第34話
協会長などと言う役職に就いているからには、ここでみっともない姿を見せられ無いと考えていたが。
(これは流石に実際を目にしたら驚かされるわよ、そりゃ)
私の手招きに反応して窓際からこちらに移動して来るアンデッドナイト。
しかも秘書が引いて座り易くしたその椅子に美しい所作で座ったのだ。
これを驚かずして何を驚けと言うのか?この気持ちはどうやら護衛として招集した十名の腕の立つ冒険者たちも同様に驚いているのが横目に見えた。
しかも、しかもだ。腰に佩いていた剣を外してソレを秘書に預けた。そう!預けた!
(嘘でしょう・・・?コレでもう確定じゃないのよ・・・このアンデッドナイト、中身が在るわ!しかも!相当に高位でしかも理性も高い!?)
敵では無い、その行為、動作でそれをこちらに解らせに来たのだから余計に驚嘆させられて言葉が一瞬出て来なくなる。
けれども賢明に私は頭を回す。このアンデッドナイトは何としてでも敵に回してはならないと。
そして同時にこうも考える。こちらに引き入れて上手く手綱を引けれる様になれば協会に大きな利益だと。
(最低でも不干渉とか、対等と言った感じに着陸させたい!マッドサイエンティストたちにコレは渡せない!)
「交渉をしましょう。貴方は何を求めているの?ソレに因っては冒険者協会は全力で貴方をサポートするわ。どうかしら?」
私は一気に最大限の譲歩を先ずは叩き付けた。このアンデッドナイトにまどろっこしい駆け引きは通用しないと私の勘は告げている。
ここで秘書が私へと視線だけこちらに一瞬だけ向け「当初の予定と違う」と、そう言いたいのが伝わって来た。
(こんな相手に悠長な事を言っている暇は無いわ。こちらに一気に引き込むのに初手で最大の手札を切るのは仕方が無いでしょうに)
そう私は思っていたのだが。けれどもコレにおかしな展開になった。
アンデッドナイトがゆっくりとその手を前に伸ばして、まるで「待て」と言いたいかの如くにして来たのだ。
コレに「焦るな」と言った意思が籠められているのを感じた私はごくりと唾を呑み込んだ。
(私は・・・焦っていた!?自分で気付け無かった・・・それだけ目の前の相手が巨大って事ね。そこに向こうは私へと深呼吸をする間を与えて来た・・・アンデッドナイト、こいつは何を考えているの?判らない・・・不気味だわ)
ここで一つ大きく息を吸って一拍を置いた後に再び気付いた。気持ちが急いたばかりに周囲を気にしていなかった事に。
私の出した条件を聞いていた冒険者たちが信じられない物を見るかの様な視線を私へと向けて来ていたのを見てしまう。
(まずかった。アンデッドナイトを引き入れる何て非常識にも程が有ったわね。彼らが今のを理解するのなんて土台無理な話か)
常識、そう言ったモノが入っていない交渉などと呼べない代物。余りにもぶっ飛び過ぎた内容。
だが、そんな事はお構いなしと言った感じで、ここでそれ以上の猛者が。
「えー!凄いじゃんアンちゃん!じゃあさ、じゃあさ!この際だから私たちのチームの正式メンバーとして承認して貰っちゃおうよ!そうしよ!」
この場の誰をも超える、思考の斜め上を行く発言をした者が居た。コレには私も秘書も、冒険者たちも全員がビックリだ。
(おおい!?何でそこで横から口を出してくるんだ!お前は誰だ!?・・・って、ここ最近一番勢いがあると言われている「彗星」の・・・)
アンデッドナイトに警戒も嫌悪も見せずにキャッキャしながら抱き着くその彼女を見て思い出す。
「あー君は、ヒジリ、と言ったかな?君は下がって。話に突然入り込んで来ないでくれないかな?」
「はーい!大事な話しをするんだもんね。じゃあ口を閉じてるねー。」
などと言ってヒジリ、漢字で「聖」と書くその少女はアンデッドナイトに抱き着いたまま。
そのヒジリの仲間、「彗星」の他のメンバー残り二人はその行動に別段注意をする事も無く。
「えー?アンデッドナイト、ウチに入ったら無双じゃんねー?儲けガッポガッポ?大いに暴れて貰うっきゃないっしょ?」
「楽して稼げるのは良いんだけどー。それだけだと運動不足になるじゃん?それ確実っしょ。偶にアタシらが暴れる場面は作ってもろて~。」
二人は完全同意。私はコレに少々頭が痛くなりかけた。この軽さは一体何なんだろうか?と。
そこで残りの一人がオロオロとしながら何かを言おうとして口を閉じては開くを繰り返していたのが見えた。
そこで私は彼女が何を言いたいのかが気になって聞いてみる。
「彗星の同じメンバーの、そう、確か名は・・・一の花と書いて、イチカと言ったんだったね?君の意見は?」
「え!?ちょ!協会長が私の名前を知ってる!?え、ま、ちょ、ええっと!ですね!・・・わ、私は!もう、この、その・・・アンデッドナイトと一緒に行動したくないって!仲間には訴えていたんですけども・・・こいつ等、私の言う事なんて全く耳に入っちゃい無いんです!言ってやってください!普通じゃないって!」
どうやら名を覚えられているなどとは思っても居なかったのだろう。驚き慌てふためく様を晒している。
私の記憶が確かならば、この四人の仲は良く、普段の会話やその調子も似たモノ、と言った報告書を見た覚えがあるのだが。
(彼女だけはどうやら常識人・・・いや、この三名がこんな「ありさま」だから今だけ浮き彫りになっているだけか)
マトモな感性を内では持っていた、と言う事なのだろうイチカは。
(ふむ、話が進んでいない・・・ペースを乱されたな。彼女らと話している場合じゃ無い)
ここでハッとする。話が脱線していたと。コレに直ぐ私はアンデッドナイトの方に向き直った。




