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M-107 ドラゴン攻撃隊


 「現在の状況を報告します。」


 昨夜、ダミー基地に敵の夜襲があった。その状況を大型ディスプレイで確認していた俺の傍にやってきたフラウが言った。


 「ダミー基地ですが、迎撃能力が2割低下しました。105mm自走砲の遠隔制御機銃を取外して固定銃座に変更中です。今夜には、夜襲前の2割増し。明日の夜には5割増しになります。」

 「そこまで対空能力を上げておけばしばらくは持つな。」


 「続いて、敵王都の状況です。次元断層の仮復旧は順調に推移しているようです。現在の開口部の大きさは水平方向約1km。高さ150mまでに縮小しています。

 これ以上開口部が小さくなりますと、夜間強襲の成功率が低下します。ドラゴンによる夜間強襲を今夜決行します。陽動は、騎兵隊による一撃離脱。北の森の4割が消失しましたので、騎兵隊の使用が可能です。」

 「問題は敵の飛行部隊だな。対策はあるのか?」

 

 「ありません。昨夜の襲撃で200は葬った筈ですが。王都の上空の守りに変化はありませんでした。」

 「次の課題だな。対空車両を出す訳にもいかないしな。」


 「最後に、解凍の状況です。現在主力戦車2中隊の解凍が完了しました。このままの速度で解凍を実施しますと、全部隊の解凍が終了するのは1年後になります。しばらくは主力戦車を中心に解凍処理を継続します。」

 「解凍は仕方がないとしても、燃料製造の方はどうなってる?」


 「解凍次第燃料カートリッジに補給しています。増槽を新たに製作して装着していますから、王都への進軍に問題はありません。プラントの稼動も順調です。常時1中隊分の蓄えを持っています。」

 「ふむ…。ところで、爆薬の合成は可能か?」


 「可能ですが…、現在VXガスの合成中ですから、その後になりますよ。」

 「それでいい。多連装ロケット1小隊分を作ってくれれば、既存のクラスター弾頭は爆弾に加工出来るだろう。」


 やることがありすぎる。

 もう数人欲しいところだが、この地に残す事を考えるとそうも行くまい。

 ラミィだけは連れて帰っても、残りの補修用ロボットはこの施設で眠りに着かせよう。

                ・

                ◇

                ・


 「かなり風雨が強まってますが、ドラゴンの飛行には支障がありません。王都上空の悪魔達の上空待機は皆無です。絶好の夜襲になりますよ。」

 「騎兵隊の連中には都合が悪いんじゃないか?」

 

 「足場は悪いですが移動に問題はないでしょう。ですが、最大疾走速度は半減します。時速30kmも出せないでしょうが、これは敵にも言えます。グレネードの飛距離を300mとすれば全弾を放った後で後退しても敵に追いつかれる事はありません。」


 大型ディスプレイに映し出されたサーマルモードの画像の説明を行ったところで、ラミィの隣に座ると端末の操作を始める。2人の後ろから画像を眺めているが、やはり雨だと画像もぼやけてしまうな。懸命にフラウが施設の電脳を使って補正しているのだが何時ものような画像にはならない。

 騎兵隊は小隊毎に4つの緑の輝点で表示されている。科学衛星を使った味方識別信号を解析下結果だから位置は正確だ。

 現在ゆっくりとした足取りで開口部を守るゴリラ兵の部隊に近付きつつある。

 そして東方向から開口部に近付く輝点はドラゴン部隊だ。

 後、数分で始まるな…。


 王都の画像が大きく表示された。ピラミッドの北半分を画面の上部に映しているから、編めん全体の表示は10km四方位の大きさになる。


 騎兵隊の動きが加速されて、敵の集団に近付く。殆ど接触する位にまで近付いて見えるが、これでも2、3百mは離れているのだろう。

 敵兵が接触場所から外側にうねるように移動しているのは、グレネード弾を速射されて逃げ惑っている姿に違いない。

 ケンタウロス1人辺り10発のグレネード弾だからな。総計は1千発を超えている。さぞかし賑やかになってるだろうな。


 直に輝点が遠ざかる。敵軍がアメーバのように輝点に触手を伸ばそうとしているが、ケンタウロスは4つ足だ。たちまち距離が開いて行くぞ。

 

 王都の次元断層の開口部にドラゴンが侵入したと同時に数箇所で火災が発生したようだ。

 2箇所で一瞬ぼんやりとした発熱反応が起きた。そして北に向けてドラゴンが飛行する。


 「夜襲完了です。脱落したドラゴン、ケンタウロスはありません。戦果の確認は王都の豪雨が去ってからになるでしょう。現在の王都の様子はこのような状況です。」


 画像を送ってきたのは、偵察用ロボット達だな。まだ多数が健在なようだ。火災はたちまち鎮火したが、あの豪雨では仕方がないだろう。放水中の家に放火するようなものだからな。

 肝心の生体機構がどうなっているかは分からないが大勢の悪魔達が集まり出しているところを見るとそれなりに損傷を与えたに違いない。


 次の日は朝から晴天だった。

 早速、画像の解析が始まる。20分程経ったところでフラウの報告が始まる。


 「仮設の生体機構は2つとも破壊に成功しました。これで一月は作業を遅らせる事が可能です。王都の北西に展開していた部隊が王都の北東部に異動しています。飛行形態の悪魔が分隊編成で周囲50kmの範囲を哨戒しています。

