クリスマスイヴの丘の上
君は知っているだろうか?
幸せになれるのは世界中の全員ではないということを。
皆は知っているだろうか?
イケメンリア厨達に全てを奪われた"僕達"のことを。
これは僕達がクリスマスという敵、カップル達という障害、サンタクロースという僕達に不幸せという苦水を飲ませる存在と戦う戦記である。
クリスマスイブの丘の上……僕達は永久の友情を誓った。
さあ、皆に見せてやろう。僕達の醜い底力を。
メリークリスマス――今年は"デスクリスマス"だ!!
「周防、こっちの準備はできたよ」
「ああ、今行くよ」
今僕達は町外れの丘の上――そこに建てた小屋の中にいる。
……あ、説明が遅れたか。
僕は周防天和。モテないボーイズ&ガールズ、そしてこれを見ている君と同じ存在だ。
少し向こうで普段は見慣れない機械をいじっているのはリム・F・リリーベル。名前の通り外国の人だ。
僕達がなにをしようとしているのか、それは"クリスマスを破壊する"準備だ。
具体的になにをするのかは追々説明したいと思う。
「ねえ周防、椎名やガンホーはまだ来ないの?」
「まだ集合時間より10分早いからね。もう少しでくるんじゃないかな」
「ようやくこの日が来たんだね……奴等に復讐をするときが!」
モデルガンのライフルの装弾を済ますリム。
危険だからこんなところでそんなもの振り回さないで欲しい。
「ちーっす。お、早速やってるねえ」
「ふむ、俺達が最後だったようだな」
小屋の扉を開けて入ってきたのは俺達の仲間、椎名柚貴と蒲生北郷ことガンホーだ。
「遅いです二人共」
「なーんだよ、まだ集合時間には早いだろ」
悪態をつくリムに対してもっともな正論を言う椎名。まあ別に柚のヤツは悪くないと思うからフォローしてやるかな。
「こらリム、そんな怒ることないだろ。遅れたわけじゃないんだからさ」
「わ、わかってるよ……ただ早く準備は済ませとくに越したことはないでしょ」
「ふむふむ、確かに正論だね。というわけで柚、ガンホー。早く仕事仕事」
「わーっったよ。つってもまあ俺の作業はもう終わるところなんだけどな」
「ならこっちの作業を手伝ってくれんか……まだ少し時間がかかりそうだ」
「えー?ガンホー、おめえ身体でけえんだから一人でやってくれよ」
「俺の身体がでかいのは関係ないだろう……それに作業とは皆で協力するものだ」
「そういうことだ柚。そっちが終わったらガンホーを手伝ってやろう。僕も手伝うからさ」
「さすがリーダーだな、椎名も少し見習え」
「うっせえデカブツ。周防ばっかし棚に上げてんじゃねえや」
「こら柚、喋ってばかりいないで作業に集中しないか。リムはもう終わったといっていたよ」
「別にいいだろ、まだ時間はあるんだし」
「クーリスマスが今年もやーってくるー♪」
「やぁぁぁぁめぇぇぇぇろぉぉぉぉぉ!!!そんなデスソングを聞かせるんじゃねえ!!!」
「もう、ならちゃんと作業してください椎名」
「ふざけやがって……おいリム!てめえいい加減に」
「ジングルベージングルベー、鈴がぁー鳴るぅー♪」
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!!!悪魔の鈴がぁぁぁぁぁぁ!!!」
まったく……仲が良いのか悪いのかよくわからない連中だ。
そうだ、ここで教えておこう。
我等の部隊の名は"DC"(デスクリスマスの略)。
僕達はリア厨達が楽しくしているのを羨ましく思いそれを破壊してやろうという集団だ。
そして僕はその部隊の全7部隊の中での第4部隊のリーダーをやっている。
メンバーには当然クリスマスを呪う理由がある。
リムは工業高校の出身なので場の空気的にろくに恋愛をすることができなかった。
工業高校は女子にくらべて圧倒的に男子の数が多いので男子もなかなか声を掛けづらいのだろう。
リムはまあ僕から見たら可愛いと思う。
え?じゃあお前がデートにでも誘えって?
