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言葉の果てに

またしても更新遅れました。

次話もかなり難航しているので、更新がまたしても遅れる可能性ありです。




 『別に悪いことではないわね。我が君が正常(まとも)な状態なら、むしろ大歓迎だったと思うけれど』



 俺の勘違いでなければ、今彼らが話していた事は、仮にも“我が君”という尊称で呼んでいる相手に対する反逆行為ではないだろうか。

 そんな話を堂々と誇るように話すとは、一体どういうことだ。


 地面に伏した状態のまま、緑新は言葉を続けている。


 『でも、今は駄目よ。少なくとも、あの“我が君”相手に反抗してはいけない』


 今までにないほどに強い意思の込められた声。

 さすがの化物も興味が湧いたのか、緑新の方をじっと見ていた。


 『それは、お前から見た感想か?』


 化物がそう問うと、緑新は自虐的な笑みを浮かべた。


 『貴方も見れば分かるわよ。一目見ただけで、あの方に逆らおうなんて気は起きなくなる。――“強い者に服従する”あの時ほど、その本能を強く自覚した事はないわ。』

 『へぇ、それは楽しみだ』

 『…やっぱり、貴方は不安要素ね』


 緑新はそっと溜息を吐いた。


 『過去にも、“我が君”に挑んで見事“我が君”を殺せた者もいた。残念ながら相討ちだったそうだけど。それからしばらくの間、次の“我が君”が決まるまで大変だったわ。私達に秩序という概念はないもの。そういう意味では、“我が君”は私達の秩序そのものと言える存在ね。――でも、今の我が君は違う。アレはもはやマヤカシとは呼べない存在になってしまった』

 『ほう?』

 『貴方の…いいえ、私達の理屈はもうあの方には通じない。でも、あの方以上に強い存在もいない。だから、眠らせてあげてほしいのよ。少しでも早く、傷が癒えるように』

 『……くっ……くくくっ』


 直接脳に響く声はギチギチという奇妙な笑い声ではなく、妙に人間的である。


 『ああ、そうか。お前は知っているんだな?“我が君”が狂った理由も、その封印とやらのことも』

 『…ええ』


 経った今まで、俺を置いて話は進んでいたが、ここで急に話が止む。

 化物は無言で緑新をじっと見て、次に俺の顔を覗き込んだ。しかし、すぐに目を逸らし、次に見たのは、それまで放置されていた少女だった。


 「……っ」


 それに、俺はわずかに息を呑んだ。彼女に何かしたら、許さない。


 『…成程』


 一瞬前まで、無関心のなかった少女を見下ろす化物は何かに気付いたようにほくそ笑む。

 そうして化物は緑新に視線を戻す。


 『貴様は、何故この人間達を守ろうとする?』


 唐突の質問に俺は少々驚いた。それは、俺も気になっていたことだが、何故それを今訊く?

 緑新に目をやると、彼女も少し驚いたような顔をしていた。だが、すぐに攻撃的な笑みを浮かべてこう返答した。


 『…こんな罪もない人間の娘を、“我が君”の贄にするわけにはいかないからよ。我が君に必要なのは、“穏やかな眠り”だけよ。それを邪魔して、生贄を与えることにどれほどの意味があるのかしらね』


 『本当にそうか?』


 『ええ。私は罪もない人間が我が君の手によって無残に殺されるなんて許せないの。これ以上、あの方を苦しめないでほしいから』


 『それは嘘だな』


 『……なんですって?』

 『お前は何かを隠しているだろう』

 『何を言っているのかしら?』

 『この娘…』


 その言葉に、俺と緑新が反応した。

 俺の方は少女に危害を加えられるのではないかと気が気ではなかったが、緑新の反応は俺のそれとは違うような気がした。


 緑新の反応を見た化物は、ふっと笑ったように見えた。


 『この娘は“我が君”に捧げる贄。俺は、ただそうとだけ聞かされていた』

 『…それでいいじゃない。他に何か知りたいの?彼女の胸の大きさでも気になったのかしら?』


 人間にしか通じないであろう皮肉を使う緑新は本当に人間じみている。だが、何故だろう。今まで普通に話していた彼女が、どうして急に人間にしか通じない皮肉を化物相手に使ったりしたのか。


 ――コイツが動揺している…?


 化物は緑新の皮肉に当然気づくことなく、あえて何も言わなかった。そして、今度は俺の方に視線を向けた。


 『人間よ。本当はお前も知っているんじゃないか?この娘が何なのか…お前はそのためにこれを助けに来たのではないか?』


 ――今度は一体何を言い出したんだ?


 俺が彼女を助けたのは…偶然のようなものだった。ちょっとした正義感、いやヒーローにでもなったつもりで、俺はあの蛇たちを殺した。

 だが、直にあの少女に相対した時、俺は言いようのない気持ちに囚われた。


 何故だか、惹かれた。どうしようもないくらいに。

 俺は一目惚れなどという世迷い事は信じない。

 だが、もしこの気持ちを表現できる言葉がそれしかないのならば、一目惚れでもなんでもいい。

 どうしても側に置いておきたい。

 絶対に離したくない。


 だから、俺は彼女を守るし、彼女を俺から奪おうとするものすべてを退けたいと思った。ただそれだけだ。俺にはこの化物が何を言っているのか、理解できない。


 『…一体何を言っているの?』


 口を開いたのは、俺ではなく、緑新だった。

 厳しい顔つきで、化物を睨んでいる。


 『先ほどの話程度で、貴様が自らの身を危険に晒してまでコイツらを守る理由になるとは思えないな』

 『ちょっ…』


 化物の勝手な言いように緑新は声を上げるが、化物は気にせず言葉を続ける。


 『――ならば、この人間は、贄の娘を我らから奪還するためにやってきた。そしてお前はそれを知って、その人間に協力している…違うか?』

 『…ずいぶん勝手な妄想をするのね』

 『我らのことを知らないただの人間が我らの森に偶然入り込み、偶然この娘を助け、なお且つ上月達を殺すだけの力を持っているなんて、あり得ると思うのか?』

 『………』


 それに関しては、緑新は何も言い返せない。

 だが、俺にだって説明することはできない。

 俺がマヤカシのことを知らないのは、俺が“こっち”の住人じゃないからだ。この森に入り込んだ理由は何の事はない、気が付いたら何故かこの森に居ただけだ。そしてあの少女に会ったのも偶然で、マヤカシを殺せた理由に関しては――俺も良く分からない。ただ、俺にはそれが当たり前のようにできた。ただそれだけだ。


 俺達の無言をどう受け取ったのか分からないが、化物は言葉を続けた。


 『この娘の利用価値は我らの側だけでなく、人間側の方にもあるということか』


 まるで何もかも分かったかのような口調で、独り言を言う。


 『…ただ単に、彼女を不憫に思った人間達が彼をここに送り込んだ、という可能性も十分にあると思うけれど。貴方が妄想するのは勝手だけど、それを決めつけるのはどうかと思うわ』

 『もう知らぬふりは止めたらどうだ。その娘は、数十年前の我が君と何か関わりのある存在なのだろう?』


 沈黙が落ちた。







『…いやむしろ、その娘が我が君を狂わせたんじゃないのか?』








こういう答え合わせみたいな話を書くのは難しいですね。

前後の話と矛盾するところがあったらすみません…。


次回は私が特に書きたいと思っていたシーンが到来すると信じています。


…なんか他人事みたいな言い方ですが。

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