ひとりぼっちのスカンク
一年生に なったら~~、友達100人 出来るかな? 的なお話です。
山のふもとの大きな森に、たくさんの動物たちが住んでいました。
森の中には大きな広場があって、いつも動物の子どもたちが集まって遊んでおりました。
タヌキの子、キツネの子、イノシシやシカ、リス、ウサギ、それこそたくさんの動物の子どもたちがなかよく遊んでいました。
けれども、スカンクの男の子はいつも一人ぼっちで、広場のはしの木のかげで、みんなが遊んでいるのをながめているのでした。
とってもおくびょうで、おとなしくて、ものすごくはずかしがり屋の男の子だったからです。
本当は、みんなといっしょに遊びたいのですけれども、
「いっしょに遊ぼう!」
とか、
「なかまに入れて!」
なんて、とてもじゃありませんけれど、口にすることすら出来なかったのです。
ですから一人もお友だちがいませんでしたし、みんなもスカンクの子のことは、よく知りませんでした。
けれどもスカンクの子は、
(お友だちになれたらなぁ……)
って思いながら、いつもみんなのことを見ていたので、たいがいの子のことは知っていました。
そよ風の気持ちよくふく よく晴れたある日の午後、スカンクの子は、いつものように木かげから、にぎやかな広場の様子をながめていました。
すぐ近くの草の上で、ウサギの子が、お友だちのリスとキツネの子たちとおままごとをしているのが見えていました。みんな女の子でした。
ウサギの子はかわいくて、とっても明るい声をしていましたから、
(お友だちになれたらなぁ……)
って、やっぱりそう思いながら見ていました。
そのとき、キツネの子がスカンクの子に気がつきました。
「だれ? あの子? 知らない子が見てるよ! あっち行って!」
スカンクの子はがっかりして下を向くと、お家に帰ろうとくるりと広場に背を向けました。
すると、ウサギの子の声が聞こえて来ました。
「あら、そんなこと言ったらかわいそうじゃない、きっといっしょに遊びたいのよ」
そう言うと、ピョンピョンとはねてスカンクの近くまでやって来ました。
「いっしょに遊びましょ?」
スカンクの子は、おままごとなんてしたことがありませんでした。ですから、言われたとおりに、みんなの輪に入っておとなしく座っていました。
でも、うれしくてたまりません。
モジモジとしていましたけれど、本当は大よろこびだったのです。
ウサギの子がお母さん役、キツネの子は子どもの役でお姉さん、リスの子が妹の役でした。
「ちょうど、お父さん役がいなかったの!」
というわけで、スカンクの子はお父さんの役をすることになったのです。
ウサギの子たちは、草で編んだお皿に葉っぱを入れて、キイチゴとか色々な実でいろどってサラダをつくりました。
とてもステキでした。
みんなでそれを食べるふりをしたり、ちょっと食べてみたりするのです。
けれどもスカンクの子は男の子でしたから、本当のことを言うと、おままごとにはあんまりきょうみがありませんでした。
それに、生まれてまもなく、お母さんもお父さんも死んでしまいましたので、お母さんのこともお父さんのことも、覚えていませんでした。
ですから、お父さんの役はどうしていればよいの分からないのでした。
それでもウサギの子は、色々と親切に教えてくれました。
ますますウサギの子が大好きになりました。
みんなといっしょに遊べるから楽しくてしかたがありません。
キツネの子も、リスの子もキャッキャ、キャッキャッと楽しそうです。
そうやってなかよく遊んでいると、いたずらタヌキの三兄弟がやって来て、ちょっかいを出してきたのです。
「こいつ、男の子のくせに、おままごとしてるぞ!」
手にそれぞれ山ほど持ってきた木の実を、ワイワイさわぎながら投げつけてきたのです。
その上、勝手にキイチゴを食べてしまったり、お皿をひっくり返したりし始めました。
女の子たちは、
「やめて!」「やめて!」
ってさけびました。
タヌキの子たちは、いじわるをしてみんなを困らせるのが、楽しくてしかたなかったのです。
それでとうとう、ウサギの子が泣きだしてしまったのです。
キツネとリスの子が言いました。
「もう! あっちに行って!」
「イヤだよ~~~」
タヌキの子たちは、おもしろそうにそろってアカンベェーをしました。
スカンクの子は、ウサギの子が泣いているのを見て思いました。
(ぼくが、守らなくちゃ!)
勇気をふりしぼって、タヌキたちの前に出て行ったのです。
『プ~~~~ゥ』
!!!
