M-101 陽動
ホークの翼部のパイロンには、連装ロケット弾が左右に装着されている。直径50mmのロケット弾合計40発がどれ程の効果をもたらすかは分らないが、あの倉庫にはロケット弾と25mmチェーンガンの弾だけはたっぷりと蓄えられていた。
ラミィ達が20t近く運んできたからしばらくは使えそうだな。
ついでに見つけたのがサブマシンガンと自動小銃だ。
少し強化しますとフラウが言っていたから楽しみにしておこう。1小隊分位の小火器は臨検でも想定していたんだろう。手榴弾もあったが300個では、精々1人2個分だな。その内使う事もあるだろう。
そんな事を思いながらホークを見ていると、タロスの1台が台車を2台曳いて来た。台車の上には、砲弾の後ろに鉄板で羽を溶接しただけの急造の爆弾が箱に入って載っている。
思わず首を捻りたくなる代物だが、最初の爆弾は砲弾を利用したと聞いた事もあるから、あながち間違いではないとおもうのだが…。
更に、もう1台のタロスが変な架台を曳いて来たぞ。
ホークの中に爆弾の箱を置いて出てきたタロスと入れ替わりに中に入ると、後部の開口部の扉のすぐ傍にその架台を取り付けている。
なんか流しそうめんでもやるような雨樋が付いている。
「あの架台に爆弾を乗せて、信管の安全装置を引抜き、斜路に押し出してやれば爆弾を投下出来ます。やれますよね!」
「簡単だな。大丈夫だ。」
それって、俺の仕事か? と一瞬思ったが、ここはフラウの言葉を聞いておこう。
俺に操縦は出来そうにないし、開口部は大きいから眺めも良い筈だ。
「ついでに、バギーの重機関銃を付けといてくれ。後ろからでも掃射は出来る。」
俺の言葉に黙ってフラウが頷いた。
「陽動部隊が進撃します。」
ラミィが声を上げる。
遠くで斜路を上る軽戦車のキャタピラ音が金属音を響かせている。
軽戦車は120両。これに自走砲が40両続く。全体の統制は情報通信車が行うようだ。戦術AIの出来が分るな。この情報通信車の目になるのが偵察装甲車4台になる。
前回の戦闘でどうにか走れる軽戦車4台を囮として出発させたのは2時間前だ。弾薬は定数の半分以下だが、周囲にクレイモアを貼り付けている。突入すれば少しは相手にダメージを与えられるだろう。
そして、そのキャタピラ址を辿ってくれるものと期待している。
南に向かう陽動部隊を見送りながらタバコを吸っていると、偵察車両が4台斜路を上がってきた。良く見ると、少し小ぶりだな。前と後ろにキャタピラが付いてるし、地上高さも俺の肩ぐらいしかないぞ。小さな砲塔には重機関銃が1つ付いてるだけだ。
4台は俺の横を通り過ぎて、陽動部隊の後を追って行った。
「軽戦車と自走砲は帰還出来るのか?」
「予備燃料を搭載しました。大丈夫です。」
そうは言っても500kmも先だからな。ひょっとして、輸送部隊を編成してるのかな。
輸送トラックだけでも10台以上あるからな。荷物を降ろして燃料のカートリッジタンクを詰め込めば余裕で還ってこれそうだが…。
夕暮れが迫った頃に、ホークが地上に姿を現す。
搭乗すると、予想通り操縦席にはフラウとラミィが収まった。
これを…って渡されたのはヘルメットだ。インカム装置が内蔵されているが、俺達には必要ないように思うぞ。それでもちゃんと2人とも被っているから、まぁ付き合いということで俺も頭に装着する。
後部に付けられた架台と銃座を自由に動けるような長さで細いワイヤーで体を固定しておく。投げ出されても、重力制御で戻ってこれるような気はするが、落ちないに越した事はない。
「日没と同時に発進します。」
「了解だ。コースは任せる。なるべく被害を大きくしてくれ!」
フラウの通信に答えると、折り畳みのベンチを倒して座って窓の外を眺める。
後、10分足らずで日は落ちるだろう。
・
◇
・
「出発します!」
