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落花  作者: elephantom
1/3

恋愛的要素は一切ありません。

暴力的な表現を含みますのでご注意下さい。


「今日は新人が入るから気を引き締めるように」と、

私よりも4年先輩にあたる笹森さんに出勤早々言われた。


名前は明かすことが出来ないが、ここは重犯罪を犯したものが収監される刑務所で、

M刑務所としておこう。

名前を明かせない理由は色々とあるのだが、

主となる理由としてはこの刑務所内では看守による収監者への

虐待が頻繁に行われているからだ。

誰も止める者はおらず、犯罪者への制裁という大義名分がまかりとおっている。


私の名前は間島稲継まじま いねつぐ

このM刑務所へ配属されてから2年だが未だに慣れはしない。

勉強だけが取り柄で、学生時代のあだ名は『マジメ』だった私は、

国公立を出て、犯罪とは無縁の真面目一筋な私の人生において、

凶悪な犯罪者を相手にするなど、想像にもしなかった。

父は別の刑務所で看守長を勤めていたが、同じ道を歩むな

 

今日のように、新しく収監される囚人がくる日は特に緊張が収まらない。

初日の囚人は私のようにかはわからないが、緊張や不安からか、

気が荒くなっていることが多い。

実際は、囚人が看守を襲うことにはデメリットが大きすぎるためかあまりないことだ。

だが、それもこの刑務所の中に居ればわかることであり、初日の囚人にこの法則は及ばない。

まずこのM刑務所が『重犯罪』を犯した者を収監するという特質から考えても、

少しでも気を抜けばいつ襲われるかもわからない状況なのだ。

それに加え、囚人同士の喧嘩だってある。

衆人同士の喧嘩の場合は、刑務所内での立場や、存在が確立するメリットがある為よく起こる。

それを理由に看守は囚人に激しい暴力等の虐待行為に至るわけだが、

それを受けてでも囚人にとってこの刑務所という閉鎖された空間では

自分の立場というものは重要なようだ。

それを確立する為に必要なことは何も喧嘩だけではない。

他にも、看守と通じて物品を売買したり、

多くの情報を得ているような利用価値のある奴や、経歴だ。

本来であれば、窃盗や、暴行などと色々な経歴の囚人がいる為、

殺人などの犯罪者は一目置かれることが多い。


だが、このM刑務所の場合は違う。


ほとんどの囚人が殺人を犯している為、刑期によって判断されることが多い。

要するに、殺害を犯した動機や、人数、殺害方法によって判断されるようだ。

死刑を抑制すべきという声が高まり、今ではほとんど死刑判決を受ける者はいない。

死刑がほとんど行われないこの国で、いかに残酷であったをもの語るのは刑期の長さだ。

そうして皆、確固たる立場を確立させ、自分自身の身を守る必要がある。

このM刑務所には囚人が休まる場所などないのだ。

被害者からすれば、願ったりな環境だろう。


「時間だ」笹森先輩の声に我に返り、私は気を引き締めた。


私より1年先輩と、ベテラン枠の先輩に連れられて入ってきた。

その男はやや足を引きずりながらも、鋭い眼光で自らの道を塞ぐ我々を睨んでいる。


ここに連れられてくる犯罪者達は、往々にして社会や他人に対して恨み辛みを抱いている者が多い。

そして、噛み付かんばかりに反抗心をあらわにする。

この男もそんな風だった。


私は男を部屋へと連れて行くの役目だ。

先輩達からその男を引き継ぎ、静かな廊下を二人で歩く。

今は刑務作業時間の為、この館内には事実上二人きりだ。


案内し終え、館内での説明をする。

男は特にきくでもない。

私は強めに時間厳守であることや、ここの規律を守ることの重要性を話した。

すると、男は私に向かって暴言を羅列した。


勢いよく飛び出し続ける暴言に感心すらした。

私「君は頭がいいね。だけどパンクロックの蛇口でもひねってしまったかと思ったよ。」

私はなだめ付かせる為に冗談めいたことを口にし、

他の看守には絶対に言ってはいけないとだけ注意した。


すると男はその返答として、私の顔に唾をはきかけて背中を向けた。


(殴られなかっただけましか・・・・)


