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闇の中より1

 ――闇。

 暗い闇の中に、複数の小さな光が浮かんでいた。

 そこは一体どこなのか、夜の闇の中なのか、それとも深い洞窟の中なのか。はたまた、海の底か。


 『――贄の娘が連れ去られたと聞いたが、それは(まこと)か?』


 突然、空気が震えた。光と、複数の小さな光しかなかった場所に音が生まれる。

 『何?それは本当か』

 『初耳だ』

 『私も』

 『本当なのか?』

 最初の音をきっかけに、次々と音が増えていく。音に合わせるかのように光が点滅したり、動いたりする。どうやらざわめいているようだ。

 しかし、次の音が発せられると、ざわめきは収まる。

 『まさか。社を守っていたのは雨月(うづき)の息子達だぞ、そんなことがあるものか』

 『それもそうだ』

 『一体誰が言いだした戯言だ?』

 『リオ様でしょう?』

 『おや、リオ様が』

 『まったく、“我が君”がもうすぐ目覚めるからといって少し浮かれているのではないかね。冗談もほどほどにして欲しいね』

 『私はそんなに嬉しくないよ』

 『口を慎め、“我が君”に無礼だ』

 『そんなことより、リオ様はどうしてまたそんな御冗談を?』


 『冗談ではない』


 『何?…では訊き間違いだね』

 まるで笑っているかのような音が響く。しかしその時、


 『――いえ、それは(まこと)ですよ』


 しんっと辺りが一瞬、静まり返った。

 それほどまでに、最後の一言は、周囲によく響く音だった。


 静まり返った中で、一番始めに聞こえたあの音が静寂を破る。

 『――雨月(うづき)か』

 『はい』

 『やはりあの娘は連れ去られたのか?』

 『そのとおりです。私の息子どもは死にました』

 『上月(こうづき)宙月(うげつ)下弦(かげん)の三匹すべてが死んだと?』

 『さようでございます』

 『…ふむ。それはもちろん、娘を攫った奴の仕業か』

 『そうだと思います。社の封印が破れたあと、私はすぐに使いを飛ばして娘の行方を探しました』

 『ほう。それで、見つかったのか?』

 『はい。ですが、返り討ちにあったようで、すべて戻ってきました。再生させるのは難しいですね』

 『再生させる必要はない。娘を連れ去った者の情報だけを抽出しろ』

 『すでに完了しています。ただ…』

 リズム良く響いていた音が、急に濁る。それに最初の音は訝しげに音を響かせた。

 『何だ?』

 『最後に消されたイの零号から、思わぬ情報が抽出されました』

 『どんな情報だ?』

 『あの方――“我が君”が、すでに御目覚めになられていると』

 『…まさか』

 『私の使いが申すには、娘を連れ去ったのは“我が君”に違いないと…』

 『……』

 最初の音が沈黙する。すると、今まで黙っていた他の音が一斉に音を響かせた。

 『“我が君”は深い眠りについているはずでしょう?』

 『そうだ、我らの知らないうちに目覚めるなんて考えられない』

 『“我が君”の力は絶大。“我が君が目覚めれば、すぐに分かる』

 『……あの恐怖はすぐに感じ取れる』

 『でも、もし本当に目覚めていたら?』

 『そんなはずない』

 『あり得ない』

 たくさんの音がうるさいくらいに響き渡る。

 『そもそも、雨月の息子達は少々ツメが甘い所があった。どうせ相手の力を侮って、殺られたんだろう?』

 『今はそんなことどうでもいい。問題は“我が君”のことだ』

 『…気になったんだが、もし本当に娘を攫ったのが“我が君”だとして、何故逃亡する必要がある?あれは“我が君”の贄だ。連れて逃げる意味がない』

 『確かに』

 『あれは“我が君”のために我らが用意したものだからね』

 『もしかしたら、“我が君”は目覚めたばかりで意識がはっきりしていないのかもしれませんよ。それに、まだ“あの時”のお気持ちが安定していないのやも…』

 『ああ、それで雨月の息子を殺してしまったのか』

 『なるほど』

 『納得している場合か?私は怖い。もしかしたら、またあんなことになるかもしれない』

 『お前は臆病だな』

 『雨月の息子達は“我が君”にお会いしたことがなかっただろう?不敬にも、敵と間違えて攻撃したのかもしれん』

 『無礼な』

 『それで返り討ちか。笑えるね』

 『待て。まだ“我が君”と決まったわけではない。…雨月よ。貴様の使いが襲撃者の正体を“我が君”と判断した理由はなんだったのだ?』

 『雨月は“我が君”に会ったことがある。使い達に、その記憶を写しておいたんだろう』

 『私は雨月本人に訊いているんだが?(じじい)は黙っていろ』

 『…ふん。若造が』

 『で、どうなんですか、雨月』


 ざわめいていた多くの音が、静かになる。

 雨月という音の響きを聞くために、他の音は収まった。


 すべての音が消えたのを待って、音が響く。

 『…眼が、』

 周囲によく響く音。雨月と呼ばれたものの音だ。

 『金色だったそうです。私の記憶にある“我が君”と同じ、氷のような金の眼だったと。』


 それを最後に、再び周囲は音の無い沈黙となる。

 あたりに散らばる複数の光は、震えているように見えた。


皆で語らい。

書いていて一番楽しい。

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