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第32話

 私は今、どうしてここに居るのか分からない。


 あの時に無理やりにでも掴まれた手を振り払えば良かったのだろうか?


 またしても私はカウンターの前に立っている。もっと正確に言うと、あの女性冒険者四人組に囲まれながらだ。


「だからー、これ、説明三回目じゃん。何度同じ事聞いて来るの?」

「まー、私たちが捕まえた訳じゃ無いからねー。コレよコレ?コレがあれもんでこれもんでさー?」

「映像は確認できてるんでしょー?早くこっちはアンちゃんとまたダンジョンに入りたいのにー。もーう!引き止められてもう十分以上だよー?上の人たちって何してるのさー?」

「いや、何でアンタたちはこのアンデッドナイトを一緒にここまで連れて来たん?私、もうこいつと関わりたく無いんだけど?え?私の意見無視?マジで?」


「えー、先日に少々大きな問題が発覚しまして、上の方でも色々と事情が・・・詳しくは私も知らされていませんので何とも。お待ちくださいとしか言え無くてデスネ・・・あ、スイマセン、今許可が下りたので奥の大会議室にて待機をお願いします。・・・それと、そのー、その、アンデッドナイト・・・ひぃ!?コッチ向けさせないでください!」


 あの小石の回収手続きをしてくれた受付嬢はどうにもまだ私への恐怖を抱いているらしい。その表情は怯えている。


(まあ何度こうして顔を合わせたとしても、生者と死者だ。早々に慣れるモノでは無い。ガチガチに体を固くしていないのはこうして私が冒険者たちに囲まれているから、気休め程度に安心できているからなのだろう)


 私を囲う四名は冒険者をしているからこそ、死と言うモノと向き合っても余計な力みや恐怖と言ったモノを制御できているのだろう。


(それでいても普通とは言えぬ胆力と言うか、全く別方向の呑気さと言うか。私には理解しえぬ境地と言う感じだな)


 そんな事を考えていると私は次に行く先を誘導され一つの部屋へと連行されてしまった。


 油断している訳でも、警戒していなかった訳でも無い。


 今はどうにもこの流れに身を任せてみる事にしただけだ。


 私は今この国の法や文化などなど、その辺りを余りにも何も分かっていない。そんな状態で良くもまあ深く考えもせずに「人助け」などをすると決意して動いていたものだ。


(この身になって何かしら精神に変異が起きている、そう考えるしか無いな。まだ「生きて」いた時ならこの様な子供染みた「正義の味方」をしようなどと思いもしなかっただろうしな)


 この国の文化も言葉も民族性も知らない。でも、知ら無いなりに、分から無いなりにでも、少しでも知るべきだ。今からでも。


 ここに出現した直後は何も分からないなどと言って現実逃避の様に私が知る「ダンジョン」を見付けてそこに入った、入ってしまっている。


(臆病と言われる行動だな、こんなのは。後ろ指さされ笑われても当然の事をしている。それだけ混乱していたと、今なら自覚できる)


 泣き言だこんなのは。情けない事この上ないと、あの時の自分を愚か者だと断ずる。


(そんな逃げ込んだハズのダンジョンでも、どうやら私の持つ常識は通じなかった訳だが。ああ、どうなっている?解らぬと言って問題を先送りにして見ない振りを続けるのは限界だな。とは言え、言語の壁が高いのはどうしようもない)


 そんな事を考えながら連れて来られた部屋に入ればそこは整えられていて清潔感があり、機能美に満ちている部屋だった。


 机も見た事の無い技術、材料で組まれているのが直ぐに分かった。そしてその椅子も。


 部屋の気温もどうやら天井に備え付けられている魔道具であろう物から吐き出される風で一定に保たれているのを察する。


(我が祖国よりも数段上だ。この様な国の話しなど爪の先程も聞いた事が無い。おそるべし・・・)


 知れば知る程に掛け離れている、壁は越えられない程に高いのだと、そう思い知らされる。


(まあもう今はその祖国に未練が無いのだが。そう、不自然な程に、キレイサッパリ、と迄は行かないが、無い。これもアンデッドになってしまった影響から来るのか、どうなのか)


 自分を見つめ直す時間もこれだと必要になって来る。


 今ここに来てやっと私は冷静になれて来たのだと自覚し始める。


 そんな私の事など気にしない冒険者たちはそれぞれが好き好きに椅子へと腰かけてお喋りをしている。


 その内容は私には分からない。


「お茶と菓子欲しーい。何で出してくれないかなー。サービスしてくれても良くなーい?」

「別にここに全員で待機して無くても誰か一人で良いっしょ。コンビニ誰かダッシュで買って来れば良いじゃん?」

「もーう、コレだけ時間かけられちゃうとダンジョンに入る気無くしちゃーう。あ、良い事思いついた!アンちゃんと一緒にコンビニデート!良いっしょ!じゃあ行ってく・・・」

「ダメに決まってるでしょうが。待て待て待て、ふざけるのも好い加減にして。そんな事すればアンタのランクがどれだけ下げられるか分かったもんじゃ無いでしょ。最悪ギルド証停止、もしくは取り上げられるか永久凍結!」


 何やら「ぶーぶー」と不機嫌そうにしている四人だが、その気の抜き様はここに来るまでに私には既に見慣れた光景になってしまっていた。

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