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M-102 次元断層の内側


 「現状の調査結果を報告します。」

 

 司令室の大型ディスプレイを前にフラウがレーザーポインターを持っている。どこで見つけた!って言いたいのを堪えて、次の話を待つ。


 「次元断層の直径は約5km。その中心にピラミッド型の建物があり、最上階の神殿内に次元の歪が確認されました。ピラミッドの一辺の長さは約80m、高さは60mです。

 ピラミッドの南に向かって都市が作られています。

 ピラミッドから南に横幅約100mの石畳が伸びており、石像建築物が並んでいます。

 都市人口の推定値は約50万人です。

 生活している人種は5種類に分別出来ます。

 ピラミッドより1km圏内の貴族階級。3km圏内の悪魔と人間族。更に外側のゴリラとこのような姿の者達です。」


 そこに映し出されたのはどうみてもオランウータンだった。

 階級社会を作っているのか…だが、俺達を襲った軍団には人間がいなかったのはどういう訳だ?


 「都市の消費材は南よりもたらされています。次元断層の南側に門があり、ここは荷車程度の大きさのものが自由に出入り出来るようです。

 問題は、貴族達です。この姿を御覧下さい…。」


 ディスプレイに映し出されたのは、小さな人型の生物だった。

 手足が長く頭髪はない。腕程の長い尻尾を持っている。鼻はなく鼻腔が開いている顔は何となく爬虫類にも見える。

 そんな姿で金属製の胴衣を着込み、そのベルトには宝石のような物を頭に埋め込んだ短い杖を差し込んでいた。

 

 「何だ? これが貴族なのか?」

 「『デーモン』と名付けました。間違いなく、あの都市の最上位の階級に位置する者です。但し、居住数は1万もおりません。多くて3千人程度と推測します。

 そして、これを見てください。悪魔と人です。こちらでは並んで立っていますが、こちらは檻に入った人間を悪魔が運んでいます。

 悪魔と人との上下関係は、悪魔の方が上のようです。」


 ならば、人間はあの都市で何をしているんだ?

 

 「残りの種族の構成数はどれ位だ?」

 「悪魔が数万。人族が10万。残りの30万以上がゴリラ達です。」


 やはりおかしい。上位種族と最下位種族が軍を作るならば、その中間種族がいるのが普通だろう。能力的に劣っているならそもそも都市に必要ない。


 「あの、尖塔には忍び込んだのか?」

 「これが、その映像です。底部の地下に大型の動力炉らしきものが存在します。その動力炉は有機体で作られているようです。」


 グロテスクな塊が水槽の中に浮かんでいる。近くにいる悪魔と比較すると大型バス2台分はありそうだ。不気味に脈動し、血管のように周囲に張り巡らされた管は蠕動している。

 水槽の液が光を帯びて明滅すると、心臓のようにも見える肉の塊がブルっと震えたのが分る。

 すると、悪魔に連れられた数人の若い裸体の男女がバルコニーのように見える場所へと連れ出されて来た。

 目の焦点が合ってないな…。トランス状態にも見えるぞ。

 次の瞬間。男女次々と脈動する塊に飛び込んで行く。

 腰の辺りまで体をめり込ませた者達がゆっくりと、脈動に合わせて塊の中に沈んでいった。


 取り込んだのか?

 たぶん、取り込んだ体を分解して自らの体の一部にしているのだろう。

 ある意味で、生贄だな。

 となると、都市に住む人間は生贄用という事か?

 おぞましい風習だな。これも何とか止めさせたい気はするが、今の状況では無理か…。

 

 「次の映像です。これも理解に苦しむ光景です。」


 画像が切り替わると、そこには人の頭が棚の上に並んでいた。反対側には悪魔の頭も並んでいる。

 顔形からすれば成人だな。男女ともに首だけ出している…。否、首が並んでいるようだ。

 棚の下には胴体がない。首に数本の管が接続されているだけだ。そして頭には触手のようなものが取り付いている。頭蓋骨を貫通して内部まで達しているようにも見えるぞ。

 まさか、人の頭脳を演算装置にしている訳じゃないだろうな。

 

 奥にいるのはルシフェルが数人だ。大型ディスプレイを見ているようだ。

 手元の端末のような物を動かすと、生首の1つが急に目を見開いた。すると画像が切り替わる…。


 まさか、電脳を人間の頭脳で代替しているのか?

 確かに人間の頭脳は電脳を凌ぐ類推能力を持っている。だからと言って……ここまでやるのか!


 デーモンは人間を知的生命体としては見ていないようだ。

 たぶん獣と同列かそれ以下に見ているようだ。

 

