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第1話

 私は目覚めた後に自らの手を確認した。


(あぁ、私は死んだのか)


 先ず理解したのはそこだった。己の手が骨と変わっているのを認識したからだ。


 しかしその骨の色は黒い。暗黒とも言えそうな程。


 動揺してもおかしくない事態ではあったが、この様な現象の事を知識で知っていたし、現実問題として直面した事もある。


 アンデッド、強い念が残ったままに死を迎えると起きる現象。もしくは強い呪力に因って無理やりに死体を操る方法だ。


 実際に以前に極悪な死霊術師の討伐任務において、討伐対象のその術師が術を行使して死体を一瞬で骸骨へと変貌させていたのを目の前で見た事もある。


(どうしてこうなった?私は術者に因って死した後に操られているのか?そもそも骸骨剣士?私の知る物は骨が普通に白いハズ。この様な黒では無い)


 自分の体がこの様な目に遭っているにも関わらず冷静な思考で分析を開始しようとして私はそこで止まる。


 そんな事よりも先に今の現状の情報収集をして確認を取った方が考察も色々と捗るからだ。


 そうして私は次に魔力光が満ちてしっかりと視界が確保できている自身の居る空間に目を向けた。


 自分がこうなってしまった原因があるハズ。そう思い探るべく意識を周囲へと向けてみれば。


(黒龍の死骸、あぁ、私は最後の最後で、なるほど、思い出して来た)


 一気に記憶が蘇って来る。ソレは私に絶望を思い出させる。


(裏切られた、いや、最初から私は誰にも好かれてはいなかったな。笑い話だ)


 罠に嵌められた結果がこれだ。この様な閉ざされた空間で一人こうして目が覚めて、そして気づけば自分はアンデッドになっている。


(こうなってしまったからには、さて、どうするか)


 アンデッドと言えば、その習性として生者と見做せば襲撃すると言うモノがある。


 けれどもどうにもそう言った衝動が自身の内部に一切湧いてこない事が不思議に思えた。


(そもそもに憎悪?恨み?妬み?今の私にその様な感情は浮かんでこない。生物を目の前にしていないからか?いや、そうでも無いな)


 考えなくちゃいけない点は別にあった。この様に自身がアンデッドとなってもこれ程に鮮明に意識が有る事に問題がある。


(本来であれば死した者の意識など一切残らず、只々に生者を襲うだけの魔物と化すハズ。私自身が死霊術の知識も深く無く、魔物の研究者と言う訳でも無い。その事を探求しようとしても分かる事は無いだろう)


