第16話
私が持ち続けていても意味は無い。この青く輝く小石は。価値が分からないからだ。
なのでソレが判っているはずであろう世の中へと還元をしなくてはと思いここまで戻って来た。
(まあそこで騒ぎを起こしてしまっているのは申し訳無いが、こちらにも色々な狙いと打算と言った所が有る。重ね重ねすまんな)
とは言ってもカウンターにやって来た所で私へマトモに対応してくれる職員は出てこないだろうと言った覚悟はしていた。
その際には小石を全てテーブル上に出してそのまま放置、その場を離脱と言った事を考えていた。
そうして置いて行けば片付けなら私が居なくなった後で誰かがやる、そう言った思考だったのだが。
「こ、ここここ!こん!こんに!こんにちわ!・・・ほ、ほほほほ!本日はぁ!どの様な御用件!で、でででででで!しょしょしょしょしょしょしょしょしょしょしょ!うかかかかかかかぁ!?」
居た。そこには美少女だ。何と言う胆力、私はそう思わずにはいられなかった。だが表情は笑顔だが非常に引き攣ったモノで。
黒髪で瞳も黒く、その容姿は可愛らしさが全面に出ていて庇護欲をそそられる様な空気感。だがその挙動不審がそれらを台無しにしている。
(まあそれは私が原因だから、その、すまん)
どうやらここの正式な制服を着ているのか、その服装は清潔、キリッと慎ましやか。しかし盛大にその体は震えている。
(怯えさせて申し訳ない。コレは直ぐに用事を済ませてこの場を立ち去った方が彼女の為だな)
只の一般女性がアンデッドを目の前にして気絶しないだけ凄いと、心の底から思う。
しかしその状態をイタズラに長引かせる気は毛頭無い。なので直ぐに用事を済ませる方向へと動き出す。
私は空間収納に収めてあった小石を一つ取り出してテーブルにそっと置く。
そんな他意の無い動きだけだったけれども、受付嬢を余計に怯えさせてしまった事で私はまた申し訳無く思って肩を竦めてしまった。
「まままっまま!魔石の買いとおとととととととと!買い取りぃ!でででで!よりょしいでびょうか!」
何と無くだが、こう言った所でのやり取りと言うのは理解できる。
以前に騎士団での活動で冒険者組合に何度も顔を出しに行った経験はある。
そこで見た冒険者と鑑定員の買取交渉の場面を幾度も目にしている。
(何と言っているのか分からないが、多分引き取りをすると言っているんだろう)
そう理解して全ての小石をテーブル上に出そうと思ったのだが、しかし量が問題だと直ぐに気づいた。
全てを置けない。溢れてしまう。
だからこそ、ここで出そうと思う数が多い事を身振り手振りで伝えようとしたのだが。
「かかかかかか、かじゅはど、どどどどどど、どれどれどれ、どれほっっどで、でしょうぴゃ!?」
もう受付嬢はやけっぱちと言った様相で、その目には涙が溜まっている。恐怖でだろう。
しかしそうであっても逃げ出そうと言った様子が無く、自身の仕事を全うしきると言った悲壮の覚悟が感じられた。
そして取り出されたのはどうにも妙な形の器、と言うか魔道具と思わしき物。
(ああ、数が多い物は確かに魔道具に入れて判定と計測をしていた記憶があるな)
今目の前にしている魔道具とは形が違うが、似た様な物は騎士団でも、冒険者組合でも使用していたのを思い出す。
ならば直ぐに行動だ。そう思って私は空間収納を解放して集めた小石を一気にソコへと流し込む。
「ぴにゃぁ!?」
ジャラジャラとその魔道具へと入って行く小石にどうやら受付嬢は驚いた様で妙な可愛らしい悲鳴を上げるが。
(何だ?数が多い以外にも何かに驚いているな?まあ、そこは気にしないでおこう。早くこれを吐き出し切って直ぐにこの場を離れてやるのがこの受付嬢に最も良い選択だろうから)
ずっとここに留まって怖がらせ続けるのはあんまりにもアンマリだろう。
なので小石を一つ残らず出し切った空間収納を元に戻して直ぐにその場を立ち去る。
「・・・へにゃ?あ、ああああ、あ!ちょ!ちょ!ちょちょちょちょ!?ちょっとお待ちを!待ってくださいまってくだしゃあああい!?」
何やら私の背に向かって声が掛けられている様子だったのだが、私はソレを無視してダンジョンへと再び入る。
どうして振り向かなかったのかと言えば、その声の中に怯えが含まれていたからだ。
これ以上受付嬢に多大なる精神的負担をかけ続けるのは気が引ける。
(それに私を最大限警戒しながらも近寄って来ない冒険者たちにも迷惑を掛けているしな)
場違い、どう考えても私は生者に討滅される立場の存在。人の社会に混ざり込んではいけないもの。
ここに居て良い道理は無く。しかしそうは言えども「ハイソウデスカ」と私の意識はそう簡単に討ち果たされる気にもなれず。
(帰れる場所が無い事を悲しむべきなのだろうな。だが何故か私の心にはそんな感情が湧いてこない。アンデッドになってしまったが故の事なのかコレは?)
そんな気分はダンジョン内に入った際に直ぐに無くなる。
冒険者たちが盾を構えて道を塞いでいた。




