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M-103 破壊工作



 「前回の威力偵察で広がった次元断層の隙間は9割程普及しています。現在の隙間の広がりは横12m高さ7m程の大きさになりますが、周囲に約2万のゴリラ兵が2重の陣を築いています」

 

 フラウが司令室の大型ディスプレイの画像をもとに説明してくれる。

 なるほど、長さ3kmの2重の陣形は半端じゃないな。

 

 「…で、計画は?」

 「敵王都の北西150kmに集結している軍の規模は50万を超えています。前回行われた攻撃規模を超えていますが、更に兵力を集中しています。

 この部隊に対して陽動を掛けます。陽動軍の編成は軽戦車2小隊、対空車両1分隊、それに騎兵隊1中隊です。騎兵隊は太陽光で充電が可能ですから戦闘時の燃料電池30時間はまるまる担保できます。車両は使い捨てになります。

 次に、次元断層に開いた開口部ですが、軽戦車2小隊を王都に突入させる計画です。

 全面に展開した敵軍を多連装ロケット砲2両で攻撃。12発のクラスター爆弾で敵軍に穴を開けたところに軽戦車2小隊を突入させます。

 最後に私達ですが、ホークに乗って次元断層から200mの距離で降下します。破壊対象は東の尖塔。そしてピラミッド下部の生体組織です。

 ホークは私達を降下させた後には、このコースで王都に北西に集結している敵軍を背後から爆撃して帰還します。」

 

 「俺達の回収はどうするんだ?」

 「私達が次元断層を脱出後に回収に来る予定です。東に脱出すれば敵軍は追撃して来ないでしょう。」


 追い掛けて来ないのは、グールイーターがいるからだろう。

 精々2時間だからな。何とか食べられないように動き回ればいいか。

 

 「陽動部隊と突入部隊は既に出発しました。増槽を付けていますから、計画通りの機動時間は確保出来ます。我々の出発は今夜0時とします。」


 後、数時間じゃないか。

 俺達の活動時間は400時間を越えているし、水筒の水は補給してある。

 ベレッタの弾丸は予備カートリッジを含めて補給してある。バッグには100kgの爆薬が信管を含めて入れてある。コンバットスーツのスリングには手榴弾が2個、それに自動小銃の予備弾装を3つ弾丸ポーチに入れてある。

 背中には長剣が装備ベルトのスリングで固定してあるから、まるで特殊部隊のような恰好だな。


 「俺達の準備はこれでいいのか?」

 「入れる事が分りましたから、再度突入も計画の範疇です。」


 まぁ、イザとなればレールガンを乱射しても何とかなりそうだな。

 今回の目標は尖塔1つを破壊する事。余り欲張らない方がいいだろうな。

                ・

                ◇

                ・


 時間まで斜路の傍でタバコを楽しむ。

 場所は教えてあるから、出掛けるときには連絡が入る筈だ。

 ヘッドディスプレイで科学衛星が捉えた画像には、数回の一斉砲撃が映し出された。

 陽動部隊は死兵になるから、この後更に砲撃を加えて突入するのだろう。36両を失うのは勿体ないが相手の数が多いからな。少しでも削減しておかないとこっちの計画が立たない。


 2本目のタバコを楽しんでると、目の前にホーク着陸して、後部の開口部が開く。

 

 「マスター、出掛けますよ!」


 まるで近所に買い物に出掛けるような呼び方だな。

 そんな事を考えながら、後部の開口部よりホークに乗り込んだ。

 爆弾投下架台の傍にタロスが4本の足でしっかりと体を支えている。胴体に巻いたロープが機内の金具に止められているから落ちる事はないだろう。

 足元には155mm榴弾を加工した爆弾が12個置いてある。前よりは強力だな。

 

 「出発します!」

 

 ラミィの声と共にホークが垂直に上昇し始めた。高度300m程で停止すると、今度は水平移動を開始する。徐々に速度を上げているぞ。これなら2時間は掛からないだろうな。


 「軽戦車の一斉砲撃継続中です。残り弾数20発程度になりました。」

 「次元断層の敵軍の様子は?」

 「一部増強されています。増加人員およそ、3千人。王都からの派兵です。」

 

