第59話 地上からの客人
テイカーロッジの事務所を訪れた二人の女性は、出迎えに来たメーテラの姿を見ると、亜人ではない方の女性が一歩前に出て、声をあげる。
「あなたがメーテラさんですか!」
「はい、そうですけど?」
テイカーロッジはレイダーハブであるため、直接誰かが訪れることはあまりない。
二人がどのような用件で来たのかをメーテラもマキアも疑問に思っていると、彼女は単刀直入に述べた。
「メーテラさんが『G』だとお聞きしたのですが、それは本当ですか?」
「メット? え?」
「あ、失礼しました。フリーの記者をやってますエマと申します」
エマと名乗ったその記者は丁寧に名刺を渡す。そして続いて後ろに立っていた亜人の女性も名乗る。
「エマの『付き添い』兼『記者』兼『レイダー』のチュフォンです」
「おお、なんだか肩書が多いな」
メーテラが素直にたじろぐ様子を見せて、二人から貰った名刺を見る。
(フリーの記者がなんで……というかレイダー? それに『G』って)
彼女たちが本格手に何者で、何のために来たのかが理解できずメーテラが首を傾げる。
「あの、あまり状況が飲み込めないんですけど……その……『G』というのは」
問いかけの内容をすぐに理解できなかったのか、メーテラに尋ねられたエマは少しだけ固まった。
「あれ……私の勘違いだったのかな……。メーテラさん、こちらのフリマサイトで防護シールドを売っているのはあなたですか?」
エマは通信端末を取り出してフリマサイトの出品ページをメーテラに見せる。
画面にはメーテラのアカウントが映し出されていた。
「これは……私のですけど」
「あぁ、よかったです。アカウントに地下都市でレイダーハブ『テイカーロッジ』を運営していると書かれていたので、もし間違っていたらと……。こちらの防護シールドを制作した加工屋はどちらに?」
「私……ですけど?」
メーテラの言葉に、納得がいかないのかエマが首を傾げる。
どこか話がかみ合わない。
前提情報が欠けているのかもしれない。
二人の会話を傍から眺めていた付き添いのチュフォンと、ついでに同行していたマキアが同時に声を上げる。
「『G』についてご存じでないのでは?」
「『G』についてと、あなたたちが訪れた用件をまず説明して貰えますか?」
同時に声を出したチュフォンとマキアは互いに顔を見合わせて、大まかに意思を共有し合った。
そしてチュフォンはエマに「私が説明するから」と下がるように告げる。
「色々と情報が足りていないと思うので、私から少し説明を」
そう言ってチュフォンが説明を始めた。
◆
レイダーズフロントが抱えていた腕利きの加工屋『G』。その存在は秘匿され、女か男か、子供なのか老人なのか、あらゆる情報は謎に包まれていた。レイダーズフロントに所属するレイダーのために装備を作っていることもあり、一般に『G』の作品が出回ることはなく、もし売り出されれば、物によっては天文学的な金額で取り引きされる。
その『G』の作品が突然フリマサイトに出品された。
『G』の作品にしては使われている素材も出来も今までの物とは程遠い。加えて制作者名も変わっていた。しかしながら熱心なファンは一切情報が無い状態で、フリマサイトに掲載されていた防護シールドを『G』が作ったと気が付き、同じく気が付いたファンと競い合いながら無事に買った。
「それが私です」
チュフォンがそこまで説明すると、エマが前に出て胸を張りながら『G』のファンであることを公表した。
「それで、あなたは『G』なんですか?」
「えっと……」
説明を聞く限りではメーテラが『G』ということで確定だ。
「たぶん、私があなたの言う『G』なんですけど、用件は何ですか?」
するとエマがぐいっとメーテラに顔を近づけて通信端末の画面を見せた。
「ここに『製作依頼受付中』と書かれているんですが! これは依頼したらあなたの手で武器や装備を制作してもらえるということでしょうか!」
声を大にして『ふんふん』と鼻息を漏らしてエマに対して、メーテラは引き気味に答える。
「え、えぇ、まあ、そうですけど」
「うぅっしゃあぁああ!」
エマが拳を天に突き上げた。
「あの『G』に自分だけの装備を??!!! 夢みたいです!」
メーテラを食べてしまいそうなぐらいの勢いを見せるエマ。