フラウの通信が入ると同時に機体が上昇する。
操縦席に歩いてフラウ達の後ろから前方を見ると、真っ暗だ。空には星があるけど、地上はぼんやりとした風景が広がっている。暗視モードに変更すると、モノトーンの風景がくっきりと浮かび上がるが、あまりおもしろい光景ではないな。
フラウ達はコクピットの仮想ディスプレイでコースを捉えているようだ。
ホークの時速は何時の間にか500kmにも上がっている。
2時間は掛からずに次元断層に着いてしまうぞ。
「偵察ロボットを放出後に次元断層すれすれのコースを取って、敵の背後に回ります。敵を蹂躙しつつエリア90に帰還する事になります。」
「それでいい。ところで陽動部隊はどうなってる?」
「敵の前方50kmで待機しています。予備燃料は使いきり、メインの燃料カートリッジの残量は80%です。」
たぶん突入用の軽戦車4台は活動時間が2時間もないだろうな。
「偵察用ロボットの放出を行います。」
ラミィの声と同時に期待の屋根から金属音が数回聞こえた。
屋根に乗せて運んでたのか…。
そして俺達を乗せたホークは右に進路を変えた。
「軽戦車4台。突入開始! 敵軍はまだ気付いていません。」
「マスター、そろそろ準備をお願いします。後部の開口部を開きました。」
「目標は目視出来るのか?」
「こちらで投下のタイミングをお知らせします。」
後部に向かうと、開口部が大きく開いていえる。60度程の傾斜で2m四方が開いているから、架台の傍から下が良く見えるぞ。高度は300m位だな。少し速度を落としたようで時速200km位の速度で飛行している。
爆弾の箱は架台の傍に固定してある。後は、そうめん流しのように爆弾を滑らせていけば爆撃が始まる。
「マスター、投下20秒前です。順次落としてください。下のジャングルは一面敵軍の野営地です。」
フラウの声で最初の爆弾を雨樋のような斜路載せると左手で先端を持って、セーフティの紐を引く。
「投下5秒前…4…3…2…1…投下!」
フラウの合図で最初の爆弾を投下した。次々と爆弾を載せて斜路を滑らせる。
数秒後にジャングルから炸裂した砲弾の爆炎が立ち上がる。俺達を追い掛けてくるように見えるが、この爆撃方法に問題があるんだよな。
1箱を空にして次の箱の爆弾に取掛かる。
少し離れた場所に小さな爆炎が続けざまに上がっている。ロケット弾を発射したようだな。
1分程度で残りの爆弾を投下したら、架台を回り込むように移動して重機関銃の台座へ取り付いた。
通常モードの視野をサーマルモードに切り替えると、俺達の下に逃げ惑う発熱体がうじゃうじゃと蠢いている。
そんな中に、10発ずつのバースト射撃で、地上を掃射していった。
グーンと機体が大きく傾いて旋回する。
そんな機体の機動に構わずに掃射を続けていく。
200発のドラムマガジンが空になり、予備に切替えているとフラウから連絡が入って来た。
「もう一度旋回して真っ直ぐエリア90に還ります。残弾を全て叩き込んで下さい!」
「了解だ!」
俺はバーストから連続にレバーを切り替えると、銃弾を敵兵にばら撒きはじめた。
全て使い切って、陽動部隊の戦闘を眺めながら一服を楽しむ。
120両の軽戦車の砲撃は75mmといえども迫力があるな。横一列に光る砲炎を見てそう思う。
そんな砲弾が炸裂する遥か彼方で沢山の火炎弾が空を舞っていた。あの下に突っ込んだ軽戦車がいるんだろう。
たった4両だが目的をちゃんと果たしてくれたようだ。
後部の扉が閉じ始めたので、前方の操縦席に移動する。
フラウ達はジッと前方とディスプレイを見ているようだ。
「どうだ?」
「かなりの被害を与えているようです。現在、陽動部隊を後退させています。弾薬は十分なのですが…、グールイーターの群れが近付いています。」
俺達の攻撃で呼び寄せてしまったのかな?
