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M-110 11月15日


 どうにか敵軍を敗走させたものの、こっちの被害も馬鹿には出来ない。

 騎兵隊は2小隊程修理すら出来ない程に破壊されたし、偵察車両も6台が破壊された。

 敵の増援を考えると、今度は更に大部隊で来るよな。

 やはり年を越えるのは無理だと思うぞ。


 明人からの連絡では核は使うなと言っていたが、それが使えないとなると貧者の核兵器を使うしかない。更にVXガスの生産をする他はないだろう。

 ドラゴンでの森林破壊に併せて空中散布を行うか…。


 荒地に転がるおびただしい死骸の中にぽつんと1台の偵察車両が見えるのがシュールだな。

 そんな光景を見ながら一服していると、フラウが近づいて来た。


 「敗走した軍勢は約4万程です。王都には既に20万を越える軍勢が集まっているようです。」

 「人海戦術は好きになれないよな。兵隊が消耗品だ。連中からすればそうなのかも知れないけど、俺達は心を持ってるからな…。」


 「私も持っているのでしょうか?」

 「あぁ、持ってるとも。自分では気付かないかも知れないけど、フラウは俺と同じように心を持ってる。まだ幼い心だから、明人のところに帰ったらしっかりと育てなくちゃならない。

だが、今はそれを表に出すな。これからの事を考えると、せっかくの心が砕けてしまう。」


 俺の言葉をかみ締めるように聞いていたが、ちゃんと理解してるんだろうか?

 本来ならば、ディーと一緒に、あの元気な嬢ちゃん達と一緒に暮らせば直に喜怒哀楽の感情が持てるんだけどな。

 それは、帰ったときに相談すればいい。ラミィだって、同じ事だ。


 「ところで、ダミー基地への武装はもう余力がないのか?」

 「大侵攻に何をどの様に使うかで余力が出ます。」


 そろそろ真剣に考えないとな。

 大掛かりな陽動と正面攻撃の組みあわせ、最後は隠密行動で核を運べば良いと思うんだけどね。

 

 「俺の考えをトレースしたならば、その方向で作戦を立てて欲しい。出来れば、騎兵隊の生存者をパルチザン的に使用して南大陸を掻き回したいな。」

 「打撃武器を持たせますか…。重機関銃の弾丸では精々一月です。」

 

 「その辺は任せるよ。出来れば100年は南大陸を掻き回したい。」

 「ケンタウロスの仕様を再確認してみます。」


 出来れば1中隊規模で撹乱したい。

 火器も、背中のバッグと補給車両が数台あればしばらくは過ごせるだろう。

 隠匿拠点を作って、そこを根城にすれば連中の北進をしばらく食い止められるだろう。

 代侵攻時の騎兵隊の使い方も微妙だな。側面を攻撃して南進させればパルチザンの陽動にもなるか…。

                ・

                ◇

                ・


 そんなある日、明人からの通信が入って来た。

 互いの状況を話していたが、やはり俺達の事をしっかりと見ていたようだな。

 

 「11月15日だと!」

 「あぁ、直近ではそうなる。それを逃すと来年だ。」


 「それでいい。詳細な時間についてはフラウが再度ディーと確認すれば良いな?」

 「そうしてくれ。時差とかあると面倒だからな。…それで、また歩いて帰ってくるのか?」


 「いや、船を見つけたんだ。それを使うつもりだが…。」

 「海は危険だ。沿岸部ならそうでもないらしいが、カラメル族の言う事だから信憑性は高いぞ。」


 「確かに、北極海にもとんでもない奴がいたな。教えてくれて助かる。何とか別の手を考えるよ。」


 見掛けは違うが、たまには同性の友と話すのも良いもんだ。

 問題は、2つだな。11月15日と海は危険か…。

 直に、俺達の話を横で聞いていたフラウに対応を聞いてみた。


 「決行日時は再度確認しますが、残り三ヶ月程度です。準備を急がせますが、船が使えないのは残念ですね。ホークを使って行ける所まで行くという形になりそうです。」

 「たぶんそうなるな。それで、どれ位の距離を飛べそうだ?」


 「アクトラス山脈にはたどり着けるでしょう。積載重量にあった燃料を充填しても2万kmは飛行できません。まして、ホークの動力は単機ですから、海を渡るのはリスクがありすぎます。」

 「陸路を飛行するから無駄に飛行距離が長くなるのか…。まぁ、歩くよりはマシと考えればいい。」


 待てよ、そうなるとあの船が余るよな。あれを使って騎兵隊を南に送るか。

 騎兵隊は生体じゃないから、その時までフリーズさせておけばいい。車両だって分解して現地組立ても可能だろう。タロスやラミア達も送ってやれば、長期的なメンテナンスも出来る。

 問題はどこに送るかだよな。

 北進の敵のルートに近く、小さな入り江があって、敵の哨戒が及ばないところがいいんだが…。


 「フラウ。敵の増援部隊に追従する哨戒部隊の飛行経路を全て表示できるか?」

 「過去1年分なら可能です。大型ディスプレイにひょうじさせます。マスターの手元の操作卓で拡大、縮小等が出来ますよ。」

 

 早速始めると、増援部隊の進路は横幅20km程に限定されている。

 哨戒部隊に飛行経路もその道幅に沿って精々10km離れるかどうかだ。確かに、大部隊だから敵に襲われる心配はないよな。

 そのルートは海岸線をかなり離れて、50km程内陸にある森林を縫うように続いている。

 海岸と森の間は荒地があるがここはグールイーターの住処なのかも知れないな。

 そう言う意味では、岩場が望ましいが、船の接近が厄介だ。

 

