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第2話

 起き上がると体には何らの怠さも無くスッと立ち上がれた。今更にこの体で動ける事が不思議だ。


 この体は骨なのだ。全体を動かす為の筋肉は一切無いのに妙な物だと感心する。


(その様な事に意を向けている場合では無いな。さて、黒龍の死骸を調べてみるか)


 その際に自分の全身像を見てみる。


(全身鎧も何でここまで暗黒と言える程に染まっているんだ?・・・剣もか。鞘も?ああ、何だこれは)


 何処をどう考えても全身が真っ黒。ソレがどうにもツボに入って私はフッと笑う。


 自身に起きた事が徹頭徹尾に解らない事だらけで、その事が何周か回って面白く感じてしまう。


 黒鋼騎士団などと言う名ではあったが、しかし身に付けていた鎧も剣も鞘もそれらは他の騎士団と同じ物だったのだ。要するに規格が決められていると言う訳だ。


 だから、それがどうして目が覚めたらこの様な染まり具合になるのかサッパリだった。


(ああ、問題はこの黒龍に在りそうだな。さて、それじゃあ確認を取るか)


 そうして私はこの一切何も無い空間で時間を気にせず黒龍の死骸、その全身の骨を隈なく観察する。


(本当に一切何処にも肉が残っていない。不自然な程だ。腐食して溶けた肉の染みが付いていると言う訳でも無い。地にソレが落ちてぐずぐずになった跡も見当たらないとは)


 巨体である黒龍、その骨の全てを細かく手に取って調べてみれば、ソレはどれもこれも不自然。


 時間経過にて死亡後に肉が腐って無くなったと言った事では無い。


 自分がこの様な事になった原因などが分かるかと思ったけれども、流石にそう簡単には行かない事に私は小さい溜息を吐く。


 結局は何も分からないまま。最低でもこの空間から出られる方法などが見つかれば良かったのだが、ソレもやはり諦めるほかない様に見えた。


 ここで私は頭部、黒龍だったソレの頭蓋骨のその中を覗き込む。


 最後に止めを刺した際の私の攻撃がどの様な動きをしたのかを見てみたいと思ったからだ。


(魔力を剣に通し、そして内部で爆発、放出をしたはずだ。それは肉を、脳を破壊したから倒せたのだと思うが)


 そこで龍の骨が鉄などよりもよっぽど頑丈なのだと言う事を目の前にする。一切骨には傷が入っていない。


 そこで私は「素晴らしいな」と言った感想が出る。場違いな言葉だ。今はソレを考える時では無いと言うのに。


(この骨を加工して鎧でも作れば絶対不可侵なる最強の鎧が作れるのではないか?まあ、ソレは無理と言うモノか)


 この様な強度を持つ素材だ。そもそもに加工する事自体が不可能と言わざるを得ない。


 そこでふと思い立ち私は魔法を込めた拳をその頭蓋に向けて打ち込んでみた。


 私を殺した存在だ。確かに相打ちとして黒龍は殺せたかもしれないが、多少の恨みは有る。


 その骨に傷の一つも付いていないと思うと子供じみた小さな悔しさが湧いて来ていた。


 だから、そんな真似をしてしまった。


(もう俺は黒鋼騎士団の団長とは呼べんだろうからな。まあ全身真っ黒だ。ある意味で黒い騎士なのだが)


 この身は死んだ。しかしアンデッドで蘇っている。もう騎士団の団長などとは呼べない。


 そんな冗談を脳内で溢しながら軽く右腕を振れば。


 その拳の先が骨に触れた瞬間に眩い、目を開けていられない程の光が発せられた。


 その光はこの空間を埋め尽くさんとして周囲に広がり、暫くすればすべてを白に染め上げてしまった。


(何だ?視界が、確保出来ている?目・・・は今の私には無いな。うん、じゃあ何で私は見えているんだ?)


 色々と最初から自身の全身が骸骨となっている事は認識できていた。そこに当然眼球が無い事も。


 だけども自然と視界が確保出来ていたから、目が無いのに見えていると言った訳が解らない現象の事を頭の隅に追いやっていた。下らない事だと割り切って。


 そしてこの真っ白な空間となったこの場になって初めてその事を気にする事態に我ながら「鈍い」と呆れてしまった。


(昔からそう言った部分が治らなかったな。だけども団長をしている間は鳴りを潜めていたんだが)


 終始気を張っていたからなんだと思う。団長と言う重みで集中力は上がっていたんだろう。


 だけどもこうしてそれらが全て無くなったのだと思い始めてからは何だか緊張感が抜けて昔の自分に戻った感覚を覚える。


(さて、お次は何だ?何が起きても驚かんぞ、もうここまで来たら)


 そう思って覚悟は決まっていたのだが、またしても驚かされる事が起きて私は「オ”ォ”ぅ・・・」と思わず唸ってしまった。


 この空間を満たし、何処までも果てが無いと思える光が収束したかと思えば、ソレは人の頭部程の球体となって私の鳩尾辺りに吸い込まれて行くでは無いか。一瞬で。


「ぐぁぁ・・・?」


 その後に気が付いたら見知らぬ場所に私は立っていた。


 ソレは何処かの役所か、或いはギルドの受付かと言った建物内だった。しかし私の知るそんな場所とは一線を画す程に美しく洗練された内装だ。


(私は何処に飛ばされたと言うのだ?あの空間から出られたと言うのであれば、洞窟内に戻るのではないのか?)


