M-105 生体改造
軽戦車を中隊規模で失ったが、それに見合う戦果は得たんじゃないかと思う。
科学衛星と偵察ロボットの画像解析結果をラミィが大型ディスプレイに表示してくれるのを俺とフラウでその戦果を確認中だ。
東の尖塔は1日経っても黒い煙を噴出している。
北の尖塔は半壊状態だ。75mm榴弾砲の弾痕があちこちに残っている。塔の中もひどい状態に違いない。
ピラミッドは表面上変わらないが、フラウの空けた穴が上空からだとやけに目立っている。
貴族街は三分の一が半壊状態だ。2割は全壊と言って良いだろう。
人的被害がどれ位かは想像できないが、少なくとも悪魔とデーモンを1割は削減できたと思う。
そして、最大の目的である次元断層の状況はというと、北を0度として東90度の範囲で上空3kmの楕円形状で次元断層が消失している。更に330度から120度の範囲では上空120mまでの範囲で次元断層が消失していた。
「問題は復旧速度ですね。偵察ロボットを使用して調べますが、おおよその復旧日数の推定にしばらくかかります。」
「それは良いとして、敵軍の状況は? 一応、そっちも軽戦車を使い捨てているんだが。」
大型ディスプレイの画像が変わる。上空からのサーマルモード画像だ。
「北の次元断層開口部に展開していた軍勢は、襲撃時に壊滅しましたが、現在はこのような形で次元断層の開口部に展開中です。4時間前の画像での推定数は10万。現状では20万を越えていると思われます。そして北西に展開していた軍勢は規模を縮小。この時点では20万を下回っています。
兵力増強のために南からの進軍が更に規模を増しています。このままでは1月で敵兵力が襲撃前の1.5倍に達します。」
敵の攻撃は単純な力攻めと魔法だよな。
このままイオンクラフトで核爆弾を送り込んで起爆させるのはちょっと難かしいかも知れないな。飛行する悪魔の【メルダム】も厄介だし、デーモンが作る次元の歪も脅威だ。
そして、俺達の部隊の弾薬は限られている。
「フラウ、戦略をシュミレートしてくれ。現在分っている敵の攻撃方法と、俺達が知っている魔法の威力を数倍高めたものを敵が使えることが前提条件だ。俺達が使える兵力をどの様に使えば核爆弾を歪の上空で起爆する事が出来るか。勿論、起爆のタイミングは明人達と同期する事になるが…。」
「数種類健闘してみます。…私からの提案なんですが、これを見てください。王都の北から東に展開している敵軍、それに北西に集結している敵軍ともに森の中におります。
太陽の直射を嫌がるのは理解できますが、ちょっと不自然な気がします。長時間の太陽光が彼等に何らかの害を与える可能性が推測されます。」
「森を焼くか?」
俺の言葉にフラウが頷く。
となれば、焼夷弾かナパーム弾だな。ホークで落とせばかなり広範囲に森を焼けるだろう。
「問題は、火災を起こさせる適当な弾種が無い事だな。榴弾ではたかが知れてる。ナパーム弾がほしいところだ。」
「車両のオイルに揮発性の成分を混合させてみましょうか?」
「何でも良いから、試作してみてほしいな。使える奴で攻撃すればいい。」
確かに森がなくなれば連中を直接確認できるな。悪魔を優先的に叩くことも可能だ。
それをやっている間に、主力戦車と155mm自走砲、多連装ロケット砲の解凍を進められるだろう。その前に奴等が攻撃してきたときには軽戦車の残存部隊と105mm自走砲等で対応すればいい。陽動には騎兵隊も使える。
「それで、偵察ロボットで新たに分ったことは?」
「ゴリラ兵と悪魔の製造過程が分りました。画像を再生します。…先ずはゴリラ兵とオランウータン兵の改造模様からです。」
数十匹のゴリラが1つの部屋に集められている。
そして突然バタバタと床に倒れた。たぶんガスでおとなしくさせたんだろう。胸の呼吸や目蓋が開閉しているから弛緩性のやつだな。
扉が開くと、大型ベッドのような台車を悪魔が次々と運び入れて、血まみれのベッドの上に無造作にゴリラ達を1匹ずつ載せて運び出していく。
次々とベッドが運ばれてるな。そして倒れていたゴリラが全て運び出されると、別の扉が開いてゴリラ達が追い込まれてくる。
画像が切り替わる。別のロボットが送ってくる画像のようだ。
体育館並みの広さの石作りの部屋は幾つもの光球に照らされて床が赤く光っている。
床はどうやら血が流れているようだ。何人かの悪魔が手桶で水を撒いている様子が写っている。
そこに、一列になってゴリラを載せた台車が運び込まれてきた。
台車は奥から2列にきちんと並べられると、別の扉から額の角が一際大きな悪魔が数人現れる。その後ろから水槽のようなものを台車に積んだ悪魔が現れた。
角の大きな悪魔2人に水槽が1つセットになっている感じだな。
ベッドの両側に悪魔が立つ。片方の悪魔が腕から緑色の光を放つと、その光は物質のようにゴリラの体を覆った。
そして次の瞬間、もう1人の悪魔が薄刃の片手剣を使ってゴリラの腹部を大きく切り開く。
ゴリラは苦悶の形相だ。体が麻痺しているだけで神経は麻痺していないようだな。
腸が飛出るのも構わずに頭部へ移動すると、ためらいもなく首を刈り取った。
その首を持って、開いている腹に腸共々押し込めている。
緑の光が紫に変わると、噴出す血潮が急速に止まって、傷口が癒えて行く。
頭の部分は胴体に窪んだ部分が出来た。そこに水槽から小さな胴体が着いた頭を載せる。
腹にある血まみれの顔の目が瞬きをしているぞ。
あんな、粘土細工のようなやり方でゴリラ兵が作られるのか…。
次々とゴリラが異形の生物に変わって行く。
そして、全てのゴリラの手術が終ると、悪魔達がやって来てゴリラ兵を載せた台車を運んでいった。
「あいつらはこうして作られてるんだ。しかし、一旦首を斬っても良く死なないものだな。」
「何かの魔法が使われているようです。そして、融合が上手く行くのは遺伝子的にも変化が起こっているように推測します。」
しかし、それならばこの種の改造施設は南の大陸に数多く点在する事になるのだろうか?