そう思いながら、私は房にしっかりと鍵をかけてあとにした。


看守部屋に戻ると、笹森先輩に呼び出された。

私「笹森先輩、何でしょうか?」

笹森「うん、お前はさっきのやつの経歴はきいたか?」

静かな顔で私に質問する笹森先輩はいつもと様子が違っていた。


私「いえ、何も。きいておいた方が良かったですか?」

基本的には聞いてく必要があるのだが、

私のように慣れない者がきくと、

先に脅えが入り支障を来たす場合がある為きかされないこともある。

今回も聞かされはおらず、よほど凶悪なのだろうかと思っていたところだった。


笹森「ならいい。お前はあいつの担当はしなくていいからな。」


特に珍しいことでもないので、了承した。

名前くらいは確認しておくべきだったと反省し、笹森先輩に尋ねた。


笹森「川島。死刑囚だ」


名前と刑期をきき、私はそのまま自席に戻った。

そうして2ヶ月が過ぎた頃、囚人同士の喧嘩騒ぎが起こった。

囚人同士の喧嘩を仲裁するのは先輩方の仕事、いや、気晴らしだ。

私は看守室に残り、他の先輩は警棒を持って慌てて止めに行く。

案の定、戻ってきた先輩方の興奮した顔と話をきくと、囚人は皆手酷くされたようだ。

その中にはあの川島という男も含まれていた。

川島はひどく凶暴で、手がつけられなかったそうだ。

大方囚人を落ち着かせたものの、川島だけが怒りを爆発させ続けていたという。

囚人を人形か何かとしか思っていない先輩達ですら、焦りを感じたという。

そして、4人がかりで川島を取り押さえ、

拘束具を取り付けられた姿で独房へと放り込まれたようだ。


独房は通称『トレーニングルーム』と呼ばれており、

一汗かきにいくと言ってはそこに気に入らない囚人をいれ、

自由のきかない状態におかれた囚人をサンドバックがわりにする。

中にはそれ以外の方法で痛めつける者もいるときく。


川島の凶暴さから、野生の虎を捕まえたような感覚なのだろうか。

誰もがわれ先にとトレーニングルームの使用を希望した。

学生時代にラグビーをしていた体格の良い一人の看守が1番手となった。

拘束具で固定されているとはいえ、皆やはり恐怖はあるのだろう。

ある程度痛めつけられたあと、自分もその痛みを増幅させる役割を担いたいらしい。


正直、館内でのこの習慣には私はついていけない。

皆看守同士でいる時には冗談を言い合ったり、家族の話をしたりと、普段はの顔は穏やかだ。

だが、どこにそのような病気じみた狂気を隠し持っているのか、

その習慣を良しとしている仲間の顔は私にはどうも慣れない。

ただ、それを私にも強要しないことにおいてはまともなのだろうと思う。

もしくは、私の父が別の刑務所で館長をしていることを知ってか、

私にはあまり知られたくないだけかもしれないが。


騒動から2週間後、看守同士が楽しげに話しをしていたので話に加わろうとした時、

その内の一人が、川島の拘束具を外し忘れたと笑って話ているのが聞こえた。

どうせ死ぬんだしと別に構わんだろうと。

私は話には加わらず、慌てて独房へ向かった。


もともと死刑囚は独房なのだが、『トレーニングルーム』は一番奥の窓のない場所をさす。

廊下をはさんで対向している独房の中で、『トレーニングルーム』と呼ばれる房は4室。

今は2室が埋まっており、1室は昨日看守の呼びかけを無視したという理由で入れられており、

拘束具は外されているようだ。

その男にも後で医務室へ連れて行ってやると告げて、まずは川島の方を出してやらねばと思い、

川島らしき塊を見つけた。

房の中に入る前から、糞尿や汗だろうか?異臭が立ち込めている。

拘束具にしっかりと身を包まれ、芋虫のような姿の川島らしきものに恐る恐る近づいた。


声をかけるが返答はない。

拘束具の上から軽くゆすって見たがぐったりとしてやはり返答はない。

もしや本当に死んでしまったかと思い私は焦りはじめた。


急いで拘束具を脱がしてやると、初日に勢い良く私をなじっていた姿などどこにもなかった。

飲まず食わずのやせ細った体は限界まで衰弱し、暴行の跡は化膿していた。

身長168センチと元々小柄な男なだけに、脂肪をなくした体は軽く、

私一人でも医務室まで彼を届けることが出来た。


医務室まで運ぶと、医師は少し驚いた様子を見せたが特に慌てる様子もなく、

回転椅子をくるりと軽快にまわし、川島を見た。


医師「いやいや、今回はまた手酷くやられているね。」


私「楽しげにしている場合じゃないですよ!2週間も放置されていたんです。早く手当てを!」

慌てて言う私に対して、あくまでも冷静、むしろ楽しんでいるいるように医師は言う。


医師「まぁ見てやるとも。今月の死亡数はもういっぱいでね。来月当りに繰り越してやらんとな」


そう。あまりにも館内で実刑以外の死亡者が出ると、監査でひっかかる。

そうなると、看守指導が行われるうえに、

それらをかぎつけてマスコミに実態を暴かれでもしたら大変だ。

今まで死亡した受刑者を総合すると、問題がないとは言い切れないはずだが、

何も言われないところをみると、その監査もろくに機能はしていないと思われる。

私が息を切らしながら医師の作業を待っていると、医師は笑った。


医師「だぁ~いじょうぶさ。生かすよ。今回はあんたが見ていたんだからな」


ニヤリと口もとだけを持ち上げて笑う顔に少し腹立たしさを感じたが、

私の要素の中で今この状況で役に立つことがあったのだから良しとした。

一応見届けたいということを申し出た。

許可を得たので、

医務室の、同じく回転する背もたれのない安っぽい椅子に腰かけ待つことにした。


医療に関する知識は皆無だが、手際よく治療されているのは見てとれた。

極度の栄養不足、殴打による打撲、大小の裂傷に加え、先ほどまでは気がつかなかったが

右足の膝から下はあらぬ方向に向いていた。

右手の親指と人差し指、左手の薬指も折られていたそうだ。


それらを全て正しく処置していく姿を見届け、

あとは意識が戻るかどうかの問題だと言われたので私は業務に戻ることにした。

『トレーニングルーム』にもう一人倒れているから治療してほしいと伝え、医務室を出た。



15Rはじめました。

色々なお話にチャレンジしたいと思います。


文章のルール的なものは勉強中なので、読み辛さはご容赦下さい。

18歳以上の方は他の作品も宜しくお願いします。

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