 「フラウ。偵察ロボットは小さな爆弾を持っていたな?」

 「はい、手榴弾程度の爆発ですが、何をするのです?」


 「この部屋は制御室だ。これを破壊した時の復旧速度とその時の次元断層の状況を確認したい」

 「了解です。準備次第作戦を実行します」


 この建物には数体のロボットが取り付いているようだ。

 そして、デーモン達がロボットに注意を払わないのも理解できた。同じように大きな虫が部屋の中にも通路にもウロウロしているのだ。

 そんな昆虫が脈動する有機体のパイプに張り付いている。

 たぶん少し顎で傷を付けて養分を取っているのだろう。ある意味寄生虫なのだが、デーモン達は無関心でいるぞ。

 俺達に都合がいい話だが、少しは取り除いた方が良いんじゃないかと心配してしまう。


 そんな光景を見ていた俺にフラウが話し掛ける。


 「準備完了です。悪魔の頭部の真下とディスプレイの基部に潜り込ませました。

 爆発5鋲前…3…2…1…爆破!」


 室内が一瞬真っ白になった。

 数秒後にボンヤリと部屋の状況が見てくる。悪魔の首が全て吹き飛んで部屋のあちこちから液体が勢い良く降り注いでいる。

 反対側の人間の首は無表情から苦悶の表情に変った。

 ディスプレイは跡形も無く吹き飛んでデーモンが仲間から治療魔法を受けているようだ。


 「侵入可能高さ上昇しています。現在150m、更に上昇します。」

 「横幅もか?」


 「変化が戻っていきます。現在120m…停止しました。高さ100m横幅200mの範囲で大きな開口が開いています。」

 「次ぎはピラミッドだ。どうなってる?」


 ピラミッドにも内部構造があるようだ。

 其処には俺には理解できない生物の内臓のような物体が縦横に蠢いている。

 何の役に立つのかも分らないぞ。

 数人のデーモンが回廊を周回しながらたまに杖でそれを突付いている。

 その屋上には10m四方の空間がある。その空間を円柱で囲み石の屋根が載せられている。

 空間が揺らめいて見えるのは、時限の歪であるという事か…。


 その空間に向かって真直ぐな階段が作られている。デーモンを先頭に裸体の男女が10人ずつ階段を上がってきた。

 ピラミッドの最上段に達すると、デーモンが左右に分かれる。そして神殿のような空間を取り巻く柱の前の床がゆっくりと開いていく。

 登ってきた男女は順番にその穴に飛び込んでいった。

 ピラミッドの中の内臓に食わせるつもりなのか?


 フム…。何とかなりそうだな。

 ピラミッドの周囲の尖塔を破壊すればピラミッドに攻撃が可能だ。少しピラミッドの中の内臓に興味もあるな。あれを傷つけたらどうなるか?

 

 「フラウ。あのピラミッドの中にある内臓に取り付いて数体自爆させろ。奴等の反応を確認してくれ。それと、先の攻撃の復旧はどうなってる?」

 「復旧はこの通りです。新たに生贄を連れてきて先程その場で首を切断しています。現在はディスプレイ部の復旧をしているようですが、胴体部分を10体以上使っています。」

 

 「復旧の予測は?」

 「後、数時間は必要ないでしょう。…今、ピラミッド内部で自爆させました。かなりの範囲に液体が噴出していますが、目立った変化は生じていません。」


 やはり、目的不明だな。

 まぁ、侵入方法が判っただけでも良しとするか。

 そして、おもしろいことを思いついたぞ。

 

 「フラウ。この施設の周囲に蛇はいるかな?」

 「たぶんいると思いますが、何か?」


 「捕まえて毒を抽出しよう。あのピラミッドの中の物体はどう見ても生体だ。人間を元に作られているなら蛇の毒なら爆破するより容易いぞ。そして、尖塔は基部を爆破する。確か爆薬があったな。時限信管を付けた物を用意して欲しい。」

 「早速、準備を始めます。」


 フラウは端末を操作していたラミィと何か話を始めた。作業の分担を話し合っているのかな?

 そんな中、ラミィが部屋を出て行くと、直ぐに戻って来た。

 そして、フラウに何か小さな物を渡している。


 「さぁ、出掛けましょう。爆弾作りはラミィがしてくれます。私達は…狩りの時間ですよ!」

 

 小さなカプセルのような物を片手でお手玉しながら俺に告げた。

 ひょっとしてこれから毒蛇狩りをするのか?

 まぁ、俺達には毒は関係ないけど、余り気乗りはしないぞ。でも、俺が言い出したことだからな。

 そう思いながら重い腰を上げてフラウに付いて行く。

 部屋を出る時に、ラミィに片手を振ると、同じように手を振ってくれた。

 フラウがAI強化と共にナノマシンによる電脳作成を平行して行なったようだ。何れ俺達と同じように感情を持てれば良いな。

               ・

               ◇

               ・


 「まだ足りないのか?」

 「そう言われても、まだ7匹目ですよ。全然足りません!」


 確かに施設の周囲には毒蛇が沢山いた。

 俺達の体温を38度にあげるとおもしろいように集まってくる。こいつ等、熱で獲物を見つけるみたいだな。

 

 出て来たのを素手で掴んで、20cc程入るカプセルに毒腺から出る毒を溜め込んでいるんだが1、2滴しか滴らない。

 何か面倒になってきたぞ。

 それでも、自分で言い出したことだから、途中で止める訳にもいかない。

 結局、カプセルが満杯になったのは100匹近い毒蛇から集める事になってしまった。


 体温を周囲に合わせると、ゆっくりと施設に向かって歩き出した。

 ついでに、咥えタバコで一服を楽しむ。

 深夜に突然思い出したように始めた毒蛇狩りだったがだいぶ時間が過ぎたようだな。

 何時の間にか空が白んできたぞ。


 司令室に戻ってホッと一息。

 其処に、ラミィがお茶を俺達に運んできてくれた。

 マグカップでハーブティのようなお茶を飲むのも今回の大遠征で慣れてきたな。そしてラミィがお茶を作れるのも驚きだ。きっと、フラウが教えたんだろうけど、その内一緒に飲めると良いな。


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