第20話
導かれるままに走り続けて、それは目の前に現れた。下層に続くであろう階段だ。
私はそこへと迷い無く入って行く。そして一段一段とその段差を下りながら思考する。
(まだ二人、私の後ろに付いて来ているが、まあ、それは放置で良いか。別に撃退する気はこちらにはサラサラに無いからな)
彼らが見た事、聞いた事を上に報告して、私と言う存在が「敵では無い」と理解をしてくれたら儲けモノだ。
そこには大いに私の打算が含まれていて、別にここで彼らに攻撃を仕掛けられても反撃する気も無いのである。
この先もずっと冒険者たちに敵対視され続けるのは面倒でしかない。
(まあ今の私の意識が何時に消え去ってしまうのか分からないからな。そこは適度な敵意と距離感を維持して欲しい所ではあるが)
アンデッドなどと言う存在となっても私の意識がキッチリ、ハッキリと残っている事態が異常な訳で。
(今は大丈夫だが、徐々に意識が薄れて消えて行ってしまう可能性が無いとも限らん。その時には私がどの様な行動に出るか分かったモノでは無い)
意識が無くなった後にこの身がどう言った事になるのか等、想像もできない。
死霊騎士として暴れ、生者を憎む様にして殺し合いをし始めるのか。
はたまた、意識の無い只の骸と化して動かなくなるのか。
もしくは塵と消えて消滅し、その存在を無かった事とするのか。
将来はどうなるか分からない。分からないからこそ、その対処法も手段も何も分からない訳だ。
(だからこそ我思う故に我アリだ。騎士になりたいと願った小さき頃の思いを、人を助ける姿を格好良いと思った子供心を、その中心に据えるのは大人げないか?)
少しだけ嘲る様に自分自身を笑う。この様な身になってもその気持ちを持ち続けている事に。
(しかしだからこそだな。騎士団に居た頃は見たくも無かったその裏側を幾らでも見聞きさせられていたから、その反動だろう)
自らの中の憧れが崩された時の衝撃は幾ら忘れたくても忘れる事は無いんだろう。
(あぁ、それでか。私はなるべくなら潔白を維持し続けていたからな。妥協は呑んだが、不正は小さな物すら許さなかった。融通が利かないなどと、貴族出の団員には恨まれていただろうな相当に)
そう言った部分でも私は謀殺される程度には周囲の者たちから怨まれてはいたのかもしれない。
憤り、悔しさなどが有るには有るが、それらも、もう今のこの姿形、そしてこの様な何処とも知れぬ地にどうしてか来てしまっている時点で解消できるはずも無い。
祖国に戻る手段も無ければ、私が元の姿に戻る方法も想像など付かない。諦めが肝心だ。
そうして階段を進み続ければ終わりが見えて来る。
降り立ったそこはゴブリンの居た階層と何らの代わり無き通路が。
(・・・悪意がそこかしこにある。罠か。一つ階層を下りただけでかなり厳しいな?ここは本当に管理されているダンジョンなのか?)
難易度の上がり具合が異常だと感じるのだが、その思考を途絶えさせる様にして、一歩踏み込んだ私の胴を目掛けて横から矢が飛来する。
(甘いがな。私にその程度の罠は通じんが。新人の冒険者などならばコレは致命傷になるのではないのか?)
その矢をパシリと掴み取ってその先をよくよく見てみれば。
(鏃が付いてはいないな。しかも先端が丸く仕上げられている?どう言う事だ?)
これならば矢が深く刺さって致命傷、などと言った事にはならない。
さりとて飛んで来た勢いの様子で、当たれば大なり小なりと隙を生み出しかねない代物だ。
防具の部分で受ければ傷などを受ける心配も無いだろうが、生身の部分にでもぶつかれば打撲程度は最悪で負いかねない。
しかし頭部、しかも目などと言った部分を狙われていれば恐らくは失明は免れない威力。
(悪意は在る、しかし、殺意は、無い?何だ?このチグハグと感じられる様な罠は?)
不思議に思えどもその答えは誰も教えてはくれない。
ならばと他にはどの程度の罠がと思って先に幾らか進んでみれば。
(・・・落とし穴の罠か?床に僅かな段差が付いているな。ふむ、踏むか)
その罠の在ると見られる部分を剣の鞘の先で押し込んでみる。
するとその近くの床がガコリと音を立てて一瞬で無くなる。
その場を二歩以上離れた位置からその仕掛けを押している私はそんな落とし穴にはハマらない。
そうして開いた穴の観察をしてみると。
(浅い。大人一人分と言った深さの穴。底には何の害も仕掛けられていないとは・・・どう言った事なんだ本当に?)
私の知る罠とは掛け離れた代物。子供の仕掛けたイタズラか!などとツッコミが心の中に浮かぶ。
しかしイタズラだとしてもその悪意は本物だ。この程度の物でも意識せずに不意を突いて落ちれば怪我の一つもしかねない代物なのだから。
着地に失敗、足や腰を痛めるなどと言った事になれば探索を続ける事はできなくなる。
それこそもし、コレが底に針の山などを仕掛けられていれば、運が悪ければ死に至りかねない。
最低でも大怪我は免れない物となっているはず。
(まるでこの先も気を付けろなどと注意されている感覚だな。誰かしら、何かしらの意図を感じずにはおれん)
此処へ来て私の中のダンジョンへの常識のズレが大きくなり始める。
しかしソレを気にした所で何が出来る訳でも無いと、その思考を私は頭の隅に寄せて通路の先へと進んだ。