 敵の増援は南大陸全体に及んでいます。現時点の推定増員約300万。」

 「まぁ、ドラゴンでの戦果はそんなもんだろう。それより増員が嫌らしいな。進路は今まで通りなのか?」


 「基本的に南の大山脈の東を通ってきます。旧カリブ海は荒地ですが、例のグールイーターの生息地ですから回避していると推察します。」

 「となると、グールイーターにも頑張って貰わなければな。更に森の焼却を進めよう。」


 「海軍基地の倉庫でグリス化した重油のドラム缶を多数見つけました。アルコールを付加すれば焼夷弾として使用できるでしょう。試作品が10個出来た段階で早速使ってみます。それと、騎兵隊に松明を持たせて焼き払うのも効果が期待できます。」

 

 機甲師団が丸々1つあるのに、有効な攻撃手段が火攻めとは嘆かわしいな。

 作戦は俺だと場当たり的になるのは止む得ない。明人なら正面攻撃をしそうだな。美月さんならどうするかな? …確か全体を眺めて要を見つけるなんてシュミレーションゲームの時に言っていたような気がするぞ。


 「フラウ。全体の画像を映してくれないか。南大陸からの援軍の様子が分かるようにだ。」

 

 直に画像が切り替わる東西千km。南北が2千km位の範囲だな。

 なるほど、あちこちから帯のように軍隊が移動している様子が分かる。

 そして、王都の南に大きな帯びのようになって集合しているようだ。

 現時点でも100万近い軍勢じゃないのか?

 北西に展開していた軍隊は北東に移動しているが、やはり森を出ようとはしていない。このままだと北西部に大きな穴が空きそうだな。

 だが、ここを通って王都を右から襲おうとすると、南の軍が出てくるのか…。そして側面を飛行部隊に突かれることになるな。

 大侵攻の前には何とかして間引いておきたいものだ。

                ・

                ◇

                ・


 季節は冬になったが俺達には暖房は必要ないし、ここは北の大陸では南方に位置するからあまり季節感はないな。

 フラウの作ったVXガスは2液混合タイプだからちゃんと混ざるかどうかが不安になる。まぁ、それでも打ち込むロケットが大量だから、少しは効果があるだろう。

 そして、ロケットに搭載されていたクラスター弾をホークに乗せて、増援部隊と王都の南に展開した部隊に投下した。

 結果的にはかなりの効果を挙げたのだが所詮一時しのぎでしかない。数万を失っても次から次へとやって来る。


 海軍基地で新たに見つけたロケット弾ポッドを残りのドラゴンに装着して、連日のように攻撃しても思ったように減ってはくれないようだ。

 相手の数に見合わないし、あのロケット弾の炸薬量は手榴弾より少し多いぐらいだからな。

 そして、以前のように密集した陣ではなく、散開した陣立てをとってることも被害が大きくならない理由でもある。


 俺達の方にも少しずつ被害が拡大している。

 ダミー基地は敵の目を引くには丁度いいようだ。

 連夜という訳ではないが、飛行能力を持った悪魔達が数十の単位で押し寄せて来る。

 対空機銃弾は海軍基地からたっぷりと運んであるから、しばらくは囮として役立つに違いない。

 

 「マスター。固定銃座の半数が破壊されました」

 「残りの自走砲から外して転用しろ。その内、ゴリラ兵も来るだろうから余分に銃座を作っても問題ない」


 と言っても、残っている105mm自走砲は32両だ。半数を転用しても大丈夫だろう。

 大型ディスプレイには数万の軍勢が3段に軍を纏めて北上してくるのが映し出されている。

 数日後にはダミー基地にたどり着きそうだな。

 騎兵隊が何度も横を突いているが、半減させる事は難かしいだろうな。

 

 「敵軍が迫る間に新たに設置できる銃座は6箇所です。耐えられませんよ」

 「ホークへの台座の設置は済んでるのか?」


 「済んでます。搭載するVX弾は5発ですが……」

 「今夜投下してみるか。この部隊に2発。王都の南の集結地に3発だ。効果もこれで分かるだろう」


 ついに、使うことになるのか…。

 これが上手くいけば敵の増援は無視できるんだがな。


 そして、夜になり悪魔の襲撃を撃退したところで、施設の大型開口部を開いてホークを発進させた。

 弱い北風の中、敵軍の鼻先に2発のVXガス弾を投下する。

 数km離れたところで小さな炸裂が見えた。

 続いて王都を大きく東に迂回すると、王都の南に集結した敵軍に向かって残りのVXガス弾を投下する。

 

 「さて、どんあ感じだ?」

 「効果は此処では確認できません。体温も直ぐには低下しませんから」


 操縦席のフラウに確認してみた。

 まだ、森があるからな。早く焼き払っておきたいものだ。


 それでも、フラウの前に展開されている仮想ディスプレイにはバタバタと倒れるゴリラ兵の姿が映し出されている。

 生々しくないのは暗視モードでの撮影のためなんだろう。

 その画像が途切れたところで、ホークの速度が一気に増した。


 後ろに下がって折畳んだベンチシートを下ろして座り込む。

 フラウに頼んで後部の開口部を開いて外を見てみるがまるで変化は無いな。

 タバコを吸いながら、ボンヤリと下を見ていると、森が燃えている箇所があった。騎兵隊が頑張ってるんだろうな。

 

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