タヌキの子たちは、鼻をおさえました。
「くっっさーーーい!」
オナラをしたのです。
それも、目にしみるくらい 臭くて大きなやつを。
タヌキの子たちは、目をまっ赤にしてなみだを流し、たまらず走って逃げ出しました。
近くにいた女の子たちも走り出しました。
「くっっさーーーい!」
それからニオイは、あっという間に辺りに広まっていったのです……。
スカンクの子は、みんなが広場から走りさって行く後ろ姿を、オロオロしながら見送りました。
初めて本気のオナラをしたのです。
そうしたら、たちまち広場で一人っきりになってしまったのです。
しばらくすると、森のあっちこっちからも、
「くっっさーーーい!」
って、声が聞こえはじめました。
スカンクの子はうつ向いて、そんなみんなの声を聞きながら、すっかりしょぼくれてしまいました。
(もう、帰ろう……)
それで、お家の方へ向きなおったときでした。
!!!
足元にウサギの子が、気を失って倒れていたのです。
ウサギの子をおぶって、ウサギの子のお家に歩いている間も、まだいろんなところから、
「くっっさーーーい!」
って声が、ときおり聞こえて来ました。
スカンクの子は、とっても悲しくなりました。
それでも、自分と同じ重さくらいあるウサギの子を、いっしょうけんめい背負って歩きました。
ウサギの子のお家は、大きなカシの木の根元にありました。
木の扉をノックすると、ウサギの子のお母さんが、ひょこっと顔をのぞかせました。
「あらまぁ! 大変! どうしたの?」
お母さんは慌てて飛び出してくると、スカンクの背中からウサギの子を抱きかかえました。
スカンクの子は、モジモジしながら言いました。
「ぼくがオナラをしたから、こんなになっちゃったんです」
「あら、ヤダ! ひどいことを! そういえばあなた、すごくクサイわね!」
ウサギのお母さんは鼻をつまむと、ウサギの子を抱えたまま急いではね退きました。
「もういいから、帰りなさい! 二度とうちの子に近づかないでちょうだい!」
バタン!
すぐ鼻先で、力いっぱい扉を閉められたのです。
それでスカンクの子は、トボトボとお家に帰りました。
スカンクの子のお家は、低いがけの下の穴ぐらの中にありました。
お家に帰っても一人ぼっちです。
スカンクの子は、しょんぼりとねぐらの草の山に腰かけると、すごくどなられたばかりですのに、
(ぼくも、お母さんがほしいな……)
と思いました。
くたびれていたので、間もなく横になり、なにも食べないまま眠ってしまいました。
それから二日間、スカンクの子はお家に引きこもってウジウジといじけていました。
せっかくお友だちが出来たと思ったのに、あっという間にまた、一人ぼっちになってしまったのです。
そのうえ森中のみんなに、
「くっっさーーーい!」
って、嫌われてしまったのです。
メソメソとなみだを流して、鼻をすすりながら、木の実をちょっとだけ口にすると、もう食べたくなくなってしまい、また丸まって泣き寝入りをしていたのです。
でも頭のすみっこで、ずぅ~とウサギの子のことを考えていました。
(だいじょうぶかな?)
心配でしかたがありませんでした。
けれども、元気になっていたって、もう口もきいてもらえないだろうと思っていました。
三日目の朝、とうとうスカンクの子は、じっとしていられなくなって、広場に様子を見に行ってみることにしました。
それでこっそり、いつもの木のかげにかくれてウサギの子を探していると、遊んでいる子どもたちが、スカンクの子を見つけて騒ぎ出しました。
「オナラプーだ!!」
「くっっさーぁ」
「あっちいけ!」
そう言ってみんなで、広場の向こう側へ走って逃げて行ってしまったのです。
その中に、ウサギの子もいました。
目があうと、
プイ!
って、顔をそむけられてしまったのです。
目も合わせてくれないのです。
スカンクの子は、勇気を出してあやまろうと決心していたのですけれど、もうその勇気さえなくなってしまいました。
お家まで下を向いてトボトボ帰るとちゅう、すれ違う子たちが、手で口元をかくしながら、ヒソヒソとスカンクの子の悪口を言っているのが分かりました。
鼻をつまんで、わきを走り抜けていく子にも会いましたし、やっぱり、
「オナラプーだ!」
って言われました。
スカンクの子は、お家に帰りつくと、
(もう、二度とオナラはしない!)