いやまあ……そういうわけにもいかないんだよ。察してくれよ。
柚……椎名柚貴はその軽そうな態度から女の子から"よく遊んでそうな人"にみられているらしい。
見た目とかからもそういう雰囲気は伺えるけど本人曰く恋愛経験も異性との関係を持ったこともないという。
ガンホー……蒲生北郷は学校生活はずっとラグビー部の活動に汗を流していたそうだ。
その大きな身体も相まって少し怖がられていたのか、恋愛事などにはまったく関与したことがないとか。
僕は……僕の理由は少し複雑だ。
まあそのうちわかると思うから今は言わないでおくよ。
さて、大方の準備は終わったようだ。
今日は12月24日、クリスマスイヴ……僕達の作戦決行日時だ。
僕達の任務、それはこの町に大きな円になるように配置されたクリスマスツリーを模したイルミネーションを25個全て破壊すること。
そしてその円の中心にあり、25日0時になった瞬間にライトアップするという巨大クリスマスツリーも破壊すること。
え?立派なテロ行為じゃないかって?
確かにそうかもしれない。というかそれ以外の何者でもないと思う。
それでも僕等は抗うしかないんだ。それもこんな形でしか抗えないなんて哀れだと思わないか?
もし思うのだったら僕達に似合う良い異性を紹介して欲しい。
ま、冗談はさておきそろそろミッションスタートの時間だ。
僕達の任務は一人一つ、合計4つリムお手製の爆弾を使ってツリーを破壊すること。
「さあみんな、そろそろ行こうか」
「周防、椎名が戦闘不能だよ」
「来るなっ……お前の服が基本赤なのは返り血なんだろ!?なあ、殺人鬼S・クロース!?」
「おい柚、柚っ……駄目だ。完全に死んでる」
「どうするの?」
「……こうする」
僕は息をゆっくり吐くと1、2の、3で歌いだす。
「真っ赤なお鼻のー、トナカイさんはー、いつもみんなのー、わーらいものー♪」
「嫌だぁぁぁぁぁぁぁ!!!笑いものになりたくねぇぇぇぇぇ!!!」
「あ、起きた」
「デスソングで復活するとはよくわからんな」
「ガンホー、君も体感してみる?」
「……断っておく」
「そうかい」
……とまあおちゃらけもここまでだ。
そろそろミッションに行かなくては。
「ああ!リア厨のやつらに目にもの見せてやろうぜ!」
「柚……君は本当に哀れだね……。いや、良い意味も悪い意味も含めて」
「えーっと……うん、爆発の威力にも問題ないと思う……いけるよ」
「では行くか!」
「よし……各自、散開!」
こうして僕達のミッションが始まった。
皆小屋を出てあらかじめ指定しておいたポイントへ爆弾を仕掛けにまっしぐらに走っていった。
僕は小屋の中へ一人残される……いや。
「お前もいたっけな、イヴ」
物陰からこそっと現れたのは白い猫。
ここで活動する内にいつしか顔を合わせるようになったのだ。
僕が初めてみたイヴの日の雪のようなインパクトの強い美しい白い毛並みを持っていたのでイヴと名づけた。
クリスマス関係に敵対しているはずの僕だったがそのイヴという名前がとても似合っていると僕は思っている。
「お前も来るかい?」
にゃあ、と一声なくとイヴは僕の肩へぴょんと乗り込む。
「軽いなお前……ちゃんとご飯食べているのかい?」
にゃあ、とイヴは返事をしたが僕には当然なんと言っているのか理解できない。
まあ元気そうだしちゃんと食べているのだろう。
「じゃあ行こうかイヴ。クリスマスデートに連れて行ってやるよ」
にゃあ、とまたイヴは一声鳴いて僕の言葉に返事をした。
「なんか賑やかだね、やっぱり」
カップルなどで賑わう町の中、僕とイヴは歩いていた。
綺麗なイルミネーションがピカピカ光り、いつも見る風景とは違う町はまるで別世界のように思えた。
でも、僕達にとってはその光りは絶望でしかない。
決して僕達はリア厨にはなれないのだ。
「イヴ、お前もそうなのかい?」
にゃあ、とただイヴは鳴くだけ。
「そうかい」
猫と話をすることは叶わないが言いたいことはなんとなくわかる。
イヴは今この状況を楽しんでいるようだ。
