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M-104 王都騒乱


 軽戦車が一斉砲撃を貴族街に放つ。

 実際に貴族かどうかは分らないが、まぁ支配種族なんだからそう呼んでも良いだろうな。

 2撃目で数箇所に火の手が上がった。

 更に戦火を広げるべく3撃目に一斉射撃が終ると、その後の砲撃音は聞こえなくなったぞ。

 今度こそ、本当に砲弾が切れたようだな。

 

 火炎弾が数箇所に集中して炸裂し始めた。

 機銃弾が尽きた軽戦車の動きを止めようとしているみたいだな。そんな喧騒を聞きながら、俺とフラウはピラミッドの内部への出入口を探す。


 「ありませんね。私達が確認したのはピラミッド上部の神殿前にある扉だけです。このピラミッドは本体に入り口があるのではなくて、別の場所から地下道で繋がれているのかも知れません。」

 

 もう、15分も調べている。早くしないと俺達が発見される恐れもある。

 だが、別の場所ってどこだ? 

 

 「あの建物が一番怪しいですね。」

 

 フラウが指さした建物はピラミッドの基部から100m程離れた場所に立つ2つの建物だ。

 

 「他の建築物と比べてピラミッドに接近しすぎています。そして、右の建物には大勢の動体反応がありますが、左は僅かです。」

 

 それが地下通路とどう結びつくのか知りたいところだが、右の建築物に1両の軽戦車が体当たりをして大きく壁を破損させた。

 激突して停止して軽戦車に向かって数個の火炎弾が炸裂する。炎に包まれた軽戦車が後退して再度壁面に激突したところに、再び火炎弾が集中する。

 ドオォン!…っと小規模な爆発は燃料の水素が爆発したのだろう。

 建物からデーモン達が逃げ出してくる。その流れに逆らって悪魔達が建物に入って行くようだ。

 

 「あれじゃぁ、侵入は無理だな。」

 「建物の屋上を見てください。開口部があります。」


 確かに開口部がある。だが、それは屋上から周囲の状況を観察している悪魔とデーモンが出てきた開口部のようだ。

 あいつ等を倒さないと侵入するのが面倒だぞ。


 「上空よりレールガンで狙撃。その後に屋上へ降下します。」

 「3人だが、周囲に気付かれる事はないか?」

 「あれだけの騒ぎです。誰も上空は見ていないでしょう。」


 希望的なところはあるが、それしか無さそうだ。

 場合によってはピラミッドの一部を破壊しようと考えてたんだが、それは最後の手段にしよう。

 俺達は200m程上空に移動して問題の建物の上空で停止した。

 

 フラウがベレッタを取り出して慎重に狙いを定めている。そして屋上の3人が突然倒れる。

 通りを挟んだ隣の建物は火災を起こしているようだ。誰も3人が倒れても気付く様子はない。それを確認して俺達は屋上の開口部へと降り立つ。


 ベレッタは連射が利かないから、背中の自動小銃を持つとセーフティを解除して連射モードにレバーを動かす。コックを引いて初弾を装填すれば後は発射時のガス圧で連射ができる。

 互いに顔を見合わせて頷くと、自動小銃を抱えて階段を降りていった。


 2階の踊り場には誰もいない。1階も同じだった。そして更に地下へと階段が続いている。

 長い階段がようやく尽きると、目の前にぼんやりと蛍光を放つ通路が伸びている。

それにしてもかなり深い階段だな。通常の建屋なら地下2階に相当しそうだ。

 

 「通路の方向はピラミッドのほぼ中央です。このまま進みましょう。」

 

 そう言ってフラウが先行する。

 その後ろを、後方を警戒しながら付いて行った。

 壁面は磨きぬかれた石版だ。俺達の姿が鏡のように映っている。

 こつこつと俺達だけの足音が響いていたが突然フラウが足を止めると、壁に張り付いて前方に自動小銃を向ける。

 慌てて俺も壁に張り付くと、何時でも撃てるように銃を持ち直した。

 

 黒い影がぼんやりとした蛍光の中から姿を現したと同時に、フラウの持つ自動小銃から短い発砲音が通路に木霊する。

 影が通路に倒れたのを確認してフラウが再び歩き始める。

 通路を歩きながら倒れた奴を見ると、デーモンが2人だった。

 この通路を行き来するのは、支配階級だけなのだろうか?