って、心にちかいました。
それからまた、二日間ほどお家でイジイジとしていましたけれど、いっしょにおままごとをして遊んだことばかりを思い出してしまうのです。
あんまりにも楽しかったものですから、忘れることなんて出来なかったのです。
それですから、三日目の朝、
(そっと見るだけ)
って、また出かけて行ったのです。
見つかったら大変ですから、いつもとはちがう木かげにかくれました。
だれ一人、スカンクの子には気がつきませんでした。
ウサギの子は、楽しそうにキツネとリスの子とおままごとをしていました。
今までは、おままごとなんかには ちっともきょうみがありませんでしたのに、やっぱり なかまに入れてもらいたくてしかたがありませんでした。
もし入れてもらえたら、今度はもっといっしょうけんめい、お父さんの役をやってみたいと思いました。
けれどももう、近づくことも出来ないのです。
スカンクの足元に、なみだのしずくが一つポトリと落ちました。
そのときです。
だれかのさけぶ声が聞こえたのです。
それは楽しくって思わず上げる大きな声や、はしゃぎ声ではありません。
おびえたひっしの声でした。
「みんな、逃げろーーー! オオカミだぁーーー!」
遠くの高い山の奥から、オオカミがおりて来たのです。
十ぴきはいたでしょうか、するどい目を光らせ、低いうなり声を上げながら走り下り、群れになっておそってきたのです。
みんなは悲鳴を上げながら、チリヂリに逃げさって行きました。
この森に、オオカミがあらわれたことなどありません。
おくびょうなスカンクの子は、足をふるわせたまま思いました。
(逃げなくちゃ!)
でももうオオカミたちは、広場に走りこんでいました。
みんなは、とうに逃げさっています。
けれども一人だけ、逃げおくれた子がいました。
ウサギの子です。
スカンクの子のすぐ目の前で、ふるえて泣いていたのです。
すぐにオオカミたちがやって来て、ウサギの子を囲みました。
「チッ! こんな子ウサギ一ぴきか!」
「みんな逃げちまいやがった!」
「おまえが、モタモタしてるからだよ!」
「なんだと、おれはモタモタなんかしてねぇよ!」
オオカミたちは、おそろしいうなり声をあげながら、うちわげんかをはじめたのです。
ウサギの子は怖すぎて、もう泣くことも出来ません。オオカミたちの輪のまん中で、体じゅうの毛をさか立てておびえていました。
それに、足を痛そうにしています。
くじいてしまったのでしょう。
それでは逃げることは出来ません。
スカンクの子は、ふるえながら考えました。
(このままじゃ食べられちゃう! 助けなきゃ!)
でも、出て行ったら自分も食べられてしまうでしょう。
やがてオオカミたちはけんかをやめて、ニヤニヤとしはじめました。
ダラーンと出した長い舌の先から、ポタポタとよだれをたらしながら。
それから、ジワジワと輪をちぢめ、ジリジリとウサギの子にせまって行ったのです。
「うまそうなウサギじゃねぇーか!」
「子どもだから肉がやわらかくて、きっとうめーぞ!」
オオカミたちは、ウサギの子をおびえさせて楽しんでいるのです。
スカンクの子は、すっかりおじけづいてしまった自分に、心の中でさけびました。
(飛び出せ! オナラだ!)
けれど、そんなことでやっつけられるなんて思えませんし、体も動きません。
そのうえ頭の中で、この間の出来ごとが、きのうのことのように思い出されて、次々と流れ始めたのです。
「オナラプーだ!!」
「くっっさーぁ」
「あっちいけ!」
そう言ってみんなで、広場の向こう側に走って逃げて行ってしまったときのこと。
ウサギの子のお母さんの、
「二度とうちの子に近づかないでちょうだい!」
というどなり声。
ほかにも色々ありました。
そして、さいごにうさぎの子の、
プイ!
って、顔をそむけたときのイヤそうな顔。
それなのに、気づけば木かげから走り出していました。
ウサギの子の横に、飛びこんでいたのです。
それから大きな長いオナラをしました。
『プ~~~~~~~~~~~~~~~~~~ゥ』
!!!!!!