「お前は気楽でいいな」
にゃあ、と鳴いたイヴが「そうでもない」と言っているように聞こえた。
しばらく歩いている内に目標ポイントの一つ――クリスマスツリーにたどり着いた。
「イヴ、ちょっと降りてな」
イヴを肩から降ろすと僕は小型の爆弾をポケットから取り出しツリーへと歩く。
まったく忌々しいな……こんなものは僕達を不幸せにするだけだというのに。
そっと爆弾を木の根の影に設置するとなに食わぬ顔でイヴのところへ戻る。
「ただいまイヴ」
にゃあ、と鳴いたイヴは多分「おかえり」とか言ってくれたに違いない。
「じゃあそろそろ小屋に戻ろうか。イヴ、お前も寒いだろ?」
イブは鳴かない。
「なんだい、もう少し歩いていたいのかい?」
にゃあ、とイブは鳴いた。
「お金はないから何も買ってやれないけど……いいよ、デートの続きだ」
なんとなく、だけれど僕にはイブが嬉しそうに鳴いた気がした。
そんなわけで僕達は小屋へは戻らずにしばらくこの綺麗で汚い町を歩くことにした。
「まったく……猫は炬燵で丸くなるんじゃなかったのかい?」
にゃあ、と鳴くその仕草には「他の猫と一緒にするな」と言っているように見えた。
「はははっ、猫にも厨二病があるとは知らなかった」
外から見ていたら僕は相当の変態に見えたことだろう。
でも僕は楽しいからいいんだ。
僕が楽しいからきっとイヴも楽しい。そんなものだと思うよ、僕は。
「ただいま」
「周防、遅い!一体どれだけ時間をかけているの!?」
「……ごめん」
結局小屋に帰ってきたのはあれから1時間後。
目標時間の0時までもう30分をきっているところだった。
「……!まさか周防、例のやつらにまたなにか……」
「違うよリム、僕がなんのために"僕"と名乗っているか忘れたの?」
「そりゃ……忘れてはいないけど」
「だったらいいんだ。……そっちの首尾は?」
「上手くいったわ。後は待つだけね」
「そうかい」
僕は小屋の床へ腰を下ろす。
暖房が効いているので寒いということはなかったがやはり座り心地がいかんせんよくない。
イヴもいつの間にかどこかへ行ってしまったようだ。
「なにか飲む?」
仮設したキッチンへ向かっていたリムが僕へ声をかけた。
外から帰ってきたのだ、いくら暖房が効いてるとはいえ少し暖かいものが飲みたい。
「じゃあ、ココア頼める」
「お安い御用よ」
ふう、目標時間までは後は待つだけ……か。
なんだかあっという間のことだったな。
「隣、いいか?」
「ん?ああ、いいよ」
そういってドスン、と僕の隣に座ってきたのは大きな身体のガンホーだった。
「もうすぐ俺達の務めが終わるな」
「そうだね」
「……あっという間だったな」
「僕も今そう思ってたところ」
「そうか」
「……ねえ、ガンホー」
「なんだ?」
「僕はね、今まで短い間だけど君達といて楽しかったよ」
「……俺もだ」
「でもやっぱりまだ怖いんだ……君と、柚が」
「仕方あるまい。……辛いことだったんだろう?」
「……嫌な記憶がこうしていつまでもつきまとうからさ、せめて楽しい記憶もずっとつきまとってくれたらなって思うんだ」
「……それは俺達のことか?」
「うん、皆と過ごしたこの数日はとても充実していた。リアルがね。」
「リア厨……とはまた違うのか」
「どうだろうね」
自分達が敵対していたものに今自分達がなっている……おかしな話だ。
「でも君達のおかげで多少僕の……アレがマシになったのは確かだよ」
「そうか、それはよかった」
ガンホーはずっと窓のほうを見ている。
今後のクリスマスツリーの惨状が気になるのだろうか。
「では、俺は先に外に出ている。また後でな」
「うん、また後で」
手をふり見送るとドアのところですれ違うように今度は柚が現れた。
「……隣」
「いいよ」
言いたいことはわかっていたので先に言ってやった。
「なんだよ、調子狂うな」
「なんの調子だよ、なんの」
相変わらずというべきか、柚はよくわからないやつだ。
「なあ周防」
「……なんだい?」
「まだ駄目なのか……例のアレは」
