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第5話

 幾つもの修羅場を潜って来た私だ。戦闘と言った行為においてこの心が折れる事は無いと、そう自負はしていた。


 その通りに黒龍との戦いでは最後の最後まで諦めず、折れず、戦い切った、そう言える。


 しかし頭の中に入って来る戦闘とは違う情報量の多さで私の頭脳は許容量を超えて停止した。


 慣れていないのだ。この様な事態に。いや、慣れていたらソレはソレでおかしいのだが。


 だから、私の膝は完全に力が抜けて折れ、地に着く。そのまま全身にも力が入らずに手も地に突いてしまった。


(なんだ、地面には何処にも土が無いじゃ無いか。見渡す限りに舗装されているな、見事に。しかも、どう言った材料何だこれは?ああ、文化も文明も何もかも、私の所属していたマリードル王国とは十段も二十段も違う。格が違う)


 膝も手も僅かに残った力を込めて体を支える。最後の足掻きだ。


 顔も地へは向けずに上げ、何とか体裁を保って前は向く。


 完全に後ろ首が見えてしまう体勢になるのだけは防いだ。


(それだけはできん。できんのだ。そうだ、私は黒鋼騎士団、団長、しっかりと立つんだ!いや、もうそんな立場に拘っている状況でも状態でも無いのだが)


 もう今の自分はその様な立場に無い。アンデッドとなった存在がその様な事を主張するなど笑い話だ。


 しかし私は自分が騎士になった時の宣誓を思い出す。無様な姿は見せられ無い。精神を震わせてゆっくりと立ち上がる。


 地に手を突いていた時間は実際には短い間だったのかもしれない。けれどもその時間は自分には非常に長く感じられた。


 みっともない姿は見せられ無い、そう頑張ってみたものの、私の姿勢は背中を曲げ、首も項垂れている。


 完全にその衝撃から立ち直れては居なかった。


(ああ、そうか、ここに私の居場所は完全に無いのだ。ソレを自覚した。いや、ここなどと言う表現は違う。私はアンデッド、生者の住む世界に居てはならない存在なのを忘れてはいけないのだ)


 完全に意識が残っている。今の私は「私」だと。だから勘違いしてしまう。


 しかしそれもしょうがないじゃ無いかと自嘲気味に私は笑う。


(気づいたらアンデッドなんだぞ?しかも、何ら全く生前と変わらぬ精神だ。しかも短い間に何もかも訳が解ら無い事ばかりがこの身に降り注いで、と言うか、土砂降りだ。流石の私でもこれには根を上げるよ)


 そんな私の心情など知らぬ者たちが周囲で何やら叫んでいるけれども、私の耳には何と言っているのかの理解はできない。


 文化も言語も全く違う場所なのだから。


(私の居場所、ああ、愛国心、ああ、大事なモノ、ああ、もう絶対に何があろうが、昔には戻れん)


 今の自分に残るのは何か?縋れる物は何か?ソレを考えてしまう。


 情けない立ち姿のままに私は出て来た建物内へとフラフラと向かう。


(はは、まるで幽鬼の様だな。手足を欠損して致し方無く騎士団を去るしかなかった部下たちの事が思い出される)


 自分の今がまさにそれ。これからの事に何らの希望が見えない事で心が絶望に染まってその歩みに安定感が無くなる。


 こんな私の姿を見て囲っていた冒険者たちらしい者たちからの攻撃も止んでいた。


 恐らくは異様な雰囲気になった私を警戒したんだろう。訝し気な目で誰もが私を見ていた。


(ああ、こういう時は原点に返るのが一番だ)


 私は自分の記憶を掘り起こす。


 ===  ===  ===


 小さい頃に町に来た害獣駆除の為に派遣された騎士たちを見て憧れたのが切っ掛けだった。


 その威容、強さ、町民に感謝される姿、これらを幼い私は「カッコいい!」と思ったのだ。


 何時か自分も騎士に、そう強く思って山の木から伐り出した良い感じの太さの枝を形を整えて剣と見立てて、騎士が害獣を駆除した時の動きを子供なりに考えてなぞって必死に振ると言う日課が普段の生活の手伝いの合間に追加された。