今でも、山脈を抜けて続々と兵達がこちらに向かっている。
幾ら野生動物を捕らえて兵士に改造できると言っても、ゴリラは集団では暮らさない。まさか飼育場を持っているのか?
そうだとすると、それを潰さない限りは無尽蔵に兵士を投入できることになるぞ。
「次は悪魔の方です。よろしいですか?」
俺が、考え込んでいるのを見て、フラウが声を掛けてきた。
ディスプレイに顔を向けて小さく頷くと、別の画面に切り替わる。
椅子のようなものに、全裸の男が投げ出されるようにして座らせられると、昆虫の足のようなものが椅子から伸びて男を拘束する。
必死に首を振って逃れようとしているが、昆虫の足が左右からがっちりと男を押さえつけている。
悪魔が近くの作業台のようなものからペットボトルのようなものを取上げると、その先端に付いている5寸釘程の針を男の腹に突刺した。
更に激しく男が暴れ始める。どうやら、注射器のようだが何を注射したんだ?
その変化は手足から始まった。
肌が黒ずみ、手足が伸びてきたように見える。そして筋肉がみるみる着いてきた。
更に胸板が厚くなり、手足が小刻みに震えている。
こめかみ近くから小さな角も現れ始めると、悪魔は丸い管のような物を作業台から取上げた。
片手で狂ったように頭を振り続ける男の顔を掴んで固定すると、管を額に押し付けて動かす。
血が飛び散り、男が白目を開けた。
悪魔が管を引抜くと額に丸い穴が空いている。
最後に、悪魔は作業台の上に並んだ角を1つ手に取ると、新たな悪魔の額に押し付けた。
数回角がぼんやりと光るのを見て、近くの悪魔に何事か指示しているようだ。
指示された悪魔は椅子を押してどこかに消えて行った。
「遺伝子操作とロボトミーでしょうね。角は何かの暗示装置もしくは彼等の遠隔通信装置と推測します。」
「遺伝子操作は仕方がないが、あの角を取去ったら自分を取り戻せるんじゃないか?」
「かなり難かしいと思います。たぶん角は生体部品として試験者に融合してしまうのではないかと…。」
「根が深いって事か…。一度試してみたいな。」
しかし、悪魔はやはり人から作られているようだ。
数的には多くても2、30万ってところだろう。南の大陸で人狩りでもしてるんだろうな。王都にも数万はいるんだし、ほっとけば人は自然に増えるからな。
「この改造施設の場所は分かるか? ゴリラ兵は王都以外にも改造施設はあるだろうが、悪魔の改造施設はそれ程多くはないは筈だ。」
「現在までに判明している場所は、尖塔とこの前ピラミッドに侵入した建屋です。」
あの建屋も破壊しておくんだったな。
とは言え、場所は分かったから対処のしようはあるだろう。
出来れば、巡航ミサイルがほしいところではあるが、ないものはしょうがない。
小型の爆撃機があれば、砲弾改造型爆弾を使えるんだがな。
・
◇
・
「これが我が軍の爆撃機になります。『ドラゴン』と命名しました。」
大型ディスプレイに映し出されたものは、そんなたいそうな奴ではないぞ。
どうみてもホークのような座布団モドキだ。縦横5m程の大きさだから、名称的にはスズメになるんじゃないかな。
「水素を燃料とした燃料電池により反重力アシストのイオンクラフトになります。航続距離2500km、最大速度は時速600km。積載重量は80kgになっています。
専用の爆弾を3個積めますが、爆弾は20kgの焼夷弾です。爆発によって周囲50m程に揮発成分を含んだオイルが飛び散ります。オイルの燃焼時間は約1分。火災誘発には十分な時間です。
ドラゴンは3機、焼夷弾は50個を作成しました。今夜から夜間爆撃を開始します。」
「森を全て焼き払え。王都を中心に100kmを草も生えない土地にするんだ!」
「了解しました。」
早速、フラウはラミィと共にドラゴンの発信準備を進めるようだ。
別に開かれたディスプレイに施設内でドラゴンに爆装を施すタロス達の姿が見える。
爆弾は、手持ち消火器のボンベぐらいの大きさだな。信管の構造が知りたいものだ。
爆装を終えたドラゴンがゆっくりと浮上して斜路から外に出て行く。何となく秘密基地のノリだな。ちょっと楽しくなるぞ。
3機のドラゴンが外に出ると、ゆっくりと斜路の扉が閉じていく。
「爆撃準備完了です。」
「それでは作戦を許可する!」
「了解です!」
ちょっとしたセレモニーだよな。爆撃箇所もコースも全てフラウ達で決めてる筈だ。
あと、2時間ってとこだろうか?
ちょっと外に出て、一服しながら待つとするか…。