「……少し、ね」
「これはさ、それを視野に入れての話なんだけどさ……」
私のアレを視野に入れたことでの話……まさか。
「俺と付き合う……ってのはやっぱなしなのか?」
……やっぱりか。
告白されるのは実は初めてではないのだが……。
「……ごめんね、ちょっとまだ整理がつかないよ」
「……椎名」
そこへ現れたのがココアを持ってきたリムだった。
ナイスタイミングなのかナイスでないのかよくわからない。
「あのね、告白するなとは言わないですよ。でもせめて周防が"僕"から"私"に戻るまで待てませんか?」
「……すまねえ」
「リム、別に僕は」
「周防」
「……はい」
「……なんでもないよ」
時計を見るともうまもなく日にちをまたぐ……0時に近い。
「二人共、そろそろ行こう。ライトアップが始まる」
「ええ」
「わかった」
外へ出ると第4部隊だけでなく全部隊の人たちが丘に集まっていた。
「よう周防、今日の勤めご苦労だったな!」
「ええ、ボスこそ今までお疲れ様でした」
「まあまあ、そいつを言うのは全部が終わってからだぜ」
僕が話していたのは全部隊を束ねる存在――ボスと呼ばれる人物だった。
もともとこれだけの人数が集まったのはネットでボスがモテない人たちが集まるサークルを作ったおかげでもある。
「もうすぐ……ですね」
「ああ……よしお前ら!カウントダウンいくぞぉ!!」
「「おおーっ!!!!」」
「10!9!8!……」
そうして爆発へのカウントダウンが始まる。
どういうことになるのかは実際に0時を迎えなければいけないので僕は心なしか、わくわくしていた。
「7!6!5!……」
これが終われば僕達のつながりもこれでお終い。
そこからは、なにもない。
「4!3!2!……」
さあ、僕達がこの数日で成し遂げられることはどれだけ大きいことなのか。
あいつらに見せてやろうじゃないか。
0時に町中央にある大きなクリスマスツリーがライトアップされる予定なので周囲の市民やカップル達はそれを目当てに観客がたくさんいるはずだ。
そうやって注目が集まっているところを……ふふ、想像しただけで楽しくなってきた。
「1!……0!」
「イィィィヤッッホォォォォォーーーーーー!!メリーーーークリスマーーーーーーーーーース!!!!」
ドカーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!
カウントダウンの0とともにライトアップされるはずのクリスマスツリーは見事に爆発した。
綺麗なライトアップじゃないか。
「さあ皆、サツが来るまで飲み明かそうぜぇ!!」
さて、今から警察がここへ来るまでしばし宴の時間だ。
皆して「リア厨ざまぁ!!」とか言っている。まったくその通りだ。
そうやってしばらくドンチャン騒ぎをしているとパトカーの音が聞こえてくる。
「……もう来たのか……。おめえら!サツが来たが決して逃げるんじゃねえ!そいつはリア厨へ負けたことをみとめるってことだぜ!」
ボスは毎回めちゃくちゃなことを言うがなぜか説得力がある。
まあそんなことはもとよりサークルのルールだったが。
次々とつかまる仲間達……もちろん私だって例外じゃない。
手錠に繋がれパトカーへと連れて行かれる。
こんな時考えることは「ああ、手錠って冷たいな」とかそんなくだらないことだった。
パトカーに乗り込むと窓からなにか動いているものが雪の中にみえる。
あれは……。
「……イヴ?」
そうか、もうあいつには会えないのかな。
そう考えると少し目頭が熱くなる。
あいつは僕……いや、私の始めてのデート相手だったな。そういえば。
「さようならイヴ。多分初恋だったよ」
パトカーが動き出す。
最後にイヴがにゃあ、と鳴いたのかどうかはわからなかった。
クリスマスイヴの丘の上、どうでしたでしょうか?
短編にもまさかの展開というものはどうしてもつけたくて主人公をあんな感じにしてみました。
まだこれから見るという人は是非読んでみて、そして「まさか!」と思っていただけたら嬉しいです。