オオカミたちは、みんな鼻をおさえました。
「くっっさぁーーーい!」
目をまっ赤にして、なみだがポタポタポタポタ。
「なんてくさいオナラなんだ!!!」
言い終わらぬうちにもう、走って逃げ出していたのです。
ヨロヨロとよろけて走りさりながら、口ぐちにののしり、さけび声を上げ、ゲホゲホとせきこみながら。
あっというまに、山奥の方に逃げて見えなくなってしまったのです。
しばらくすると、やっぱり森のあっちこっちからも、
「くっっさーーーい!」
って、声が聞こえて来ました。
スカンクの子は、またとっても悲しくなりました。
このあいだとまるでいっしょなのです。
今度も、ウサギの子が気を失って倒れていたのです。
ウサギの子の横にしゃがみこんだまま、あちらこちらから聞こえてくる、
「また、オナラプーだ!」
なんて声を、ションボリと聞いていたのです。
ウサギの子がすごく心配でした。
でも、スカンクの子の体もまだプルプルとふるえていました。
それだけ、オオカミは怖かったのです。
「また、やっちゃった……」
それからしばらくのあいだ、ウサギの子の顔を見つめながら、ウサギの子がかけてくれた言葉を思い出していました。
「いっしょに遊びましょ?」
ウサギの子の家につくと、スカンクの子は扉をノックしました。
とちゅう、だれともすれちがいませんでした。
みんなお家に逃げ帰ってしまっていたのです。
あまりに怖かったので、まだ足がガタガタふるえていました。
ウサギの子のお母さんが、ひよこっと顔をのぞかせました。
すごくいやな顔をしました。
それからすぐに飛びよって来ると、なにも言わずにウサギの子を引きはがすと、抱きかかえてどなりました。
「二度とうちの子に近づかないでって、なんどいったらわかるの!」
バタン!!
その夜スカンクの子はまた一人、お家でメソメソと泣きました。
(なんで、ぼくのオナラはクサイんだろう?)
いろんなことを思い出したり考えたりしているうちに、今度も泣きながら眠ってしまいました。
つぎの日の朝、スカンクの子は、
トントン! トントン!
って扉をノックする音で目がさめました。
(だれだろう?)
今までお家にだれかが訪ねて来たことなんて、一度もありません。
急いではね起きて、そっと扉を開けてみると、ウサギの子のお母さんが立っていました。
お母さんのかげに、はずかしそうに立っているウサギの子の姿もありました。
「ごめんなさいね! 何にも聞かずに怒ったりして。
あのあと、うちの子に聞いたの……。
この前も、そうだったのでしょう?
守ってくれたのね……。
ありがとう!」
スカンクの子は、お礼など言われたこともありませんでしたから、ビックリしてしまいました。
(ほかの子の話じゃないのかな?)
なんだかそんなふうに思えて、なにもこたえられなくなってしまったのです。
ぼんやりと、木になっちゃったみたいに立っていましたら、ウサギの子が、ぴょこんとお母さんの横に飛び出してきました。
「守ってくれてありがとう!
プイ!ってしてごめんね!」
そう言って、とってもてれくさそうに、うれしそうにわらったのです。
そんなウサギの子を見たとたん、スカンクの子の心は、とてもあたたかくなりました。
だからうれしくなって、いっしょにわらいました。
これほど、うれしいって思ったことはありませんでした。
はじめてウサギの子に、
「いっしょに遊びましょ?」
って、話しかけてもらったときをのぞいては。
ウサギの子のお母さんは、
「これからも、うちのむすめとなかよくしてあげてね?」
そうお願いして帰って行きました。
それからスカンクの子は、広場に出かけました。
もちろん、一人ぼっちではありません。
ウサギの子がいっしょです。
広場につくと、タヌキの子も、イノシシやシカの子、みんながかけよって来ました。
キツネとリスの子もいました。
「いじわる言ってごめんね!」
「オオカミを、おいはらってくれてありがとう!」
「守ってくれてありがとう!」
みんながいっせいに話すものだから、だれがなにを言っているのか、ちっともわかりませんでした。
でも、みんなニコニコとわらっていたから、とってもしあわせな気持ちになりました。
どの子ともお友だちになる約束をしたあと、スカンクの子は、やっぱりウサギの子たちとおままごとをしました。
初めてのときは、おままごとにはあまりきょうみを持っていませんでしたのに、今は楽しくてしかたがありません。
お父さんの役も、どうしたらよいのか、みんなが教えてくれました。
やっぱり、お友だちといっしょに遊ぶのって、すっごく楽しいことなのです。
いたずらタヌキの三兄弟も、もうちょっかいを出してきません。
それどころか、
「あしたは、おれたちと遊ぼうぜ!」ってさそってくれたのです。
※ ※ ※
それからオオカミたちは、二度と山奥から下りて来ませんでした。
スカンクの子も、オナラをすることはありませんでした。
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