第9話 蒼き三日月の思い出。
遠い、記憶の中にある大切な思い出。
とある孤児院の裏庭にて。
そこには幼い少女と少年が二人きり。
少女が、自身よりも背の低い赤髪の少年に両手を合わせて可愛いらしくお願いをする。
「ねぇリューク、もう一回やって見せてよ」
「えー、しょうがないな」
赤髪の少年リュークは、満更でもない顔で頬をかくと、右手の平を空へと突き出した。
「いくよ、【雷刃】!」
雷の魔法だ。
手のひらより、蒼い三日月が上空へと一直線に飛んでいく。
「わああ、凄い綺麗」
パチパチと称賛の拍手をする少女は、喜色満面の笑顔で、再び両の手を合わせる。
「ねえ、もう一回見せてよ」
「ただの初級魔法だよ。大した威力は無いしね」
「あらそうなの?でもコレが一番綺麗よ。
この蒼い三日月が私の一番のお気に入りになったわ」
「そうなの?」
「うん、だからもう一回やってよ」
リュークはしょうがないなぁ、と言いながらも再び右手のひらを天へと突き出して。
「【雷刃】!」
再び蒼い三日月が打ち上げられたが、少女は不満げな面持ちで唇を尖らせた。
「あ、さっきの方が綺麗だった」
「えー?」
「なんだか歪んでいたし、色も濁ってた」
「えー?そうかな?変わらないと思うけど」
「もう一回やってよ」
「えー?」
「さっきより綺麗な三日月が出来るまで」
「えー?」
「はーやーくー」
「わかった、わかった」
コレは、とある血の繋がらない姉と弟の、些細だが、とても大切な思い出の一節である。
◆◆◆◆◆
黒いローブ姿の長い赤髪を後ろ結びにした青年。
剣聖リュウキの弟、大魔導士リューク。
彼もまた勇者パーティの一員である。
魔力に優れていた彼は、幼い頃から神官としての素質を見出され、修練に励んでいた。
しかし、兄であるリュウキがアニエスを守るべくして剣聖への道を選んだ事から、彼もまたアニエスを守る為に、新たなる道を選択する。
神官と聖女は共に回復魔法に秀でている。
次期大聖女に選ばれるようなアニエスだ。
それは国で一番という事を意味する。
――このままではダメだ。
回復職では守る事は出来ないと悟り、魔法使いへの転職を決意した。
攻撃魔法ならば誰にも負けない。
アニエスに立ち塞がる全ての敵を吹き飛ばしてやる。
その一心で修行に励んだ。
魔術の才に恵まれていた彼は、恐るべきスピードで上達し、遂には神聖国一の魔法使いとなった。
そして、兄である剣聖リュウキが帰国して勇者パーティに入った事をきっかけに、自らも名乗り出て参入を果たしたのだ。
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