第9話
ダンジョンとは、言うなれば「訳の分からない物」そう結論付けられている。
(どんな学者もその正体の深奥を掴めてはいなかった)
とある者は「神の試練」などと言い、他のある者は「神の落とし物」などと表現した。
もっと別では「神の恵み」などと祭り上げ、恨み持つ者は「神の害悪」と罵った。
地が、人が変われば様々な事を口にする、ソレが人である。
(私の感じる所としては、まあ、調整機能と思うのだが。この様な考え方をしている者は私以外には居なかったのだろうな)
この所感を私は誰にも話した事は無い。何故なら只の個人の感覚でしか無いからだ。
何かを観測した訳でも無い。何かを調査した訳でも無い。何かを体感した訳でも無い。
只ふとそう思う切っ掛けが何かしらあり、そしてソレが自分の「腑に落ちた」だけ。
(そんなモノを偉い学者たちに伝えるなどとなったら私は馬鹿にされただけだろう)
何を根拠に、その様な一言で斬って捨てられたに違いない。
(それにしても広い。分岐が多く迷う。・・・迷子だな。或いは遭難か。いや、私の今の姿で言うならば、迷惑な徘徊だな)
アンデッドがダンジョンの中を彷徨う。これにバッタリと出くわしてしまった相手の気持ちを考えたら軽く恐怖だ。
そこら辺の視点が私には欠けていた事に今更気づいて苦笑いをする。
(ふむ、助けを求める者がそもそもにそこら中に居るはずも無いか。先程のは本当に偶々なのだ。そう思い直さねば)
人助け、それを為そうと決めたは良いが、ダンジョンの中だからと言って誰もが危機に陥っていると言った訳でも無いはずだ。
先程から歩き回っているけれども、これ程の広大な面積を誇る場でそれこそ困っている者と遭遇する事、それ自体が稀であるのを先に気付くべきだった。
(自身に起きた出来事のアレコレが私の思考を総崩しにしていたのだな。これでは間抜けにも程があると言うモノだ)
とは言え、アンデッドと成ったこの身に時間の制限も、食事睡眠も何も無い。
疲れも無いと来れば歩き回ればその内に、などと考えて、一度立ち止まった。
(確かにここはどうやら管理をされて「稼ぎ場」として存在しているのだろう。しかし甘く見てはならない。内部の魔物の数が適切な間引きをされていなければ危ういモノなのだ)
これだけ広大な内部である。その地図は作成されているだろうが、魔物の分布図、或いは増殖速度など、その点などは大丈夫なのか?と少し思案する。
(私も魔物の間引きを手伝うとしよう。その上で危ない目に遭っている者を見付けたら助ければ良いか)
ここで私は行動方針を見直した。そこで一つの疑問を思い出す。
(魔物を倒した後に出てくる小石は何だったのだろうか?私の知る知識、経験とここでは妙に噛み合わない)
私の知る魔物は始末すれば死体は残り、そこから有用な素材を剥ぎ取ると言った事で。
魔物の中からあの様な美しい宝石の様な小石など発見された事は無い。
ましてや煙の如く死体が消えてしまうなどと言った事も有り得ない。
(ここは、何処だ?私の知るダンジョンとは全くその理が変わるのか?)
自分の身に起きた現実の方に目をやり過ぎて気にする事が後回しになっていた他の疑問、事案がここに来て噴出して来る。
けれどもどうでも良い事だったと改めて結論付ける。
どうせ今の自分には何処にも居場所が無いのであれば、どの様な理が何処でどの様に働いていても関係が無い。
(さて、恐らくはだ、その小石を集めて換金するのがこのダンジョンでの流儀なのだろう。ならばソレを私も集めて彼らに引き渡せば良いか。その際には少しくらい私の事を気にしてくれる者が現れるかもしれん)
魔物を倒してもその素材が得られ無いのであれば、残るこの小石しか金になりそうな物が無い。そうなれば。
会話、対話の為の切っ掛け、ソレをこの青く光る小さな小石に賭ける。
今の私は誰が見ても「脅威」としてしか見れないだろう。
ならばそれ以外の物を利用して少しでも相手へ与える私の印象を変える事ができれば、もしかすれば交流が出来るかもしれない。
今の所で全く理の分からないこのダンジョンの様々な情報を得られる可能性が出る。
現地民との交流、そんな目標を掲げておくのも良いかもしれない。
そんな風に考え事をしながら歩いていれば、十字路の曲がり角でバッタリと。右通路から。
「ひいい!?ちょ!皆ぁ!戦闘体勢!」
「ぎょ!?アンデッドナイトがこの階層に居る訳無いっしょ!居て良い訳無いっしょ!?」
「みにゃぁ!?悪霊退散!悪霊退散んンんんん!」
「ちょ!お前混乱してんじゃないっての!しっかりしないさいよ!お前が頼りなんだぞ今の場面は!」
「聖属性魔法の準備しろって!って言うか何でお前ホラー系苦手なのに僧侶選んだ!?って言うかそんな事言ってる場合じゃないっての!」
「と言うかこの弱虫、何でそもそもに冒険者何てやってんの?まあソレで私たちは助かってるんだけども。」
六人組の、全員が女性冒険者。言っている言葉は解らないのだが、わかる。
(うむ、驚かせてスマン。いきなりこの様な状況は驚かずにはいられんだろうな。とは言え、女のみのパーティか。無いという程の物では無いが)
ソレでも女性だけで六人構成と言うのは珍しい。私の祖国にも居はしたが。
ちなみに、向こうは慌てているが、こちらは冷静だ。
(私には君らとの戦闘の意思は無いのだ。スマンが私はこのまま直進させて貰うとする。ではな)
私は右手を軽く掲げて挨拶とし、その武器を構え始める冒険者たちを置いてそのまま真っすぐに進む。
「・・・えぇ・・・?何?アレ?」
「嘘でしょ・・・今の動き、見た?」
「悪霊退散!あくりょうたいさんんんんんんん!・・・はへ?」
「・・・」
「ねえ、物凄く、もの、すっごく、言いたく無いんだけど、言わせて?なんかさー、今の、アレよね?」
「仕草がそうね。言いたい事は分かるわ。人臭かった。物凄く。あんなアンデッドの話なんて聞いた事、皆ある?」




