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M-106 ダミー基地


 焚火でお茶を沸かしてのんびりとタバコを楽しんでいると、フラウから連絡が入って俺の前に仮想ディスプレイが現れた。

 

 「爆撃1分前です。画像はサーマルモードと通常モードを転送します。」

 「分かった。爆撃が終了したらどうするんだ?」

 「反復攻撃を行います。今夜中に3回が爆撃を実施出来ます。」


 そんな話をしていると、通常視野の画像に赤く花火が開いた。続けて3個開くと、10秒程経過して再度花火のように火炎が広がるのが確認できた。そして3度目の爆撃が始まる。

 さて、どれぐらいの広さで火災が発生したんだろうか?

 画像からだとそれが分からないな。

 それでも、サーマルモードの画像では火災から移動知る赤い塊が見える。ゴリラ兵達が火災に巻き込まれないように逃げているようだ。


 仮想スクリーンから顔を上げて立ち上がると南方を眺めて見た。

 少しは何か見えるかと思ったが、距離は500km以上離れているからな。明るくも見えないぞ。

 荷物を纏めてバッグに押し込むと、フラウ達のいる司令室へと向かう。

 

 指令室では俺が部屋を出る前と同じように、フラウとラミィが仲良く並んで座りながら操作卓のキーボードを忙しそうに叩いている。


 「どんな具合だ?」

 「北西方向の風を受けて火災が広がっています。再度の出撃を一時中断して状況を見守る事にしました。」


 「上空からの火災状況を、10kmのメッシュを重ねて表示してくれないか?」

 

 俺の言葉が終らないうちに画像が切り替わってその上に10kmのメッシュが薄い青のラインで表示された。

 火災の規模は南西から北東方向に掛けて長さ5km程の帯で広がっている。

 見ている内にどんどん火災の帯が広がって行く。なるほど、これなら様子を見てからでも次の爆撃は良さそうだな。


 「かなり大火災になりましたね。」

 「あぁ、良い風が吹いてるな。上手く行けば、残りの焼夷弾は別な場所で使えそうだ。」


 「ドラゴンは後2機出来ます。それには海軍基地で見つけた予備のロケットランチャーを積む予定です。爆弾は焼夷弾が1個ですね。」

 「弾薬は十分なのか?」

 「半分を輸送しましたが、50回以上出撃出来ます。足りなくなればホークで取りに向かえば攻撃を継続できます。」


 小さいのは沢山あるんだよな…。俺としては大きいのがほしいんだが、贅沢はいってられないのも確かだ。

 出来れば南方からの進軍ルートも焼き払っておきたいものだ。

 最大航続距離は2,500kmと言っていたな。まだ焼夷弾があるのならそちらを先に焼いておくのも手だな。


 「フラウ、王都への動線を焼き払えないか?」

 「南方の進軍ルートですか? …航続距離の関係で王都から南へ300kmが限度になりますが…。」

 「十分だ。ぎりぎりの線で焼き払ってくれ。」


 再度爆装したドラゴンが斜路から外に向かって飛び立った。

 あと2時間もすればもう1つ火災のラインが増えるな。


 しばらくするとラミィが席を立って司令室を出て行った。

 とりあえずの作業が無くなったから、他のラミア達を手伝いに行ったのだろう。

 何せ、主力の重戦車は2大隊あるんだからな。重戦車だけあって大隊は3中隊編成だから全部で384両だ。1両当たり120mm砲の弾丸を30発持っていて、その内20発が多目的砲弾だから榴弾としても使えそうだ。同軸機銃の弾丸も2,400発あるから一斉突撃は見ものだぞ。

 

 「現在の解凍は主力戦車を中心に行っていますが、多連装ロケット砲も1小隊を解凍してあります。前回2両を失いましたから10両が使用できます。」

 「多連装ロケット砲の部隊は中隊規模だったよな。残りは24両あるのか?」


 「はい、支援火砲で1大隊、多連装ロケット砲1中隊と自走砲が2中隊です。155mm自走砲は解凍がかなり先になります。」

 「問題は、敵の増援だよな。あまり長く掛かると、この施設を見つけられる恐れもある。人海戦術をとられると絶えられないぞ。」


 「ダミーを作りますか?修理困難な軽戦車等がありますから、それと小屋を並べておけば基地らしく見えるかもしれません。」

 「数台では足りないぞ。」


 「20台はありますよ。戦場の軽戦車を運んでもいいでしょう。そして、偵察用装甲車を数台入れておけば、敵の迎撃も可能です。」

 「偵察車両は何台あるんだ?」


 「支援火砲の部隊に所属ですから、1中隊64台です。1小隊分16台を解凍しましたが、現在までの戦闘で半減しています。」

 「見掛けは軽戦車だ。1小隊を更に解凍してダミー施設に配置しろ。対空戦闘を重視しとけよ。」

 

 これで、立派なダミー施設が出来そうだ。

 場所は、この施設より南東30km程度で良さそうだが、そうなると水の補給路が危うくなるな…。給水車がの運用回数を増やして蓄えるか。

 

 大型ディスプレイで表示されるグリッドが急に数を増す。

 上空からの画像倍率を変更したみたいだな。敵の王都の南に火の手が上がるのが小さな赤い輝きで分かる。

 これで連中も赤道の強烈な日差しの中を進軍せねばなるまい。それに、熱画像で眺めるよりは通常画像の方が状況が良く分かるからな。

                ・

                ◇

                ・


 10日も経つと、王都周辺の森が激減したのが分かる。敵も必死に消火を行っているようで、至る所に防火帯を造った形跡が上空からの画像で見える。

 これなら、夜間爆撃を継続しても良さそうだ。

 少なくとも、森の消失を敵が防いでいる間は時間が稼げそうだ。

 フラウの造った地上基地もダミーにしては立派なものだ。

 大破した軽戦車までも並べてあるから、ちょっと見た限りでは本物に見えるだろう。

 周辺に配置した偵察用装甲車は実弾が入っているし、数百単位の部隊なら追い払う事が出来る。

 