 出来るだけ、王都の兵力を一箇所に集めておきたいものだ。

 上限の月はとっくに沈んでいるからジャングルのような森を照らすのは星明りだけだ。陽動部隊の砲撃で森が炎上している筈なんだが、ここからでは良く見えないな。


「後、10分で多連装ロケット砲が攻撃を始めます。軽戦車の突入は、クラスター弾炸裂と同時です。私達の降下ももう直ですよ。」


 後部の開口部から眺める視界が回転する。東に方向を変えたようだ。

 最後の打合せをラミィとしていたフラウが俺の隣に帰って来る。

 

 「良いですか。降下3分前です。…1分前…10秒前…3、2、1、降下!」


 降下と言うと格好が良いけど、現実は飛下りるだけだ。

 300mから飛下りて、直に反重力制御を行い落下速度を遅くさせる。

 草むらにトンっと降り立った衝撃は1mの高さから飛下りた程までに落下速度を抑制できたようだ。

 そして隣にフラウが音もなく下りてくる。フラウに制御を頼んだ方が良かったかな。

 フラウが手近な枝を折リ取って2m程の杖を作っている。


 「出掛けましょう。次元断層までおよそ100mです。」

 「あぁ。…ところでそれは何にするんだ?」

 「センサーですよ。」


 にこりと俺に笑いかけると先に歩き出した。

 見失わないように暗視モードに視覚を変更して後を付いて行く。

 それ程歩きにくい森ではない。空から見ると鬱蒼と茂っているが、下草はまばらだな。どちらかと言ったら落葉の堆積物でふかふかしている。

 軽戦車のキャタピラが空回りしなければ良いんだがと心配になる程だ。


 「ここですね!」

 

 前方に突き出した杖が何かに阻害され、何も見えない空間から先に出す事が出来ないようだ。

 その面を確かめるように杖で探りを入れている。

 次元断層は目に見えないからな。触れることでその状況を確認しているのか…。


 「やはり、地上50cmから次元断層が作られています。これを…。」

 

 俺に振り返ると、腰のバッグから取り出したものは帽子だった。

 黒いキャップ型はどこかで見たことがあるな。庇の上に刺繍で何かのロゴが書かれている。意外と特殊部隊の制帽だったりしてな。


 「どこで見つけたんだ?」

 「偵察車両の乗員室に数個入ってました。こういう時は形が大事だと美月様が言ってましたよ。」


 確かに言うだろうな。TPOって言うんだと、俺にも説明してくれた事があるがさっぱり理解出来なかったな。一緒にいた明人だって苦笑いをしていたぞ。

 まぁ後で説明する時に、また同じことを言われない為にもここはフラウの言葉通りにしておくか。

 フラウから帽子を受けとり、被ってみると髪が邪魔になるな。どうやって纏めようかと思っていたら、フラウがくるくると紐でポニーテールに仕上げてくれた。帽子の後ろにあるサイズ調整用の隙間から髪を出しておけば帽子が飛ぶこともないだろう。

 フラウも似たような形で帽子を被ると、いきなり地に伏せた。


 ゆっくりと匍匐前進で前に進んで行く。3m程進んだところでゆっくりと立ち上がり、俺に向かって小さく手を振っているぞ。

 次元断層の厚みは殆んどないようだが、慎重に行くことに越したことはない。

 俺も地に伏せると、ゆっくりと匍匐前進で次元断層の内部へと侵入していく。


 中腰でコンバットスーツについた塵をパタパタと落としながら、目標を再度確認する。数百m程先に尖塔が聳えているが、周囲には誰もいないようだ。


 「軽戦車の突入が始まったようです。次元断層内の悪魔とゴリラ兵達が北の突入口に急行しているようです。」

 「ここまでは計画通りだな。北で大騒ぎなら俺達には注意が向けられないだろう。」

 

