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第8話

 この様な姿になってしまっては祖国に戻れるはずも無い。戻れたとしても混乱を引き起こすだけなのが目に見えている。


(まあ今居るこの地が何処にあるのかすら判らないからな。戻れる当ても無いというのもあるが)


 私を罠に嵌めて殺した者たちへの復讐と言った気持ちも無い。


(国に戻って私が暴れた所で何かが変わる訳でも無いのだろう。首謀者が誰だったのかすら判っちゃいないんだ)


 国に戻って片っ端から貴族たちを殺して回る訳にもいかない。


 そんな事をしている間に聖術を使える者たちが集められ四方八方から私を始末するだろうから。


(書類関連は全て確認して何らの不備も無かったんだ。恐らく一番上で考えると宰相閣下が絡んでいると見て良い。そうじゃ無ければ侯爵か、公爵か。そうなればタカが一師団の団長などと言った立場の私が逆らえたはずも無いだろう)


 何もかもが抗える様な状況に無かった。ましてや私は庶民出である。


 騎士団の中に私の味方であった者は本当に少ない。


(貴族出身者は表では何事も無い様な顔をして裏では私を罵っていたに違いないからな)


 団員たちが私の事を快く思っていないのは理解していた。だからと言ってこうまでして亡き者になどと短絡的な行動に移られるとは思ってもいなかった私が悪い。


(政治的な何かがそこにはあったんだろう。まあ、こうして今私がアンデッドとして蘇り、この様な見知らぬ地に、などと言った事は思いもしないんだろうなぁ)


 その様な事態になるとは想像の埒外と言っても良いモノだ。私自身が一番そこは驚き、実感している。


 この様に無駄な事を考えながらでもゴブリンの数は見る見るうちに減る。


 私が魔力を剣に流し、刀身を伸ばしているからだ。


 それで軽く横に薙げば纏めてゴブリン共は四体、五体とその身が二つに分かれる。


 こうなれば始末はあっという間だ。


(私に残された道は非常に少ない。ならば、最初に憧れた、あの光景を指標とするのは、悪く無い気分だ)


 人助け、小さい頃に見たあの光景、自身の故郷を救ってくれたあの姿。


(まあこの今の私に感謝の言葉を掛けてくれる者は居ないんだろうがね)


 幾ら何でも助けてくれた存在がアンデッドであれば、そこには感謝の前に困惑が先に来るはずだ。


(最後の一匹。よし、始末は終えたな。この後はさて、どうするか)


 ありがとう、その言葉が欲しくてこうして助けた訳では無い。


 私は私の心の中にある「騎士」に従い、動くだけだ。


(とは言っても、何時かは一言だけでも感謝の言葉は貰いたいと思うが)


 そんな事を思っても、今助けたハズの三名の表情を見ればソレが叶わぬものだと自然と悟る。


(ああ、結界の前に居た最後の一匹を斬った際に少しだけ剣先が掠ってしまったからなぁ)


 少々踏み込みを見誤った事で魔力で形成されていた刀身がその冒険者三名の籠もる結界を「ぎゃりん」と僅かに削ってしまったのだ。


 その際の結界を張っているだろう者の表情は物凄く強張っていた。


(スマン。以後は気を付けるから許してくれ)


 心の中で謝りつつ、私はこの場を直ぐに去る事を決めた。


 ===  ===  ===


「最後、殺されるかと思ったぜ・・・」

「魔力、どうだ?残ってるか?最後のアレ、ヤバ過ぎだったよな。」

「もう後僅かしかねーよ。ほんのちょっとだぞ?僅かに掠めただけだったんだぞ?なのにさー、本当にキッツイ・・・今、生きてるのが不思議だよ。まだ魔力量には余裕を持たせてたハズだったんだ、そのハズだったんだが・・・」


 生き残れた事での安堵からなのか、結界を張っていた冒険者は最初少しだけ興奮した様子で話し始めて、しかし直ぐに声音を萎ませた。


 その後を繋ぐ様にして盾持ちの冒険者が口を開く。


「ありゃ一体何だったんだ?俺たちは何て後でギルドに説明したら良い?」


 しかしコレに答えが返ってこない。沈黙だ。


 盾持ちはそこから必死に知恵を絞って案を出そうとするが。


「いや、見たまま、ありのままを答えるしかないかぁ。だけどまあ、誰にも信じて貰えない自信は、あるな。」


 盛大な溜息を吐いて諦めた。それに同意の声が続く。


「それについては同感だよ。もう滅茶苦茶だ。今は何も考えたくねえ。魔力が回復するまでは俺は動きたくねえ・・・はぁ、で、魔石、どうする?」


 ここでまたしても沈黙。しかし弓を持った冒険者は直ぐに行動に出る。その精神は図太く、逞しい。


「おい、手分けして集めるぞ。このまま放置しておいても勿体無いだけだ。それなら俺たちの収入にしちまおう。魔石の所有権が有る、ゴブリン共を倒したさっきのアンデッドナイト様はどっか行っちまったんだ。要らないって事だろ?なら貰っちまっても誰も文句言わねえよ。」


 この意見に「そうだな」と魔石、青く光る小石拾いを始める三名。


「なあ?さっきの奴、戻って来ないよな?」

「いや、もう何か分からんけど、ここには戻って来ないって気がするな。」

「来られたら俺たち死ぬだけだし?結界はもう張れねーぞ?・・・いや、どうなんだ?俺たちに何の興味も無く行っちまったよな?最後。」

「結界を一瞥した様な、していない様な、って感じたな。何が目的だったんだ?」

「俺たちを助ける為だったり?って、生者を見たら猪突猛進で襲ってきやがるアンデッドにそんな事ある訳ねーよな。」

「何の冗談だ?面白くねーし、ソレ。・・・あー、でも、実際問題、現実的に言ったらあのアンデッドナイトが来なかったら俺たちゴブリン共に嬲り殺しにされていた率、クソ高いけど。分が悪い賭けに出なくて良かったぜ。」

「怖い事言うなよ・・・今頃になってブルっちまったじゃねーかよ。」

「傍から見たら俺たちがアンデッドナイトに助けられてるって見えてる?勘弁して欲しいんだが?」


 雑談をしながらの魔石拾い、ソレが終わった後にこちらへと響いて来る声に三名は反応してそちらを見る。


「あ、アイツ無事に生きてやがったぜ。」

「どうやら助けを呼べたみたいだな。」

「まあ、もう遅いけどさ。」


 三名はここで再び安堵の声を漏らす。


 しかし救助にやって来た仲間の最初の一言に驚かされる。


「お前ら無事だったのか!良かったぁぁぁ~・・・あ!そうだ!アンデッドナイトが来なかったか!?」


「はぁ!?」

「おいぃ!?」

「え?今なんて?」

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