 「前回の王都突入で敵に与えた被害推定ですが…、デーモンは5百人程、悪魔は3千人程、そしてゴリラ兵が2万人程だと推定します。推定根拠は偵察ロボットが確認した攻撃前と後の目撃数を基にしています。」

 「あれは、目的が別だからな。それでもデーモンを減らせたのは良い事だ。…で、次元断層の復元の程度は?」

 

 「これを御覧下さい。」

 

 大型ディスプレイに上空から移した王都の全景が映し出された。


 「現在の、次元断層範囲はこのようにピラミッドを取り込んだ楕円形に構築されています。但し、破壊した東と北の尖塔の影響で北東方向には長さ2km高さ100m程の開口部が出来ています。

 この開口部からの侵入を防衛する為に地上部隊と飛行部隊が動員されています。

 現状でのイオンクラフトによる王都侵入は不可能と判断します。」


 「残り2つを何とかしなくちゃならないって事か…。」

 

 フラウが黙って頷く。

 もう一度破壊工作を行う事は可能だろう。だが、残り2つの尖塔は周囲を2重3重に悪魔達が囲んでいる。

 気付かれずに忍び込むのは困難だろうな。王都の周辺にはゴリラ兵が配置され、王都内には悪魔達が数十人単位で巡察している。

 偵察ロボットが良く見つからないものだ。そっちの方に感心してしまう。


 「最後の力攻めで一気に残りの尖塔を何とかしなくちゃならないな。」

 「それと、これを見てください。」


 破壊した東の尖塔の脇に何やら変なものが造られてるぞ。

 グンと画像が拡大されるとデーモンが何人か写っている。それと比べて見ると数mはある歪な球体にも見える。

 

 「画像ではなく、映像に切替えます。」


 途端に画面が粗くなる。しかし、はっきりと画面に脈動する歪な球体が映し出されていた。


 「新たに作ろうとしているのか?」

 「たぶん。微小ですが次元の揺らぎが確認されました。一月程で再生するのではないかと推測します。」


 くっそう! 折角の破壊工作が無駄になるぞ。

 何とかして再生を遅らせる手段を考えないとな…。

 再度攻撃するには弾薬が足りなすぎる。それに軽戦車の残りは1中隊規模だ。あれは陽動に取って置きたい。

 となると…空爆って事か。ドラゴンで焼夷弾をばら撒きながらロケット弾で攻撃するなら何とかなりそうだな。

 

 「まだ完成までにしばらくは掛かりそうだな。数日たったらドラゴンで攻撃しろ。105mm砲弾の手作り爆弾で陽動している隙にロケット弾で粉砕出来るだろう。」

 「了解しました。直に準備に取り掛かります。」


 これで、少しは時間が稼げる。場合よっては155mm自走砲での攻撃も視野に入れるべきだろうな。地対地ミサイルかクルージングミサイルでもあれば良いんだが…。

 ドラゴンを改造しても積載量が100kgじゃなぁ…。まぁ、最後にはそんな使い形になるんだろうが今潰すのは勿体無いな。


 後は、ダミーの基地への誘導だが、これは騎兵隊を使えば良いだろう。1中隊あるんだから、適当にグレネードであしらってやれば、その内に足跡を辿る筈だ。ペガサスモードで充電しながら移動すれば、戦闘モードで使う燃料電池の温存も出来るだろう。


 「ラミィ。タロス中隊は補給が済んでいるのか?」

 「補給終了。現在、ダミー基地内に駐屯中です。」


 質問に瞬きをしながら俺に顔を向けて答えてくれた。

 師団の全体統率はラミィがしてるからな。この頃は海軍基地からの荷物運びもタロス達に任せてるようだし。


 「3日後に騎兵隊を出発させろ。弾薬は鞍に着けていけるだろう。燃料電池を温存させながら進んで、ドラゴンの奇襲に合わせて陽動を頼む。詳細はフラウと詰めればいい。」


 作戦の全体像を提示してやれば、2人が内容を詰めてくれるから助かるな。

 師団長にもこんな2人がいれば作戦遂行が楽なんだろうが、実際には分けの分からぬ幕僚が大勢いるから、その思惑で中々作戦が纏まらないと自伝なんかには書いてあったな。

 

 どれ、たまには明人に状況を教えといてやるか。

 あいつも苦労はしてるんだろうが、傍に美月さんがいるから何とかなるだろう。

 そんな事を考えてると、自然に笑みが湧いてくる。

 泥くさい仕事は俺達がやってやる。お前は俺達の将来を見据えてぶれないでいて欲しいものだ。

 

 何時もの斜路の傍で焚火にポットを載せて、タバコを咥える。

 通信機能を使って、明人を呼びだして久しぶりに近況を報告しあう。

 フラウが纏めていた簡単な報告書をメールで送っておけば、向こうでも詳細が分かるだろう。

 大規模攻勢とそれに便乗した核の使用はそれ程先の話ではないな。

 明人達も、大軍を相手にするようだ。20万対1万は通常の武器では飲み込まれると思うが、美月さんだからねぇ…。どんな作戦で戦うのか後で聞いてみるのも面白そうだ。

 あの嬢ちゃん達が活躍して、その尻拭いに明人が縦横に走り回る光景が目に浮かんでくるな。


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