 海岸線をしらみつぶしに調査して、ようやく満足できる場所を見つけた。

 溶岩の流れが海に達したような場所だが、砂浜の隣は半ば砂に埋もれた溶岩台地だ。トラックが砂に埋まっても対空車両はキャタピラだからワイヤーで救出できるだろう。

 大きな岩が数個点在しているから、そこに拠点を作ればいい。

 場所はここから1千km程南だが、電磁誘導で動く船だから3往復は出来るだろう。ホークを使っても良いだろうし…。

 

 場所をフラウに教えて、後の措置を任せる。

 ラミィもいるから手分けして作業するだろう。

 

 「良い場所を見つけましたね。ホークでの荷役も出来ますから都合が良いです。」

 「三ヶ月程しかない。出来れば通信車両を改造して戦術電算機を搭載したい。」

 

 「ラミアの電脳を強化します。パルチザン的な思考を持たせる事は可能です。敵の要撃と味方の損耗を防ぐ戦が出来るようにします。偵察機4台と偵察ロボットの運用も可能にしておきましょう。」

 「小火器も準備してやってくれ。タロスとラミアで10台に未たないが拠点の防御ぐらいには使えるはずだ。」

 

 蟷螂の斧なのかもしれないが、少しでも減らせればと思う。

 施設の資材を運んだ後に、この施設の隠匿された開口部を開いて残しておけば、奴らも調べざる得ないだろう。だがここは低酸素施設だ。人間が入れば一発で酸欠になって倒れてしまう。ちょっとしたトラップになる。

                ・

                ◇

                ・


 二月が過ぎたところで、司令室に3人が集まり状況を確認する。

 大型ディスプレイが俺達の前に表示されると、フラウが自身ありげにレーザーポインターで報告を開始した。


 「現在の王都の状況ですが、次元断層はほぼ旧来に復帰しました。それと同時に敵の【カチート】による障壁の保管措置は終了した模様です。

 王都周辺の敵軍は東西南北にそれぞれ30万単位で集結しています。南大陸からの増援は引きもきらずと言ったところです。

 王都周辺の森林は7割程度焼却しました。現在はドラゴン2機を使って焼却を継続しています。

 敵軍への攻撃は、騎兵隊2小隊による擲弾攻撃及びドラゴン3機によるロケット弾攻撃を継続しています。攻撃ポイントは西の部隊と北の部隊です。

 パルチザン拠点への物資の搬入は船便が3回、空便を10回実施しました。ラミアとタロスを2体輸送しています。現在は戦術電脳の整備と近接自動火器の調整中です。現在までに輸送した騎兵隊は3小隊。全て完全装備です。残りの1小隊とタロス達は採集の船便で輸送します。」


 「小型のVXガス爆弾も送ってあるのか?」

 「50kgの物を100個程送っています。」


 「隠蔽は?」

 「大型の不燃シートで既存の岩を使って隠蔽しました。シートは3層に展開しています。小型レーダー2基を岩の形状にしたドームに納めてあります。太陽電池は展開式を3基運んでいます。基本は小型の燃料電池を使用します。水素生産プラントはイオンクラフトより取外して運びました。」

 

 ちょっとした陸軍基地になってしまったな。

 画像には対空車両も4台写っているし、偵察車両も拠点の周囲に展開しているようだ。

 

 「後は、大侵攻だな。」

 「一応、作戦計画は立案終了。それに沿ってシュミレーションを実施した結果では、歪みの破壊に成功しています。」

 

 「という事は、後は決行を待つだけということか?」

 「全ての車両の解凍が終了しました。遠征用の予備燃料パッケージで走行距離は1,100kmに伸びています。現在の作業はドラゴン用の爆弾作りと、爆弾を強化した偵察ロボットの製作を行っています。」


 あれから大分偵察用ロボットを潜り込ませてるな。

 まだ作るということは、かなり大規模に尖塔を破壊する事を考えてるみたいだ。

 問題は、尖塔を破壊した後に、敵が迅速に【カチート】を展開するかも知れないという事だな。

 

 「大侵攻での俺達の役割は?」

 「核爆弾を歪の上空に到達させて爆発させる事だけです。」


 いよいよか…。ようやく目的が達成できそうだな。

 数日後にドラゴンが拠点に輸送された。ロケット弾がたっぷり残っているらしいから、向こうの方が役に立つだろう。

 変わりにホークを使って爆撃している。積載重量はドラゴン10機に匹敵するから、一度に与える損害はこっちの方が遥かに大きい。

 

 そして11月15日の1週間前、偵察車両と105mm自走砲それに軽戦車の全てが出撃して行った。騎兵隊2小隊と支援車両も一緒だ。

 王都の西の部隊を強襲するのだが、2度とは戻らぬ部隊なんだよな。


 大侵攻3日前に、タロスとラミアそれに部品や簡単な工作機械を乗せられるだけ積み込んで船を拠点に向けた。

 まだ、少し弾薬が残っているらしいが欲はかかないほうがいい。

 そして、大侵攻前日に隠匿扉を全開にして主力戦車380両を荒地へと進出させた。

 約60両の中隊編成の主力戦車が横に並ぶと迫力があるな。

 その後ろに155mm自走砲と多連装ロケット砲が進む。

 残った対空車両と偵察車両は通信車両を守るようにその間に入る。


 「俺達の出発は何時だ?」

 「戦端が開かれても間に合います。ホークの上空にイオンクラフトを同行させます。5千m上空を進みますから戦闘の全体を眺められますよ。」


 ヘッドディスプレイの片隅には核爆弾のカウントダウンが始まっている。11月15日11時22分まで残り22時間だな。

 タバコの箱も残り5個を切っている。明人への土産に1個は残しておくか。


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