 

 「この上からピラミッドです。」


 簡潔にフラウが教えてくれたが通路は更に延びているぞ。

 それでも、30m程先に階段が見えてきた。

 俺とフラウが並んで歩ける位の階段だが螺旋構造で上に伸びている。

 

 しばらく歩くと前方に明かりが見える。

 それ程強い明かりではないが、明滅しているな。

 階段を上るにつれ明かりが強く階段に差し込むようになってきた。出口が近いのだろう。薄く蛍光を発している筈の壁面の明かりが何時の間にか分らなくなってきている。


 突然出口が見える。光の明暗は鼓動のように一定の周期を繰返しているが、若干の明暗にむらがあるのに気が付いた。

 階段から出ると、そこには部屋1つ程のテラスがある。テラスの壁際には幅1m位の手すりのない通路がぐるりと廻らされていた。反対側にも同じような開口部とテラスが見える。


 「あれが目標ですね。」

 

 フラウが感慨深げに呟く。

 尖塔の地下で目撃したような巨大な生体組織が規則的な脈動を繰返している。その鼓動にあわせて生体全体から燐光のような光が漏れている。


 「まさか、2つあるとは思わなかったな。…あれに繋がる配管類は共通なのか?」

 「…別になっているようです。重要機関を2つ作ることはままあることです。一緒の区画にそれを収納するのは稀ですけど…。」

 

 故障しても隣に影響がなければ問題ないって奴だろう。爆発するようなら問題だけどね。生体機構だから爆発の恐れは無いように思えるな。

 

 「…で、これからどうするんだ?」

 「手前の方は用意したカプセルを撃ち込みます。奥の方は…グレネードランチャーで2発撃ち込んだ後に手榴弾を使います。マスターも反対側から手榴弾を使って下さい。

後は、レールガンの弾速を最大にして生体配管を狙って下さい。」


 そう言って自動小銃のグレネードランチャーをスライドさせて赤い弾丸をポーチから取出して装填する。

 ポシュ!!っと気の抜けるような音と共に発射されたグレネード弾は、生体組織に深くめり込んで炸裂する。


 ぶるぶるっと身悶えするような動きをしたかと思うと、先ほどまでの規則正しい脈動が停止し、細動を繰り返している。…やがて、その動きも停止した。

 流石、毒蛇100匹分だけのことはある。どうやら、片方はケリが着いたようだな。


 俺達は巨大な空間に設えられた、壁際の回廊を左右に分かれて走り、次の得物に手榴弾を投げつけた。

 ついでに生体機構から伸びている管に向けて自動小銃を乱射する。

 血とも養分とも言えるような粘液質の液体が千切れた管から周囲に飛び散っている。


 数発の手榴弾で生体機構の外側を取巻く筋肉組織が破壊されたらしく、血の色をした液体が脈動にあわせて溢れてくる。

 そんな中、フラウが空中を飛んで俺の方に合流してきた。

 

 「反対側のテラスから大勢がこちらに向かって来ます。私達が侵入してきた通路も同じです。」

 「どうするんだ?…強行突破するか?」


 「テラスの下で様子を見ましょう。」

 

 俺達はもう1つの生態機構の身悶えで波打つ液面を近くを移動して、侵入してきた通路にあるテラスの裏面に張り付いて様子を見る。


 すぐ上の床には10人程の生体反応があるが、俺達が真下にいることは気付いていないみたいだ。

 反対側のテラスにデーモンが10人程確認できたから、上の連中もデーモンなんだろう。

 呆気にとられて悶えている生態機構を眺めている。

 最初に攻撃した生体機構は変色し始めた。部屋の明かりも何時しか暗くなっている。

 

 さて、2つ同時に損傷した場合にこいつらはどうやって補修するのだろうか?