 自分の生家は特段これと言って裕福でも無ければ貧困でも無かった。


 普通、何らの特徴も無い、そんな家庭の次男坊。


 だから、私は次に町に騎士がやって来た時に積極的に騎士の世話をした。


 家を継ぐ訳でも無い予備、だからこそある程度の自由が保障されていた。だから気楽だった。将来を決めるのは。


 その時には既に私は歳は十二となり、騎士の従者を目指していたのだ。


 騎士を目指すのに色々と勉強もしたし、どの様にすれば騎士になれるのかを調べたりもした。


 その際に出した答えが見初められる事。先ずは従者、そこから始めるのだと。


 騎士団の仕事に関わる事が出来る様になる従者、そこから少しづつ自分の実力を周囲へと認めさせ、やがては正式に騎士に。


 今思えば非常に稚拙な作戦、計画だった。成功するなどとは周囲の大人たちは誰も一人とて思ってもいない。


 だけどもソレは親もビックリするくらいにすんなりと事が運んだ。


 ソレは幸運な事だった。丁度騎士団は雑用係りの募集をしようとしていた所だったらしいのだ。


 普段であれば任務先の町などでその様にホイホイと従者などを「ハイ決定」などとしない。


 しかし私はそこに丁度良く「ハマった」のだ。妄想とそしられてもおかしくない作戦だったが、そんな作戦のこの順調過ぎる事態に当時の私は疑う事も不安になる事も無く跳び上がって喜んだ。


 その後は何やかや、騎士団に入って雑用をし、隙間時間に訓練用の木刀を借りてそれを必死に振って鍛錬する日々。


 これは町に居た、実家に居た時と別段生活習慣は変わらないと言った感じだった。


 ちゃんとこの鍛錬は事務の方で許可を得てしていた事だが、しかしこれを騎士の一人に見咎められて「可愛がり」と言う虐めの様な一対一の試し合いをする事になった。


 そこで逆に相手をコテンパンにした事で私はその強さを認められて即座に騎士として格上げをされたのだ。


 その時にも裏に事情があり、「人手が足りない」と言う事で少々ヤンチャの過ぎた盗賊団の壊滅作戦の人員補充だった。


 その際の騎士の宣誓として儀式を受ける際に私はこう述べたのだ。


『弱きを助けます。困難に逃げず立ち向かいます。それら全ては守るべきものの為に。』


今はその困難を前に逃げずに立ち向かう時であり、守るべきものとは、自分が憧れた「騎士像」であろうか。


 ===  ===  ===


「ねえ、あの真っ黒騎士、物凄く落ち込んでない?」

「あー、ねー、それは私も思った。不謹慎だけど、ちょっと笑える正直言って。」

「外に出てからあんなになったよネ?完全にアレ、打ちひしがれてるって。おもろい。」

「・・・その事実って、物凄く重大でヤバイ案件じゃ無い?気づかないでいた方が良かったんじゃ?」


 ふらついた足で建物内に戻った私の耳にそんな言葉が入って来るが、何を言っているのかは分からない。


 今のこの私の情けない姿を笑っていると言うのは気配で察知したけれども。


(今後の私の行動指針、そして活動場所。この身が消滅するまで、ソレを貫き通すとしようじゃないか)


 回復して来た精神と共に私は姿勢を正す。そうして視界に入って来たのは不思議な空間の歪み。


 この場所に最初いきなり出て来た時にはソレに気付け無かった。


 だが今はもう気付いた。


 建物内に何故この様な?そう思ってその周囲を観察すれば何かしらの装置に固められていて警備も厳重に見えた。


 そしてここで私は気づく。ソレが何かを。そして閃いた。


(ダンジョンではないかアレは。この建物も、冒険者らしき者たちも。ああ、なるほど、これを稼ぎに。なら、私のやる事はコレで良いか)


 初心に返る。


 私はその空間の歪みに向かってしっかりとした足取りで近づいた。

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