そんなエマを付き添いのチュフォンが取り押さえて、メーテラから遠ざける。
「すいません。こいつ厄介なファンなんで」
「え、いえ別に喜んでくれるのなら」
「ということで、私からも、制作依頼を二件受けて貰えますか」
メーテラが意見を伺うようにマキアを見る。
マキアとしては結局メーテラが制作することになるので、自分が何か言うことはない。
無言で『あなたに任せる』という視線をマキアに向けられたメーテラは、軽く頷いてからエマとチュフォンを見た。
「二件の制作物依頼ですね。時間ならたくさんあるので受けられますよ」
「やったぅあああ!」
エマは再び喜びの方向をあげて、すぐチュフォンに取り押さえられる。
「依頼を受けていただきありがとうございます」
「いえ、ぜんぜん。ただ装備や武器を制作するにしても、設備が整っていないのでできるものとできないものがあるので」
「分かりました」
「それと、マガツモノの素材がないので、素材を回収する時間と制作する時間を合わせるとかなりかかってしまうかもしれません」
メーテラの説明を聞くと「ああそれなら」とチュフォンに口を塞がれていたエマが声を上げる。
「私たちはあなたにお会いすることと、新しく発見された地下の探索区画を調査するために地下都市へ来ました。もし必要な素材があるのなら、そこで回収してきましょうか? 私もレイダーなので」
メーテラはその説明の一部を理解できず声を漏らす。
「新しく発見された探索区画の調査のために地下都市に?」
地上のレイダーがマガツモノを討伐するために地下を訪れることはほぼ無い。単純に、地上に生息するマガツモノの方が上質な素材が取れるため金になる。その上、規模の大きいレイダーハブも多い。
レイダーは地上の方が遥かに活動しやすいのだ。
だから、たとえメーテラに会うという目的があったとしても、地下を探索するという行動にはどこか違和感があった。そんなメーテラの違和感を解消するため、エマはさらに説明した。
「なんでも地下では初めての増殖する都市らしくて、それに機械系マガツモノも出るっていうので、調査のために来ました。私、なんてたって記者でもありますから」
地下都市に突如として現れた前哨基地跡。レイダーズフロントの説明を鵜呑みにするのならば、その前哨基地跡は自己修復機構によって増殖を続けているらしい。レイダーでもあり、記者でもあるエマはその不可思議な場所を記事にするために訪れていた。
そんなエマの説明を聞いてマキアが声を漏らす。
「それって……『B-1』ですか……?」
レイダーズフロントは前哨基地跡『B-1』を禁止区域から解放することを決めた。そのため今後は機械系マガツモノの素材を得るためにレイダーたちが訪れることになるだろう。
その内の一人がエマだった。
「あれ、君も『B-1』のこと知ってるの?」
「おれもレイダーですから」
「え、そうなのっ?」
エマがマキアに近づいて至近距離から顔を眺める。
どうやら、このエマという女性は人と顔を近づける癖があるらしい。
「なんだか可愛い子だったから、てっきりメーテラさんの助手かと。レイダーだったんだね」
「おれがマガツモノの素材を集める役割ですから」
「あら、じゃあ私たち仕事奪っちゃう?」
「あなたたちが何を制作するかは分かりませんけど、たぶんおれ一人じゃ素材を集めるのに時間かかりそうなので、逆に助かります」
「ふん、可愛げのある子じゃない」
ぽんぽんとマキアの頭を叩いてから、エマはメーテラの前に戻る。
「ということで、素材は私たちが回収しちゃうので」
「分かりました……じゃあ制作依頼について、どのような物を作るのか詳細をお伺いするので……ソファに座って話しましょうか」
「はいッ!」
やはりメーテラと話している時のエマはテンションがおかしい。
遠目でその様子を見ながら、いる必要もなくなったので、マキアは別室に行こうとする――と、チュフォンと目が合った。
「どこに行くの」
「素材の回収に向かおうかと」
じゃあ、と突然エマが口を挟む。
「私達と一緒に『B-1』の探索しない?」
「え……」
今度はマキアがメーテラに意見を伺うように視線を向ける。
するとメーテラはエマとチュフォンを見てから答えた。
「どんな素材にするかを今ここで決めちゃうから、別にそれでもいいんじゃない?」