 私は仰向け状態でのままで思考するばかりで動き出そうと言う気にならなかった。


 蘇った記憶をなぞってこうなった経緯を今一度確認していたからだ。


 === === ===


 ソレは只の討伐任務だった。飛竜の巣の破壊。別に何らの問題も無かったはずだった。


 私は国家騎士、黒鋼騎士団で団長を務めていた。しかし。


 平民出の田舎者、貴き血を持つ者では無いと言うだけの理由で貴族たちに敵視されていた。


 別に騎士団は貴族しかなれない、と言った事は無い。


 私は幼い頃から力が強く、剣術もしっかりと収めて実力で周囲を捩じ伏せ、黙らせて来た。


 だが、誰かに余計な恨みを買う様な真似と言う点においては、過剰な暴力を振るって来た覚えは無い。


 まあ単純に逆恨みをされる事は有ったかもしれないが、それはどうしたって避けられないモノだ。


 相手の精神状態を気にしろなどと言われても無理な話だ。


 団長になるにあたっては選抜試験にて候補者として正式に選ばれ、対戦形式にて勝敗を決める試合で他の全ての候補者を余裕を持ってして打ち倒している。


 その強さを認められて国王陛下からは団長としての任を与えられたのにも関わらず、貴族たちはこれに良い顔はしなかった。誰一人として。


 平民が何故勝てるのか?汚い手でも使っているのではないか?そうじゃ無ければ貴族が負けるはずが無い、と。


 だが試合に負けた者たちは理解してしまっているのだ。実力で負けたのだと。


 だが貴族の持つ歪んだ矜持でソレを素直に良しと認めずに裏で醜くこちらを見下す言葉を、疑いの言葉を吐き出す。


 だから嵌められた、そうして罠に掛けられた。あの生意気な相応しくない下賤な輩を亡き者に、と。


 貴族出身の者からしたら幾ら私が騎士団長に国王陛下から任命されていようとも、所詮は平民出の意地汚い、卑しい存在であり、その命の価値は軽いのだ。


 飛竜の巣の破壊など私を騙す為の偽の任務だ。私を良く思わない貴族たちが結託して作り上げた偽物だった。


 しかしその偽物の任務に何処にも不備が無い事は自身で確認していた。見抜けなかった私が悪いと言われたらそこまでだ。


 そうして赴いた遠征先は「触れる事なかれ」との名を持つ山だった。


 その中腹にある洞穴の奥に目的地、ここ最近に住み着いたと言う飛竜の巣があるとの事で向かった先で、私はそこに閉じ込められたのだ。


 ここまでの道中でずっと「何かがおかしい」と微かに思っていたけれども、任務の遂行をする事を優先してその勘を頭の隅に追いやっていたのが駄目だった。


 洞窟の奥へと私が入り込んだそのタイミングで、ここまで同行していた部下たちが爆発物を使って通路を破壊、私を奥地に閉じ込めた。


 その時になって初めて私は貴族たちに暗殺されかけている事に気付いた。鈍過ぎると言わざるを得ない。


 別に私は自身を有能だとは思ってはいない。何かあれば全てこの実力で解決できる、などとも思ってもいなかった。傲慢な態度はこれまでに一度も取った覚えは無い。


 いや、自分の剣術の腕でここまで来た自負はあった。だが、それを傲慢と言われても困る。


 しかしソレが貴族には生意気な奴だと見られていたかもしれない。


 だから団長の地位に着いた後は謙虚にして来たつもりだ。礼儀正しく、模範となる様にと。


 だがソレもこうなれば虚しい努力だったと言わざるを得ない。こうして謀殺される程の嫌悪を貴族たちに抱かれているとは思っても見なかった。


 そして、この洞窟の奥に居た存在こそ、黒龍だったのだ。触れる事なかれとは黒龍の事。


 部下だと思っていた者たちは暗殺者だった訳で、その通路を塞ぐ為に使った爆弾の音で眠っていたのであろうその黒龍が目覚めた。


 そして私の事を感知し、眠りを邪魔した存在として敵視したのだ。


 洞窟内は暗闇で黒龍が居た事を私は最初見えていなかった。恐らくはここまで同行していた爆破を行った者たちも恐らくは黒龍が見えてはいなかったと思う。


 只単にこの場所に閉じ込めて行方不明、或いは餓死などを狙ってだったのだろう。


 その時には部下が手に持っていたのは明かりを確保する為の光の魔道具だったのだが、洞窟の奥の奥までは見通せる光量は無かった。


 これには間抜けと言われても言い返せ無い。発見がもう少し早かったらこの様な展開にならなかったかもしれない。


 だけどもソレを僅かにでも私に気付かせない様にと気を付けながら部下たちは、暗殺者たちは光の方向をズラしていたのだろう。


 だがそんな事は関係無いと言わんばかりに黒龍は雄叫びを上げる。


 崩され通れ無くなった通路を壊して逃げ出す、などと言った手は出来なかった。何故なら。


 雄叫びが上がったその瞬間には、私は別空間へと移動させられていたから。それは黒龍の特殊能力だったのだと思う。


 気付けばそこは延々と果てが見えない場所。障害物は何処にも無く、見上げれば天井すらも無い。


 しかし周囲は濃い魔力光に因って明るさで包まれて視界は良好。


 そのせいで目の前の、この世の理不尽全てを集約して具現化させたかの様な絶望、黒龍の姿がハッキリとこの目に入っていた。


 その後は全て憶えている訳では無いが、生き延びる為に必死の抵抗をしていたのだと思う。


 最後に記憶に残っているのは私が黒龍に噛みつかれた瞬間。


 私を噛み砕こうとして近づいた黒龍を躱し、その際に反撃としてその目に剣を突き立てた。


 その後に私の全力の魔力を剣へと流し込んで黒龍の頭部を中から破壊しようとした事。


 その時に同時に私も大口を開けた黒龍の口内に体が入り込んでしまい胴体に噛みつかれて。


 ===  ===   ===


(ああ、そうだ。そうやってこの様に「相打ち」だった訳だ)


 しかし相打ちと言うのはおかしいな、と、私は少しだけ笑う。


 こうして私はアンデッドとして蘇った?生き残った?のだから。本来なら笑う所の話ではないけれどもソレが可笑しかった。


 視界に入る黒龍の死骸はどう見ても動かない。完全に死んでいる。


(しかし、肉が一切残っておらず、骨だけの状態になっている?どうしてだ?ソレ程の時間が、年月が経過したとでもいうのか?)


 この黒龍が生み出したと思われる空間に自身がまだ居る事もおかしい。


 黒龍が死んだのであれば、その能力だろうこの空間も消滅するのではないのかと。


 そんな疑問を私は頭の中から消す。大事なのは今後どうするかである。不思議を解明する事では無かった。


(いや、この不思議を解明しないと、私はここから脱出できないのではないか?ああ、でも、この様にアンデッドになってしまった私が外に出てしまえばソレはソレで世を混乱させる要因にしかならんか)


 私は今後どうすれば良いのかの方針を決めなくてはならない。


 だからと言って安易に今の自分が世に出る事は避けねばならないとも思う。


(さて、好い加減起き上がらなくてはな。何をするにしても動かなくては始まらない。私は頭を働かせる事が仕事の学者では無い。黒鋼騎士団の団長だったのだからな)


 考える前に動け、そうで無ければ戦場で死ぬ。


 コレが黒鋼騎士団内での合言葉だったのだから。

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