第37話
困った、と言う程の事では無いのだが、この娘たちは何時まで私に付いて来る気なのだろうか?
(どうやら倒した敵の落す小石を集めてくれている様だが、まあ、それは助かるのだけれども)
私にどうやら好意的では無い表情を向けて来る一人が操作しているであろう飛翔している魔道具が気に掛かる。
(視界にチラチラと入り込まれると、どうにも気が散るのだが。修行が足りないか。・・・はは、もう今はこの様な体になったと言うのに、意識は妙な所でそんな事をふと思ってしまうのか)
結局はこんな身になっても中身はそんなに大きく歪みはしなかったのだと何処かホッとする自分が居る。
その事が妙におかしくて、つい「うが・・・」と笑いが出てしまった。
しかしアンデッドのこの身では普通に笑う事すら出来ないのが小さく悲しい。
「アンちゃん笑ったねー?何が面白かったのー?機嫌良さげ?良さげ?」
どうにも一番私の事を気に入っているのであろう娘がこちらの顔を覗き込んで来る。
ソレを私は見つめ返してしまった。そしてその瞬間に不思議とこの娘からは目が離せなくなっている事にふと気が付く。
(妙な魅力がある娘だな。私の何をどう気に入って、何が好ましいと思っているのか。可笑しな娘も居たものだ)
そんな事を思いつつも通路の奥へと進んで行く。別にこの四人に構って立ち止まっていなくてはならない道理は無い。
進み行く先で遭遇した敵はどれもこれもと出合い頭に即座に斬り捨てて倒している。
私が許した訳でも無いが、勝手について来た同行人が居るのだ。追い払うと言った事も出来ない。ならば彼女らの安全を守るのは騎士としては当然の事。
彼女らに怪我をさせるのは宜しくない。私のこれから先の事を考えても。
危険に晒さぬ様にしていれば彼女らが他の冒険者たちに私の事を「危険では無い」と広めてくれるかもしれないと言う打算もある。
「つよーい!」
「すごーい!」
「やばいわね。」
「・・・ねえ?私たち何時までコイツに付いて行けばいいの?このまま三階層目に突入する気?」
一人だけウンザリとした顔をしているが、他の三名はと言うと、はしゃいでいる。何が楽しいのか私には分からなかったが。
そんな時に「勘働き」が発動した。集中力が増し、その迫って来る、高速で飛来してくるソレを叩き斬る。
その瞬間には「チャリン」と例の青く光る小石が床に落下した。
(高速飛行して体当たりして来たか・・・蟲型の魔物か。中々厄介だな。さて、彼女たちを私の背後に移さねば)
コレは斥候だ。私のこれまでの経験が囁いて来る。
迎撃したこの一体が群れに戻らないとなれば次、そして次と二次、三次の斥候を飛ばしてくるに違いない。
その気配が通路の奥、そのまた奥から滲んでこちらまで漂っているのを私は感じていた。
そしてその勘は当たる。今度は二匹。四枚の半透明な羽を「ぶんぶん」と鳴らし、その全体像は黄色と黒の斑模様。大人の腕程の大きさのソレ。
「げっ!?何でこの階層にこいつらが発生してんのよ!?」
私に対して警戒心を解いていなかった娘の一人が危機感を滲ませて叫んでいたのだが、私には何と言っているのかは分からない。
(早々に言語理解をできる様にならねばならんなぁ。言葉が解ればこのダンジョンの事も、この国の事も色々と教えて貰えそうだし。と、そんな事を思っている場合では無かったな)
一匹は先程と同様に体当たりをして来て、もう一匹はその背後に対空してこちらの事をまるで観察しているかの様にしている。
(情報を持って帰る心算か。知恵の回る厄介な敵だな。しかし、甘い)
先程と同様、突撃して来た一匹を即座に始末してそのままもう一匹に迫る。
ソレに危機を感じたのであろうソイツは逃げる体勢に入った。そこへとより深く一歩踏み込み、私は即座に斬り捨て、ずに虚剣を振るう。
(空ぶった、避け切れたと思っただろう?だが、それは油断だ)
私の「誘い」に、その蟲はまんまと引っ掛かる。そしてその動きはホンの僅かに停止した。
これが狙いだった。相手の逃走経路を塞ぐ様に剣を動かしたのだ。本命は別。
次に私は腕を伸ばし、そして。
「ぐしゃ」
と潰れる音を響かせる。
これはその蟲の頭部を掴んで握り潰しただけだ。
相手の動く方向が分かっており、かつ、一瞬止まっている瞬間に手を伸ばした。
ある程度の瞬発力を持っている者であればこの程度なら簡単に出来る手品である。
蟲は煙と化して消え、手の中には硬い感触が残る。
青く輝く小石、ソレを私はポイと四人の方に放り投げる。
「かっこよ!」
「・・・すっご!」
「・・・やばいわね。」
「・・・あんたら・・・語彙力下がり過ぎでしょ・・・普段もまあ、こんな感じだったけども・・・アンデッドナイトがヤバ過ぎるのは同意するわ・・・」
どうやら彼女らは油断している様だが、まだ危険は去ってはいない。
(三次の斥候がやって来るか、それとも総力を挙げて襲撃を仕掛けて来るか。どちらだ?)
私は背後に居る四人へと「そこで待って居ろ」と言う意味で手の平を向け、敵意の塊がある通路の奥へと進んで行った。




