第19話
私はするりと盾の横を通り抜けて行く。別にそこで通り抜け様に一撃入れて行くと言った事もしない。
(怯え過ぎだ。私が抜ける事の出来る隙間が出来ている。まあ先程に魔法を斬って捨てた事が原因だろうな)
冒険者たちが驚いていた「魔法斬り」と呼ばれる技術は、確かに腕の立つ剣士であろうが中々の難易度を誇る。
どうして難しいのかと言うと、相手が放った魔法を維持する中心に残る魔力を、剣に乗せたこちらの魔力で相殺しないとならないから。
そこはこちらが剣に乗せる魔力の密度が多過ぎても、少な過ぎても成功しないという点にある。
(そこら辺の匙加減が難しい。込める魔力は程良く、そして剣を振るうにしてもしっかりと剣筋を立ててしっかりと「斬る」と言った動きをしなければ成功しないからな)
言うなれば魔法を構築し、構成し、維持する為の「核」をキッチリと斬らねば成功しないと言う事なのだ。
これを高い率で成功させる事が出来る様になるにはひたすら鍛錬、訓練、実践あるのみと言った感じだ。
それこそセンスの無い物には一生を掛けなくてはモノにはできない、もしくは一生掛けても会得出来ない、そう言った技術である。
(魔法を使用できる素養と、そしてしっかりと剣を長年に渡って振って来た技量、そして、自身へと飛来してくる攻撃魔法に対して怯えない、と言った度胸も必要だ。かなり無理があると言って良い)
そこへと斬り捨てる際の距離やタイミングなどを合わせなければ自身が瞬く間に危険に晒されるとなれば、この様な真似を無理に習得しようと思う輩は皆無だろう。
ソレが出来るのが私なのだ。この技術には才能などと言った言葉では終わらせない程の努力、根性が、この「魔法斬り」には宿っている。
と、そんなこんなで冒険者たちの僅かな隙に潜り込んで私は彼らの「通せんぼ」をすり抜けた。
コレには流石に驚いたのか、どうやら隊を率いていた者が唖然とした声で信じられないと言った顔に変わっている。
「・・・は?う、そ、だろ?・・・あ!?お前ら何をぼさっとしてやガンだ!あいつを仕留めろ!でき無いんだったら少しでも良いから足止め!足止めだ!」
何を言っているのかは分からないが、何となくは察する。
だが今更遅い。その一瞬の呆けている時間は私にとっては充分以上の時間だ。その間にさっさと通路の奥まで駆けて行く。
大声を発している割には冒険者たちの動きは鈍い。どうにも通路封鎖を抜けられるとは微塵も思っていなかったのだろう。
そこで私を追い駆ける為の初動が、その驚きに因って大幅に遅らせてしまった冒険者たちの慌てた声が後ろに聞こえつつ。
(このまま抜けさせて貰うとしよう。とは言え、下層に繋がる階段を探さねばならぬのだが・・・んん?)
そこで分かれ道に差し掛かった時に私の勘がまた働いた。
どうやらこのアンデッドの身になって妙な話、勘が冴えていると言った様子で。
(魔力の流れを感じる?・・・こっちか)
まるで私を下の階に導く様に、いや、これはどうにも。
(誘き寄せられていると感じるのは、余りにも変だろうか?)
そんな事を思えども、とにもかくにも追いかけて来る冒険者たちを置き去りにする速度でその勘に従って走る速度を上げる。
何かしらが私を待ち伏せている、そんな予感を覚えつつもその速度は落とさない。
結局はこの階で私の出来そうな事はもう無さそうだと言った判断で。
あれだけのゴブリンの駆除を行った。私がこの階層でやれる事は他に無さそうなのだ。
ならばさっさと下層に行って助けを求める声の場へと向かうのみだ。
冒険者がこの階層だけで儲けを出して日々を暮らしていると言う事も無いだろう。
きっと次の階層に挑んでいる冒険者はいるハズ。ならばその者たちが恐怖、脅威を目の前にしている所に助けの手を差し出しに行くべき。
(とは言ってもなぁ?そう都合良くその様な場面に出くわすと言った事も有り得んだろう)
現実を見る。幾ら何でもそう都合良く窮地に立たされている者たちの所に辿り着けるはずも無い。
恐らく、そう言った者たちと遭遇したとなっても、その時には手遅れなどと言う場面である可能性は否定できない訳だ。
(私が出来る事は戦う事。命の灯が消えかけている者を救うと言った事はできん)
救命、それは回復の魔法薬や聖属性の、ソレも極地、相当な高位の魔法でしか出来ぬ事。
ソレでも救えぬ命が出る事もあるのだ。命を賭けた戦い、現場と言うのはのっぴきならない。
そう言った救助の手段を持っていたとしても、救えぬ命と言うのは出るモノだ。
(さて、彼らはまだ付いて来る気なのか。かなりの速度を出しているのだが、根性があるな。騎士団に勧誘したいくらいだ。おっと、もう今の私には関係無い、どうしようもない事だな。下らん事を考えてしまった)
その様な思考をしつつも今だに感じる魔力の流れに従って、私は後方を気にせずに通路を走り続けた。