 ちょっと興味が湧いてきたぞ。

 それに、この生体機構の目的が分らん。王都の防壁は周囲の4つの尖塔が行っている。

 次元の歪はそれ自体で脈動しているから、これとは関係ないはずだ。

 

 向こうのテラスで何やら話合いをしているようだな。

 聴音機能を上げても、バシャバシャと激しく液体を飛び散らせているのがいるから音を拾う事は困難だ。

 双眼鏡でそいつらをみていると、顔の詳細が見える。

 奴らの顔に相違が見受けられない。

 皆同じに見えるぞ。そして鼻孔の下にある唇のない口は大きく開けることができないようだ。

 これは人間とは、そもそも生態系が違うんじゃないか?

 やはり、デーモンは歪みを越えてきた種族のようだな。


 ついに悶えていたもう1つの生体機構がその動きを止めた。

 手榴弾でやられたとは思えない。血液毒に触れたんだろうか、隣の生態機構と同じように光を少しずつ失って行く。


 これでこの生体機構の持つ役割が少し分るかも知れないな。

 復旧させるにしても血液毒は管の隅々まで徐々に蝕んで行くはずだ。

 単にここの2つを更新すればいいと言う訳ではない。更に、この巨大な物体をどうやって取り除くかも興味がある。徐々に腐って行く物体を搬出する出口はどこにもないんだからな。


 向こうのテラスには更に人が集まってきた。何人かが光球を作ってこの空間の天井付近で周囲を照らし出す。そして、30人程に膨れ上がったデーモンが一斉に両手を空中の一点に向けた。


 …その空間がゆらゆらと陽炎のように揺らめく。

 こいつ等、次元断層を任意に作りだせるのか!

 ボール程の大きさになった空間の歪がデーモンの手の動きに合わせて、ゆっくりと降下してくる。

 そして、動きを止めた生体機構にその歪が触れたとき、巨大な生体が音を立てて吸い込まれて行く。あまりいい音じゃないな。

 引き千切れて歪に吸い込まれる生体組織も哀れなものだ。

 

 『…そろそろ脱出しましょう。私が向こうのデーモンを倒します。マスターはこの上にいるデーモンを倒して下さい。』

 『了解だ。銃弾を叩き込んでお終いだな。』


 フラウが自動小銃で100m程先のテラスを狙う。俺は何時でも飛び出せるように準備した。

 

 フラウが発砲すると同時に反重力制御でテラスの上に飛び上がる。下で俺を見上げるデーモンに向かって自動小銃を乱射した。1連を終えると急いでマガジンを交換して再度発砲する。

 

 「脱出しますよ!」

 

 そう言ってフラウが上空に飛びあがる。そこには5m四方の大きな四角いトンネルが上に続いて伸びている。

 急いで俺も後を追うと、上空に向かってフラウが片手で円を描く。すると、上昇している俺の直ぐ隣を岩の塊が落ちて来た。

 どうやら、レーザーで塞がれていた石板を破壊したようだな。

 

 何時の間にか夜は明けたようだ。俺達はピラミッドの上に出ると直ぐに東に向かう。

突入した軽戦車は全て破壊され、あちこちで炎を上げている。

 

 素早く林の中に逃げ込むと、自動小銃をバッグに納めてベレッタを握る。

 少し移動したところでフラウが小枝を拾うと、それを前方に投げた。くるくると回りながら50m以上飛んで行った。


 「どうやら、次元断層の復旧はまだのようですね。このまま移動できます。」

 

 俺達はひたすら林の中を東に移動すると、数km離れた場所で待っていたホークに飛び乗った。

 これで、王都の連中は俺達を敵と認識しただろう。

 はたしてどんな報復に出てくるかが楽しみだな。



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