2.どんな時でもヤバイやつ
神隠しに興奮した涼は、とりあえず自分がどこにいるのか理解しようと周囲を見渡した。美しく見たことのない植物に覆われた森と、これまた見たことのない魚が泳ぐ澄んだ川があった。
「さてさて、神隠しか三途の川か・・・何にしろ大学の中じゃ無いことは確かだな。」
落ち着きを取り戻した涼は、分析モードに入った。
遠くには小さな村が見えた。涼は驚きと興奮を胸に、村に向かって歩き出した。
森を抜けると、道は徐々に広がり、やがて木々の間に石畳の道が見え始めた。足元には見慣れない草花が咲き、異世界の香りが漂っていた。涼は胸を高鳴らせながら歩を進めた。
「うーん、この調子だと日本でも無いのか、一体ここはどこなんだろうか?」
涼は独り言を呟きながらも、その景色に魅了されていた。鳥のさえずりや、遠くから聞こえる川のせせらぎが心地よく、ますます彼の好奇心を刺激してくる。
村に到着すると、入り口に立っている若者が驚いた表情で涼に話しかけてきた。
「おいおいおい、ほんとに来やがったよ、精霊の賢者だよ!本当に言い伝え通り変な格好してるぜ!」
涼は相手が興奮していると逆に醒めてしまう【変人天邪鬼】と言う異名も持っている。
「君はなんだ、初対面の人間の格好を変と言うとは、無礼だと思わんのか?」
涼は興味の無い男子には強い。
「おっと、これは失礼しました賢者様。私、このイズモの村の門番クラインと申します。以後お見知りおきを・・・」
「ささ、我が村の巫女が待っておりますので、村の中へお入りください。」
先程の無礼な態度と打って変わって、武士の様な話し方になったクラインと名乗る若者は、かしこまった様子で門を開け、入り口横に吊してあった、鐘を二度鳴らした。
すると村の奥から従者を連れた若い女性が、こちらへ向かって歩いてきて、涼の前に立った。
綺麗だ、涼の中に春風が舞った・・・ちなみに良く舞う。【瞬間恋愛湯沸かし器】である。
優しい笑顔の女性に迎えられた。彼女は長い黒髪を編み込み、白い巫女服を身にまとっていた。その女性は涼をじっと見つめると、柔らかな声で話しかけた。
「あなたが異世界から来た方ですね。お待ちしておりました。ここはイズモの村です。私はミリア、この村の巫女です。どうぞ、私たちの村でお休みください。」
涼は一瞬、驚きと戸惑いの表情を浮かべたが、すぐに彼女の親切な態度に安心した。
そしてできる限りのキメ顔で、
「ありがとう、ミリアさん。私は白石涼といいます。正直突然こんな場所に来てしまって、少し混乱しています。」
「そうでしょう。でも私たちは精霊の導きによりあなたが来る事が分かっていました。どうか不安にならないで。あなたには役目があるのです。」
ミリアは涼に微笑みながら、彼の手を引いて村の中へ案内した。村は小さく、石畳の道沿いに木造の家々が立ち並んでいた。家々の前には色とりどりの花が咲き誇り、村全体に平和で穏やかな雰囲気が漂っていた。
村人たちは初めて見る異世界からの来訪者に驚きを隠せなかったが、ミリアが涼を紹介するたびに、彼の知識と人柄に触れ、本当に存在したのか!とか、後光が指しているといって拝む人もいた。涼は村人たちと挨拶を交わし、彼らの生活や文化についての質問をいつもの様にヤバイ感じで繰り返した。
「こ、ここはとても美しい!村!ですね~、皆さんはどのような!生活を送っているのですか、か!?」涼は早口で、少したじろいでいる老夫婦に尋ねた。
「私たちは主に農業を営んでいます。この土地はとても肥沃で、四季折々の作物が育ちます。祭りの時期には精霊たちに感謝の気持ちを捧げるのが伝統なんですよ。」老夫婦の夫が涼をなだめる様に答えた。
「祭りがあるんですか?」涼は興味津々で質問を続けた。
「ええ、毎年行われる祭りで、その時『精霊の舞』が行われるのです。しかし、今年はどうなるか分かりませんが…」妻が悲しげな表情で続けた。
