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M-011 村に来た徴募官

 


 宿の朝食を頂いて何時ものようにギルドに出かけた。

 「おはよう!」と言いながら扉を開けて、カウンターのお姉さんに片手を上げて挨拶すると、俺に向かっておいでおいでと手を振る。

 何だろう?と思いながらもカウンターにやって来た。


 「急いで、何でもいいから依頼書を持ってきなさい!」

 直ぐにフラウが掲示板に駆けて行き、適当な依頼書を引き剥がして持ってきた。

 お姉さんは急いで確認印をドン!っと押すと、俺につきかえす。フラウが受取ってポケットにそれを入れるのをお姉さんは確認すると、俺の耳元に顔を近づける。


 「絶対に、1週間は村に戻ってはダメよ。そちらの裏口から、村の北門に出なさい。いいわね、1週間よ!」

 そう言って俺達を急いで裏口から追い出した。


 仕方なく、フラフラと北門に行き、何時ものように門番さんに挨拶すると村を出た。

 1週間は帰るなと念を押された以上、8日は帰らぬつもりだが一体何の騒ぎだ?

 とりあえず湖の岸辺まで行くと、焚火を作ってお茶を沸かす。

 フラウに入れてもらったお茶を飲みながら、何の依頼書を取ってきたのか聞いてみた


 「フェイズ草と言う薬草です。日当たりが良く、水はけの良い砂地に生えるとありますが、多くは断崖に自生していると注意書きがありますね。」

 そう言って図鑑を見せてくれたが、それはまるでネギだった。確かネギって風邪をひいた時に色々と使われる民間治療があったよな。そんな使い方をするんだろうか?


 「球根を煎じて飲むと高熱を癒すと書かれています。私達には必要は無さそうです。」

 フラウはそう言って図鑑を綴じた。

 

 「さて、問題はこの近くに崖があるかどうかだな。」

 「北の山脈は結構急峻です。断崖もあるのではないでしょうか?」


 2人でのんびりとしていると、村の方からハンターが逃げるように俺達のところに近づいて来る。

 この生体反応は見覚えがある。そして

ディスプレイには緑の丸の隣にトリムとマリーネと表示があった。

 先方も俺達に気付いたらしく、こちらに向かってきた。

 フラウは早速ポットに水を入れて火に掛けた。

 

 トリム達は俺達に片手を上げて挨拶すると、焚火の対面に2人で座った。

 「この間は、有難う。…この騒ぎだが知っているか?」

 俺とフラウが首を振って知らないと応える。

 

 「この騒ぎはハンターの徴用だ。この一帯はカナトール王国の所領になる。カナトールがどうやら戦をやらかすらしい。そのため敵軍に切り込めるハンターを募集しているのさ。

 募集と言えば聞えはいいが、目ぼしいハンターを片っ端から安い給与で雇い入れる。確かに俺達は依頼を受けて狩りをする。

 しかしだ、相手が人間となれば、そしてその人間に何の恨みも無いとなると…。」

 

 ある程度の融通の利くハンターは使い捨てって所だな。傭兵としてハンターを利用するのは、何となく理解出来る話だ。

 相手に義が無いのであれば喜んで参戦しても良いが、ギルドのお姉さんが慌てて俺達を逃がした所を見ると、こちらに義は無いのであろう。

 そして、カナトール王宮の徴募官が去る数日間は村に近寄らねばこの徴用を受ける事も無い。

 ギルドに来ないハンターを徴用する事は出来ない訳だ。


 「トリムもギルドのお姉さんから急かされたのか?」

 「いいや。俺達は宿のおばさんからだ。急いで裏口を使いなさいってな。」

 そう言ってフラウが入れたあげたお茶を美味しそうに飲んでいる。


 なるほど、よほど今回の戦にカナトールの義は無いと見える。

 「という事は、ギルドで依頼を受けていないのか?」

 「そこに抜かりは無い。昨日の内に済ませておいた。ラッピナを12匹。この間の罠を使えば1週間で何とかなるはずだ。」

 お茶を終えて今度はパイプを楽しんでいる。それを見て俺もパイプにタバコを詰める。


 「しかし、1週間で王宮の徴募官は帰るのか?」

 「今までは、3日位だったな。村のギルドに登録しているハンターは精々20人程度。通常なら、2,3日あれば依頼を処理して帰ってくるはずだ。そのハンター達に条件を示して参加を促すのが本来の徴募官の仕事なんだが…。」

 「半ば強引に勧誘していると言う訳だな。」

 

 嫌そうな顔をしてトリムは頷いた。

 「俺達と一緒にハンターになった奴がいたんだ。幼い頃からの友達だから良く一緒に仕事もした。

 ある日、徴募官に捕まって連れて行かれたんだが、半年後に片手を失い痩せこけた姿で帰ってきた。

 貧しい俺達は耕す畑も無い。ハンターになって暮すしかないんだが、片腕のハンターに何が出来る。奴は、近くの薬草採取で生計を立てていたけど、そんな姿を見ていられなかった。

 そして、この村に流れ着いたのさ。」


 確かギルドでハンターになったとき全て自己責任と言われたな。

 形上、依頼によって傭兵になったのだから、片腕を失っても自己責任の範疇になるのだろう。

 一見、楽しくお金を稼いでいるようにも見えるけど、必ずしもそうではない訳だ。ギルドの職員もみすみすハンターを潰しかねない徴募官には苦々しく思っているのだろう。だから俺達を逃がしてくれたに違いない。


 「ここで会ったのも何かの縁だ。1週間一緒に行動しないか?」

 「あぁ、構わないぞ。フラウもいいな?」

 フラウは小さく頷いたから、OKなんだと思う。


 「ところで、食料はあるのか?…俺達は3日分位しか持っていないんだが。」

 「俺達も似たようなものさ。4人なら小型の草食獣を狩れるだろう。それで食いつなごうと思うんだが…。」

 