 森を通しても北の方で発生した火災が見える。

 何両が突入したかは分らないが、2小隊36両をここで使い捨てるんだからなるべく派手に暴れてほしいものだ。

 

 フラウを先頭に俺達は尖塔へと空を飛ぶ。尖塔の壁面に取り付いたところで、ゆっくりと壁面を滑るようにして入口を探す。

 ピラミッドに面して、地上から数十cmの高さに開口部が口を開けている。扉はなくその中は真っ暗だ。だが開口部からピラミッドに向かって石畳の道が伸びている事からこれが唯一の人が出入できる場所なのだろう。

 所々に10cm程の円形の開口部はあるのだが、その中を覗いても蠕動する生体機関が見えるだけだった。


 フラウが俺を見て小さく頷くと、出入口の上部から中に潜り込む。まるでゴキブリだな。

 反重力制御を上手く使って重力傾斜を逆にしているようだ。

 出入口のところから腕が伸びて俺を呼んでいる。俺も、フラウを見習って天井を這うようにして中に入って行った。

 

 うす暗い通路が円を描くように上下に延びている。階段ではなく斜路のようだな。

 暗視モードを通常に戻して感度を上昇させる。モノトーンの光景に色が着いたので、周囲のグロテスクな様子が際立ってしまった。

 どう考えても内蔵や血管、それに消化器官に見える滑った物が石の壁を伝って伸びている。蠕動しているから、生きているんだよな。

 

 「急ぎましょう。軽戦車が何両かこちらに向かっているようです。」

 

 フラウの後を追って俺達は斜路を下りて行くいく。

 10分程歩いて行くと斜路の先が少し明るくなってきた。そして直に、俺達は直径20m程の空間に出た。


 どうやら、ここが生贄の飛び込んだテラスのようだ。

 ほぼ球体の空間の中程まで、粘液質の液体で満たされており直径10mはあろうかと思われる物体が液体の中で脈動していた。

 その物体の脈動にあわせて数十本も天井からぶら下がった大小の管が蠕動を繰返している。

 ひょっとして、心臓なんだろうか?

 生体の表面には太い血管らしきものが蠢いている。


 フラウは腰のバッグから魔法の袋を取出して爆薬を詰めたタンクを取出した。小さなメーターが付いているからアクアラングに使用する酸素ボンベのようにも見えるな。


 「タイマーは5分にします。」


 そう俺に告げると、ボンベを真下に見える生体に向かって落とした。

 ズブリ…と生体に突き刺さったボンベが少しずつその中に飲み込まれて行く。

 俺達は急いで斜路を上って行った。

 出口付近で天井へと移動すると、出口から周囲の様子を伺う。


 かなり近くで軽戦車が戦闘を行っているようだ。既に砲弾は撃ち尽くしたようで、機銃音だけが聞こえてくる。

 俺達は一気に上空100m程に飛び上がると、ピラミッドの方向へと滑るように移動して行った。

 

 ピラミッドは階段式だから頂上付近の南斜面にひとまず身を潜める。

 茶色い石を2m程に削り出して積上げたようなピラミッドだから俺達の黒い衣装は目立つ筈なんだが、誰も俺達に気付いていない。

 まぁ、32両の軽戦車が暴れまわっているんだから仕方ない気はするんだが…。


 「爆発まで、後30秒を切りました。20…10…3、2、1…」


 ドオオオォォォン!!


 一瞬ピラミッドの石組みが揺れる。地下の密閉空間で高性能爆薬が100kg炸裂したんだからな。ちょっとした地震並みに揺れたぞ。

 そして、東の尖塔が閃光を放ちながら土台から崩れ始めた。

 先ずは、1つだ。これでどれ位次元断層が弱まったかを調べなくてはならない。

 森の焼ける炎で北東が明るく見える。

 まだ、砲弾を放つ軽戦車の姿も見える。もうしばらくは王都を蹂躙して貰おう。

 崩れ去った東の尖塔跡にばらばらと駆け寄ってくる者達が、軽戦車の機銃掃射でバタバタと倒れている。

 喧騒がここまで聞こえて来るようだ。



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