第23話
ここはギルド協会本部、会議室。その場には協会長である可愛らしい少女がその顔を非常に顰めて秘書のジェントルメンからの報告を聞いていた。
テーブルには香り高いお茶が用意されていて「話が長くなる」事を予感させている。
「どう言う事なの・・・?もう訳が解らないわ・・・私にどうしろって言うの?」
「お嬢様、いえ、協会長、まだ追加で魔石の件に報告が御座いまして。」
「・・・もうこれ以上何が有るって言うの?」
「はい、ゴブリンの魔石に続いて今度はコボルトの魔石が「三十八」持ち込まれました。アンデッドナイトを追っていた冒険者からです。」
「・・・もう、何を言われても驚かないわ。いえ、何も考えたく無いだけね。状況を説明して。」
その後は自慢なのだろう見事に整えられた顎髭を手で軽くしごきながらジェントルメンは報告を上げる。
ソレを聞いた協会長は。
「分かったわ。もう、どうにでもなれよ。新宿ギルドの方は厳罰処分にしておいて。それでもって、アンデッドナイトは放置するわ。どうやら何かしらの「意思」があるって言うのはもうこの時点で明らかよね。研究所長にデカくて太くて「かえし」の入った釘を、絶対に抜けない様に刺しておいて。滅茶苦茶深めにね。余計な手出し何てしたらアンデッドナイトがこちらに牙を突き立てて来ないとも限らないわ。そんな事になったら・・・どれ程に被害が大きくなるか想像もできないわよ。相手の機嫌を損ねる様な可能性のある真似は一切無し。ああ、でも、監視の目を拒絶する様な事はしなかった、って事だったかしら?なら、専用の人員は選別して動向の調査だけは続行して頂戴。放置と言えども何処に居るのかの状況だけは把握しておきたいわ。いざという時に「何も分かりません」じゃあお話しにならないから。」
「畏まりました。では、新宿ギルド長の処分の件はこちらで全て処理しておきます。しかし、対応に入った受付嬢へはどうされますか?」
ここで協会長は大きな溜息を吐きつつもアンデッドナイトとゴブリンの魔石の件で直でやり取りした受付嬢への評価、ソレをどうするのかを問われ。
「彼女、辞めるって言う話、だったのよね?もう辞表も出てるって。あのアンデッドナイトと「まとも」と言って良いかは分からないけど、戦闘以外のコミュニケーションをこれだけ深くした貴重な人物なのよね・・・今後にもしも似た様な事態になった時にその経験を生かして彼女にその際の対応をして貰いたいって思っていたのだけれど。本人の意思を曲げて残って貰うには何が必要かしら?どう?」
引き止める、幸いにもまだ辞表は出されたままで認可、処理を行われてはいない。
なのでここでの判断が問われた。貴重なサンプルなのだ、かの受付嬢は。
もちろん件の事情聴取は既に行われた後であり、受付嬢は解放されて帰宅を許されており、今は自身の家で精神を落ち着かせている。
まあその様子をこの場の二人が観察できる訳は無いので、落ち着いている所かヤケ酒をして盛大にギルドへの批判を口にしているなどと知りもしないのだが。
協会長から「何か良い案は無いか?」と問われた秘書は小さな溜息を鼻から漏らしてから言葉を吐き出す。
「そうですな。今回の件の事では「危険手当」との名目で五百万を支払うのが妥当では無いかと。その上で引き止める為には、ふむ、逆に役職を、仕事を一切「与えない」と言った方面で行く方が宜しいかと。」
出世、ソレをさせない、そんな意味不明な言葉を聞いて協会長は「何で?」と言葉には出さなかったが表情にはソレを盛大に出した。
普通は自身の成長や仕事ぶりを評価されたとして喜ぶべき「昇格」を、させない所か今後「無し」にするなど考えられない。
ついでに危険手当も「それは幾ら何でも払い過ぎ」と言った思いもある。
ソレに秘書からの説明が入る。
「この度の件、受付嬢がするには余りにも非常識で非常事態な対応でした。なので普段の命を賭けた冒険者たち、まあ最低限の1年間収入と同等、と言った報酬をギルドから支払うのが、その受付嬢へのこちらからの誠意と言うモノでしょう。想像してください協会長。普段は只のか弱い女性なのです。そこにいきなりあのアンデッドナイトに対応しろと言われて急にソレが出来ますか?アレを目の前にして気絶しなかったどころか、見事に対処しきって見せたのです。そこを一番の評価すべき点。妥当な報酬だと私は思います。」
コレに協会長は自身に今回の件を当て嵌めて想像した。そして身震いする。
一歩間違えれば死ぬ、そんな事態になってもおかしくない場面など一体誰が体験したいなどと思えようか。
普段危険と隣り合わせの冒険者ならともかく、普段そんな物となど一切無縁の受付嬢なのである。
「ああ、そこは納得できるわね。そんなコワイ目に遭ったんだから、そりゃ仕事を辞める気にもなるわよね。そこへ協会の面子もあるから高額報酬を出すのは理解できたわ。でも、役職を与えないって、どう言う事?おかしくない?」
「いえ、その考えがイケないのです。今回の件は非常に高いストレスを受付嬢に与えたと思われます。と言うか、確実に死を覚悟しての事でしょう。その様なストレス、今後も何度も受けたいと思いますか?そうでは無いでしょう。だから、今回の件での評価として昇格などと言って役目を上げてしまうと、その分だけの責任の重さもその背に乗るでしょう。それはストレスです。」
役目を上げるばかりでは受付嬢が今後潰れる、秘書はそう言いたいのだと協会長は理解した。
死のストレスと言ったモノは容易に人の精神を破壊する。
それ以外での余計な重責などは寧ろ与えないと約束した方が引き止められる可能性は上がると。
「ふーん、分かったわ。それで、今後はアンデッドナイトがまた来た時のみ、彼女に対応して貰って、それ以外の仕事は一切しなくて良いと、そう言う事にするって事なのね?」
「御理解頂けて何よりです。ソレと、また次にその様な対応が必要になった時の報酬はやはり危険手当として、しかし今回の半分を予定して支払うと言った所でしょう。」
「うーん、まあ、ソレで良いとして、じゃあ普段の「何も仕事をしない」って言う形には、どういう風に評価をして給与支払いに反映させるの?」
当然にアンデッドナイトへの対応が無い時間の方が多いのは目に見えている。なのでその点への疑問を協会長は口に出したが。
「今の給与の七割程度での支払いを約束すれば、そうですね、ソレを受け入れたのなら、最低で二年は在籍するのではないかと思いますね。」
秘書はその様な答えを導き出す。
ソレを聞いた協会長の出した答えは。
「じゃあソレで行きましょうか。交渉役は腰の低い者を選んで。高慢で嫌味な奴は絶対に選出しないでよ?まあそんなヘマをやらかすアナタじゃ無いけどね。それと、最低で二年でしょ?ならその間にその後釜を育成、教育しておかないと駄目よねぇ・・・誰にすれば良いかしら?」
凡その決定が為された後は一度休憩と言う事で協会長は温くなったテーブルの上のお茶を一気に飲み干した。