まぁ、敵の敵は味方というから、後はグールイーターに任せても大丈夫だろう。
フラウ達は後退進路を上手く操りながらグールイーターへ敵軍を誘導しているようだ。
これは結果が楽しみだな。
大きく開かれた施設への入口を潜り、ホークを着陸させる。
整備はタロス達に任せて俺達3人は司令室へと急いだ。
・
◇
・
司令室の大型ディスプレイに状況を表示させる。
科学衛星からの画像と偵察車両等が送ってきた情報を合わせて表示させてみると、作戦の結果が分ってきた。
偵察装甲車4台はジャングルの縁に到達したようだ。次元断層までの距離は10から15kmというところだな。
そしてトンボは殆ど次元断層近くに張り付いている。距離は1kmもないだろう。
小さな青い輝点が数十個、次元断層の淵をなぞるようにして止まっている。
陽動部隊の方は帰路を辿っている。こちらから出発した部隊と2時間程で会合出来そうだな。やはり燃料を運んでいるようだ。
敵の前部は混乱しているのが分る。グールイーターと死闘を繰り広げているに違いない。
俺達の爆撃コースでは2箇所で火災が発生しているようだ。
これで、敵の軍団集結はかなりなダメージを受けたに違いない。
「陽動部隊の成果は現在推定中です。グールイーターとの争いがまだ続いていますから正確な数字は後程に…。それでは、次元断層の効果範囲を確認します。」
「あぁ、任せるよ。後で結果を知らせてくれ。俺はちょっと出掛けてくる。」
とりあえず、無事に帰ってこれただけでも喜ぶべきだな。
軽戦車もどうやら無事に帰還できそうだ。砲弾の予備があるのは軽戦車位だからな。
斜路の端に座って、のんびりとタバコを楽しむ。
ヘッドディスプレイでもう少し詳しく状況を確認してみると、南から進軍してきた連中は火事で足止めを食っているようだ。
2つの火災が1つになってジャングルを焼いている。あれでは進軍は出来ないな。
下手に迂回すれば巻き込まれそうだ。それ位の知恵は持っているようだ。
俺達の前にいた軍団は南東方向に陣を形成している。
まだグールイーターが襲っているのだろうか? 少しでも奴らを減らしてくれるんなら助かるんだがな。
待てよ。これを上手く作戦に取入れられないかな?
今までは順調に進めた荒地を奴らは進めなくなった筈だ。
常にグールイーターの脅威が奴らを脅かすだろう。ならば、西から攻撃すれば必然的に奴らは東にコースを取らざる得ない。
確か、騎兵隊の装備はたっぷりと合ったから、騎兵隊で西を突いてみるか。
「やはり、ここでしたか?」
そう言って、フラウがカップを渡してくれる。この匂いは…、コーヒーじゃないか!
俺の隣に座ると、ポットから自分のカップにコーヒーを注いでいる。
「まだ持ってたのか? ありがとう、やはりこれに限るよ。」
「後、数回は楽しめます。…次元断層の概略が分りました。地上50cmでその効果を失っています。車両は入れませんが、私達なら入れますよ。」
「入って何をするかが問題だな。偵察ロボットは情報を送っているのか?」
「偵察用ロボット全てを次元断層の中に突入させました。トンボを2台中に入れています。数時間でかなりの情報が集まるでしょう。解析に1時間程あれば報告できると思います。」
「陽動は少しおもしろい事を考えた。多連装ロケット砲(MLRS)を2両解凍してくれ。後は軽戦車が1小隊と騎兵隊が1中隊あれば長期間の陽動が可能だ。」
さて、問題はあのバリヤーの中だよな。4つの塔に秘密があるんだろうが、折角忍び込むんなら、1つは破壊して様子をみたいものだ。
それで、次元断層のパターンが変われば、少しは先が見えるのだが…。