「どうして?」涼は不思議に思い、ミリアに目を向けた。ミリアは深く頷き、涼を村の中央にある神殿へと案内した。
「この神殿で精霊の舞が行われていました。祭りは村の重要な行事で、古代の精霊たちを祀り、豊穣と平和を願うものでした。しかし、この数か月、何らかの理由で普段聞こえる精霊の声が聞こえなくなってしまったのです、それ以来、村には不幸な出来事が続いて祭りの開催も危ぶまれているのです。」
涼は神殿の荘厳な雰囲気に圧倒されつつも、民俗学者としての興味が掻き立てられた。
「ちなみに、その祭りと私は関係がある感じですかね?ここまでの話しの流れ的に。」
「そうです!さすが精霊の賢者様です!」
満面の笑みでミリアは答える。そして目を輝かせながら。
「村に異変が起きし時、身を清め精霊に祈り捧げ続けよ、さすれば異界より、異界の衣纏いし精霊の賢者現れん。」
「これがこの村に伝わる伝承です。」
「精霊の賢者様、あなたの知識と助けがあれば、また精霊の声が聞こえ、祭りを開くことができるかもしれません。いや、できるはずです!その為に異世界から来ていただきましたから!どうかお力を貸してください。」
涼はしばらく考えた後。
「もちろんです。私はこの異世界に来たのに意味があるという事ですね?恥ずかしながら今まで誰かに必要とされた人生では無かったと思います。あんなに頑張って努力したのにですよ!どう思いますか?・・・うぉっほん、失礼、それでは精霊の賢者が何か分かりませんが、全力でお手伝いします。」
自分ではイケてると思っているキメ顔で答えた。
ミリアはそんな涼に気圧されることもなく、笑顔だった。
涼は村の図書館で古い文献を調べ始めた。古文書や巻物を読み解くことで、精霊の事や声が聞こえなくなったこと、祭りや舞に関する情報を得る為だ。そんな一生懸命な涼に村人たちも協力を惜しまなかった。特にミリヤと門番のクラインは、涼のヤバい探求姿勢に驚くことも無く、逆に大いに興味を持ち、共に行動することが多くなった。
「涼さん、これは村に伝わる古い巻物です。精霊の舞についての記述があるかもしれません。」ミリヤは古びた巻物を涼に手渡しながら言った。
「ありがとう、ミリヤさん。これは大きな手がかりになりそうです。」涼はその巻物を注意深く広げ、読み始めた。
巻物には精霊たちを呼び寄せるための儀式の詳細が記されていた。涼はその内容をメモに取り、他の書物の記述と照らし合わせた。
「賢者様、あっしも手伝いますよ。何でも言ってください。」クラインが頼もしく声をかけた。
「ありがとう、クライン。みんなの協力があれば、きっと解読出来るはずです。」涼は彼らに感謝しつつ、原因究明に取り組んだ。
2日経ったころ、村で集めた情報がパズルのピースが埋まるように解けてきた。涼はミリアやクライン、そして村人たちを神殿に集めた。
神殿は祭りや神事の為の衣装や道具が置いてある、それを眺めながら涼は口を開いた。
「えー調べた結果ですね。祭りを開催する前に、精霊の舞をやります。」
ミリヤが一歩前に出て、騒ぐ村人をなだめながら言った。
「涼様、それでは順番が逆になってしまいます。」
「そうです、逆なんです。順番が。」
涼は続ける。
「精霊の声が聞こえなくなった、原因、それはズバリ精霊の力が弱まったからです。そして精霊の舞と言う儀式は精霊の力を強める儀式なのです。」
「と言い訳で、儀式を始めましょう!」
「わ、わかりました。精霊の賢者様である、涼様が仰るなら間違いはないのでしょう。それでは明日から清めの準備に入ります。」
「今からですよ、儀式は。」
いつものヤバキメ顔で【即断即決マン】の異名を持つ白石涼は答えた。
つづく。
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