 意外と前向きな奴だな。実際俺達は水さえあれば当座は全く困らない。物をたべるのはこの世界で暮す擬態に過ぎない。

 「とりあえず、村から離れるか?…徴募官がどんな手段をとるか分らないが、岸辺で野宿するのも拙そうだ。」

 

 「ユング達はフェイズ草だったな。北の岸壁にあるはずだ。そしてその手前の草原はラッピナの宝庫だ。」

 俺達が焚火を埋めている間に、フラウとマリーネは湖から大きな水袋に水を汲んでいる。どうやら近場に水が無さそうだな。。


 俺達はトリムを先頭に北の岸壁を目指して、ダリル山脈から続くなだらかな斜面を上って行った。

 森を抜け、見通しの良い林を抜けると荒地が広がるがこの季節は雑草に覆われた草原になっている。

 草原は所々に丈の低い潅木が茂り、大きな岩が所々に顔を出していた。


 そんな大岩を背にして今夜はここで野宿をする。

 日が暮れない内に急いで薪を集めて小さな焚火を作った。

 そして日が沈むとフラウが闇に消えていく。早速ラッピナを狩りに行ったようだ。


 俺達がポットでお茶を沸かしている間に、フラウが2匹のラッピナを下げて戻って来た。

 「相変わらず、簡単に狩るよな。」

 「俺達は夜目が利くからね。それに杖は長剣より扱うのに慣れている。」

 フラウがマリーネにラッピナを渡すと、どれ!ってトリムが焚火の傍から腰を上げる。

 今度は、トリムとマリーネが焚火を少し離れてラッピナを捌きはじめる。

 

 ラッピナを串に刺して、今夜はこれが夕食だな。

 滴った油がパチパチと焚火に爆ぜる音を聞くのも食欲がそそられる。トリムなんか、さっきから肉から目が離れていないぞ。

 

 「マスター。どうやら、客人のようです。」

 「なんだ?」

 「俺達が周辺の気配を読めるのは、前に言ったよな。夜は特に読めるんだ。ここに、3人がもう直ぐ来るはずだ。」

 

 しばらくすると、闇の中から3人のハンターが現れた。グラハムさん達だな。

 「お前達も上手く逃げる事が出来たらしいな。俺達もここで野宿をしたいが構わないか?」

 「どうぞ。ただ、俺達も食料が乏しいので…ご馳走する事は出来ません。」

 「心配するな。俺達も途中でこいつを仕留めて来た。ラッピナには落ちるが量はある。」

 エクサスさんがドサリと焚火の傍に革袋を投出した。そして革袋を開けると大きな鳥肉が入っている。

 こんな大きな奴は見た事が無い。ダチョウより小さい位だが、いったい何だろう?


 エクサスさんが短刀を使って肉を捌き串に刺していく。それをメルディナさんが焚火にかざして炙り始めた。

 よいしょ。っと言いながらグラハムさんが、途中で拾ってきたらしい薪を俺達の薪に混ぜると焚火の傍に腰を掛けた。


 「今度の徴募官は一番嫌われている奴だ。そいつを出張らせたという事は、かなりヤバイ戦が近日中にあるという事になるな。」

 パイプにタバコを詰めながらグラハムさんが呟いた。


 「平和そうな国ですが、そんなにきな臭いんですか?」

 「まぁな。先代の王が亡くなって、今度の王は覇王を望んでいるようだ。強硬派の貴族を味方にして、先王に仕えた貴族は良くて閑職。酷い場合は詰まらぬ理由で追放している。

 そして、軍備を整えるために段々と税も上がっていると聞いた事がある。

 いいか。俺達はハンターだ。仕事は自分で納得の行くものをするのが鉄則だ。この国が戦に巻き込まれそうになったら、どこでも良い逃げるんだぞ。そして、逃げた先でハンターを始めろ。俺達のこのカードは周辺諸国で共通だ。」


 要するに危なくなったら逃げろという事だな。しかし、このカードが共通だとは思わなかった。ある意味パスポートとして身分を証明できるようだ。

 

 良い匂いに焼けたラッピナの片足を貰ってフラウと分けた。トリム達はその位で体力が維持出来るのか、といぶかしんだが俺達にはこれでも多い位だ。

 トリム達は1匹をグラハムさん達の獲物と交換している。こんな行為を焚火を囲んでするのも何となく楽しく思えてくる。


 チビチビと肉を摘んでお茶を飲む。

 そんなものじゃ足りないだろうと、グラハムさんが焼けた鶏肉の1串を俺達にくれたので2人で半分を食べて残りはスープ用に取っておく事にした。


 「ホントに小食ね。それで、あのイネガル2匹を曳いて来たとは驚きだわ。」

 「まぁ、小食ですけど力はありますよ。」


 「多分徴募官の下っ端が村に残るだろう。そいつ等の言う事は聞く必要も無い。先に手を出したら殺しても構わん。ギルドに喧嘩を売るとはそういう事なのだ。だが、貴族相手は少し面倒になる。そいつが帰る間は村に近づかぬ方が賢いやり方だ。」

 俺が早い段階で帰り、村でいざこざを起こすと考えたのだろうか。そんな事を焼肉を齧りながら俺に言った。


 「大丈夫ですよ。カウンターのお姉さんにも念を押されてます1週間は帰るなとね。」

 「エルミアらしい忠告ね。ちゃんと守るのよ。」

 カウンターのお姉さんはエルミアって言うのか…。


 俺達は総勢7人になった。これならガトルの群れでも怖くない。

 交替で焚火の番をしながらおれたちは眠りに付く。と言っても俺はRPGの続きを朝まですることになったけどね。


 

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