 疑問しか浮かばない。だから、こちらを驚いた様子で見て来る周囲の「冒険者らしき」大勢の者たちに聞きたかった。


 ここは何処だ?と。


 だけども私は思い出す。今の自分の姿を。


 骸骨騎士、アンデッド、そんな存在がこの様な場にいきなり現れたらどうなるか?


(そんなもの、判り切っている)


「何だ!?いきなりアンデッドナイトが!?」

「どう言う事だ!?ここはダンジョン内じゃ無いぞ!?」

「お前ら直ぐに構えろ!油断してりゃ死ぬぞ!」

「おい!警備隊を呼んで来い!全員でこの場を持たせるぞ!」

「ホーリー系のジョブ持ちは居るか!先ずは安全確保と逃がさない様に障壁張ってくれ!」

「そうじゃ無くても魔法系のジョブは直ぐに障壁張れ!早く!」

「被害が外に出た後じゃ遅いんだ!どいつもこいつも慌てるんじゃねえ!呆然としてないで構えろって!こいつを外に出さない様にさっさと囲めよ!」

「建物内じゃ被害がデカくなるから魔法は撃つなよ!近接ジョブの奴に補助魔法を掛けるだけにしておけ!」

「馬鹿!お前は何で魔法を撃とうとしてやがんだボケ!周りの事を考えろ!出しゃばろうとしてんじゃねえ!被害損額考えろ!考え無しかよ!」

「こら!いきなり仕掛けようとすんなって!一番槍とか言って目立とうとすんなクソが!お前首にすっぞ!っていうか!何の対策も無く突っ込もうとすんなって!自殺志願者かよ!」

「バズる?馬鹿を言え!お前は命が惜しく無いんか!そんな事をしてる場合じゃ無いんだよ!」

「撮影しようとしてる奴等はぶん殴ってでも止めろ!そんな隙を作ったら一瞬で斬り殺される!」

「どうせこの騒ぎだからここ封鎖されるじゃん?その際にこの場に立ち会った全員の撮影媒体のデータは証拠と検証の為に抜き取られて完全に回収されるから、バズるとか考えてる奴は底辺のアホだよね。そんな事も解かっちゃいないんだから。」

「データのコピー取って通信して他の媒体に写してもバレるしね。ホント、現状を一瞬で理解できないクソ共が多くて笑うよネ。封鎖されればここから人っ子一人出られる訳無いのに。」

「ルール違反すると厳罰あるのに、そこら辺を未だに理解できていない奴らが多いのって、何でなんだろうね?破滅願望でも抱えてるのかな?そんなのが世の中に一杯?ディストピアかな?撮影データ提出しない奴って管理委員会にしょっ引かれるでしょ?生放送なんてしたもんなら、許可剥奪に罰金と懲役刑じゃ無かったっけ?」

「だらけて無いで警戒してねー?って、ちゃんと分かってるか。肩に力が入り過ぎていても普段の実力は出せ無いからねぇ。ウチのメンバーは修羅場を潜って来た数が違いますなー。そーら、向こうさんもこっちを睨んでらっしゃるよー。私たち好かれちゃったかな?」


 緊張と混乱と警戒の中にあっても、あっけらかんとした態度でコチラを見ている「冒険者らしき」四名の女性が私の目に入って来た。


(ふむ、あの四人だけは落ち着いているな。冷静な目でコチラを観察してきている。なら、交渉、話し合いは出来ないだろうか?)


 そう思って私は口を開きかけたが、その時に気付く。


 どうにも「冒険者らしき」者たちの話している言語に一切の憶えがない事に。


 雰囲気は伝わるが、言葉の意味を理解できていない事に。


(ここは何処の国だ?私の頭の中に知っている物が無い?全てを知り、網羅しているとは言わないが、それでもかなり勉強した方なのだが)


 そしてもう一つ、私は挨拶の為に口を開いて声を発そうとしたのだけれども。


(そもそも声帯が無いのに声が出るのか?はぁ、この様な不可思議な事が起きているのだ。眼球が無いのに見えるのだから、声帯が無くても声は出るだろ。やってみればわかるな)


「・・・ぼへぇ、ゴぁがぁ・・・グごぉ・・・」


 駄目だった。

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