功であると答えてくれました。」


 一応ってのが微妙だな?

 まぁ、もう核爆弾は無いんだし、新たに作るにはかなりの年月が必要だ。

 色々と不確定要因もあったのだろう。一応成功なら満足できるんじゃないかな。


 「それと、問題が1つ見つかりました。燃料消費がエンジン消費量を上回っています。原因は燃料パイプの継ぎ手からの漏洩でした。水素系の配管ですから交換する外に方法がありません。このままでは残り6千km程の飛行距離になってしまいます。」

 「ぎりぎりコンロンを過ぎた辺りか…。まぁ、それも仕方がないことだろうな。歩いてきたんだから、コンロンからなら精々5千kmは無いんじゃないか?」


 1日で100km歩けば50日だ。俺達の移動速度は結構速いから楽勝だろう。

 フラウとのんびりお茶を飲む。

 ラミィがそれを黙ってみているのはちょっと可哀相だな。俺達と同じ体を手に入れる方法はあるんだろうか?

 待てよ…。確かフラウはラミアの電脳を強化したと言っていたな。

 それは、あの小さな水筒に入っていたナノマシンの働きによるものだろう。ならば、あのナノマシンをを使って現在のラミィの体をロボットから俺達のようなナノマシンで構成されたオートマタに変えることも出来るんじゃないか?


 「可能ですが、時間が掛かります。そうですね…、10日前後と予想されます。」


 これからも俺達と行動を共にするのだ。1人だけ仲間外れは良く無いよな。

 

 「そうだな。ホークが停止したところで術式を始めれば良いだろう。アクトラス山脈の繋がりまで飛べば俺達も一安心できるから。」


 俺の言葉にフラウが頷いてラミィを見詰める。

 ラミィは何のことかと悩んでいるようだが、これからは俺達と同じように喜怒哀楽を表現出来るようになるだろう。今でもたまに嬉しそうに見える時があるんだが、外骨格で構成されたロボットだから顔の表情は何時も一緒なんだよな。


 水素タービンエンジンへの燃料供給パイプの漏洩らしいが、エンジン付近ではないようだから少し安心だな。

 高度を上げると気圧の関係で漏洩量が増えるからこれからは300m付近を飛ぶと言っていた。

 

 お茶を飲んだ所で俺達はホークに乗り込む。

 俺達の活動時間は500時間を優に越えている。このまま20日間連続で戦闘できるぞ。

 

 スイっとホークが浮上して、ベーリング海を目指して進む。

 300mと言っていたが千mは越えているぞ。そして速度も500kmを越えている。

 最短時間で海越えをしようとしてるな。それに、海洋を低空で飛ぶのは足しかに危険だからな。


 ベーリング海に地下づくにつれ、周囲は白一色に変っていく。

 北極海も氷原になっているのだろうが、この狭い海峡は空の上からでも激しく南へと流れる海流が見て取れる。


 突然、機体が大きく左に方向を変えた。白い大陸が蒼い海の向うにどんどんと遠ざかる。何となく旅愁を感じる風景だな。

 下を見ると、まるで急流のようになって流れる海流が見える。

 その海流に負けないで北極海を目指す物が黒い影になって何頭も通り過ぎていく。

 クジラにしては細長すぎるな…。あれもまだ見ぬ海獣なんだろうな。


 そして、唐突に白い大地が機体後部の開口部から見えてきた。

 いよいよユーラシア大陸、やっと帰ってきたって感じだな。これからは歩いても1年は掛からない。

 

 「マスター、燃料消費が激しくなってきました。このまま低空飛行に移行して、漏れ量を削減しますが、飛行距離は時速300で3千kmが限度だと推測します。」

 「了解だ。なるべく平地がある場所を選んで飛行しろよ。」


 となると、歩くのは5千kmってところだろう。

 まぁ、歩くのも良いかもしれない。旅の最初は歩いたんだからな。いくら生体ではない体であっても、運動は必要だと思うぞ。


 小さな山が少しずつ連なりやがて山脈を形成してきた。

 どうやら、アクトラス山脈の北を飛行するようだ。

 足しかにこの季節なら北の大地は雪原になるな。不時着しても雪原を滑走して大破しないで済みそうだ。


 機体高度は更に下がって200m程の高さだ。

 速度も飛行機と言うよりは新幹線並みの速度だぞ。時速300kmは出ていない。


 木箱に腰を下ろしてタバコを楽しんでいると、フラウが俺に呼び掛けてくる。


 「マスター、非常用燃料タンクに切り替わりました。あと1時間の飛行になります!」

 「此処まで来れば地元だからな。何処でも良いぞ!」


 「着地前に後部の開口部を閉じます。」

 「あぁ、だがまだまがあるんだろ?」

 「事前に連絡します。」


 開いてると、落とされそうだ。それは願い下げだぞ。

 そんな話をしている内に、更に高度が下がっている。今は地上100m付近だ。

 これが、ホークで楽しむ最後のタバコになるのかな?

 そんな事を考えていると、フラウから扉を閉めると声がした。

 急いでタバコを開口部から投げ捨てると、操縦席の方に歩いて、機内の荷物固定用のストラップを握り締める。


 「いよいよか?」

 「はい。予備タンク残量レッド表示。後数分です。」


 ホークの飛行する高さが更に低くなる。数十mから数mになり、殆ど自動車の感覚に近い。


 「エンジン停止。反重力装置出力低下!」

 「衝撃来ます!」


 ガツン!という衝突を想像していたんだが、衝撃は極めて小さい。とは言っても、急ブレーキを掛けたように俺達の体が前後に大きくゆすぶられ、続いて振動が襲ってきた。


 激突と言う惨事は免れたようだ。雪原に低角度で接触したから、雪の上をしばらくホークは滑走してようやく停止した。


 「マスター、大丈夫ですか?」

 「あぁ、あちこちぶつけたが大丈夫だ。ところでここは?」


 「南西300kmにコンロンがあります。コンロン北東に広がる高原地帯ですね。」

 「となると、ハーピィ達がいそうだな。周囲は俺が見張るから、フラウはラミィを頼む。」

 「了解しました。それではこれをお使い下さい。」

 

 シートベルトを外してフラウが荷物室の木箱の蓋を外す。

 その中の袋から取り出したのは、真新しい、MP-3だった。


 「MP-3や5はラミア達に持たせたんですが土産用に2丁持参しました。弾薬は30連マガジンが10個です。」

 「例の弾丸か?」


 俺の言葉に頷いたという事は、強装弾で徹甲弾ってことだよな。

 銃とマガジンを3個受取って、後部開口部を開いて外に出る。確かに一面の雪原だ。どんよりとした暗い雲は何時雪が降り出してもおかしくない。


 開口部より外に出ると、ホークに屋根に飛び乗った。

 胡坐をかいて、膝元に銃を置く

 これから10日間、此処でフラウ達の邪魔が入らないようにしなければな。


 ヘッドディスプレイで周囲の動体と生命反応を確認する。流石にこの雪原では何も無いようだ。

 だが、北極海にもとんでもないやつがいた位だから油断はできない。

 しばらくは、パイプでも楽しむことにしよう…。

 ん? 確かどこかで葉巻を手に入れたよな。あれなら、パイプよりも長く楽しめそうだ。

 バックの袋を漁ってようやく数本の束を見つけると、1本を取り出して火を点けた。

 明人達はどうなってるかな?

 奴の方は北国で核を使ったことになる。今頃はどこかの山で野宿しているんだろう。俺達と違って生身の体だからちょっと心配になってきたぞ。





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